ねえさんのコンソメスープ
私は年の離れた姉が作ってくれたコンソメスープが大好きだった。
ねえさんは、調理を専門的に学べる学校に通っていたから週末は料理やお菓子を作ってくれたりもした。私にはもったいない自慢の姉なんだ。
特別なものを入れている訳でもないのに、お母さんが作ったのよりも、学校の給食のよりも綺麗な黄金色の美味しいスープ。
一度、どんなふうに作ればあんなに美味しくなるのかと作っているところを見ていたことがあった。
ベーコンを炒めて玉ねぎ人参セロリを刻んでスープストックでグツグツ煮込む、塩と胡椒を振って完成。
お母さんと同じ作り方なのに、どうしてこんなに違うんだろう。
もう、飲むことは出来ない美しいスープ。
あれは、私が12歳の誕生日の前日だった。
外は雪が降っていて、道も凍っていた。コタツに入って私の誕生日の話をしていた。
「みゆ、明日はみゆの誕生日だから夕飯決めていいわよ」
お母さんが言った。
「ねえさんのコンソメスープがいい!」
「お店じゃなくていいの?」
と、ねえさんは私に聞いたけど、私にとってねえさんのコンソメスープは一番のご馳走だから、譲れない。
ねえさん、ごめんなさい。
ごめんなさい、私のせいで。私がコンソメスープを飲みたいなんて言わなければ……
私が12歳になった日。
スーパーに向かう途中、凍った路面で車がスリップして突っ込んできた。
ねえさんは、即死だった。
ねえさん、ねえさん!
ねえさんは死ぬわけない。信じたかった。本当は生きててひょっこり出てくるんじゃないかって思った。
お母さんもお父さんも私を責めなかった。いっそ責めてくれれば良かったのに。
ねえさんがなくなってから私は一度もコンソメスープを飲んでいない。ねえさんの死はコンソメスープを所望した私の罪だから。
その晩、ねえさんが夢にでてきた。
「みゆのせいじゃない。今度は、みゆがコンソメスープを作るの。大切な人のことを想いながらつくったら、きっと美味しいスープができるわ」
ねえさんは、笑顔だった。
夢ですら私を責めないねえさん。優しくて、賢くて大好きなねえさん。
これからは私が、コンソメスープを作るよ。
これが私の贖罪だから。