第十三部
「これをデグレア少尉にですか?」
オズワルド・アークウィンに呼び出されたブライム・エイブラウは言われたことに思わず聞き返してしまった。
「そうだ。この新型の大口径滑空砲は高機動型ゼウスしか使えない。それに貴官らからのデータを集めた限りではトータスを破壊しうるにはその銃をかなりの速さで、そして至近距離から撃つ必要がある。」
「それは分かりますが……。」
それでも不満を感じずにはいられなかった。
「デグレア少尉が未熟で不安だということか?」
「いえ、そのようなことはありません。しかしよろしいのですか? 少佐をその後の攻撃に参加させてしまっても?」
そうあくまで状況を考えるに自分が使った方がいいと暗に言う。
「あれもこの家の名を継ぐのであれば戦果の一つや二つ無いと困るだろう。」
だがそれに対してオズワルドが出した答えはノーだった。
(やっぱりあの時、こいつが少佐を心配したのはただの気まぐれか。)
ブライムは心の中でそう思わずにはいられなかった。
*
「デグレア少尉、分かっていると思うが今回の作戦では貴官の仕事はこの作戦の成否を左右する。そのことを忘れるなよ。」
ブリーフィングでアルバートはブライムに念を押されていた。
「はい! 次はあのような失態を起こしません!」
「そうではない。いくら事前にミサイルの弾幕などで敵を消耗させるとはいえ今回の作戦はかなり危険だ。くれぐれも死ぬなよと言うことだ。アークウィン少佐も少尉が馬鹿なことをしないようにしっかりと見張っておけ。」
ブライムはそう言うと作戦室から出て行った。
「隊長、今日はやけに緊張していますね。」
「当然よ。今までと違って日の敵だし、確実に成功を保証するものもない。しかも難易度も高く何かあったら隊長の責任問題だもの。それと分隊長である私もね。」
そうエミリアも重苦し気に言う。
「難易度に関しては確かにそうですね。今回はとくに難しいですし。」
「おかげでこちら側にもかなりのプレッシャーがかかるわ。しっかりやってよね。」
「分かっています。へまをしたらこちらも死にかねませんし。」
「分かっているならいいわ。デートついでにしっかりとエスコートしてよね。」
「了解しました。」
*
『小隊各機、行くぞ!』
ブライムの声に合わせてアルバート達は一気にスラスターを加速させる。
「今度こそぉぉぉ!」
トータスの中でヘンリッヒは若干疲れた声でアルバートの機体を探す。
『これが最後の敵襲だと思いたいですね。まぁでもこのトータスに乗ってきたらまだ敵が来てもいけそうな気がしますけどね。』
「油断大敵よぉ! それに今のは死亡フラグでしょぉ! 気を付けなさい!」
だが長い戦いのせいで苛立ちがマックスに来ていたヘンリッヒはツッコミのつもりが怒鳴り声になっていた。
『すみません。』
「それより来たわよ。迎撃開始!」
そのことにヘンリッヒは罪悪感を感じながらもブライムたちを捉えたので攻撃を始めさせる。
トータスから来る無数の光をブライムとエマソンは息を合わせてあっさりと回避する。
そのままトータスの注意を引くためライフルを撃つ。
「無駄よぉ! この機体にそんな攻撃は効かないわぁ!」
『下の方は始まったみたいね。だとすると上空でのデートもこれでおしまいか。』
エミリアはそう残念そうにアルバートに言う。
よく落ち着いているなとアルバートはエミリアに感心するが、一方で自分もまた落ち着いていることに驚いていた。
「みたいですね。まぁ、終わりというのは何にでもつきものですからね。」
『そうね。じゃあ、行きましょうか、デグレア少尉。エスコートお願いね。』
エミリアのゼウスが高機動型ゼウスの後ろに移動する。
「了解しました。」
アルバートはそのまま上空からトータスの座標に向かってその真下に向かってブースターを噴かす。
「いやはや、これは怖いな。」
アルバートは数秒ブースターを真下に向かって噴かしただけで機体のあちこちから振動がコクピットに伝わり恐怖を覚える。
「まぁ、流石に空中分解だけは避けてくれよ! あいつらを撃破するまで!」
だがその恐怖を押し込んで叫ぶ。
コクピットがアラームを鳴らしているがそれを無視して更に機体を加速させる。
それと同時に強度を上げることに魔力を消耗しているため疲れが溜まっていく。
だがそれでもブライムから送られた位置データを信じてトータスに突っ込んでいく。
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに機体を走らせた。
「それにしてもあの機体はどこなの!? 私のかわいい部下をやったあの機体は!?」
ヘンリッヒはそう苛立たし気に周りを見る。
ブライムとエマソンによるゼウスの攻撃が意味を成してなかったからこその余裕だった。
そのときトータスにアラートが響く。
「上から! けどそんなのただの的よ!」
ヘンリッヒはそう上空から接近してくるアルバートとエミリアに狙いをつける。
だがその攻撃は当たることは無かった。
早すぎてトータスが高機動型ゼウスを捉えられなかったのだ。
二機の高度差はついに三万フィートを切る。その瞬間にゼウスに装備していた大口径の滑空砲が火を噴く。
当然肉眼で見ることは出来ないのでデータのみの射撃であるがそれでも二機を撃破するにはすぐに腕を動かさなければなら無いうえ、空気抵抗による魔力の消耗は激しい。
だがやらなければならない以上は仕方ないとコンピューターに入力された目標座標までコンマ一秒で移動させもう一発を撃つ。
「予備ブースター着火!」
高機動型ゼウスに搭載されている減速するためのブースターを着火する。
そしてアルバートの体に強い力が加わる。
普通ならば耐え切れないが魔力をふんだんに使用してその加速力を体に負担がかからない範囲まで相殺する。
とはいえ、これは二回目にやったら魔力が足らずに失神するかもしれないなとも思う。
だがその考えをしたときにはとてつもない音が周囲に響く。
ヘンリッヒは一瞬機体にとてつもない衝撃が走ったのは理解した。
だが魔法である程度は制御されているのでコンソールに画面をぶつけるようなことは無い。
だが一方でコクピットに鳴り響くアラートからその衝撃が普通なら死んでいたことを物語る。
実際にトータスの周りの地面がくぼんでいた。
「そんなものでぇ!」
だがヘンリッヒは市の恐怖を肌身に感じながら叫ぶ。
実際にトータスはまだ戦闘可能だった。
だからこそこの攻撃は二段構えだった。
「エミリア!」
『了解!』
減速した高機動型ゼウスの後ろからゼウスが対艦砲を持って現れる。
「まさか!」
ヘンリッヒが防御を固めようとした瞬間対艦ライフルが火を噴く。
榴弾はトータスの薄くなった装甲を貫通する。
そして内部で爆発しトータスの大電流が流れていた電源ケーブルを切断する。
そのまま周囲に大電流を流し熱に耐え切れなくなったものは溶け出し弾薬にも尾の熱が伝わった瞬間爆発した。
『やるわよ、後二機!』
「分かりました。」
だが二人はトータスの爆発など興味がないかの如く再び上空に上がった。
*
アルバートがイルキア基地に戻りゼウスから降りるとブライムが目の前にいた。
「よくやった、少尉。」
「隊長たちの支援、それに少佐の援護があってこそです。実際、自分にはあそこまで正確な射撃ができませんから。」
「だがそれでも貴官の貢献は計り知れないほど大きいのも事実だ。」
「ありがとうございます。」
アルバートがそう礼を言うとブライムは満足そうに頷く。
「それで少尉、今回のことで貴官に勲章が授与されることになった。」
「勲章ですか?」
その言葉にアルバートは少しばかり嬉しくなる。
「そうだ。かつての英雄、ダーニィ・ブレイブからとったブレイブ十字勲章だ。おめでとう。ここ数十年で取ったのは君だけだ。」
ブライムはそう言って去っていった。
その言葉にアルバートが少しばかり嬉しそうにゼウスを眺めていた。
「どうしたの? そんなに嬉しそうな顔をしながらゼウス眺めて?」
作戦が終わるといつも通りにエミリアがアルバートの方に寄ってきた。
「勲章もらえるってさ。」
「何勲章?」
「十字勲章だってさ。」
アルバートがそう少しばかり嬉しそうに言うが、それに驚いたのはエミリアだった。
「十字勲章って、あのダーニィ・ブレイブのブレイブ十字勲章?」
「よく知っているな。」
「えぇ、まぁ有名だし。それにあれが最高位の勲章よ。」
そう下を向いて言うエミリアに少しばかり引っかかるものがある。
「だがまるであらかじめ決まっていたかのようなタイミングだな。って思っているだろ。」
「そうね。まるで何かを狙っているかのように。」
「だが目的が何か分からない以上相手が何かしてくるまでは分からないだろ。だったらそれまでの間は喜んでいるとするさ。」
アルバートがそう自信ありげに言うのでエミリアはそれを信じることにした。
これで三章は終了となります。
それと書き忘れていましたがヘンリッヒは男です。
過去編としては次が最終章になりますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
それと申し訳ありませんが明日も投稿は難しいので明後日に投稿となります。