炎の竜の寝床。
「あたしが、ドジ踏んじまってさ」
蜜飴をなめながら、サナが言った。
チャビのスキルで二人とも回復はしているが、少し休んでから移動する事にした。
「ゴーレムに追われて、ここに逃げたら岩で塞がれちまったんだ」
「ゴーレム?」
「魔導人形だ。……戦わなかったのか?」
チャビを撫でながら、ナルシは首を傾げた。
「ここに来るまで、魔物も何もいなかったよ」
私の返事を聞くと、サナ達は顔を見合わせた。
「変だな」
「ここは、ダンジョンの中でも難度の高い方なんだよ」
やっぱり、普通は魔物が出てくるのか。
少なくとも、サナ達が入った時には魔物がいたのだ。
……魔物が消えた理由は何だ?
「つかさは、炎水晶を採ったかい?」
「いや、見かけなかったから採ってないよ」
最短ルートで来たから、採掘場所を通らなかったしな。
「こっちの奥にあるんだけど、見るだけでも行ってみなよ。スゴいから」
そう言って、サナはにんまりと笑った。
うーん、なら、見るだけ見てみようかな。
すっかり元気になったサナ達に案内されて、私達は奥に進んだ。
ん?
気のせいか、暑くなってきたような……?
「炎の竜の寝床だからな」
「何、それ?」
「見れば分かるよ」
狭い通路を抜けると、広い空間に出た。
「うわ、すご……」
壁は一面きらきらと赤く光る結晶で埋め尽くされ、天井からは鍾乳石のように垂れ下がっている。
赤く光るつららの先から、ぽたり、ぽたり、と滴が垂れ、その下にはひときわ明るく光る赤い塊があった。
「これが、炎水晶?」
「ああ。この大きさになるまで、数百年はかかるらしいよ」
恐る恐る触ってみると、ほんのり温かいくらいで別に熱くはない。
「……加工する経過で熱くなる」
ぼそりとナルシが言った。
そうか、鍛冶職人のナロクの養い子だから詳しいのか。
「ここが、炎の竜の寝床さ」
「へぇ」
そう言えば、さっき見たタイルに竜が描いてあったな。
せりが、全身の毛を逆立てた。瞳孔が見開き、耳を伏せている。
「気配察知」だ!
せりは、奥に向かって走り出した。
「せり!」
急いで、せりを追う。
炎の竜が目覚めた?
「いや、炎の竜というのは例えで、本当にはいない」
ナルシはそう言ったが、なら、さっきのタイルの絵は何だ?
行き止まりの先で、せりはうろうろしていた。
「にゃあああ!」
壁に向かって、せりが鳴いた。
この向こうに、何かあるのか?
触ってみると、壁の岩が熱を持っている。炎水晶より熱いくらいだ。
ナルシも、私と同じように壁に触れた。
しばらく、あちらこちらを触っていたナルシが小さく頷いた。
「隠し扉だ」
やはり、向こうに何かあるのか。
「よつば、『解除』!」




