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カナタは単身で出かけた。
貴族と、情報と『魔法の宝石』を取引として交渉をするためだ。
カナタは貴族屋敷の内部へ案内され、応接室へと向かう。
建物に入る前から、どこか不気味さを感じていた。
淀んだ空気感が漂うような……なんだろう……不快な音がする。
不快感に見舞われつつもそれが何なのか、明確に判明しない。
カナタはとくに逆らうことなく指示に従った。
貴族にソファに座るように促され、カナタは着席する。
まず、情報の冒頭部を小出しにしてゆく。そしてここから先は『魔法の宝石』をもらうのが先だと言った――その時。
不意に気持ち悪さを感じた。自覚するとだんだん増してくる。はじめから感じていた不気味さが膨張する。
何か音が聞こえる。なんだ? ノイズが混じった甲高い音だ。
耳を澄ませていると不快な音が異音へと変わった。
(何の音だ、悲鳴?)
刀の鳴き声は亡霊の声だ。
カナタは刀に認められている為、もっていかれることはない。
これは刀の声ではない。
(では誰の声なんだ?)
思考の海に囚われていた時。
ドンッという物音で現実に戻ってきた。
見ると、控えの貴族が『魔法の宝石』を目の前の机に置いたところだ。
カナタはさっそく目当ての『宝石』を受け取った。早々にポケットにつっこんだ――のだが。
(おかしい……おれは貴族になにかされている?)
明瞭に原因はわからなかったが、今の動作ががキッカケか不明だが、グっと体調が悪くなるのを感じる。カナタは、座っていられなくなり前のめりに倒れた。
「……なにを……した?」
異音に倍音が加わり不協和音を奏でる。徐々に音が拡大して鼓膜が破れそうだ。耳をふさぐも音が鳴りやまない。
外部からなっているのでなく、内から鳴っているのか?
うるさい、吐き気がする。もう考えられない……。
カナタは意識を失った。
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(……カナタが帰ってこない)
シロは、ホームでカナタの帰りを待っていた。
すでに半日待ったが未だ帰って来ず、さらに連絡一つない。
半日くらい行方知らずなのはザラなのだが、なんだか胸騒ぎがしていた。
一人出て行ったっきり帰ってこないことに、そろそろはしびれを切らしていた。
正体のわからぬもやもやにしびれを切らしたシロは、ホームを降りた。
闇雲に探しても時間の無駄だとさっさと情報屋に金を払い、一人の指名手配犯の情報を買う。
顔が知られているということは、こういうとき非常に便利だ。
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「こちらシロ。団長が貴族の館へ入る目撃情報を得た」
「……は? 貴族?」
「え? なになに? どゆこと?」
シロ情報屋を出て、小電伝虫で団員に連絡すると、はてなマークを浮かべる声が返ってきた。
情報屋にて、カナタが貴族の館へ入っていく目撃情報が手に入った。さらに貴族について情報を得た。
この島の貴族は、ちょっと厄介らしい。なんでも、苦痛を伴う異常な音を鳴らす魔法者がいること、その異音は瞬間的に鳴る音ではなく、緩やかに、しかし確実に耳を支配するらしいこと。
「――だから貴族の館内に長居は禁物だ。俺が先導するから、後から来てくれ」
「理由は分かったけど、一回戻って来てよ。ちゃんとみんなで奪還作戦立てよ?」
「いや、なんだか胸騒ぎがするんだ。このまま乗り込む」
「まってまって! シロギ……」
抗議の声を聞かず、小電伝虫の通話を切った。
敵の魔法の関係から時間はかけられない。短期決戦である必要がある。パっと忍び込み、パっと連れ帰るのがベストだと考えた。
シロは単身で貴族の館へ乗り込んだ。