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あれから時間が有ればアイツを見た場所に行ってしまう。

この時の気持ちは正直何なのか良く分からない。


同じ年頃で遊び相手を見つけて一緒にいたかったのか…

助けてくれてありがとうと言いたかったのか…

目新しい刺激を求めてたのか…


誰にもあの事は言ってない。何故だか言いたくなかった。


秋めいた青空の下を、ふらふらと長く続く湾曲した堤防を歩いていると、いつもは無いものがあった。

青色のバケツと魚の餌のミミズが入った容器だ。


辺りを見渡したが、誰もいない。

バケツの中には見たことがないくらいの大きなカサゴが入っている。


じいちゃんがたまに釣ってくるが、こんなに大きさは見たことがない。


「おい、邪魔だ」


俺がバケツに覆い被さるように覗き込んでいた顔を上げると、釣糸を片手に持ち、釣糸の先に大きなカサゴをぶら下げたアイツが立っていた。


俺はバランスを崩し、尻餅をついてしまった。

アイツはそんな俺なんか気にせず、手慣れた手つきで針から魚を取る。


クルクルと釣糸を畳んだ紙に巻き付け、針を器用に挟み込み、軍手をはずし、バケツに付けてた袋に放り込むとそのまま、立ち去ろうとした。


「おい、」


なんだか腹が立った。こいつは俺の事を空気みたいに扱っている。


アイツは溜め息を吐く、


「なんだ?何か用?」


無表情に俺を見る。やっとこっちを見た、目が合うと心臓がドクドク五月蝿くなった。


「お、お、お前、ここはダメなんだぞ!」


ついさっきまで、名前を聞こう、昨日のお礼を言おうと思ってたのに口は違う言葉を吐く。


「それで?」


それで?ってなんだ?返す言葉が見付からず、固まっていると、


「用がないなら、もう行くぞ」


「な な なまえ!」


「鬼カサゴ」


アイツは魚の名前を言ってさっさと行ってしまった。

違う!魚じゃないと叫んでも、もうアイツの姿は見えない。




家に帰ってきてから、かあちゃんが五月蝿い。

天気が良いのに小学生の男子達と遊ぶ事なく、来春からのランドセルを背負って喚くみたいに歌う事なく、ボーとしている俺を心配してだとは思うけど、ウルサイ。


「ウルサイよ、調子が悪いわけじゃない、見慣れない奴がいたから、誰だろうって考えてただけだよ!」


「見慣れない子供?」

「黒ずくめの俺より小さい奴」


かあちゃんが首をかしがる、


「ななちゃん?」


近所の同じ年の女?


「へ?」


「キレイな顔した女の子でしょ?汚すからって黒ばかり着ている、無口の子よね?あんたは見たことがない?そういえば、夏祭りとかで見たことがないかも?今日見たの?」


当てはまると言えば、当てはまるような…


「もしかして、そいつかな…」


「少し興味でたなら明日一緒に買い物付き合いな!

明日なら買い物に来るから会えるかもしれないし、」


嫌々ながら、荷物持ちの約束をする。


次の日、スーパーでアイツに会った。

かあちゃんの言う通りだった。

だけど、荷物を両手いっぱい持たされた俺はアイツに話しかける事が出来ず、かあちゃんを睨みながら帰るしかなかった。


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