きぼう捜索1 調査開始
雲隠 逃去の足取りは掴めなかった。
失踪のプロフェッショナルは自らを消す術も心得ていた。
繋架は一人で「きぼう」に向かった。長亥刑事から情報を引き出し、レポートにまとめる。それが今日の仕事だ。
生憎の曇天で、町全体が薄暗い。トレンチコートを着て、トートバッグを手に家を出た。
自宅から「きぼう」までは電車で向かう。
電車ではニュースアプリで時間を潰した。まず気になったのは、魚の雨が降ったという記事だ。魚の雨。確かカエルが降ってくる映画があった。原因は? 竜巻に巻き上げられたのではないだろうか?
次に気になったのは、少子化による国際競争力の低下、年金問題。日本の将来を悲観する論説だった。
どこで間違えたのだろう。繋架が子供の頃、日本のバブルは崩壊していたが、それでもなお、世界有数の経済大国だった。戦後の奇跡的な発展、世界に誇れる国。そんなTVを見て育った。それら全ては幻想だったのだろうか。
繋架はアプリを閉じた。
考えても意味が無い。
時代や環境から逃げることはできない。
社会の構成員が、全体を変える事はできない。
抗うより、流れに身を任せる方が楽だ。
「きぼう」には、昼に到着した。
駅は自動管理された無人駅で、乗客も、駅員の姿も無かった。
改札に、待ち合わせの相手、長亥 棍棒が立っていた。彼の足元にはビジネス鞄があった。
――なんとも奇妙な話だ。
正確な始まりも分からない。
霧のように掴みどころのない話だった。
そもそも「きぼう」は過疎化が進行していた。
最盛期は1万を超えていた世帯数は、ここ20年で急速に減少。現在の住人は30世帯、30人。ゴーストタウンと言っても過言ではない。
異変に気付いたのは、コンビニのオーナーだった。その店は「きぼう」唯一の商店。住民は衣食住全てを依存していた。
先週の月曜日。商品が突然売れなくなり、住人が姿を見せなくなった。
孤独死を考えたオーナーは警察に相談した。
警察は住人を訪問。しかし、どの部屋も返事がなかった。
警察は管理会社に連絡し、室内を確認した。
部屋はもぬけの殻だった。
住人の痕跡を示す物は何もなかった。
がらんどうの部屋が、30個残っているだけだった。
そして現在、「きぼう」の住人は、一人もいない。