愛しても愛してもなお余りある愛を~にゃんにゃんにゃんに寄り添って~
徒然なるままにひぐらし、兼好法師準えて、なんだかそんな風に始めたくて書き始めたはずなのだが、なんだか趣がどんどん変わってきてしまう。
まず、タイトル
『愛しても愛してもなお余りある愛を』
どこぞの狂人かと思われる。
まず、そこから紐解かねばならぬだろう。
『愛しても愛しても……』
まず、間違いはない。
『なお余りある愛』
きっと、そこも間違いない。
書き連ねれば連ねるほどさらに狂人化が進んだのではなかろうか。
まぁ、いい。きっと、私の持つ愛の形はもはや狂愛とも言えるのだから。
その対象物は私がタイプを始めると、周りを気にしながら、足音も立てずにそろっと膝に飛び乗って、目を細めて私を見つめる。
私はそっとその手を彼女のあたまの上に載せ、優しくその毛並みに任せてなで始めるのだ。
彼女の毛並は美しく、三色に色分けられている。
黒、白、そして赤みがかった茶色。
ほんの少し毛足が長く、「君は本当に唯一無二の可愛い存在」だと私に認識させてくる。
喉を鳴らしながら、眩しそうに私を眺めて丸くなる。
ずっと撫でてていいからね。
そんなことも思ってしまう。
そう、愛しても愛しても、なお余りある愛をくれるのは……猫だ。
私はおそらく私よりも寿命が短い彼女を眺めて呟く。
「化け猫になってくれるんなら、私より長生きしてもいいんだからね」
やっと、徒然と書き始められるのかもしれない。
彼女との出会いは7年前の夏となる。
夏、もっと狭めてもいい。
彼女が来たのは8月。
母と散歩へ出かけていたチワワの茂吉が連れ帰ったのだ。彼もまた、いろいろ語れば長いチワワなのだが、とりあえず、今日は猫の日。
しかもスーパーにゃんにゃんにゃんの日らしいから、おいておこう。
次のスーパーな日は200年後。
人類と猫の心配よりも環境の心配をしたくなるくらい遠い未来だ。
話がずれてしまった。
そう、彼女が来た話。
彼女は本当に小さなやせっぽちの猫だった。
彼女はなぜかひとりぼっちで、散歩をしている茂吉の後をずっと付いて歩いてきたのだ。
大事なことは『茂吉』について来たということ。
母ではない。
彼女はまず、茂吉の入った玄関前で「にぃにぃ」と鳴いた。
おそらく「おかーちゃん、おかーちゃん」だと思う。
だが、茂吉は「おとーちゃん」にはなれても決して「おかーちゃん」にはなれない。それに加え、扉も自分で開けられないという犬の性を持っている。
だから、扉を開けるのは、もちろん「人間」なのだ。
しかし、彼女はチビでもいっぱしの野良である。
人間にこっぴどく追われた経験もあるかもしれない。それこそ『おかーちゃん』に「人間はとても怖いものだからね」と滾々と言い聞かされていたかもしれない。
さまざまな推察ができる中、やはり扉が開くと脱兎のごとく逃げ去るのだ。
まるで「鬼が出たー」と声が聞こえるくらいのスピードで。
さて、困った。
その日の天気予報は雨予報。
その頃は雨と言えばゲリラだ。
家族で様々話し合う。
まず、第一の問題として、先住猫の『サツキ』さん。
サツキはメスだが、猫が嫌い(だと思われる)。一縷の望みとして『母性』を賭けたいが、一欠片もなかったというのは、もっと後に知る。
とてもお婆ちゃん。享年は16歳だったが、その当時は10歳くらいだった。
そして、野良を拾うというリスク。
様々な病気を持っているかもしれない猫。
サツキを近づけないようにするにしても、変な病気がサツキにうつるかもしれない。
実際、彼女のお腹には真田虫がいたので、除虫剤を飲ませた。
そして、最大の問題は我が家は「犬派」
いや、厳密に言えば母が犬派。
家に一番長く居る人間が猫より犬が好きなのだ。
その間も茂吉を呼ぶ「にぃにぃ」は外から聞こえてくる。
さてはて困ったものだ……。
さて、困ったことと言えば、この文章がもはや随筆ではなく、過去語りになっていることにある。
やはり、兼好法師などと柄でもないことをするからだ。さらに落ちなく終わる恐れもある。
しかし、乗りかかった船は進めるしかないのだろう。
扉を開ける。逃げる。そして、鳴くを繰り返す仔猫。
父が力業で溝の奥に隠れた彼女を引き出そうとすれば噛みついて、流血騒ぎが起きる。
餌で誘い込み……を試みるが、何せ警戒心が高すぎて餌を食べようともしない。
それなのに、家の周りから消えようとしない彼女をどうしたものか。
ゲリラに打たれて家の周りで死なれるのも寝覚めが悪い。
そして、最終兵器『茂吉』
なぜかリードをつけられ第二弾散歩風の彼の頭の中には「?」が飛んだことだろう。
近所の人が猫の鳴き声に尋ねる。
「仔猫がいてね」
何気ない会話に構ってちゃんな茂吉が「僕を撫でて~」と期待のお目めで人間を見上げる。だけど、会話は猫のこと。
「あ、おかーちゃん!」
足音も立てず、鳴きもせず、しばらくせずとも茂吉に寄り添うようにして彼女が姿を現した。
あれだけ人間を怖がっていたのに……。声を潜める人間と、母擬きの茂吉に安心している彼女。
最終手段は段ボール箱。
かぽっ
捕獲完了。
後は、洗濯ネット身構えて、段ボールの底を開くだけ。
慌てて逃げたその先に、彼女はあっけなく捕まった。
さて、あれだけ人間を嫌っていた彼女の名前はメイとなる。
お気づきの方もおられるかもしれないが、とりあえず、そこはお口を閉じて下されば。
5月生まれの彼女は2ヶ月ちょっとと診断され、体重もろもろ様々検査された後、深刻な病気はないと判断される。
400gの小さな命。
今はすっかり大きくなって、掌返して、あまえんぼ。我が物顔で家の中を闊歩して、どことも構わずスリスリ匂いをつけて、縄張りを主張する。その後やってきた黒猫とともに、ニャーニャー言って過ごしている。
あぁ、悔しい。
22時22分を過ぎていた。
まぁ。2022年2月22日に間に合ったから良しとしよう。
次の2並びには化け猫くらいしか生きていないだろうから。