海賊船。
その日の夜は、トルマリンの宿屋に泊まった。
テントの方が居心地がいいし、猫達も出しておけるのだが、少しはこっちの世界に馴染まないとな。
決して、オパール王国に行くのが嫌で、時間稼ぎをしているわけでは……。
「とりあえず、寝よう」
質素だが、清潔なベッドに潜り込む。
すぐに眠気が訪れ、うとうととし始めた。
せりがキャットハウスから顔を出した。
「んー、せり……?」
イカミミで、毛を逆立てている。
「気配察知」だ!
慌ててベッドから起き上がり、身支度を整える。
こんな夜中に何だ?
外が騒がしくなってきた。
窓を開けると、明かりを手にした町の人達が叫んでいた。
「海賊だ!」
「!」
港の方へ目を向けると、大きな船が近付いて来ているのが見えた。
あれか?
暗くて、よく見えないな……。
「おこん、『創成魔法』。でっかいレーザーポインター!」
「にゃん!」
おこんが鳴くと、両手で抱えるほどの大きさのレーザーポインターが部屋の中に現れた。
窓の所に置いて、船の方へ向けた。
大きくて黒い船のマストには、何も描かれていない黒い旗が掲げられていた。
船の壁面に付いているのは、巨大な大砲。
間違いない。海賊船だ!
大砲が撃たれたらマズい。
「キング、港まで『空間転移』!」
キングがぱちりと両目を閉じると、微妙な浮遊感と共に私達は港に移動した。
海賊に気付いたトルマリンの町の人達が、明々と火を灯したのでさっきよりはよく見える。
大砲がこちらを向いている。
多分、上陸準備もしているだろう。
しかし、昨日の今日だって言うのに、ずいぶんと耳が早いな。
国単位ならともかく、町などに神様が加護を授けると、そこを悪党どもが狙ってやって来る事がまれにある。
だから、加護を授かった町は最大限の警戒をする。
トルマリンの町の人達の対応が素早かったのも、それのおかげだ。
おそらく、松明を大量に用意し、港に見張り番を置いていたのだろう。
それにしても。
「タイミングがいいというか、悪いというか……」
私達がいる時に襲って来るとはな。
「みんな、出ておいで」
ストレス発散に、付き合ってもらいましょうか?




