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第八部

「またここにいたの?」


 エミリア・アークウィンは今日も今日とて海岸で黄昏ているアルバート・デグレアに話しかける。


「別に今は軍務時間外だ。なにも問題はないだろう。それにここなら色々なものが見えそうな気がしてな。」

「それはアインのこと?」


 エミリアがそう尋ねるとアルバートは海を見たまま黙ってしまう。


「ねぇ、アル。あなたはアインに会ったら一体何をしたいの?」

「そうだな。とりあえず数回ぶん殴る。それが終わったらまた数回ぶん殴っておこうかな。」

「もしかして拷問のせいで馬鹿になっちゃった?」


 アルバートにしては珍しく脳筋的な言い方をするのでエミリアは本気で心配してアルバートの頭をさする。


「いや、それは多分無い……はず。だが特にこれと言ってやりたいことも無いんだよな。あくまで俺とあいつは敵、そこに憎しみなどないし、ましてや恨む理由も大してない。軍人になったのもそれは俺の意思だ。」

「そう、あくまでそれは自分の意思ってことにしたいんだ。」


 いつも通り、アルバートのすぐ隣に座りすこしばかり悲しそうな顔をする。


「時期も時期なんだからそろそろ上着を着なさい。風邪ひくわよ。」


 エミリアがそういって自分が羽織っていた上着をかぶせようとする。

 アルバートは手でいらないとジェスチャーするがエミリアは強引に上からかぶせる。

 ここでいらないとかいうとなんかエミリアの機嫌が不機嫌になりそうなので諦めて被っておく。


「それにしてもお前は寒くないのか?」

「別に。ずっと外に出ていたわけじゃないし。」

「そうか。じゃあそろそろ戻るか。」


 そう言ってアルバートはさっき羽織ってもらった上着を落とさないように気を付けながら立ち上がる。


「そういえば思い出したんだけどあの機体作戦に間に合いそうなの?」


 それを聞くとアルバートは上着をピクリと震わせた。


「さてとなんのことかな?」

「もしかして海で黄昏てた本当の理由って……。」

「俺は何も知らない。」


 *


「ダール少尉。」


 アーレイ基地でアルバートと同じように海辺に座って海を見ていたアインにアズリトが話しかける。


「少尉ですか。」

「私に会いたくないといった感じね。」

「そんなことは無いですよ。」


 アインは笑いながらよっと言って立ち上がるとふと音が聞こえた。


「どうしたの?」


 アインが急に動きを止めたのでアズリトも周囲を警戒する。


「いえ、遠くの方からキャスターにしては少し変な、しかし戦闘機ではない音が聞こえたので。」


 アインがそういって音が聞こえた方を指さすのでアズリトもそれに合わせてその方向を剥く。


「あれは……。」


 二人は遠くの方にキャスターでも、そして戦闘機でもなさそうな機体を捉えた。


「あれは……。」

「新型でしょうね。今変形しましたし。変形する機体はまだテスト段階だと聞いていましたが、もう実戦に出せるのですね。」


 二人ともすぐにあれが昨日話していた新人だということは分かった。


「でも見た感じあの機体凄い燃費悪そうだけど。」

「そればかりは乗ってみなければわかりませんけど速度は出そうですよね。まぁ、自分はドレインで十分に満足していますが。」

「私もリソースで十分だわ。」


 新しい機構というのはいつの時代も否定されるものである。


「とりあえず中に入りましょうか。冷えてきましたし。」

「そうね。」


 だがアズリトが小さいくしゃみをしたためアインはその機体を見るのを辞めて基地の中にもどった。




「本日より親衛隊に配属となりました、ヴィエント・バラノフ少佐であります!」


 そういいながら茶色を少し濃くしたような色の髪を肩より少し下に伸ばしたスレンダーな女があいさつした。


「名前から分かる通り少佐は司令のご令嬢だ。それと今回少佐が乗っていた新型機、ドライエントであるが世界初の可変型キャスターだ。」


 そういいながらロマンはそのままドライエントのスペック、そしてそのために隊列を変えるという話を続ける。

 しかしアインの心を占めていたのは別のものだった。


(何故、こちらの方を見ているんだ……。)


 先程からヴィエントの茶色い瞳の視線をどうにも感じる。流石に自分の勘違いだろうと最初は思っていた。だがアズリトもその様子に気付いてか様子が変わっている。


「というわけだ。ダール少尉、聞いていたか。」

「もちろんであります!」

「よし。ならば行ってみろ。」

「ヴィエントバラノフ少佐、乗機は連邦初めての可変機であるドライエントです。そして少佐の着任とともに分隊の構成の変更しますがこれは一時的なものです。理由としては少佐が一年後には離隊するからであります。」


 ロマンはアインが話を聞いていないと思い質問したのだが、しっかり答えたため聞いていないように見えたことを不問とすることにした。


「ではアース少尉、少佐の案内を頼む。」


 アズリトが分かりましたと言ってヴィエントを案内しようとしたときである。


「大佐。私は彼に案内してももらいたいのですが。」


 だがヴィエントはアインを指名した。

 そしてその言葉に反応したのはロマンでも、ましてやアインでもなくアズリトだった。


「お言葉ですが、少佐。私では何か不満が?」


 表面上は百点満点の笑顔だったがアインはその笑顔に恐怖を隠せなかった。


「いえ、そういうわけではないのだけれど。私としてはあなたよりも彼の方がいいと希望を述べたまでですよ。」


 だがそれに淡々とヴィエントは返す。

 そしてロマンも相手が直属の上官の娘であるので強く言うことどころか反論すら許されないじょうきょうであるためアズリトのセリフを聞こえないとばかりに頭を振る。


「それくらいにしておけアース少尉。では、ダール少尉。少佐の案内を頼む。」

「え? あ、はい。」


 この状況に押されていたアインは上官からの命令は断れないのでそう返事をした。

 そしてアズリトからの視線が怖すぎてアインは恐る恐るといった感じで前に出る。


「では少佐、こちらの方へ。」

「えぇ。お願いするわ。」


 そういって二人は室内から出ていく。その様子をアズリトはまるで番犬のようにうなりながら見ていた。




「どうして自分なのですか?」


 アインは先程のことを思い出しながら、ニコニコしているヴィエントに尋ねる。


「そうね。なんとなく興味があったから?」


(興味ってなにたいしてなんだろう……。)


 そう思いながらもとりあえず歩く。だが幸いにもヴィエントはそれに答えてくれるようだった。


「そうね。強いて言うならば大佐があなたを親衛隊に推薦したからといったところかしら。そういえばあなたたちは知らないんでしょうけど最初大佐に渡された親衛隊候補者リストにはあちこちの精鋭パイロットとかもいたのよ。それを彼は当時士官学校と養成学校を出たメンバーのみで構成した。当時は私も含め結構な人数が疑問に思ったものよ。だがそれに対する大佐の意見はこれが最善だと自分は思っていますって言ったのよ。」


 それを聞いてアインは昔ロマン・ベロワにスカウトされてた時のことを思い出す。


「ですが、それなら他の二人も興味があるうちに入るんじゃないですか?」


 そう当然のように思ったことを素直に口にした。


「ユリアはまぁ知ってるからいいし、あの少尉さんだったらダール少尉のが面白そうじゃない。」

「比較で決めたんですね……。」


 アインはそう若干苦笑いしながら落胆したような声を出す。


「それに面白いことも分かったし。ところで少尉。」


 ヴィエントはそう言いながら前を歩いていたアインの手を握った。


「どうされたんですか?」


 アインは若干驚くものの冷静さは崩さない。なんとなくユリアと同じ匂いがしたので下手に会話の主導権を握らせない方がいいと判断したからであった。


「特に反応はしないのね。」

「スパイやっていたころにまぁ色々とあったので。」

「じゃあ彼女とかいたの?」

「いえ、自分には必要なかったので作る気もありませんね。」


 そういうとヴィエントは笑い出す。そしてひとしきり笑った後ヴィエントはアインに更に身を寄せほぼ腕に抱き着くようになる。


「で、少尉さん。君はどこに案内してくれるのかな。」

「とりあえずは少佐の部屋からですね。」


 アインがそういって歩きだそうとするとヴィエントが何かに気付いたように動きを止めた。


「少佐?」

「少尉、敵襲よ。」


 それとマリノアス基地の警報が鳴ったのはほぼ同時だった。

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