い、いや、試しませんよ?
こうなったら、仕方がない。
せりのスキルは「隠密」と「気配察知」で、攻撃手段を持っていなかったのだから、ちょうど良かったと思おう。
それに、せりなら誰かさんと違って攻撃的でもないし。
……………。
というか、そうでも思わなければやっていられないんだよ!
ただでさえ、世界を滅ぼしそうなのに、リスクを増やしてどうすんだよ!
この世界の神様は、皆ポンコツなのか!?
「仕方ない」
何度目か分からないため息をついて、私は町の中に戻る事にした。
こうなったら、やけ食いだ。
せっかくトルマリンまで来たんだから、美味しい魚料理でも食べていこう。
前にも来た事のある食堂に入って、空いているテーブルについた。
「うーん、どうしようかな……」
リプのフライは前に食べたし、むむ、悩むな……。
「今日は、戻りトウラの活きのいいのが入ってるよ」
食堂のおじさんが、にこにこしながら声をかけてきた。
トウラは鮭に似た魚で、やはり産卵期には川を遡上する。
ただし、産卵後には川の深い所で二年くらい眠り、また海に戻る。
戻りトウラはメスしかおらず、脂は乗っているが、あっさりとした後味だ。
「刺身でもいけるよ」
おお、刺身ですか!
「それをお願いします」
「はいよ!」
しばらくして、戻りトウラの刺身がテーブルに運ばれてきた。
半透明の薄いピンク色の身を、真珠国で作られた醤油に似た調味料につけて食べる。
刺身は、真珠国から伝わった食べ方だ。
歯ごたえがよく、あっさりとしつつ、脂が乗っている。
「美味しい……」
本当はワサビも欲しいところだが、こちらの世界には存在しない。
うーん、似たようなハーブとか探してみようかな……。
次に行くのはオパール王国だから、ついでに調べてみよう。
農耕神様かぁ……。
正直、よつばの件があるから気が重いんだよな……。
一応、弁償はしたけどな。
「仕方ない」
本当に何度目か分からないため息を、またついてしまった。
その前に、もっと何か食べよう。
代金を払って店を出た。
うーん、次は……。
ん? いい匂い。
ぷーんと、お祭りの時によく嗅ぐ匂いがしてきた。
屋台で、カフイというたこ焼きに似たものが売っているのが見えた。
たこ焼き……。
たこ……。
……………………。
い、いや、試しませんよ?
たこ焼き何個分かなって思っただけです!




