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「ぅ……は……あ、はぁ……はぁ! カナタ……たすけに、きたぞ」
シロが息絶え絶えにカナタへ声をかける。
地下の檻の中、カナタは地面に突っ伏して気を失っている様子。海楼石だろうか、手錠がかけられている。
シロはここに忍び込むため、にかなりの体力を使ったためかなり息が上がっていた。
情報屋から聞いた通り不気味な、不快ながする。この音が大きくなる前に脱出しなければならない。
カナタは、一瞬死んでいるように見えた。
鉄格子の鍵を拝借していたので開け、カナタに駆け寄りすぐさま脈をとり、息があることを確認した。
(よかった……生きてる)
カナタは全身血まみれで、一目で損傷レベルはわからない。
痛めつけられたような殴られたであろうひどい痣や、切り傷の見て取れる。
かなりの暴行をうけたのだろう、地面には全体に血が塗りたくられている。
骨は折れていないだろうか、そう思考しながらカナタの手足、そして首の計5か所の海楼石の錠を1つ1つ外す。すべての錠を外し終わった後、シロは気を失っているカナタを背負った。
そして牢獄から出ようとした時。
「っぅぅぅぅうわああああああ、あああああああああああ!! ああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……っ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛……」
目を覚ましたらしいカナタが、急に大声を張り上げた。パニックを起こしている。
「団長、団長、落ち着いて。カナタ、助けに来ました。大丈夫です。すぐポーラーに帰りましょう?」
シロは一度カナタを降ろし、カナタに正面から目を合わせ声を掛ける。
「ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛……」
しかし、カナタのパニックは収まらない。
叫び声が地下牢に響く。
「カナタ? 俺です。シロです」
(一体なにがあったんだ……)
こんなに大声で叫ばれては監視に気づかれすぐにやってきてしまう。
悪いと思ったが、カナタの顔を自身の胸に押し当て少しでも声が小さくなるよう努めた。すると、シロから離れようともがきはじめた。
仕方なく胸から離れぬよう、無理やり押さえつけることとなる。
もたもたしている間にも不快な音が、異音へと変化する。異音に侵されとても気分が悪い。
カナタは理性を失っている。
パニックを起こし、暴れるカナタを今ここで落ち着かせるにはどうしたらいい……。
このままではまた囚われてしまう……。
(どうすれば……)
カナタの声を抑えながら背負うのは不可能なので、左手で頭を胸に押し付け右手でお尻を持ち上げ抱っこしたまま逃げる。
「あ゛ぁぁぁ!! うぅう゛うううう゛う!! あ゛……あぁ……」
声が漏れる。このままでは窒息してしまう。
バタバタと海兵の足音が聞える。追ってくるカナタの叫び声で警備が気づいたらしい、海兵追ってくる。
「……うぁぁ……… ……… 」
カナタの声が異音にかき消されて聞えない――。
現在地は貴族の館の地下牢。地上に出て敷地内から出れば待機している団員と合流できる。
しかし、現状の逃げ足の速度では二人で捕まってしまう。
異音に倍音が加わり不協和音を奏でる。
「!! おえぇぇ……」
シロは気持ち悪さに耐えきれず嘔吐する。
(このままじゃ振り出しだ……)
いや、もっと最悪な事態だ……。
(やべ……頭回んなくなってきた……)
頭を押しつぶされるような強烈な異音に、シロはふっ飛びそうな意識をカナタを守るという意思で繋ぎ留めつつ足を動かす。