第十四部
これが過去編最後の章となります。
個人的にはこれはじっくり書いていきたいので投稿が一日二日開くこともあるかもしれませんがご容赦ください。
「少尉、勲章の叙勲日程についてだが、この作戦の後だそうだ。」
ブライム・エイブラウは自室の椅子の上でアルバートに電子端末を渡しながらあまり気乗りしない声で言う。
「この作戦は……。」
「宇宙要塞ロンギヌウス。それの破壊命令だ。恐らくそれで戦争は終わるだろう。あの要塞を破壊されては連邦の継戦能力も著しく下がる。」
ブライムはその一方でかなり複雑そうな顔をしていた。
「確かに攻略難易度はとても高いがそれだけの価値がある作戦だ。だが恐らくこれで戦争が終わりと言っても大衆は納得しないだろう。」
「納得しないとは?」
「恐らく大した賠償金が取れない。だから帝国としても恐らく連邦の首都であるモスグラードを攻略したいのだろうがいかんせんそれをしようにも戦力が足りなくなる可能性が低くない。」
だからあまりいい手がないんだよとブライムは重々し気に呟く。
「そういえば一応我が軍にも衛星兵器ありますよね?」
「あぁ、衛星兵器自体はある。だが人道的観点から使用は認められないそうだ。」
「そういえば帝国政府って戦時下にも拘わらず情報統制しませんよね。まるで勝ちたくないかのように。」
アルバートはそう思ったことを口にする。
「よくそこまで分かったな。」
だがブライムはそれに感心したかのような声を出した後少し考えるそぶりを見せる。その雰囲気はまるでまだ早いかどうか考えているような感じだった。
「そうだな。まぁ、少尉なら知っておく義務があるか。」
「知っておくって、何をですか?」
「俺の昔の話だ。そしておそらく少尉が知りたいこと、そしてこれから先に生きていくうえで役に立つかもしれないことだ。」
「自分の知りたいこと……?」
その言葉にアルバートは素直な疑問が口から出ていた。
「そうだ。俺が先の大戦で所属していた部隊は、現在のアークウィン家当主、オズワルド・アークウィンが隊長を務める小隊だった。そしてそこに所属していたのは同じく七家門の当主の一人であるジョン・アニクウェスと少尉の父親であるアレニス・デグレア大尉が所属していた。」
「父がですか?」
それにまず驚いた。
「あぁ、そうだ。そして作戦名フォーリンエンジェル作戦。その作戦で交戦したのが今の連邦の七家門であるバラノフ家当主エフゲニー・バラノフと、同じく連邦七家門の一つであるベッソノワの息子、フィリップ・ベッソノワ、そしてロマン・ベロワだった。」
そういえばあの島であったパイロットもベッソノワだったなと考える。
「そこで何かあったのですか?」
だがすぐにこの話がどこに帰着するか分からないのでアルバートも聞く。
「まぁ、そうせかすな。その時丁度戦争の長期化による魔術師の排斥運動が起こってな。」
アルバートもそのことは覚えていた。人類解放戦線という名の団体が戦争を起こしている原因は魔術師だとして糾弾しだした。
そのとき迫害されたのはアルバートも同じだった。またそれが原因で現在帝国でも連邦でも基本的に魔術師と非魔術師は隔離されていた。
そこでふと気づく。
そう、連邦でも《《同じこと》》が起こっていたのだ。
だがいままで当たり前すぎたので逆にアルバートは気が付かなかった。
「知っているとは思うがその排斥運動は政府にも飛び火した。そしてその時の政府の政権は排斥運動の方だったし帝王も権力を持ち出した魔術師に警戒をしだしたのだろう。そのため政府は国直轄部隊である行政局特殊部隊にある命令を出した。連邦と協力し、連邦七家門、帝国七家門を排除しろという命令だった。そしてその命令通り俺たちがアルクニドで戦闘をしているとき核が撃ち込まれた。そのとき同じ戦場で戦っていたのがジョン・アニクウェスやオズワルド・アークウィン、そして連邦のロマン・ベロワやエフゲニー・バラノフもいた。だが弾着した場所はそこからさらに外れた場所だった。そこにいたのは俺やデグレア大尉だった。そして俺は……。」
ここでブライムは一度言葉を区切る。
自身の脳裏にその時のことが思い出される。
一瞬その光景にくじけそうになるが、それでも言葉を紡いだ。
「俺は、大尉に突き飛ばされて助かった。しかし大尉はその時に死んだ。」
「そうですか。父はその時に。」
「そうだ。」
ブライムがそう暗い顔でうなづくのを見てアルバートは実に父らしいと思った。
思ったことがそれだけと言われればそれ以上のことは言えなかった。
実際アルバートがアレニスと関わった時間はそこまで長くないためそれしか思わなかった。ただそれでも父親がどんな世界を目指そうと思ったのは気になった。
「一つだけ聞いていいですか。父は一体どんな人間だったんですか?」
「一言で言うなら完璧な軍人だったな。何回か怒られることはあったがそれでも言われたことを言われた通りにしたら作戦が失敗することは無かった。」
「じつに父らしいですね。」
「少尉の時も何かあったのか?」
「僕の場合は確か泳いでいるときでしたね。最初泳げなかったんですが、父の言うとおりにしたら一瞬で泳げるようになりました。一体あれは何だったのだろうと今でも思っています。」
笑いながらそういう。
「ですから、これは自分の推測ですが、父が目指した世界は一体どのような世界だったのですか?」
だから先程疑問に思ったことを口に出す。
その答えにブライムは少しばかり考えるそぶりを見せる。
「それに関しては私も分からない。だが一つだけ寄ったときにこう聞いたことがある。魔術師と非魔術師は分かり合えない。土台もそれまでの経験も違い過ぎる。だからこそどちらかがどちらかを統治しようとしてもそれは上手くいくことは無いと。」
「その辺は現実的だったんですね。」
「そうだな。その辺は少尉とあまり似ていないかもしれないな。」
そういって笑うブライムに少尉も苦笑いを浮かべる。
「そして実際にそのような考えを持つ魔術師は少なからずいる。実際七家門も非魔術師と魔術師は完全に分けるべきだという派閥と一緒に過ごすべきだという派閥の二つに分かれている。」
それを聞いてアルバートもある考えに至る。
「だから今回の大戦でも政府が勝とうとしたがらないのはその前者の派閥の魔術師の権力を抑えるためだということなんですか?」
「多分そうだろう。そして前者の派閥の魔術師の数を生活に支障が出ない範囲で減らすだけでいいのだと考えている。だから勝つ気もないが負ける気もない。そして恐らく連邦とある程度のことを折り込み済みだ。」
「だから次の戦い、ロンギヌウス要塞攻略が最後だと?」
「そうだ。」
アルバートは突拍子もない言葉だと思うが一方でそこまで的外れなことを言っているとも思え無かった。
「あと、少尉にはもう話さなければならないことがある。今回はこちらが本題だ。」
ブライムがそういうのでアルバートも顔を引き締める。
「大尉が死んだときオズワルドはあることを言っていた。惜しい人材を亡くしたと。当時はそのままの意味で私も考えていた。だが実際は違ったんだ。」
オズワルドはそう言ってアルバートにある写真を見せる。
その写真を見ると映っていたのはある研究施設のようなものにカプセルだった。
「これは何ですか?」
「クローン人間の研究施設、いや少し違うな。クローンを元に遺伝子改造した兵士の研究開発施設だ。」
ブライムはそれに何の気もなく答えるがアルバートには衝撃的な回答だった。
「つまり強化兵ということですか?」
「どちらかというと人造人間といったところか。少尉は前の大戦が始まった原因を知っているか?」
「連邦のキャスターが帝国側に攻撃を仕掛けたことしか知りませんが。」
「そのキャスターについてはやはり知らないか。」
「はい。ですがそのキャスターと人造人間になにか関係があるのですか?」
「そうだ。初期型のキャスターは数百年前に作れられたもので多量の魔力を必要とした。しかしその魔力が十分に供給されれば今のキャスターの性能を優に超える。だがどうしても適性のなパイロットの魔力では足りない、かといってパイロットを二入にしても魔力は反発して魔力の供給量が低くなってしまう。」
「だから人体改造をした結果精神がおかしくなって攻撃をはじめたとかですか?」
「結果的にはそうだが一人のパイロットに加えて一人の魔術師の脳をコクピットに組み込んだんだ。」
「そんなことをしたら。」
「当然人権問題になる。だから連邦は極秘裏にこの研究をしていた。だが結果的にこのキャスターが暴走してな。そしてそれに目を付けたのが帝国のアニクウェス家とアークウィン家だ。この二つの家系は終戦時に完全降伏を申し入れない代わりにこの研究データの提供を要求した。そしてこの研究を行っていたバラノフ家はそれに賛同したというわけだ。そして君はその新しいパイロットとして狙われていることを覚えておいた方がいい。」
その唐突な言葉にアルバートは驚く。
「自分がですか?」
「そうだ。デグレア大尉がその初期型キャスターを操れるパイロットだったといえば大体は分かるだろう。」
「はい。ですが一つだけ疑問に思うのですが、帝国もまだ連邦と同じように初期型キャスターに執着していると?」
「そういうことだ。」
「ですがなんのためにそんなことを?」
「俺が思うにアークウィンとアニクウェスは恐らく初期型キャスターの改良版の登場と共にこの戦争を終わらせるはずだ。魔術師に勝てる兵器は無いということを世界に示したうえでな。」
アルバートはそれに興味を持ったのか無言でそれを促す。
「そしてあいつらの目的は恐らく魔術師の地位向上だろう。キャスターによって核のように戦争を抑止する。そんなことをしても魔術師が社会から迫害されて終わりだと思うがな。」
ブライムはそんなの幻想だと吐き捨てるように冷たく言い放った。
「ですが自分には分からない気持でもありません。」
「そうだな。これに関しては人それぞれの考え方だ。だが理想と違って現実にはギャップがあることが多い。そしてそれは人数が多くなればなるほど複雑な要因が絡み合ってそして少尉、もし君がこれからも戦場に立つことになるのならそのうち立場をはっきりさせなえればならない時がある。そしてその時を見誤るな。でないと一生後悔することになるぞ。」
そうブライムはアルバートに警告するように言った。
*
「それでここはどこなのですか?」
アイン・ダールはそう自分をここに連れてきた人物であるヴィエント・バラノフに尋ねる。
連れてこられている場所はロンギヌウス要塞の中にある、通路に照明さえない真っ暗な場所をヴィエントに手を引っ張られながらある扉の前に立っていた。
「少し待ってて。」
ヴィエントは扉の横の方に自身の白く柔らかい手でアインの手を引っ張り手の指紋と手相を読み込ませる。
すると目の前の扉が開き照明がつく。
「これは……。」
そう驚くしかなかった。そこにあったのは純白なキャスターだった。
「AN-1、機体名ガブリエルだ、アイン・ダール少尉。ご苦労だったな少佐、君はもう下がってくれて構わない。」
エフゲニー・バラノフ中将がそう重々しい雰囲気で話しかけた。
「いえ、自分もここにいます。」
「そうか。まぁいいだろう。この機体は前に少尉が奪取した機体をこちらで調整、回収したものだ。その性能は……。」
エフゲニーは先程までの重々しい雰囲気でいたが途中から自身のあごひげを触りながらどれくらいだったかなと思い出す。
「そうだ! 確か一個師団くらいだったはずだ。確か。」
「いえ、閣下。二個大隊です。」
だがそこにいた副官がそれに訂正を入れる。
「そして、少尉! 君はこの機体の搭乗適性がある。それに腕も十分だ。期待しているぞ。」
だがそう勢いのみ誤魔化し、逃げるように踵を返した。
「なんか、凄い人ですね。」
「元々ああいう人なのよ……。しかも一体何をしたかったのかしら。」
ヴィエントもエフゲニーを見送りながら一体ここに何をしに現れたんだろうと思う。
「にしても新型機ですか。」
「はい。なのでダール少尉には今度の作戦に参加してもらうために調整に移ってもらいます。バラノフ少佐もありがとうございました。」
副官はそうヴィエントに帰れという。
「いえ、私もここに残ります。父のことを信じているわけでは無いので。」
「そうですか。分かりました。」
だが副官はさほどそれに驚くことなく同意した。