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港に着いた。入り江に男達は集まり、二艘の間に神輿をくくりつけ、船を出した。
火が神輿を撫でるように広がる…
水掛けが始まったのだろう…男達の喧騒が聞こえる…しかし、私は神輿から目を離せなくなった…魔素がキラキラと煙りと共に上がって行く…そして、海へと零れ落ちる魔素もある…
「キレイだ…」
零れた魔素は海に広がり入り江を満たす…
星が海に零れたみたいにキラキラ輝く…
ああ…だからか…ここの海に魔力を持つ魚がいるのは…
黒曜石から燃やす事で零れた魔素は、取り入れ易くなり魔力がある特別な魚が存在するようになったのか…
魔素は体に取り入れ難い筈だ。
しかし、祭りにより、取り入れ易くして海へと…
儀式だな…昔からの知恵か?
しかし、今の水掛けは簡素化して勿体無い…
前もって桶に水を汲んでいるので、欲望が叶うかもしれない、折角の水をかけずじまい…
祭りの意味がキチンと伝わってないのだろう…
それに分かる人もいないのだろう…
まあ、下手な欲望は身を滅ぼすから…程々に伝わっているのかもしれないが…
楽しげに水を掛け合う姿は見ているだけで、楽しい。
しかし、隣でソワソワするのは止めて欲しい…
アキラお前は参加したいのだろ?
アキラが突然前に出る。ああ、やっぱり参加するのか?
アキラの目線の先にあのバカ三人組がいた。なんだ?嫌な雰囲気だ…
三人組の表情とバケツに入った水を見ると、もしかして、見学者だったアキラに水を掛けに来た?アキラは見学者に当たらないように出た?
ツムギさんの三人組への呪詛めいた言葉を聞くとそうみたい?
しかし、あのままだと相手は三人だし、アキラ一人前に出ても、角度を変えない限り見学者に水が掛かりそうだ…
この距離では、あの三人組を、はったおすには気付いたのが遅かった…小走りで帽子を脱ぎながら…アキラに並ぶ。
こいつらやっぱりバカだ…見学者に当たる距離で水を掛けた。
水の軌道を読む…アキラがカバー出来ない場所を手を広げ帽子を使い、水の軌道をずらす。
どうにかなった?
少し取り零したが、これくらいは許容範囲内だろう…
「やったな…」
見学者には掛けるなら、自分たちはもっとヤられて良いって事だろ?
様子を見に来たバケツを持った大人に近づく…
「借りる」
そう呟くと、三人組にヤられた顔を目掛け水を均等に掛ける。
お守りは持って来てないけど基礎の力が強くなった自覚があるので、力を緩ませてやる。
しかし、三人組は尻餅をつくと、火が着いたように泣き出した。
「やっぱりガキだ…」
自分がヤられて泣くようなくらいの事はするな、自分より強い奴に戦いを挑め!
それに因果応報って知らないか?
ここは大人に叱ってもらおう、そこの大人は?
「バケツありがとう」
バケツを借りた大人にお礼を言った。この大人はコイツらが見学者達に水をかけるのを見ていたよな?
ちゃんと、何がダメだったか諭してくれる?
…何故に?私も叱る?コイツらが泣いているからか?
コイツらが顔めがけて掛けたから、同じ所を目指したが、しかし、あれ以上に力を抜くと、顔からずれる。
コイツらが見学者に水を掛けるのがダメだろ?
顔がダメ?ルール?この大人は何を見てた…
「おっちゃん、さっきから聞いてると、なんで私が怒られる?
私は見学者のスペースにいたのに、こいつらが水をかけてきたから、やり返しただけだ」
「ダメなもんはダメだ!ルールだ!」
それは押し付けだ、回りの大人達は顔に掛け合っている。
子供にルールを押し付けるなら大人も見本となり、自重しろ!
「そんなルール、知らん。こいつらルールを知っている参加者、私ルールを知らない見学者。なぜ?同じように怒る?お互い顔に顔に掛けたからチャラだ。
それに見学者に掛けるが一番ダメだ!こいつら泣いて許されたように見える。
私が一緒に怒られる、私と同じ理由、こいつら思う。だが、怒る理由、同じか?」
「うっ」
人を叱る事は難しい…。
「こいつら怒られるのは自業自得、私も同じ?」
だから、この大人にも、考えさせないと…
「そうよ!去年もその子達、年下のアキラの顔に水をぶっかけて泣かしたのよ!去年も怒られたのに、又やってるのよ!それに見学者に掛けるのがまずダメよ!」
おや、ツムギさんが援護してくれた、ありがとう。
しかし、叱るって言うのは、迫力と冷静な判断が必要だ。
「反省が足りないから今年もした?」
コイツらはちゃんと、考えている?
私とバケツの大人のやり取りを関係ないみたいな顔で見ていた。
後ろに立つ中には杖をつく老人もいる。そんな人に冷たい水を掛けるのが良いことか?悪いことをしたと自覚させ、だから叱られていると自覚させる必要がある…
ばあちゃんみたいにちゃんと私は叱れるか?
しかし、コイツらはまだ謝ってもない…
「さっき、掛けたのは去年のアキラへの水、今年の分は未だ掛けてない…そこにいる見学者にも水を掛けようとした水を!」
このバケツの大人は迫力も気概も、何が悪いことか判断する力がない…
だけど、悪い事をしたら誰かがキチンと叱られないと…
「ひっゴメン!悪かった!」
三人組を睨む。誰に謝るかも分かってない?反省してるか?
「私にじゃなく!」
ちゃんと考えろ!
「ゴメンアキラ!後ろの人達もゴメンなさい!許してください!」
ついでにバケツの大人を目線で聞く。
私の言い分間違っているなら、今言え!
3人組はアキラの後ろに隠れている…本当に反省してるか?
「もう良いよ…なな、水は顔はダメだって」
アキラが、優しく微笑みながら、三人組を許す…許すの早過ぎ…
「それに、お前のかけた水は痛かったぞ!もう充分返してもらった!」
そこそこ痛かった?それは良かった。言い返す元気があるなら、もう少し念を押すか…
「やっぱりお前ら反省足りない。私一人、バケツ1つ、お前ら三人、バケツ3個 数も揃えるか?」
自分たちが体験した痛みがなけりゃ、ヤられた側の痛みは分からないなんて…
少しは賢く生きろ!
「だって、痛かったんだよ~お前本当に女か?スゴい馬鹿力!他の奴等にかけられるより、絶対三倍くらい痛かった!」
口がよく回るな…本当に痛かったか?本当に痛い目に合わせた方がいいか?
「反省がみられない…」
一歩足を出す。
「うわ!逃げろ!」
ん?あの逃げっぷりなら、本当に痛かったか?まあ良い…
「ふん」
バケツの大人に目をやると、
「どうやら、俺の叱り方は間違ってたかもしれん…お前には言い過ぎた悪かった…」
おや?潔い、迷いながら叱ってたか?大人でもまだ親ではないのかな?
私はペコリとお辞儀をする。私も少し言い過ぎた…
「ななちゃんカッコいい~ステキ!」
そうか?
「アキラもありがとう、カッコ良かったよ!」
そうだな、隣で照れ臭く笑うアキラを見た、アキラを見直した。
皆を助けようという気持ちは偉い、なかなか思っても行動に移すのは意外と難しい…
口々に私達を誉める回りの人達…
出来たら、バケツの大人がごちゃごちゃ言っている間にツムギさんみたいに援護して欲しがった…
下手に私みたいな子供が行動しない方が良いのに…