9
ばあちゃん目線
私には子供が二人いた。
もう過去形でしか言えない。
長男は島の暮らしが嫌で、大学を卒業してから音信不通だ。
娘は大学を出てから帰ってくると言ってたが、そのまま就職した。
しかし、えらく暗く打ちひしがれて突然帰ってきたと思ったら。
身重になっていた。
旦那は怒り狂った。
娘の相手は死んだそうだ、聞いても相手の事を詳しく言わないし。
死んだか死んでないか確かでないが、結婚出来なくて、帰って来たみたいだ。
でも子供が出来たっては知らせなくて良いのかしら?
旦那は体裁が悪いと島の男と結婚させようとしたが、娘のムチャクチャな反抗にあい。
激しい父娘喧嘩に相手への連絡はうやむやになり。
出産間近まで知り合いの店で働き、貯金を切り崩し家賃まで家に納めた娘に対し、旦那はもう怒りをぶつけるのは止めた。
そのかわり話しかける事はなくなった。
娘は無事に赤ちゃんを産んだ。
それから忙しくなった、ほとんど泣かない赤ちゃんだったが、娘が働きに出ている間は私が面倒を見た。
赤ちゃんは七海美と名付けられた。
産まれた日に七色に光る美しい海を見たと娘が言ったからだ。
いつ見たのか…病院から見えるかしら?と思ったが、昔から変な事を言って煙に巻く娘だし、良い名前だと思ったので反対しなかった。
それにしても、この赤ちゃんの父親は外国人かい?
瞳に金色が光る時がある。
娘に写真はないかい?って聞いたら、しわくちゃの不鮮明な写真を見せられたけど、日本人?って微妙な写真だった。
あまり聞いたら暗くなるから、言えるようなったら詳しく教えてくれるかな?
それに肌身話さない大きなダイヤモンドの指輪。
いつもは見えないように袋に入れて首からぶらさげている。
あんなデカイ石なんておかしいから偽物だろうけど、後生大事に持っているのを見ると、娘は相手の事を大事に思ってたんだろう。
しかし、この赤ちゃんは笑わないね、表情筋死んでるわ、まるで旦那みたい。
プッと笑ってしまう、本当に似なくて良い所が似るんだから。
毎日それなりに充実した日常は突然途切れる。
娘が事故で亡くなった。
事故が多い曲がり角だ。
娘には遠回りでも違う道を通勤路にしろと何回も口酸っぱくなるまで言った。
しかし、娘はカラカラと笑うだけで、お地蔵さんが守ってくれてると、近道を選ぶ。
誰に似たんだか…
でもそんな娘とケンカすら出来ない、葬式が終わり、ボンヤリと孫を連れて娘の事故現場に行く。
孫をこれからどうすれば良い?人見知りが激しくて、言葉が遅く、食欲もなく、小さくてうすぼんやりと生きている孫を、昨日初めてと言っていいくらい激しく泣いた。
娘がいないとこの子は生きる意味はあるんだろうか…と悩むくらいの孫をどうしたら良い?
事故の時紐が切れたと言って、置いていった形見の指輪。
袋越しにギュッと握る。
どうかお地蔵さま、娘が愛した孫を守って下さい。
お地蔵さまが手が届くだけで良いので、いや娘を助けてくれなかったんだから、孫くらい娘の10倍いや100倍守りやがれやこんちくしょう!
誰が花を飾ってくれたか覚えてます?私の娘です!心優しい自慢の娘です!
守ってくれなかった怒りに身を震わせてると、視線を感じ、横を見ると孫がびっくりした顔で私を見てる。
お地蔵さまに不埒な怒りをぶつけてたの分かったのかしら?
でもいつも無表情の孫の顔を変えさせるなんて、もしかして、言葉にしていた?
呆然としている孫の手を無理矢理合わせさせ、無理矢理拝ませる。
それから孫の手を掴み、足早に家に帰ると。米を洗い。皿を洗い。風呂を洗い。洗濯物を干し、炊き上がったご飯を熱いのも厭わず握る。
握ったら、怒りの反動か泣きそうだ。娘が亡くなったのにご飯が必要?誰がお腹すくの?
娘が生きてた時と同じくらいにおにぎりを作ってしまった。
きっと残る、そして又泣きそうになるのか…
ぐったりとして、孫に昼ごはんを食べさせる。
旦那も食欲がないよなと思っているといつの間にか皿におにぎりがない。
旦那が食べた?食欲あるのかしら?それにしても食べ過ぎだわ。
まあ、この数日ほとんど食べないでいるし、お酒飲むより良い。
孫が変な動きをする。食後の運動かしら?
ご馳走さまでしょと言って手を合わさせる。
孫がお参りしたいと言う。お地蔵さまのことかしら?
又行く気が出ない。
孫を散歩に連れて行きたいとは思うが疲れた。
娘の遺骨に拝ませてお茶を濁そう。
子供はしつこい、又お地蔵さまに行きたいって言う。
足が痛いと言って断る。それにお地蔵さまは助けてくれなかったと怒りがフツフツと沸き起こる、娘は頼りにしてたんだ!
いかんいかん、息を整える、孫に当たりそうだ。
形見の指輪を直しに席を立つ。頭を冷やそう。
孫が変だ。
いつもご飯は無理矢理食べさせるくらいなのに、お腹がペコペコ?
手伝いをしようともするし、変だ。
とりあえず、ご飯の用意をする。
物音がする庭を覗けば、孫が大根をかじってた。
野菜嫌いだったよね?
旦那もそんな大きい大根渡して、と怒ろうと思い近づくと、シャリシャリと心地良い音が耳に入る。
止まりそうもないその音に毒気を抜かれ、大根の半分を黙って貰うと、孫がお腹空いたのは確かみたいだと感じた。
簡単な野菜炒めと、漬物と冷奴と用意をする。
孫の変な動きを止め、いただきますをさせ、食べさせる。
旦那に聞くと孫は大根の半分食べたらしい。
あの大きさの大根を?流石にお腹いっぱいだろ?
頭を揺らしながら、食べる孫がいる。
そりゃお腹いっぱいで眠いだろう。
しかし、寝そうだった孫が豆腐を見ると感激したようにこちらを見る。
そう言えば孫の前に一人前の冷奴なんて置いたの初めてかしら?
上手く質問の言葉を言えない孫に、冷奴と教え、豆腐やらネギやら鰹節やら醤油やら簡単な説明をする。独り言みたいに呟くが孫は目をキラキラさせながら聞いてくれてる。
又変な動きをしそうになる孫の口に食べ物を入れる、どこまで入る?作ったおかずをほとんど入れても平然としている。
お風呂でも変な踊りをしようとするし、この孫はどうしたんだろう?
お地蔵さまに毒づき過ぎたかしら?変に願いが叶ったの?
まあ、生きる力が強くなったのなら嬉しい事だ。
ここまで見て下さってありがとうございます。
このばあちゃん目線まで見てくれたなら、凄く嬉しいです。
書きたかったばあちゃん目線なので、拙い文章ですが、ブックマークなり評価なりポチとしてくれたら凄く励みと喜びになります。
よろしくお願いします。