第十二部
『少尉! 下がれ! これはお前には荷が重すぎる!』
ブライム・エイブラウがアルバート・デグレアに対して命令をする。
「ですが!」
アルバートは目の前にいる亀の形のようなキャスター――トータスを睨む。
『命令だ! 下がれ!』
ブライムがそう苛立たし気に言うのであきらめて下がる。
(調子に乗り過ぎたか……!)
アルバートはコクピットのコンソールを叩きつけながら撤退する。
*
時は少しさかのぼる。
マリノアス基地にエイブラウ小隊が攻撃のために移動した。
『中隊各機、今回の目的はあくまで揚陸部隊の支援だ。敵の撃滅ではない。そこを決して忘れるなよ。特にアークウィン少佐とデグレア少尉。君たちは敵の撃墜経験は豊富だが実戦での支援任務はあまりない。』
ブライムからの指示にアルバート達はうなづきながら攻撃を始める。
『少尉、私たちはエリア24を攻撃するわ。付いてきて。』
エミリアが先行するのでその後を付いていく。予想通りのことであるが基地の防衛施設からの反撃が凄いため中々近寄れない。しかし今回の目的はその防衛システムを破壊することであった。
『爆撃用意。』
その指示に従いゼウスを平行な位置に陣取らせながら無誘導弾を収納しているウェポンラックを展開する。
『爆撃開始!』
その指示に合わせて爆撃を始める。
何割かは防衛装置によって撃ち落されるがそれでも少なくない数が防衛施設に直撃し破壊する。
「やったか?」
だがその時基地にあるハッチが開く。
『まだ来るみたいね。』
「みたいですね。とりあえず攻撃しますか?」
『一応私たちの目的は基地の防衛設備の破壊よ。出てくるものが防衛設備なら破壊対象だしそうでないなら上からの判断を仰ぐわ。』
だがそのときレーダーに魔術反応が現れる。
「敵キャスター反応!」
『少し待ってて。』
エミリアはそう言って上に確認しようとするのでその間にアルバートはそのキャスターを注意深く見守る。
「なんだ、あれは?」
アルバートがそのキャスターをよく見るとその機体は普通とは違う形だった。
まるで足が無く亀のような、戦車のような機体だった。
「あれは、私のかわいい子たちをやった……!」
ヘンリッヒはその男らしい面構えを怒りの形相にしてアルバートの機体を睨む。
「この魔術反応、あの時のパイロットか。今度は硬そうなものに……。多分機体名はトータスだろうな。」
アルバートも魔術反応からアグワにのっているパイロットだと判断し注視する。
するとトータスにいくつも付いている砲門のうちの一つが光を集めているのを確認できる。
(こいつもレーザー砲持ちか!)
そう思うと同時に高機動型ゼウスでゼウスを抱える。
『少尉!』
「ロックオンされている以上攻撃されるのは確実ですよ!」
しっかりと砲口を見ながら、トータスの攻撃を回避する。
「それにしてもあの機体、なにかありそうだな……。」
アルバートはごちゃごちゃ言っているエミリアを無視して攻撃をしようとする。
だがその瞬間基地にあるいくつかのハッチが開く。
「まさか……。」
『嫌な予感がするわね。』
「上からの指示は?」
『攻撃許可は降りたわ。』
「なら敵が出てくる前に攻撃した方が。」
『そうね。敵の攻撃を回避しながらハッチを破壊します。』
エミリアの指示に従いアルバートはハッチに攻撃を仕掛ける。
「無駄無駄! この機体もハッチも普通の攻撃なんて効かないわよ!」
ヘンリッヒは叫びながらトータスのレーザー砲を連射する。
「しかも電力は基地につながれているのよ!」
何発も攻撃をする。だがその攻撃はアルバート達に被弾することは無かった。
「なんなんだ!? あの防御力と攻撃力は!」
アルバートはハッチの破壊に失敗したため四機に増えたトータスに舌打ちをする。
『アークウィン少佐、デグレア大尉。そちらの方は何とかなりそうか?』
ブライムから通信が入る。
『少々難しいかと。』
『少尉はどう思う?』
「分かりません。ですが今のところ砲撃は効かないみたいです。」
アルバートも素直にエミリアと同じ意見を言う。そしてまだ攻撃を十分に試していないので判断に迷ったのだった。
『了解した。無理そうなら支援要請をしろ。』
ブライムはそう言って通信を斬る。
『全くなんで救援に来ないんでしょうね。』
「状況が分からないから何も言えませんね。」
アルバートはそう言いながらトータスに対してどこか弱点は無いかと砲撃を続ける。
『それにしても全く砲撃が効かないわね。』
「だとしたら接近戦でもしますか?」
『そうね。そうするしかないけど。』
かなり危険な賭けよとエミリアが目で問うてくる。
「分かっています。ですがこのまま意味のない攻撃をして時間を浪費するわけにはいかないと思います。」
アルバートは淡々と事実のみをいう。エミリアも少し考えるが決心する。
『私が前に出ます。少尉は私の援護を!』
「それは従えません。定石通りここは自分が前に出ます。無理そうなら少佐は撤退を!」
『けど、それでは!』
「残念ながらそれはあなたにはまだ早すぎます!」
アルバートはエミリアの制止を振り切ってトータスに突っ込む。
「あぁ、もう! やっぱり私の指示に従わないじゃない!」
エミリアは援護射撃をしながらもそうぼやく。
「接近戦ねぇ! いいわ! 最高よ! あなた!」
ヘンリッヒはトータスの近接用武器を展開する。
「あの腕は脆そうだな。」
アルバートはトータスの展開した腕の関節を狙って斬り込む。
しかし攻撃は有効打になるどころか跳ね返す。
そしてその振動はヒートソードを通して高機動型に振動が響く。
『少佐。ヒートソードはゆっくり切らないと通じないわよ。』
エミリアがそうアドバイスするのでアルバートはうなづき今度はじっくりと温めてから切断しようとする。
しかしその攻撃すら意味ないといった感じでトータスは至近距離で攻撃しようとする。
「クソ! 物理攻撃が効かないか!」
アルバートはイラつきながら攻撃を続ける。
『デグレア少尉、一度下がりなさい!』
「ですが!」
『この機体は私たちの手に余るわ!』
エミリアがそういって下がるように命令するがアルバートは頑としてそれに従わない。
そしてその状況を把握したのかのようにブライムが接近する。だが実際には作戦時間内にマリノアス基地の防御兵器を破壊できそうに無いので撤退を伝えるついでにトータスのデータを集めに来たのだった。
『少尉、作戦は失敗だ。この敵を排除できない限り我々の作戦は成功しない。撤退しろ!』
ブライムはライフルで攻撃しながらも撤退を命令する。
「しかし、まだ!」
『少尉! 下がれ! これはお前には荷が重すぎる!』
ブライム・エイブラウがアルバート・デグレアに対して命令をする。
「ですが!」
アルバートは目の前にいる戦車のようなものを睨みつける。
『命令だ! 下がれ!』
ブライムがそう苛立たし気に言うのであきらめて下がる。
(調子に乗り過ぎたか……!)
アルバートはコクピットのコンソールを叩きつけながら撤退する。
*
「少尉、先程の作戦、何故私や少佐の撤退命令に従わなかった。」
作戦が終わるとアルバートはブライムに部屋に呼び出されていた。
「それは……。」
アルバートはうつむいて何も言わない。
それを見るとエミリアが何か言おうとするがブライムがそれを目で制する。
「少尉、分かっているな。軍隊というのは一人で好き勝手やっていいところではない。」
そうブライムがいうとエミリアがそれに驚いたような顔でブライムを見る。
「一人の無責任な行動が他の隊員を、下手したら市民を巻き込んで死ぬかもしれないんだ。それを理解しろ。」
ブライムはアルバートが反省していると考えてそこまで今回は強く言う気は無かったのでそれぐらいにして済ませた。
「申し訳ありませんでした。」
「分かったなら部屋に戻っていい。」
そういうとアルバートが神戸を垂らして部屋から出ていく。
「それにしても大佐が無責任な行動とかいうのに素直に驚いたのですが。」
「まるで普段から私がそんなことをしているといった感じだな、少佐。」
「違うんですか? 新入りのお守りほったらかして因縁の敵に攻撃しに行ったりとか、新入りに出来もしない数の敵を押し付けたりとか。」
これは明かなエミリアの嫌味だった。
「まぁ、それに関しては否定しないが。」
「いつもフォローとか心配することになるこちらの身になってください。」
「次からは気を付ける。」
「では私もこれで失礼します。」
そう言って出ていくエミリアをブライムはため息をつきながら見送った。