【第2章 大切な人の形見である『宝石』 前編】
【第2章 大切な人の形見である『宝石』 前編】
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カナタには放浪癖がある。
放浪先で何をしているか団員たちは知らない。
なぜなら頑なについていくことを拒むからだ。
カナタは、大切な人の形見である『宝石』を欲していた。
あの人の形見だからだ。
そのため、手当たり次第に情報を収集していた。
自分の力で手に入れたい。誰にも渡したくない。
そんな独占欲で放浪しているなどと、団員には口が裂けても言えなかった。 カナタはいつも考えていた。もし、大切な人の形見である『宝石』を手に入れた後はどうする? と。
大切に大切に宝箱に鍵を開けてしまっておくのか?
はたまた毎日目にする位置に飾り、インテリアにするのか?
それとも団員につけてもらうのか?
無音魔法の力が似合いそうな団員を思い浮かべようとする……が、あの人がちらつきかさなる重なる……。
――もしもの話はやめよう。
カナタは、大切な人の形見である『宝石』を探している――。
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とある無人島に住んでる人物がいる。
その人物は小屋を建て、一人で暮らしているらしい。その人物が『魔法の宝石』を手に入れた――という情報を入手したカナタは、暗黒盗賊団を率いて、さっそくその無人島へ足を運んだ。
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「うへ……ホントにこんなとこ、人間住んでるんですか?」
シロがカナタに訝しげに問う。
暗黒盗賊団一行は無人島に到着したのだが、ここは熱帯雨林だった。
あたり一面木々が密に生い茂り、見通しの利かない。
ここに人が住んでいる気配はひとかけらもない。そもそも住めるような土地ではない。
(こりゃ人一人探すには大層骨が折れそうだ……)
そうシロは思った。
「住んでるらしいぞ? シロ」
とカナタは言い、視線を上にやる。
シロは、カナタの視線の動作で何を求めているか瞬時に理解する。
ぴたりと空に銃口を向け、号砲のごとく鉄砲の引き金を引き、撃った。
空高く上がった銃弾と自身を『テレポート』で交換し、シロの視界から姿が消えた。
次の瞬間、カナタは空にいた。
空高く上がったカナタは自身が重力で落ちる前に熱帯雨林を俯瞰し、何かを探す。それはこのジャングル地帯には存在するとは思えない一軒の小屋だ。 カナタは探し物を見つけたのか、どうなのか。
「少し出てくる」
ということは収穫があったのだろう。
「誰か一人でも連れて行ってください」
すぐにシロは抗議がカナタは答えず一人で行ってしまった。
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カナタは、俯瞰して見つけた小屋をたどり着いた。
そこには本当に生活している空間があり、外で薪割りをしている年寄がいた。
この森林地帯にはまるで見舞わぬ、衣類、オケなど、狩り用の道具などが小屋のまわりにおいてある。
「おや、おまえさん。こんなところによくきたね。こんな無人島に人が立て続けにくるとはどうしたものかねえ……」
その人物はカナタに気づき、薪割りの手を止め声をかけてきた。
「……立て続け?」
カナタは問うた。
「そうさ、貴族がきたのさ」
人物は答える。カナタは嫌な予感がした。
「ここに『魔法の宝石』があると聞いた」
「それなら貴族に渡しちまったよ」
「……その『魔法の宝石』の名前は知っているのか?」
一歩遅かったかとカナタは思った。
「ああ、なんてったかな……。 そうさそうさ思い出した! ”大切な人の形見である『宝石』”というらしいぞよ。貴族に渡したとき彼らがそう言っていたよ」
その後、渡した貴族の名前を聞きた。調べたところ貴族G-44の館にその『魔法の宝石』は保管されたと知った。
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「団長、またなにしに行くんですか」
「野暮用だ」
シロがカナタに尋ねる。
無人島で一人でフラっと出て行っていざ帰ってきたと思えば、カナタはまた出てくるという。今度はどこへ行くんだ。
「いつもいつもや・ぼ・よ・う! ですよね? お願いですから誰か連れて行ってください。でないと、勝手に後をついていきますよ?」
「好きにしろ」
話は終わりとばかりにプイっと顔を背けたと思えば、くるっと身をひるがえす。
シロがいかに懇願しようと我が団長は聞く耳を持たない。
それに、シロは知っていた。
後をついていってもどうせ巻かれてしまうことを。
(そんなに団員に隠したいことってなんなんだ?)
カナタは自分のことを全く話さない。全くだ。人の心など読めないのだから、口に出さなければ相手に伝わるはずもない。だから何を考えているかわからない。
しかしそれは、俺たちを信頼していないのとは違う。
自分のことを語らないことがカナタの正義なのだろう。
苦しかろうが、悩んでいろうが、俺たちに悩みを打ち明けたり相談されたことはない。
もっと頼ってほしい、もちろんそう思う。だが、今の完璧主義者のクールでカッコいいカナタに俺たちは憧れている。
だから自ずとカナタに着いてゆくんだ。