海神。
「おぅ、わざわざ来てもらって悪かったな」
「いいえ……」
女神様が断れなかったものを、たかが人間の私が断れるはずもなく。
とぼとぼと指定された港町トルマリンへとやって来た。
海辺に建てられた小さな祠へ行くと、日に焼けた大男が待っていた。
大男といっても、そこはやはり神様なわけで。
雲をつくような大男って、本来はこういう感じなんだな……。
「すみません。話しにくいので、少し小さくなってもらえませんか?」
「ああ、そうか」
一瞬で、海神様は人間サイズになってくれた。
まぁ、それでも、まだ大きいけどな。
「これで、いいか?」
「はい」
しかし、海神様って、なんというか……。
サーファー?
「こっちから行けばよかったんだろうけど、俺は内陸には行けないんでな」
確かに、海のない所には来れないだろう。
だが、海に面した町は、どこでも海神様を信仰している。
私に馴染みがある場所がいいだろうという事で、トルマリンを指定してくれたらしい。
うーん、チャビの「回復」で、真新しくなっているな……。
ぴかぴかの建物が立ち並ぶ光景に、私はため息をついた。
「早速で悪いんだが、クラーケンのやつを許してやってくれないか?」
「……は?」
「幸運の女神に結界を解いてくれって言ったら、倒したのはつかさだから、許可がないと無理だって言われてな」
「……」
こっちに押しつけやがったな、アホ女神!
「あいつも反省しているし、許してやってくれないか?」
海神様は、上目遣いで両手を合わせた。
神様相手にアレだけど、大男の上目遣いって、ちょっと可愛いと思うのは私だけかな……。
って、違う!
「でも、町を襲おうとしていましたし……」
百年前にもトルマリンを襲ったらしいし、反省していると言われてもな……。
「今回は、クラーケンの意思じゃなかったんだよ」
「?」
「これを見てくれ」
海神様は、小さな杭のような物を取り出した。
刻まれていたのは、古代神語による呪いの言葉。
「《滅びを運べ》……?」
海神様は、ぱっと顔を輝かせた。
「お前、古代神語が分かるのか?」
「はい。少しだけですけど」
なら、話は早いと、海神様は嬉しそうに笑った。
「これが、クラーケンの体に突き刺さっていたんだ」
「!」
つまり、町を襲った時、クラーケンは何かに操られていた……?




