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第十部

「っつ。」


 アルバートが声にもならない声を出しながら目を覚ます。


「そうか、墜落して……。とりあえず周りの状況確認か。」


 シートベルトを外しコクピットから出ると海面が既にコクピットギリギリまで迫っていた。


「このままでは満ち潮で溺れ死ぬか。」


 近くにある岩のコケが生えている高さからそう判断する。


 だが幸いにも後ろに島があるのでそこに移動して一晩を過ごそうと考える。

 またそのついでにイルクオーレの機体の状況も確認しておく。

 両機とも艦砲射撃で頑丈なコクピット以外は海のあちこちに散らばっていた。


(救援が来るまでここで待機していたところだが……。)


「だが向こうの方も満ち潮になったら不味そうだな。」


《お前は優しすぎる。》


 ふとそんなアインの言葉が頭に響く。


 だがそんなことに気を取られるほどの時間が無いとアルバートはイルクオーレのコクピットからユリアを助け出すことにする。


 最初コクピットハッチを開けるのに苦労するかと思っていたが艦砲でフレームがコクピット周りのフレームが歪んでいたのでハッチはすんなりと空いた。


「子供か。」


 アルバートがコクピットに入っているとぐったりとしているパイロットを見てそうつぶやく。


(まぁ軍人なら助けないというのが正しいのだろうが子供を放置して殺すのもなぁ……。)


 アルバートはそう言い訳を心の中でしながらまずユリアの体をゆする。しかし反応が無いので生きているかだけ確認する。


(生きはあるか。だがこれはバレたら銃殺刑だろうな。)


 救出をするためにゼウスにあったサバイバルキットからハサミを取り出し、イルクオーレのシートベルトを切る。そのときついでにコクピットにあったサバイバルキットも引っ張り出してユリアを連れて島に上陸した。


 *


「機体の補給状況は?」


 ブライムはそう整備士に尋ねる。


「後もう二時間ほどで。」


だが答えはブライムの予想より時間がかかるものだった。


「予備機は無いのか?」

「予備機も同じくらいかかります。」

「クソ!」


 ブライムは苛立たし気にゼウスを見上げる。


(大丈夫よね、アル?)


 ブライムの隣でエミリアはゼウスを見上げながら補給を終わるのを待っていた。


 *


「ここは?」


 ユリアが目を覚ますと目の前には焚火の明かりがまず目に入り、次に帝国のパイロットスーツが視界に入った。

 そのまますぐに飛び起きホルスターから銃を抜こうとするがそれよりも先にアルバートは銃口を向けた。


「全く起きたと思ったら油断も隙も無いな。」


 ため息をつきながらアルバートは銃口のみを向け続ける。だが内心では中学校のときに映画に影響されて早打ちの練習をしといてよかったと思う。


「殺せ。」


 ユリアがそういうとアルバートはもう一度、今度は大きくため息をつく。


「殺すならとっくに殺している。あぁ、言っておくけど尋問とかをするつもりもない。別にそんなことをして情報を得たところでどうせあいつになんか言われるのがオチだ。とりあえず警戒するのはやめろ。」


 そうこの場にいないオリバーへの嫌味を言いながらアルバートは一応両手を上げる。


「なら何故助けた。」


 そう言って座りなおすユリアにアルバートは温めたレーションを投げて渡す。


「そうだな。子供をあんなところで見殺しにするのはどうかと思ったことくらいか。」


 だがその言葉に対するユリアはアルバートが思っていなかった反応を示す。


「私が子供だと……!」


 明かに怒っている感じのユリアにアルバートは思わず肩をビクッと震わせる。


「そうだ、思い出した……。アルバート・デグレア、私は貴様より三、いや二歳年上だ!」


 ユリアはそう言ってヘルメットを脱ぎ捨て結んでいた髪の毛をほどいた。

 アルバートはユリアの整った上品な顔立ちに紅い瞳、きめ細かい白い肌、そして腰のあたりまで伸ばしたピンクのくせっけの無い髪を見て普段なら見とれているだろうなと思う。


「すまない、悪かった。体格だけで判断した。」


 だがアルバートはそんなことに浸る余裕もないくらいにユリアの放つ殺気に恐怖していた。

 だがそれを表面に見せないようにするくらい頭も回っていた。

 一方でユリアもアルバートの謝罪の言葉を聞きながら自分の置かれた状況を思い出してとりあえずすぐに座った。


「それで、私の機体はどうなった。」


 そして真っ先に懸念すべきことを聞く。


「それなら俺の機体と一緒に先程海に沈んだ。」

「なら簡易キットは?」

「あぁ、それならお前のすぐ後ろに置いてあるぞ。」


 その言葉に合わせてユリアが後ろを凄い勢いで振り向くと確かにあったのでほっとしながらもまたアルバートの方を向く。


「それで一つ尋ねたいんだが、アインから俺の話を聞いたのか?」


 先程ユリアが自分の名前と年齢を知っていたからこそ出た言葉だった。


「そうだな。聞いたというよりは回線から流れてきたというのが正しいといったところか。」

「つまり盗み聞きしたということか。」

「そんなところだ。」


 そうかとアルバートは笑いながら言うのでユリアはさっきまで持っていた毒気を抜かれてしまう。


「それにしてもあんたの方は助けを呼ばなくていいのか?」

「それなら簡易キットに発信機が付いているから問題ない。」


 それを聞いたアルバートはこれはまずいんじゃという顔になる。

 発信機が付いているということは下手すると自分が連邦に捕らえられるという可能性があるからだ。


「冗談よ。発信機は入っているけど折らなきゃ使えないわ。」


 ユリアは自分の口調が優しいものになっているのに気付いたが気付かないふりをした。


「けど、もし今回みたいなことがあっても次からは敵のパイロットを助けるのはやめなさい。あなた下手したら死んでたわよ。」


 だが次の瞬間にユリアは真顔で忠告をする。

 これはユリアの本心だった。


「あぁ、分かっている。」


 だがアルバート自身もそれは分かっていた。


「まぁ、今回は例外だ。恐らく次はない。」


 そう軍人らしい、死地を何度も乗り越えたからこそできる顔でそういう。


「そう、ならいいわ。次から私たちは敵同士。お互いに躊躇することは許されない。」


 ユリアはそう言って立とうとする。


「待った。この洞窟から出ない方がいい。先程この周辺を見回ったんだが、ここ熊出るぞ。」


 アルバートがそういうとユリアは座りなおしアルバートが先程渡した温めたレーションの蓋を何事もないかのように開けた。




 隣で眠っているアルバートを見ながらユリアは先程までのことを考えていた。


(久しぶりに楽しい食事だったな。)


 確かにアズリトやアインと摂る食事も楽しいものであったがまたそれとは違う温かさのようなものを感じる食事だった。


(それにしても良く敵の目でこんなにぐっすりと眠れるものだな。)


 多分疲れているんだろうと思う。先程機体のある場所も案内されたが距離は数キロはあった。

 だからこそユリアには不思議だった。どうしてそんなことをしてまで敵パイロットを助けたのだろうと。

 だがその時アルバートがユリアの肩に寄りかかり毛布が落ちたのでユリアはそれをかけなおしてアルバートの頭を撫でる。


(それにしても、デグレア。どこかで聞いたことがあるような。)


「……。」


 当然のことであるがアルバートはその疑問に答えるなくリズムの正しい寝息を立てていた。



 だが先程アルバートが両親は死んでいるということを話していたのをユリアは聞いていた。

 そして父親は軍人だったということからユリアは先程の疑問の答えを思い出した。


(そうか。お兄ちゃんが言ってたアレニス・デグレアの息子か。)


 ユリアは十年前に死んだ自分の兄であるフィリップ・ベッソノワが言っていた言葉を思い出す。


(まさか息子と妹が戦う羽目になるなんて世間は狭いというけれど、本当にどこまで狭いんでしょうね。)


 そう思いながら若干眠いなと思っていたらキャスターの音が遠方から聞こえた。既に明かりは自分たちの場所がわかることは無いというのは分かっていた。

 だがどちらの軍歌はまだ分からないため念のためアルバートを起こす。


「起きなさい。お迎えかもしれないわよ。」


 ユリアがそうアルバートをゆするとアルバートもすぐに目を開ける。

 そしてそのキャスターは島のあたりまで来るとライトを点ける。


「そっちのが先みたいだな。」


 アルバートはキャスターから出ているランプの光から連邦の者だと判断する。


「えぇ。助けてくれて、ありがとう。」


 ユリアが右手を差し出すのでアルバートも右手で握手に応じて一度手を握り合ったあと直ぐに二手に分かれユリアはそのライトの方に、アルバートは木陰に洞窟に隠れるように移動した。




「すまないな、アズリト。」


 リソースに回収されたユリアはアズリトにそう礼を言う。


「別にそれはいいけど。それにしても向こうから帝国のキャスターの反応あるけどどうする? やろうと思えば撃墜できるけど。」

「疲れたから戻ってシャワー浴びたい。」


 普段なら撃墜してしまえというユリアであったが珍しく反論するのでアズリトは少し驚くがそんなものかと思う。


「分かった。それで機体の方は?」

「それなら満ち潮で持っていかれないように爆破した。」

「そう。なら仕方ないわね。」


 アズリトはそう言って機体を基地の方に向かわせた。


 *


「悪いな、エミリア。それに隊長もありがとうございます。」


 エミリアのゼウスに回収されたアルバートはそうエミリアと通信機越しにブライムに礼をいう。


『まぁ、状況が状況だから仕方ないだろう。それよりもあの敵の方はどうした?』

「そちらの方は分かりません。ただ敵のキャスターが一度あの島に上陸しているのでもしかしたら回収したのかもしれませんが。」

『そうか。それと後で新型キャスターの報告書を頼む。』


 ブライムはそう言って疲れているアルバートに気を使い通信を切った。

 アルバートはそのままため息をつく。


「大分疲れた顔してるわね。」

「仕方ないだろう。いろいろサバイバルやらなければいけなかったんだし。」

「ところで本当に体に異常はないの? どこか痛いところとか。」

 エミリアが心配そうにアルバートの顔を覗き込む。

「異常はないが体ならあちこち痛いぞ。」

「さっさとそれ言いなさいよ!」


 エミリアはため息をつきながらもすぐに救急箱を取り出す。


「それでどこが痛いの?」

「首と腰だ。」

「腰は無理だけど首は今できそうね。」


 エミリアはそう言って慣れた手つきでアルバートを抱き寄せる。そのときエミリアはアルバートのにおいと違うにおいを感じて一瞬手を止めるが直ぐに手を動かし湿布を張り付ける。


「まぁできるといってもこれくらいだけど。」

「湿布あるんだな……。」

「まぁ救護箱も医務室から借りてきたものだし。それよりも疲れたんでしょ? 少し寝たら?」

「じゃあそうさせてもらう。」


 アルバートはそう言って目を閉じる。

 そんなアルバートの頭を撫でながらエミリアは考える。


(流石にここじゃ聞けないか、敵のパイロットを助けたのって?)


 そのままアルバートをコンゴウに到着するまでエミリアは寝かせた。

これにて第二章は終わりとなります。


それと今回タイトルを変更させてもらいましたが今投稿している小説は四章で終わらせて過去編としたいと思います。


そして本来の予定で第五章以降だったものを本編として投稿させてもらいますのでよろしければそちらの方もお願いします!


今回もお読みいただきありがとうございました!

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