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「……ん、ぅん……」
シロが覚醒してきた。
「シロ? 聞こえるか?」
カナタが小さ目な声で声を掛ける。
「ん、カナタ? なんで? あれ、ここどこ? ……ですか?」
シロがあやふやに言う。独り言なのか対話できているのか、シロの意識が混濁しているうようだ。
「ここは宿だ」
カナタが答えを導けるように誘導する。
「……宿?」
シロが曖昧に復唱し、思考しているようで、続きの言葉が出てこない。
「…思い出した、俺……倒れたんですか?」
シロが質問を投げかける。
「ああ、驚いた。何があったんだ?」
カナタが答え、さらに質問する。
「えっと……特になにも……」
シロがどもりながら身体を起こした。
「何もないはずないだろう」
カナタがむすっと少し嘲笑うように突っ込んだ。シロは答える気がないようなので、続いてカナタがいくつか質問をする。
「どこか痛いところは?」
「ないです」
「診たが異常はなかった、どれくらい倒れてたかわかるか」
「……うーん……。ちょっと考え事をしていて、よくく覚えていないです」
「何を考えていたんだ」
「……………」
「今までこうなった経験は?」
「ない……と思います」
「俺がホームでなんていったか覚えているか?」
「…………はい」
「お前はホームを降りたいのか?」
「……あんたが抜けろと言ったんじゃないか。その質問は、ずるい」
シロの声が低くなる。
「そういえば、なにしに来たんですか?」
少し間が空いて、シロが話を逸らし突き放すように言う。
「!!」
(シロを迎えにきたに決まってる)
そう素直に言えず、悔しくて顔を歪める。
二人の間に険悪なムードが漂う。これではさっきと同じじゃないか
本当に何しに来たんだとカナタは思った。
「診察は終わりだ。今日は一日安静に。明日も不調だったら医者にでも診てもらえ。……邪魔したな」
シロは覚醒後だから、感情的にさせるのも悪いとカナタの頭に理性が働く。このままだとまた喧嘩になりそうだと思って日を改めようと決め、席を立った。
カナタが宿の、開けて廊下に出て扉を閉めようとした――その時。
「……っぁ…はっ!………ぁ…っ」
シロの不自然な呼吸がカナタの耳に届いた。
「!!」
閉めるのを止めてドアを開け直す。目に飛び込んできたのは腰掛けている態勢から前かがみに下を向いて、手は首に当てているシロの姿だった。
「シロ、落ち着け」
部屋に入りドアを閉め、シロに近づく。
呼吸の乱れている。俯いていて顔が見えない……喉が苦しいのだろうか?
「ぁ…くぅ……ふ、ふ、はっ、」
過呼吸を起こしている。再度診るが、やはり外傷的な異常は見当たらない。だが普通じゃないことは明らかだ――となれば精神的なものだろうか。
おれの何かの言葉がトリガーになったのか? ……わからない。
「ふっ……ぁっ……はっ! はっ!」
シロの身体をベットに寝かす。揺れる瞳は焦点が合っていない。シロが自身の首に当てている手に力が入り、自分自身を締め付けているような状態になっている。
「シロ! 首を絞めるな!!」
このままでは窒息する、危険だと思い手を首から放そうと試行する。首から手をどけようと試行していたらカナタの手首をシロ自身が掴んできた。その手はガクガクと震えているが力は強く、熱かった。
「カナタ、はっ、ふ……あっ、ハッ」
自分の名を呼ばれる。シロの目からは涙が溢れていて苦しそうだ。
「はっ、い、かないで……」
朦朧とする瞳で息絶え絶えに言うシロの言葉にカナタは驚愕する。
「あ、ああ、わかった。ここにいる。どこへも行かない」
シロの見たこともない状況と言葉に戸惑ったが、断る理由がない。
「安心しろ、ここにいる」
目視できてはいないだろうが、子供が怯えないような顔――眉を下げ、出来る限り穏やかな声で語りかけるようカナタは心掛けた。
荒い息が少しの間続く。次第に不安が取り除かれたからなのだろうか、落ち着き寝入ってしまった――。