復元。
魔方陣は、なかなか復元出来なかった。
私の古代神語スキルが低いせいもあるだろうが、おそらく、魔方陣に流れ込む魔力が足りていないのだ。
回復系とはいえ、チャビの魔力は高い。
それでも、噴火を鎮めるにはまだ足りない。
んー。
「くぅ、『土魔法』」
「ええ! 大丈夫なのかい?」
サナが慌てて止めようとした。
「チャビとくぅは姉弟だから、魔力の質が似てるはず」
くぅの魔力が、うまく融合出来れば……。
「なぁぁぁぁ!」
くぅがひときわ高く鳴くと、足元から地面が波打った。
え、これ、噴火の方じゃないよな……?
チャビのごろごろが、波打った地面の所を中心に復元を始めていく。
魔方陣の光が強くなってきた。
もう少し、もう少しだ。
「!」
地面が激しく揺れた。
天井から落ちて来るのは、もはや土埃ではなく石の欠片だ。
「にゃあああ!」
せりが、大きな声で鳴いた。
「つかさ!」
「危ない!」
サナ達が叫ぶ。
岩が!
巨大な岩が転がり落ちてくる!
「チャビ、逃げて!」
出来るだけ遠くに、チャビを放り投げる。
「りゅうた……」
ダメだ、間に合わない!
私は身体を縮めて、ぎゅっと目を閉じた。
ちりん、と小さく鈴の音がした。
「つかさ!」
「……?」
サナ達が駆け寄ってきた。
「今、何が……?」
「こっちが聞きたいよ!」
「その腰にぶら下げていたのが光ったら、岩が消えた」
ナルシの言葉に、私は無意識に腰に手を当てた。
腰には、護符をまとめて下げている。
虫除けに、天候に恵まれる護符。効果がイマイチ怪しい金運の護符。
それと。
「お稲荷さんの御守り……」
三回まで身代わりになってくれる、そう言っていた。
これがなかったら、今頃……。
チャビがぽてぽてと走ってきた。
「チャビ、投げてごめんね。大丈夫だった?」
ぎゅうっと私にしがみつき、チャビはごろごろとのどを鳴らした。
あ、これ、ヤバいやつだ……。
「サナ達は離れて!」
「え?」
「チャビが暴走する!」
免疫のある私達は平気だが、それ以外の人間は子供に戻ってしまう。
「炎の竜の寝床まで戻るぞ!」
「親父、早く!」
「ワシはいいから先に行け!」
チャビを中心に、魔方陣が光を増していく。
削られていた文字が復元を始めた。
《炎の竜との契約を交わす》
《火の神の娘の力を贄に、炎の竜は永き眠りにつく》
《火の神の娘の血が絶えた時、約定は消え失せる》
魔方陣が完全に復元されたその瞬間。
おおぉぉぉぉっ、とまるで竜のいななきのような音がした。
間に合った……。
「チャビ、えらい!」
私は思いきりチャビを抱きしめたが。
「みゃ!」
「ぐぇ!」
苦しいと暴れたチャビに、みぞおちを蹴り飛ばされた……。




