第十一部
第三相はあまり長くなく三部くらいで終わると思っています。今のところ……。
「もうそろそろ終わりそう?」
マリノアス基地襲撃から一週間。
今度は基地に上陸部隊を送り占領するための作戦に向けて機体の整備を進めているアルバート・デグレアにエミリア・アークウィンが話しかける。
「後もう少しで調整は終わる。」
「そう。大分緊張しているのね。」
アルバートはコクピットの計器などを入念にチェックしていた。
「そちらこそ緊張しているようだな、分隊長。」
エイブラウ小隊の分隊の構成が変わり今日からアルバートの分隊長はエミリアにそう軽く軽口を叩く。
「辞めなさい、緊張するから。」
だがエミリアはそれに怒ったように頬を膨らませる。
「悪い悪い。それでどうした? ここに来て。」
「用が無きゃ来ちゃいけないわけ?」
「気が散るからあまり来てほしくないのだが。まぁいいか。後もう少しで終わりそうだし。」
実際アルバートの手の速度は明かに落ちていた。
「そう。それは悪かったわね。」
エミリアもそれに気づきコクピットから出ようとする。
「少し待てエミリア。後十分で設定が終わる。どうせ後数十分は急速なのだろう? だったらたまには紅茶が飲みたい。」
「分かったわ! 用意して待ってる!」
そういって嬉しそうにコクピットから出ていくエミリアを見送りながらアルバートはマニュアルに目を通しながら調整を進めていく。
「少尉は少佐の扱いに相当慣れているようだな。」
すると隣でそれを見ていたブライムがアルバートに話しかける。
「まぁ、長い付き合いですからね。」
アルバートはブライムの方を見ずに設定をするほど二人の仲は良くなっていた。
「確か今月で付き合って二年目だったか。」
「そういえばそんなもんでしたね。」
「そういう記念日は覚えていた方がいいぞ。」
そう付き合った年数に無頓着なアルバートに対してブライムは今まで何回か失敗している恋愛経験からそう忠告する。
「そういえば隊長は結婚とかされないんですか?」
アルバートはふとそう疑問に思ったので口に出す。
「少尉。一度その口をつぐんだ方がいい。」
だがその問いに対するブライムの答えは冷たいものだった。
アルバートはその空気を感じ取ってあえて何も見ないように目の前のコンソールをいじる。
「すみません。」
暗くなった自分の上官に心の中でため息をつきながらも目の前にある機体の設定を進める。
「大体な、少尉。世の中そんなに相性が合う人間なんていないんだ。なんで告白しても優しいだけの人だから無理とか付き合ってもあなたの優しさが分からなくて怖いとかいう理不尽な理由で振られ続けた俺の気持ちがお前に分かるわけ……。」
そういいながら暗い雰囲気を出すブライムにアルバートは早く出て行ってくれないかなと思いながらキーボードを打ち続けていた。
*
「親衛隊を撃退した部隊を相手にするのか。面倒だな。」
潜水艦ヴィーヘルムの艦長であるゲーリヒ・ヘムンツェルはため息をつく。
「そういわないでよぉ、艦長。こちらとてそれほど貧弱なわけではないし、敵艦隊も多数ではなく最低編成単位の三隻のみよぉ。それに場合によっては増援も来るんでしょぉ。勝ち目は十分にあるじゃない。」
そうおねぇ口調の男のキャスター小隊隊長、ヘンリッヒ・ウィンゲルが楽観的に言う。
「取り合えずこのまま慣性航行を行い敵艦の真下についたら魚雷を発射する。少佐たちもアグワに乗って待機していろ。」
「分かったわ。じゃあ後はよろしく。」
ウィンクしながら去っていくヘンリッヒをゲーリヒは本当にいやそうな顔をしながら見送る。
(何故あいつがまたこの部隊に来てしまったのだろうか。)
そう心の底から思う。
だからゲーリヒはその指名相手がヘンリッヒ本人であることを知らなかった。
だが頭を振ってそのことを忘れる。
「それではこれより作戦を開始する!」
*
「それにしても珍しいな。お前がサンドイッチまで作っているとは。」
「私だってたまには料理位するわよ。」
「そうか。」
アルバートとエミリアは紅茶をすすりながらもサンドイッチを食べる。
「そういえばたまに疑問に思うんだが、お前の紅茶って士官用に支給されている紅茶とかと違うよな。」
「よく分かったじゃない。アークウィン家が農園と直接取引している茶葉をしようしているのよ。あなたに出しているのはその中でも特にいいやつ。」
「そうなのか。」
そう言われてもどうにも実感が湧かない。
その辺は平民と貴族の差というやつかと思いながら紅茶を飲む。
「まぁ、そういうことよ。そのうちあなたには私の婿養子になってもらうつもりだし。」
「確かに身寄りがない身としてはそちらの方がありがたいのだが、いいのか?」
それは貴族としていいのかという意味を含んでいた。
「曲がりなりにも先の大戦であの狸おやじと一緒の部隊だったんでしょ? だったらいいんじゃ無い?」
「だが婚約とかあるんじゃないか?」
「そんなもの放っておけばいいのよ。」
エミリアはそれを事も無げにいう。
「お前なぁ……。」
「その辺の面倒な話はいいわ。それよりも問題なのは記念日の方よ。」
「記念日ってあれか。付き合いだしてからのか。」
先程ブライムが言っていたことを思い出しながら紅茶を一気に飲み干す。
「なにか不満があるの?」
エミリアはポットをもってカップに紅茶を入れる。
「いや、特に不満は無いがこんな外洋ではとくにできないだろ……。」
「まぁ、そうなんだけどね。たまには二人で一日中部屋にいるのもいいじゃない。」
「そういえばここ最近二人で長い間ゆっくりしているということも無かったもんな。精々三十分が限界だったもんな。」
「じゃあ決まりね。」
そういうエミリアを見ながらアルバートは紅茶を少しづつゆっくり飲む。
だがその瞬間艦に衝撃が走る。
それによって紅茶が跳ねアルバートの顔にかかる。
「あっつ!」
だがアルバートはすぐにカップをトレーサに置く。
「ちょっと、大丈夫!?」
エミリアがそういってハンカチを出そうとするとまた船体に衝撃が、そしてその衝撃はより大きい振動が奔った。
「きゃ!」
そういってエミリアが体勢を崩すのでアルバートはすぐに体を支える。
「ありがとう。」
「それはいいが、これはなんだ?」
「私も船にあまり乗ったこと無いから分からないわ。」
二人がそう話していると艦内に敵襲のアラームが鳴る。
「第二種警戒態勢! パイロットは直ちに機体にて待機せよ!」
そうアナウンスが流れるので二人はお互いにうなづくと格納庫に向かった。
*
「対潜ヘリを出せ! 敵は潜水艦だ!」
そうコンゴウの艦長であるイルニンが叫ぶ。
「分かりました!」
「それとパイロットはそれぞれ搭乗機に待機だ! もしかしたらキャスターが出てくるかもしれん!」
そしてそのイルニンの判断が正しいというようにオペレーターが口を開く。
「敵キャスター小隊確認!」
「エイブラウ小隊を出せ! キャスターの相手は彼らに任せ対戦ヘリは引き続き潜水艦を! それとドローンもだ!」
『小隊各機、今回の敵は水中戦型だ。武装はバズーカのみしか使えない。注意しろよ。』
ブライムがそう嫌な顔をしながら言う。
『少尉、あなたは私と共にこの船に攻撃をしている敵機を迎撃します。』
「了解しました。」
次にエミリアから通信が入るのでアルバートはエミリアのゼウスの後ろをついて海に潜る。
『隊長、敵キャスター二機がこちらに突っ込んで来ます!』
「みたいね。さっきの突っ込み方といい、生きがよさそう。楽しくなりそうじゃない!」
ヘンリッヒはそう舌なめずりをしながら水中型キャスターであるアグワをエミリアたちのゼウス向かわせる。
「まずは魚雷発射よ!」
アグワの丸い頭部に搭載されている魚雷発射管が開いた。
『前方から魚雷接近。迎撃用バルカン展開。』
それに合わせてアルバートもバルカンを発射し魚雷を迎撃する。
そしてその影響によってレーダーが乱反射され敵の位置を見失う。
熱源レーダーも使うが上手くいかなかった。
「レーダーが駄目になったか。」
アルバートはそう舌打ちをするが敵の次の攻撃に備える。
『一度上昇し、敵との距離をとる。』
エミリアがそう的確に指示を出した。
「やっぱり上に逃げるつもりなのかしらぁ、けど!」
ゲーリヒはアグワを上昇させる。
上昇した二機のゼウスにアグワは泡の中から近接戦をしかけようと現れる。
「エミリア!」
下からエミリアのゼウスを追いかけていたアルバートはすぐにエミリアに注意を促すが間に合わずにエミリアが持っていた右腕のバズーカが切断される。
「しまった!」
だがアグワの攻撃はやまずゼウスのコクピットをその左腕のクローで貫こうとする。
「させるか!」
アルバートはバズーカをアグワに向かって撃つ。
「この子! 正気なの!? 味方がとうつつもりがなければできないわよ! そんなこと!」
そういいながらもゲーリヒのアグワは一度下がる。
『助かったわ。』
「けがの方は?」
『特にないわ。』
そういうエミリアのゼウスにアルバートはバズーカを投げ渡す。
「それでどうします、分隊長。敵は戦い慣れていますよ。」
『分かっているわ。』
エミリアが苛立たし気に言う。
『とりあえずこの泡から一回離れる。』
後手に回ってしまっているなとアルバートは感じながらも口にすることはしない。
だがその瞬間すら許さないかのように二機のアグワがアルバートの高機動型ゼウスに向かって攻撃を仕掛ける。
「鬱陶しい!」
一機目のアグワからの突進をかわし二機目のアグワの攻撃をギリギリでかわしながら腕を抑え込む。
「バズーカでこっちの方を撃ってください!」
アルバートはエミリアに向かってそう言うとエミリアがすぐにバズーカを構える。
「させないわよ!」
ゲーリヒはそう言ってエミリアのゼウスに攻撃を仕掛けるのでエミリアは判断に迷う。
その瞬間アグワが加速するのでエミリアは慌てて緊急回避するものの左腕を破壊される。
アルバートはすぐに舌打ちすると高機動型のブースターをフルスロットルにする。
そしてUターンしてとどめを刺そうとするヘンリッヒの間に割り込みアグワを盾にしてヘンリッヒの攻撃を避けエミリアのゼウスを戦域から押し出す。
「よくも私に味方殺しをさせたわねぇぇぇ!」
ヘンリッヒは高機動型ゼウスを追いかけようとするが通信が入った。
『ウィンゲル少佐、撤退だ。こちらの方の被害が思ったよりひどい。』
そういうゲーリヒからの報告にヘンリッヒは一度舌打ちをする。
「了解したわ。」
だがこの状態では勝ち目がないことも分かっていたので、攻撃するのをやめて撤退ルートに入った。
*
「なんなのよ! あいつは!」
ヘンリッヒの盛大なる怒りをゲーリヒは隣でうんざりした顔で聞いていた。
「親衛隊を撃退したのだから強いのは当然だろう。それとも弱い方が良かったのか?」
「そんなわけないじゃない! けどあいつの正で私の大事な子が死んだのよ!」
「やったパイロットはだれなんだ? ブライム・エイブラウか?」
「いいえ、違うわ! アルバート・デグレア!」
「聞いたこと無い名前だな。」
ゲーリヒはヘンリッヒをここまで怒らせるのだからさぞいいパイロットなのだろうと思って尋ねてがその名目が効いたこと無い名前なので素直に驚く。
「次あったら絶対に殺す!」
「分かったか落ち着いてくれ。それと俺に唾を飛ばすな!」
そう黙らせるためにゲーリヒはまた苦労しなければいけなかった。
*
コンゴウに帰艦したアルバートはエミリアのゼウスの前にいた。
先程ブライムとエマソンに頑張れと言われて投げ出されたのでどうするか考えるもののあまりいい手は浮かばなかった。
(絶対面倒だから俺に押し付けただろ。)
そう心の中で思うもののやはりいい手は浮かんでこない。だがそうであるならばもう強引でいいかという極論に達する。
「おい、エミリア。そろそろ出てこい。」
一応外部スピーカーから音は拾えるはずだと思いそう話しかけるがコクピットが開くことは無かった。
アルバートはため息をつくとコクピットのパスワードを入力しコクピットブロックを開ける。
なかではアルバートの予想通りエミリアが泣いていた。
「あまり悠長な時間は無いんだ。特にお前の機体の場合は損傷がひどい。次にいつ敵が来てもおかしくはないんだ。だからあまりコクピットの中にいるな。」
かいつまんで事実のみを言う。
「別に私がいなくたっていいじゃない。」
そうエミリアが拗ねているのでアルバートはため息をついてどうするか考える。
「それは困る。俺が怒られる。」
しかし、ここは本音を行った方がいいだろうと思い迷わず思ったことを口にした。
「やっぱり私なんていらないじゃない。」
「ほら良いからさっさと行くぞ。」
アルバートは強引にシートベルトを外そうとコクピットの中に入り込もうとするとエミリアに押し出される。
「だったら早く出てこい。じゃないと次の作戦にも影響が出る。」
「私次の作戦に出ない。」
「それは下手すると敵前逃亡になるからやめろ。というかそうなると俺の所属すら危なくなるからやめてくれ。」
「だって私が出たところでさっきみたいに足手まといになるじゃない。」
「足手まといだと思っていたら俺はいちいちお前の命令なんて聞いていないぞ。それにお雨はさっき自分のこと足手まといだとか言っていたがそれは俺とお前がやることが違うだけじゃないか?」
そう極力エミリアの機嫌を損なわないようにアルバートは言う。
「だとしても……。」
「そう自分を卑下するな。大体忘れたのか? 俺の指揮能力が低かったの。」
アルバートはそう士官学校の時での話をする。
そのとき指揮官の適性検査があったのだがアルバートは最低ランクだったのに対してエミリアは最高ランクだった。
「けどあんなのただの適性じゃない。」
そう涙混じりの声でなじられる。
「だが実際俺に指揮は向いていないからな。それに最初の時点ですでに積みそうだし。」
「けどアルなら一人で何とかしちゃいそうじゃない。」
「一人であの二機と戦うとか冗談でもやめて欲しいんだが。それに俺があの敵一機を捕まえられたのだってエミリアがいなければ無理だったぞ。だから早く出てこい。」
そういって手を出すとエミリアも観念したようにシートベルトを外しその手を握る。
「そういえば怪我とかは大丈夫か。」
そうできる明け優しい声で聴くとエミリアはうなづいて大丈夫と答える。
「とりあえずシャワー浴びて着替えよう。じゃないと休むこともできないだろ。」
「分かった。」
エミリアはそう言ってアルバートの腕に抱き着いて部屋まで送り届けるまで離してくれることは無かった。
明日は少し用事があって投稿できませんので明後日に投稿します。