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右手が好きな左手の唄

 僕は彼女を見ると胸が苦しくなる。


 僕の出来ない事でも彼女はなんだって出来た。


 筆を軽快に滑らせることや、お箸で器用に食べ物を摘んで運ぶこと。


 その度に僕は紙をおさえ、お椀を抱えて彼女の事を羨望の眼差しで見つめていた。


 僕らは握手をする事は出来ないし、指相撲をする事だって出来ない。


 決して噛み合うことはない。


 僕らは似ているようで、全く違う存在だった。


 彼女は特別で、僕はそうではなかった。


 僕は彼女を見ると胸が苦しくなる。


 なのに、どうして僕は彼女の事をこんなに意識してしまうのだろう。


 彼女は僕のことなど気にもしていないのに。


「すごいね。いいなぁ。羨ましい」


 そんなある日の事だった。


 彼女が僕にそんな事を言ったのだ。


「わたしがあなただったらいいのに」


 それは初めて彼女から向けられる羨望の眼差しだった。


 僕は嬉しかった。


 僕にも僕にしか出来ないことがあった事が嬉しかった。


 でも、どうしてだろう。


 まだ、僕の胸は苦しいままだった。


 もう、彼女の事をうらやむ事もないのに。


 ずっと僕は彼女の事がうらやましいから、彼女を見ると胸が苦しくなるのだと思っていた。


 でも、それは違ったのだ。


 晴れやかな教会で、僕の薬指に銀色に光る指輪を見て、初めて僕の事を羨む彼女を見て。


 僕はやっと気がついた。


 僕は彼女の事が――。


 愛を誓う儀式が進む中、ステンドグラスから零れる光に包まれながら、薬指の銀色の指環に勇気を貰い、やっとの思いで僕は彼女に言った。


「僕は君の事が好きです」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 右手が好きな左手、素敵ですね。
2019/10/29 18:39 退会済み
管理
[良い点] おお! まさか告白がくるとは思わなかった! あおいさんはいつも私の想像とは斜め上をいかれます。 面白いですね〜
[一言] スゴい! この展開は予想できませんでした! なるほど、そうきましたか! 右手が左手をうらやむ理由に納得しました! いいお話ですね! ちなみに私が読みながら予想したオチは、左手がちぎれて、…
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