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第六話 ユーリア

 前世を思い出してから二年が過ぎた。私は三年生になり、アリシアお姉は五年生になった。そう、ゲームスタートの時期だ。けれど、本来のゲームとは随分状況が変わってる。


「おはよう、アリィ」


 まずはこの人、メインヒーローのエド様だ。アリシアお姉を当然のように私の横からかっさらって、満足そうに腰を抱いていた。ゲームではアリシアとは不仲で、時々放課後に学園に残って騎士としての鍛錬をしている。ストイックに鍛錬するエド様をユーリアが見つけることから、ゲームのメインストーリーが始まるのだ。しかし、今現在、エド様は放課後に学園で鍛錬をすることはなかった。


「エド様、お疲れではございませんか?少し痩せられたのでは……」


「そうだな。アリィが癒してくれるか?」


 アリシアお姉が心配してくれるからって、エド様はゲームのスチルにも無かったとろけきった笑みを浮かべている。アリシアお姉が心配するのも当然、エド様は学園に在籍しながら、聖騎士団の入団試験を受けたのだ。しかも、試験を通っちゃって聖騎士団に所属しているのだ。そんな無茶な設定無かったのに。

 エド様が阿呆みたいな無茶をした理由は単純。アリシアお姉と少しでも早く結婚するために、だ。学園で授業を受けつつ、任務があれば向かわなければいけない。体がいくつあると思ってるのだろう。馬鹿じゃなかろうか。

 学園に通いながら聖騎士団に所属なんて前例がなかったけれど、有無を言わせぬ実力で押し通したのだから恐ろしい。学園の方も、試験の結果によっては一年早く卒業するとのことだ。アリシアお姉も置いていかれるのが嫌なのか、元々のスペックの高さを生かして一緒に一年早く卒業してしまいそうなのも恐ろしい。


「わたくし、頑張って上級回復の魔術を取得しますわ」


 違う、そうじゃない。エド様の言う癒すって、そういう意味じゃない。さすが、天然ぽわぽわ系のアリシアお姉。教えてあげればいいのに、エド様はそれすら可愛いとばかりに笑っている。ふんす、と気合を入れてるアリシアお姉は、確かに可愛いけどね。


「アリィは勉強も頑張っているだろう?また無理をして倒れたら、……分かっているな?」


「うっ……、お仕置きは嫌です……」


 エド様が聖騎士団に入団してすぐの頃、アリシアお姉はエド様を支えようと頑張りすぎてしまったのだ。そして、エド様にお仕置きされていた。どんな内容なのか、アリシアお姉は真っ赤になるだけで教えてくれないけれど、うん、まあ、……うん。おかしいなぁ、エド様って紳士だったはずなんだけどなぁ。卒業の時のスチルでようやくキスするくらいの紳士だと記憶してるんだけどなぁ。


 とまあ、まずゲームと逸脱したのがエド様のスペック諸々だ。その次に、ゲームの設定からずれてるのはこの人。


「どうしたの、ユーリィ?僕たちはもう、教室に行く?」


 ちらりと隣に視線を向けると、ヨゼフ様がにっこり笑った。ああ、可愛い。ヨゼフ様、尊い。ふわふわの瑠璃色の髪を撫で繰り回したい。エド様と同じ臙脂の瞳なのに、ヨゼフ様だとウサギの目みたいで可愛い。


「うん。お姉様は、エドアルト様がエスコートなさるもの」


「そうだね。じゃあ、行こう」


 頷いて、ヨゼフ様が当然のように私の手を握った。私も、ヨゼフ様の手を握り返す。可愛い男の人だけれど、私と比べればそれは、随分と男らしい手だった。


 ゲームの設定では、婚約者のいなかったヨゼフ様だけれど、今は私が婚約者になっている。丁度一年前に、お父様が苦虫を噛み潰したかのような表情で了承したのだ。私も一番親しい男性はヨゼフ様だったし前世でも推しだったから、二つ返事で頷いた。


「ねえユーリィ、次のお休みは空いてるよね」


 それから、これもゲームでは分からなかった一面だ。ヨゼフ様はよく、私をデートに誘ってくれる。それはいいんだけど、何でか知らないがヨゼフ様は私の予定を把握しているようなのだ。何でヨゼフ様が私の休みを把握しているんだ。空いていて当然とばかりに聞いてくるけど、悔しいかな、その通りだ。


「ええ、空いてるわ」


「じゃあ、僕とデートしようね」


 何故だろう。可愛らしく笑ってらっしゃるヨゼフ様から、まさか僕の誘いを断りはしないよね?という無言の圧力を感じる。あれ?ヨゼフ様って、仲のいい同級生のアイドルポジションじゃなかったっけ?腹に一物系は保健医だもんね?ヨゼフ様はただ、一緒に遊びたがってくれてる、ってことだよ、ね?


「もちろん、喜んで」


 まあ、断る理由はないから頷いておく。何だかんだ優しいし、可愛いし、好きだからね。しかし、この二年でヨゼフ様も随分身長が伸びたなぁ。ちょっと見上げないといけない。一年生の時は、同じくらいの目線だったのに。


「今度はどこに行くの、ヨゼフ?」


 エド様とアリシアお姉のお付き合いよりも、ヨゼフ様と私のお付き合いの方が友達の延長のような感じだ。私自身、アリシアお姉ほど男性に免疫がないわけではないし、前世では彼氏もいた。けれど、どうにもヨゼフ様とはこう、男女関係になるのが怖いというか、うん、友達の関係を崩すのが嫌……、なのかな。ヨゼフ様も、自然体でいいよって言ってくれていて、まあ付き合いやすい友人だ。


「僕はユーリィといれたらどこでもいいよ。ユーリィが許してくれるなら、僕の部屋でも構わないかな」


 にこっと笑って、ヨゼフ様が私の手を引く。揺らいだ体をダンスでもするかのように抱き寄せられて、私は目を白黒させた。よ、ヨゼフ様の部屋?ちょっと待って、友人の延長、だよね?友達を、部屋に、って、こんな雰囲気で誘うっけ?え、あれ、ヨゼフ様ってこんなに積極的だったっけ?


「あはっ、真っ赤になっちゃった。食べちゃいたいくらい可愛いなぁ」


 ぺろりと妖艶に舌を出して笑うヨゼフ様に、何故か背筋が震える。あれ、私、何かやばくない?


「も、もう!ヨゼフ、危ないじゃない」


 気付かないふりでヨゼフ様の胸を叩いた。けれど、至近距離で目を細めて笑うヨゼフ様は、確信犯の表情に見える。


「うん、ごめんね、ユーリィ」


 にっこり笑うヨゼフ様に、何故か頬がひくついた。ヨゼフ様が原作の設定と違うのって私と婚約者になったことだけと思ってたけど、……もしかして性格まで変わってるのだろうか。私、婚約者選び間違えたかなって不安になるのは、ヨゼフ様には気付かれなかった、と思いたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 何とも落ち着かない学園から家に帰ってきて、私はほっと息をつく。今日はアリシアお姉も一緒に帰ってきた。今夜、十公のうちの御一方が主催される舞踏会があるからだ。ドレスはこの前、ヨゼフ様が贈ってくれたのにしよう。


「おかえりなさい、アリシア、ユーリア」


「ただいま帰りましたわ」


「ただいま、お父様、お母様」


 そうそう。ゲームとの違いといえば、家の環境もだいぶ違う。お父様はゲームでは問題なく宰相をしていたけれど、ここのところ、引退して娘を守ろうかなとかぼやいてるのだ。今日だってもう帰ってきてるし。大丈夫なのかしら。ゲームだと家庭を顧みることなく仕事に打ち込むタイプだと描かれていたのに、随分と子煩悩な印象だ。

 だから、アリシアお姉をでろっでろに甘やかしてる。まあ、元々が娘の反抗期に手を焼いていたって感じだったから、素直で天然ぽやぽや系になったアリシアお姉なら何も問題ないのだ。いや、婚約を取り消すとか言い出しそうなのが問題といえば問題かな。


「アリシア、ユーリア、今日のエスコートは……」


 お父様は、娘二人の顔を交互に見ながら、両手を広げて寄ってくる。抱き着くとでも思ってるのだろうか。往生際の悪いお父様だ。


「大丈夫よ、お父様。私はヨゼフ様にお願いしたわ」


「わたくしも、エド様にいらしていただけますわ。うふふ、もうお父様ったら心配性なんだから」


 くすぐるようにアリシアお姉が笑う。お母様は、呆れたようにお父様を睨んでいた。私も苦笑いでお父様を見る。お父様の複雑な親心に気付いてないのはアリシアお姉だけだ。これだから、お父様はアリシアお姉を甘やかすんだよねぇ。そりゃあ可愛いでしょうよ、私の自慢のお姉なんだから。ふふん、鼻が高いわ。

 社交界の華と名高いお母様に倣って、私もアリシアお姉も夜会へはよく出席してる。いつもは天然ほわわわ系のアリシアお姉も、社交の場だと案外しっかりしてるのだ。アリシアの社交術だけじゃなくて、前世の接客スキルも存分に活かしてるようだ。


「ユーリア、一緒に準備しましょうね」


「うん、行こう、お姉様」


 アリシアお姉と並んで、私たちは衣装を置いてある部屋に向かう。お母様もついてきた。お父様は当然、お留守番だ。


「お姉様、ドレスは何にするの?」


 尋ねると、アリシアお姉はほんのり頬を染めて微笑む。あ、エド様の色のドレスにするつもりね。分かりやすいったら。


「うふふ、すっかりエド様がお姉様のドレスの色ね」


「もう、からかわないの、ユーリア」


 むくれるアリシアお姉も可愛い。お母様は微笑ましいとばかりに私たちを見ながら微笑んでいた。

 衣裳部屋に来て、私はヨゼフ様から頂いたドレスを出してもらう。アリシアお姉はエド様から送られてきたドレスの中から、どれにしようか悩んでいるようだった。お母様は私たちの様子を窺いながらも、他にいくつかドレスをクローゼットから出させている。


「偶には殿方に贈っていただいたドレスではないものを身に着けてもいいのよ。はしたなくない程度に肌を出したドレスとかね」


「……お姉様に限っては、危険な賭けのような気もするわ」


 エド様は普段は紳士、だと思う。思うんだけども、アリシアお姉のことに関しては、紳士のストッパーが外れまくってるような気がしなくもない。だって、エド様ってアリシアお姉と早く結婚したいから聖騎士にもなって飛び級で卒業もしようとしてるんでしょ。それってつまり、のっぴきならない殿方の事情というか、……ねぇ?


「ユーリアは上手く駆け引きできそうだけれど、アリシアは危ないかしらねぇ」


 お母様も私と同じ考えに至ったのか、生ぬるい視線をアリシアお姉に送った。アリシアお姉は何事かと私とお母様の顔を見比べて、最終的に頬を膨らませる。あらま、お姉が拗ねてしまった。


「ユーリアに出来るならば、わたくしにだって出来ますわ」


「お姉様は、エドアルト様さえ関わらなければ、社交の場での駆け引きもお上手なのですけれど」


「そうねぇ。アリシアは、エドアルト君が大好きだものねぇ」


 お母様の一言で、アリシアお姉は完全に拗ねてしまう。お母様は、慌てた様子でアリシアお姉にちょっと大胆なドレスを勧めていた。アリシアお姉は、お母様に勧められるがまま、そのドレスを着付けるようにヘレンに指示を出す。

 これ、お母様、アリシアお姉にあのドレス着せたかったんでしょ。だから、わざとアリシアお姉を煽ったのね。


「……策士だわ、お母様」


「あら。奥手な娘と、未来の可愛い息子のためよ」


 うふふふ、とお母様が頬に手を当てて微笑んだ。可愛らしい見た目をしているけれど、さすがは社交界の華だわ。まだまだ、勝てる気がしない。


 私も、ヨゼフ様に送っていただいた瑠璃色のドレスに着替えた。幾重にもドレープを重ねたデザインで、私の好みにぴったりだ。ヨゼフ様の髪と同じ色をしたドレスに合わせて、アクセサリを選んでいく。化粧も済ませて、私はアリシアお姉を待った。


「あの、これ、大丈夫かしら……」


 隣室で着付けていたアリシアお姉が、不安そうな表情で出てくる。着ているのは、胸元が随分と大胆に開いた濃紺のドレスだった。アリシアお姉の白い肌がくっきりと浮いて、かなり扇情的だ。アリシアお姉って、かなり着痩せするのね。羨ましいくらいの豊満なお胸をしているわ。


「あらいいじゃない、アリシア。今日の舞踏会を独り占めできるわよ」


 にこにこと手を合わせるお母様に、私も頷いてみせる。いつもと違うアリシアお姉も可愛い。色っぽいのに可愛いって反則でしょ、お姉。


「アクセサリはこれがいいわね。髪飾りはこちらにしましょう」


 どうしようともじもじしてるアリシアお姉を、お母様がテキパキと飾っていく。臙脂の首飾りとイヤリング、髪飾りは氷のように透き通ったクリスタルだ。なるほど、ドレス自体は殿方を煽るように、ピンポイントの飾りで意中の殿方へアピールするのね。


「遅くなってもいいけれど、きちんと帰ってくるようにね、アリシア」


 忠告するくらいなら、そもそもアリシアお姉にそんな恰好させなければいいと思うのよ、お母様。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 公爵家に着くと、先に到着していたエド様とヨゼフ様が迎えてくれた。エド様はアリシアお姉を馬車から降ろして、うん、笑顔が凍りついている。そうだよねぇ。こんなに色っぽいアリシアお姉を、これから人が多い舞踏会に連れて行かなきゃなんだもの。しかも、自分がエスコートして、ねぇ。気が気じゃないよね。


「ヨゼフ、こんばんは」


「こんばんは。僕の送ったドレスを着てくれたんだね、ユーリィ」


「うん、どうかな?」


「とっても可愛いよ」


 ヨゼフ様は私の腰を抱いて、にっこりと微笑んだ。月明かりと魔法のランプにゆらゆらと照らされたヨゼフ様は、どこか蠱惑的な雰囲気すらある。心臓が締め付けられたように震えるのは、気付かないふりをした。


「さあ、行こうか。兄様たちも急かしてあげないと、いつまで経ってもここから動けやしない」


 じゃれ合ってるエド様たちに声をかけて、ヨゼフ様が私をエスコートする。主催者である公爵夫人に挨拶をして、舞踏室へと案内された。流れる音楽と共に足を踏み入れた舞踏室で、不意に記憶が蘇る。ここを、私は見たことがある。ユーリアじゃない、前世の私だ。そうだ、ここはスチルになっていた。

 そうそう。ここの舞踏会イベントは、ユーリアが初めてアリシアから明確な敵意を向けられるんだ。とはいえ、アリシアお姉はエド様とイチャイチャしてるから、そんなイベントは起こらないだろう。もう、ここはゲームと全然違う世界なんだ。私はただ、舞踏会を楽しめばいい。


「今日、踊っていいのは僕か兄上だけだよ、ユーリィ。たくさん踊りたいなら僕が付き合うからね」


 ヨゼフ様のリードに合わせて踊りながらわくわくと会場を見ていると、ヨゼフ様がにっこりと笑って私の腰を抱き寄せた。顔が、ちょ、近い近い近い!


「け、けど……」


「けど、何?今夜はアダーシェク公爵家として踊らなきゃいけない相手はいないよね?十公のうち、今日招待されてるのは君の家と僕の家だけだ」


「わ、分かったわ。分かったから、ちょっと、離れて……」


「うん、僕と踊ろうね」


 か、会話が噛み合ってない……!ヨゼフ様が、ふわふわ可愛い男の子じゃなくなってる!


 そのまま、私が踊り疲れるまでヨゼフ様は放してくれなかった。休憩したいとヨゼフ様に告げて、私は果物を絞ったジュースを片手に壁際に立っている。同じように少し疲れたような表情を浮かべてるアリシアお姉も一緒だ。


「お姉様、お疲れのようね」


「ユーリアも、でしょう」


 はしたなくない程度にジュースで喉を潤して、私もアリシアお姉もほっと息をつく。私たちを疲労困憊させた兄弟は今、妙齢のご婦人方に誘われてダンス中だ。私たちも休みたかったのでちょうどいい。悪いけれど、嫉妬は微塵もしない。アリシアお姉は、少し不安そうにエド様を見てるけどね。可愛い。


「そんな顔しなくても、すぐに帰ってきてまた囲われるわよ、お姉様」


 アリシアお姉は、頬を赤くして私の腕をつついてくる。私は口元を扇で隠しながら、くすくすと笑った。侯爵夫人にご挨拶したときに渡された手帖によれば、あと三曲で一度ダンスの時間が終わる。ビュッフェスタイルの食事を挟んで、またダンスをするのだ。こちらの公爵家は食事が美味しいから楽しみだなぁ。

 そんなことを考えながら、会場を何となく見ていた時だった。ぱしゃり、と私の横から水の音がしたのは。


「…………え?」


 私が視線を向けた先、震える手で空のグラスを持った女の子がいた。それと、ジュースをかけられたのだろう、胸元が濡れてしまったアリシアお姉がいる。


『目障りよ、ユーリア。無様に退場なさいな』


 脳裏に、ゲームのイベントが蘇った。ゲームとは、立場がまるで違うけれど。


「……デビュタントはお済みかしら。そうでなくとも飲み物を零されるだなんて、はしたなくていらっしゃるのね」


 唖然とする私よりも先に、我に返ったのはアリシアお姉だ。扇で口元と胸元を隠しながら、ダークブルーの目を細めて令嬢を見ている。


「あ、貴女がぶつかってきたのよ!」


「あなた、誰に口をきいてらっしゃるの?……とても気分が悪いわ。お下がりなさい」


 アリシアお姉は、溜め息交じりに言った。ジュースをかけてきた令嬢に見覚えはない。アリシアお姉もそうなんだろう。ということは、爵位は確実に家よりも下だ。令嬢を守るためか、アリシアお姉は扇で濡れた胸元を隠しながら歩き出す。公爵令嬢にあんな口の利き方をしていたら、彼女自身の品位を下げるだけだ。

 私も、令嬢に注意を向けながらアリシアお姉の後を追った。周囲を見る限り、アリシアお姉がぶつかったという令嬢の言い分を信じている人はいないようだ。令嬢は何を考えてアリシアお姉に喧嘩を売ったんだ?アリシアお姉を出口まで送ったら、戻って情報収集しなきゃいけない。


「アリィ、大丈夫か」


 きっと、すぐにでも駆け寄りたかっただろうに、エド様はきちんとダンスを終えてからアリシアお姉の元に来た。私はエド様に、後はお願いしますと視線で合図して踵を返す。ヨゼフ様も私と同じ考えなのだろう。舞踏室へ戻る私を待っていてくれた。

 背後で、アリシアお姉とエド様は公爵夫人に事情を話している。そのまま、今日は帰るらしい。さすがにドレスの替えは持ってきてないし、濡れたドレスのままいるわけにもいかない。


 折角、アリシアお姉が色っぽくて可愛いドレスを着てたのに、邪魔してくれたわね。


「ユーリィ、顔、顔」


「私のお姉様に喧嘩を売ったらどうなるか、思い知らせて差し上げないといけないわ」


「眉間の皺はとっておこうね」


 ゲームのイベントだろうが何だろうが、受けて立とうじゃないの。アリシアお姉を傷つけるやつは、何者だろうと許さない。


 ヨゼフ様の腕をとって、私は先程とは随分と違った感情で会場を見渡す。敵は誰だ。あの令嬢は誰かの子飼いなのか、それとも自身の意思でやったのか。だとしたら意図は何だ。エド様を狙ってるのか、アリシアお姉を攻撃したいだけか。どんな理由であれ、許してもらえると思うんじゃないわよ。

 隣のヨゼフ様は、こんな時だけ積極的なんだから、と困ったように微笑んでいた。

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