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第十五部

「宇宙か。」


コンゴウの展望室でアルバートは背中を丸めながらそうつぶやく。

こんなところなんて来るんじゃなかったと後悔をする。

気分が悪いせいか周りの音が気になって仕方なく展望室のドアが開く音が気になった。


「気分の方はどう?」


そして足音と共に入ってきた。


「あぁ、大分マシになった。」


エミリアの問いかけにまだ顔を青くしながらも手で大丈夫とジェスチャーするも再び吐き気が催す。


「まったく。」


そう言いながらもエミリアは優しくアルバートの背中をさすりながら水を出す。


「宇宙なんて嫌いだ。」


アルバートはそう神をも殺してやるといった眼光で遠くで光る星を睨む。

さきほどからアルバートが苦しそうにしている理由、それは宇宙酔いだった。宇宙酔い用の注射は先程打ってもらたので後は時間が解決するものであった。


「でもほら、星とかきれいじゃない?」

「まぁ、それに関しては否定する気はないが。」


そう言いながらアルバートは恨めし気に星を睨みながら呼吸を整えるため荒い息をする。


「ちょっと目つぶったら?」

「いや、だいぶ良くなった。」


呼吸を整えながら注射が効いてきたので顔色が良くなる。


「そう、ならよかった。」


エミリアがそう嬉しそうに言う。


「それにしてもエミリア、やけに今日機嫌がいいな。シャンプーもデートとかに使うやつだし。いや、それよりもいいやつか?」


幸いにしてエミリアのシャンプーの香りは宇宙酔いを和らげるような匂いだったので助かるといった感じでそのにおいを嗅ぎながら言う。


「よく分かったわね。」

「まぁ、それなりに長い付き合いだろ。それで何があったんだ?」

「知りたい?」


もったいぶるような言い方をするので一瞬あしらってやろうかと考えるがここで機嫌が悪くなっても困るので一応考える。

だがいくら気分が良くなったといえど完全に復活したわけではないので頭がまだ上手く回らないというのが本音だった。


「あぁ、教えてくれ。」

「少しは考えなさいよ……。」

「頭が回る状況ならばな。」

「それもそうね。じゃあ、明日までに考えておきなさい。」


またもやもったいぶられるのでアルバートはため息をつく。


「それにしても後もう少しで時間ね。」


そういうエミリアの顔には少し緊張の色が浮かんでいた。


「ロンギヌウスの進攻阻止か。」


アルバートもそれに反応して少し緊張の色合いを強める。

ロンギヌウス要塞。そう呼ばれる宇宙軌道要塞は衛星軌道上からロンギヌウスの槍と呼ばれる劣化ウラン製の棒を落とすだけという非常にシンプルな構成ながら核弾頭に匹敵する威力と正確な射撃制度、そして迎撃不可能という兵器としてとても優れたものである。

今回アルバート達が宇宙に上がったのはイルキア基地周辺にある前線基地の一つ、エドモンド前線基地の宙域にそのロンギヌウス要塞の進攻を阻止するためだった。


「えぇ、連邦の方もかなりの戦力を用意したって聞いているわ。」

「だろうな。今回は生き残るのが大変そうだな、分隊長。」


アルバートはそう今回の作戦からアルバートの分隊長になったエミリアに笑いかける。


「そうね。確かに大変かもしれないわね。」


そう下を向いてエミリアは言う。


「だから二人で生き残りましょう。」


エミリアはそう言ってアルバートに口づけした。



(そう思ってはいたが……!)


目の前の敵をアルバートは睨む。


「だがこれだけ敵がいると!」


アルバートは高機動型ゼウスを使って二機目の敵を撃墜する。

百機近いキャスター同士の戦いはアルバートには半年ぶりだった。


『けど、文句ばかり言っていられないわよ。』


エミリアもそう必死に敵を撃墜しながら返す。


『フォーメーションG16!』


それに合わせてアルバートはエミリアの後ろに付く。


『そのままF45!』


三機目の敵を撃破する。だがまるでそんなのは関係ないとばかりに連邦の主力キャスター、ノーヘッドの中隊が襲ってくる。


「クソ! キリがない!」


アルバートはそう言いながらエミリアに照準を合わせた一機のノーヘッドを撃墜する。


『前に出過ぎ!』


エミリアから叱責の声が飛ぶのでアルバートはすぐに下がった。



エフゲニー・バラノフはその光景を見て口元を歪ませた。


(これで私に反乱を起こしそうなものは軒並み消せそうだな。後はどちらに転ぶか分からないやつだがそれに関してはまぁ後でいいだろう。)


「アルトロン砲、照準! 帝国軍主力部隊!」

「了解。敵主力部隊に照準。」


いまロンギヌウスに搭載された超巨大なエネルギー砲を操作及び指揮しているのはエフゲニーが信頼を置いている人物のみなので味方部隊を攻撃することに大した躊躇は無かった。


(これで新しい時代が始まる。魔術師がすべてを統べる国を……。)


「アルトロン砲、発射!」


その瞬間アルトロン砲が火を噴いた。



アルバートが直感的にすぐ近くを何かが通り過ぎる映像が見えた。

一瞬幻覚かと思い頭を振る。


その時ブライムから通信が入る。


『連隊各機! 回避しろ!』


そのわずか一秒後アルバートは遠方で光を見た。


「エミリア!」


そのままエミリアのゼウスを引っ張っり先程の映像から逃れるように移動した。


「エミリア、無事か!?」


アルバートはエミリアのゼウスが左腕からコクピット近くまで半壊しているのを見て安否を確認する。


『えぇ、無事よ。』

「そうか。」




「これは……。こんなことを……。」


ブライムはアルトロン砲によって壊滅した敵軍を見ながら絶句する。

いくら的とはいえこれではあまりにも敵の兵士が救われないと思う。

だが今はそんな心配をしている場合でもない。


「小隊各機、状況報告!」


『はい、何とか。』

『継戦は?』

『支障は無いかと。』

「いえ、少佐はもう無理です。」


だがアルバートがそこに割り込む。


『少尉!』


エミリアからそう通信が来る。


「ですが、明らかに無理そうですよ? 外から見ると。」


そう言うとエミリアは黙る。


『了解した。少佐はエチュート中尉と撤退しろ。少尉は私と共に来い。』

『ですが、それでは!』


エミリアがそれに反論するような声を出す。


『だが、エドモンド基地を失うわけにはいかない。』


ブライムはそう反論を許さないといった感じで言う。


『分かりました。ですが、大佐、少尉にもしものことがあったら、その時は……。』

『分かっている。』


そう言ってこれ以上話すのはためらわれたのか通信を切る。


『死なないでね、アル。』

「分かっています。」


そう言って高機動型ゼウスとゼウスは進行方向を違えた。


「大佐。こちらと向こうの戦力比は一体いくらほどで?」

『一対三だな。』

「それはまた随分と酷い……。」

『そういうな、少尉。これでも敵のレーザー砲が敵の二割を破壊してくれたんだ。』

「うれしくて涙が出そうですね。」

『少尉もそういう返しができるようになったか。』


ブライムはそう嬉しそうに言う。


『だがまぁ、悪いが、俺や少尉の腕だとこの場合単独で動くしかなくなった。気を付けろよ。』

「了解しました。」


二機のゼウスはそのまま一気に加速した。



「あれは戦闘の光?」


ガブリエルの調整をしていたアインはふと気になり展望室に足を延ばしていた。


「どうしたの? ダール中尉?」


それに付いてきたヴィエント・バラノフがアインに話しかける。


「いえ、あの宙域のあたりが明るいので戦闘かなと。」

「あの宙域は、確かエドモンド前線基地にロンギヌウスを落とすための戦闘だったはずよ。」

「ロンギヌウスをですか?」

「えぇ。ただ私たちはその後のイルキア基地攻撃に向けて今回は温存だそうよ。それと新型のキャスターの実戦データも欲しいらしいし。」

「新型ですか?」

「今度は遠隔操作型だって。」



「――っ! 一体どれだけの数が!」


もう十機以上倒したアルバートはコクピットの中で愚痴る。

ブライムとは先程別れ単機でノーヘッドの編隊を破壊していた。

だがその時一機の見慣れないキャスターから大口径のエネルギーが飛んできた。


「危な!」


そう言いながら余裕をもってかわす。

だがその時違う方向からもほぼ同時にエネルギーライフルの光が奔る。

流石に今度は余裕が舌打ちをしながらギリギリでかわす。

だがさらにおまけとばかりに追撃される。


「こうもタイミングがいいと……。」


アルバートは嫌な予感がすると思いながらも攻撃を避け続ける。


「おかしい。レーダーに移っているのは一機だけだ。だとしたら残り四機はステルスか?」


だが目の前にいる巨大キャスターに肉薄するとその正体がわかる。


「あれはなんかの線。ということは……。」


その方向から攻撃が来る。


「遠隔兵器か。どうりでタイミングが言い訳だ。」


アルバートはそう言いながらかわす。



「どうやら気付いたようだな。だが、たかがキャスター一機でこのユランに勝てるかな?」


そうユランと呼ばれる巨大な遠隔兵器のキャスターのパイロットがいう。


「辞めてください、隊長。そんな死亡フラグ。」


そうユランのもう一人のパイロットがいう。


「だが複座型だからな。負けたら恥になるぞ。」


そう言いながら隊長と呼ばれたパイロットは主砲である大口径エネルギーライフルのモードを変える。



「来るか。」


アルバートはドラゴンの形を模したキャスターの口の部分が赤く光るのを確認し回避行動をとる。

幸いにしてエネルギーライフルは直進しかしないはずなので射線から回避すれば問題ないと考える。

そう安心しながらライフルで攻撃をしようとした時だった。

口のあたりから発射されたエネルギーがある程度直進するとその角度を急激に変えた。


「なに!?」


そう言いながらもなんとか回避するが右肩の一部に被弾しながらもライフルを放つ。だがそれはユランに搭載されたエネルギーフィールドでガードされる。


「遠距離兵器は効かないか……。」


もうユランの高性能さに辟易していたので驚くことは無かった。

しかし、なんの慰めにもならないのも事実だった。


「近接戦しか……だが、それでは。」


そう。アルバートももし格闘戦で予想外のことが起きたら、援軍が無い今の状況だとトータスの時と違い今度は自身の死を意味することも理解していた。


「だが、やるしかないか……。」


しかしやらなければすりつぶされて死ぬということも理解していた。

決心を決めたアルバートはゼウスのヒートソードを引き抜き構える。


「エネルギーフィールドといえども全面に展開すれば自身が死ぬはずだ……。ならば!」


まず真正面からライフルを撃つ。

当然のようにユランはそれをエネルギーフィールドで弾く。

その瞬間を狙いアルバートは一気にゼウスを加速する。


「体が持つか、持たないか……。」


そう加速の力に耐えながらユランの背面に回り込み、攻撃を加える。

だが、ユランもそれを想定していたかのように回避行動をとり、致命傷どころかかすり傷しか与えられなかった。


そしてそのままユランに搭載されたアームで左足を捕まえられる。

舌打ちをしてすぐさま右腕のヒートソードで切り離そうとするがその右腕も捕らえられる。


なので直ぐ様右腕と左足をパージする。

その直後、ゼウスがいた場所にビットからの光がはしる。

距離をとってそれを回避し続け、どうするか考える。


『少尉!』


だがその時ブライムから通信が来る。


「どうかしましたか、隊長。」


若干の希望を持ちながらも応答する。


『第二防衛戦が突破されかけてる! すぐに援護に向かえるか!?』


この状況で無茶をと思う。


「今、敵の新型キャスターと――、交戦中で……。」


致命傷を避けながらも被弾箇所が増えていく。


『しかしこのままでは少佐たちが!』


ブライムの叫びにアルバートもレーダーを見て驚く。

そこに表示されていたのは一個大隊がエミリアたち撤退しているキャスターの追撃にあたろうとしていた。

そしてそれまでに間に合いそうな機体もアルバートのゼウスのみだった。


(無策も甚だしいが……、このままではエミリアが!)


しかし、それをさせないかの如くユランが邪魔をしようとする。


(何か、ないのか! 何かこの策を打開できる手は!)


そう思うアルバートの心にあることが思い出された。

それはアレニスに撫でられている時の記憶だった。


《アルバート、よく聞け。お前は最強のパイロットになれる。何故かって顔をしているな。まぁそれも仕方ないか。お前にはすべてが見えるはずだ。過去も今も、そして未来も。そしてその力は必ずお前が護りたいと思ったもの、信じたものを護る。俺たちは軍人としては失格かもしれない。しかし、誰にも頼るな。自分の手で護り抜くんだ。》


それはまるで何か隠されていた箱に鍵を差し込んだかのように一気に思い出された。


「そうか、さっきから見ていた光景、いや、今まで直感で感じていたものは……。」


それが全て未来なのだと思う。


ならばと考える。


アルバートはユランを無視して大隊に向かおうとする。



「行かせるか!」


ユランの隊長がそう叫び大口径のエネルギーライフルを発射する。



だが高機動型ゼウスはその射線から消える。



「そうか、やはり今まで見ていたものは。」


そのまま未来を読んで、高機動型ゼウスは前面のブースターをフルスロットルで噴射してユランの背後に回り、左腕のライフルでブースターを撃つ。



「背面にフィールドを!」


だがその瞬間、一気にブースターを加速させユランの前面に移動する。


「馬鹿な……。」


その声をかき消すようにゼウスがヒートソードで切り裂いた。


それになんの感慨も持たずにアルバートはすぐにコンゴウにつなぐ。


「ライフルとヒートソードをポイント04に!」

『了解した。』


そのまま一気にゼウスを加速させる。

体に負荷がかかり全身の筋肉が悲鳴を上げる。

しかし、そんなことに構う余裕はないというばかりにさらにスロットルを押し込む。


「――ぐっ!」


更に体にかかる負荷に耐える。


「見えた!」


追撃する大隊が速いだけの的だというばかりに高機動型ゼウスを狙って撃つ。

しかし、アルバートはその射線を読み、持ち前の反射神経のみできれいにかわす。

そして、手始めとばかりに先端が折れたヒートソードでノーヘッドを一機撃墜する。


次にコンゴウからドローンで送られた武器を受け取り、アルバートは雄叫びをあげながらもノーヘッドを撃破していく。


「なに、あれ……。」


エミリアはその光景を見てその言葉しか出なかった。

数分後、そこには多数のノーヘッドの残骸と魔力切れを起こした高機動型ゼウスが漂っていた。



「それが今回の戦いの結果です。」


ブライムはオズワルド・アークウィンにそう画面越しに報告する。


『そうか。やはり彼もあいつと同じということか。』


オズワルドはそう嬉しそうに言う。


(白々しい。)


『そういえば私の娘がな、そろそろ婚約相手を欲しがっていてな。十分だとは思わないか、大佐?』

「まさか、ご自身の御令孫にそのようなことをされるおつもりなのですか?」


ブライムはそう、敵意を押さえきれず問う。


『全くもって怖いな、君は。流石にいくら私とてそこまで人の心を捨ててはいないさ。たまには私の優しさくらい信じたらどうだ。』


どの口が言うと思いながらも肯定とも否定ともとれるため息のような返事をブライムはする。


『だが今回の戦果、こちらの方で弄らせてもらう。依存はないな。』

「では、彼に報酬は与えないと?」

『既に前払いで専用機をあげたではないか。それに加えてスパイの容疑も解いてやった。これで十分かと思わないかね?』


そう否定は許さないと言う感じでオズワルドは言う。


「では、自分はこれで。」


ならばブライムは話すことはないと通信を切った。


(それにしてもあれから一日近く少尉は眠っているし。早く目を覚まさないものか。俺のために。)


そう、アルバートの様子を見に行く度に睨み付けるエミリアの顔を思い出しながらブライムは長い嘆息をついた。



これは夢だとアルバートは思う。


「そうだ、よく聞けアルバート。お前は誰よりも強くなれる。その誰かを護りたいと思う予知能力が発現し、そして護りたいと思う信念があいつに届けばあいつはお前に加速をくれる。そうすればお前は誰にも負けない、文字通り最強のパイロットになれる。だからその時までに自身の正しいと思う道を見つけておけ。」


そう言ってアレニスはアルバートに背を向けた。


「父さん!」


そう、昔は出なかった言葉が口に出る。


「アル!」


だが、その伸ばした手を掴んだのは瞳に涙を浮かべたエミリアだった。


「エミリアか。」


アルバートはそう思いながらもそういえばなんで自信はここにいるのだろうと疑問を持った感じで周りをキョロキョロと見渡す。


「ここは、コンゴウの医務室よ。」

「そうか、俺はあの変なキャスターに追い込まれて、そしてエミリアが不味いと思ったから。」


そして一気に記憶が溢れてきた。


「俺はその後大隊を……。」


この時アルバートの心中にあったのはエミリアを護れて良かったというのと人を殺しすぎたというのと二つだった。


「大丈夫? 背中とか首とか痛んだりしない?」


エミリアがそう顔を寄せながら尋ねる。


「いや、特に。」


体を起こそうとするとエミリアが前の方から抱きつくようにして起き上がるのを手伝う。


「ただ何か食べたい。」

「ちょっと待ってて。」


その言葉にエミリアは嬉しそうに立ち上がると部屋から出ていった。


「それにしてもあの機体。あれはなんだったんだろう。というか俺のゼウスは大丈夫なのだろうか。」


そんなことを一分ぐらい考えているとエミリアが部屋に土鍋を持って戻ってきた。


「エミリア、それ大丈夫か?」


まず出てきたのはそれだった。

昔、エミリアがご飯を作るって言って一緒に料理をしたとき、彼女がてんで駄目だったのを思い出してのことだった。


「大丈夫ですー。ちゃんと味見したし。第一この前サンドイッチ食べてたじゃない。」

「あぁ、そうだったか。すまん、忘れてた。」


そういえばなんでそのことを忘れたのだろうと思いながらも謝罪をしておく。


「ところでエミリア。それどこに置くの?」

「ねぇ、本当に大丈夫? ベッドに付いてる机見えてる?」

「ん? あぁ。すまん。」


アルバートはなんでこんなものを見落としたんだろうと思いながら机に置いていた手をどける。

すると体に力が入らずベッドに倒れ込むように横になってしまった。

それにアルバートは驚くがエミリアは特に驚くことなく淡々とベッドのボタンを押してアルバートが座れるようにする。


「やっぱり体力の回復には時間かかりそうね。」


その後アルバートが座りやすいような位置に調整しながらもエミリアはため息をつく。


「そういえばエドモンド基地は?」

「それなら大丈夫だったわ。向こうが撤退したから。」

「俺の機体はどうなった?」

「それも修理は終わってるわ。ほとんどのユニット交換したらしいけど。」


エミリアは土鍋からお粥をスプーンで掬い息を吹き掛けて冷ましながら答える。


「はい。」


そう言って差し出されたスプーンからアルバートはお粥を食べる。


「味はどう?」


若干薄味な気もしなくもないがそれでも美味しいと言えるものだった。


「うん、おいしい。」

「そう、ならよかった。」


エミリアはそう嬉しそうに言いながら次のお粥を掬い上げる。アルバートはそれに息を吹き掛けて冷ましてから食べた。


「ところで、あの変なキャスターは何だったんだ?」


アルバートはそう期待を込めてそう口に出す。


「分からないわ。私も見たのはあなたの戦闘データだけだし。」

しかしエミリアもそれに関しては全く分からないといった感じで答える。

「そうか。じゃああの遠隔兵器についても分からないのか?」

「遠隔兵器ってあのアルの好きなアニメとかに出ている? そんなの搭載されているの?」


それを聞いてアルバートはため息をつく。


「あぁ。有線式だった。それとあの曲がるビーム。あんなの量産されたら堪ったもんじゃないぞ。」

「多分曲がる方に関しては帝国の方でも研究してると思うわ。ただまぁあれね。一部の武器に関しては連邦の方が上になっているわね。」


そう事も無げに言うがそれは不味いということも分かっていた。


「それ不味いんじゃないか?」

「いや、その代わりレーダー関連がね……。実際データを見ているとちょこちょこ捉え切れていないようだし。」


それがまともじゃなきゃまるで意味がないというように言う。


「そうか? 割と正確だった気がするが。」

「そう? あなたが通常戦闘で使っていた時の速度は完全に捉え切れていたけど全力で振り切ろうとしていた時は捉え切れていなかったわよ。」


この辺に関しては客観的に見てみなければ分からないかという感じで尋ねる。。


「そうなのか。」

「それより、どうして急に動きが変わったの? まるで敵の動きを読んでいるような。」


顔を近づけて真剣な眼差しを向けるのでアルバートは少し首を後ろに引く。


「読んでいるようなというより見えていたというのが正しいかな。そう、完全に見えていた。敵の動きが。」


そう、覚えていた感触を、糸を手繰り寄せるようにして思い出す。


「そう。じゃああなたにも固有魔法が出たって言うことなのね。」

「固有魔法?」


それは初めて聞く言葉だった。言葉の上では意味が分かるがそんなカテゴリーのものがあることは知らなかった。


「そうね。いろいろと種類はあるんだけどまぁ、大体似たり寄ったりなものよ。未来予知、テレパシー、空間転移、時間停止とか。それに一つの魔法に付き一人といったわけではないわ。因みにアインが持っていたのは時間停止よ。あなたと戦っているときは使っていなかったようだけど。」

「なんでそれを言わなかった?」


そう少し強い言い方になったがそれに対してエミリアは眉一つ動かさなかった。


「だってそれを言ったらまた無茶するでしょ? それと一つ付け加えておくけどアインが時間停止を使わなかったのはあなたをなめていたからというわけであって消費魔力が大きいから使わないだけよ。現に前にアインが艦砲射撃に直撃したときは使っていたけど明らかにその後の魔術障壁が薄かったもの。」


そうそれが真実だといった感じでエミリアは近距離から見つめる。


「それにアルの方も消費魔力も増えたでしょ?」


そう今度は眉間にしわを寄せながら眉を下げる。


「おかげで魔力切れになったということか。」


だがエミリアの気持ちを分かっていてもアルバートはそう戦闘に対してのみの問題を尋ねる。


「そうね。元々魔力が少なかったみたいだし。だから固有魔法の使用は極力抑えなさい。じゃないと、後で取り返しのつかないことになるわ。」

「取り返しのつかないこと?」

「そう。だんだんと寿命を削られていくから。」


そう悲しそうに言う。


「そうか。気を付ける。流石に使わないというわけにはいかないからな。」

「えぇ、約束して。」


エミリアはアルバートの小指に自分の小指を絡ませた。

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