失踪探偵
11月はじめの月曜日。
探偵協会のオフィスに、架橋 繋架の声が響いた。
「集団失踪?」
繋架は探偵協会の営業だ。
営業はもちろん、最適な探偵の選定、探偵と依頼主のサポート、報告書の作成が彼女の業務である。
電話は千葉県警の長亥 棍棒刑事からだった。海上都市、「きぼう」で発生した集団失踪事件の相談だった。
失踪事件において、雲隠 逃去の右に出る者はないだろう。「銀座の休日事件」「残業代神隠し事件」など、数多くの失踪事件を解決に導いてきた、失踪のプロフェッショナルだ。
「お任せください、最高の人材がおります」
長亥との電話を終えると、さっそく繋架は逃去へ連絡をいれた。
逃去は電話に出なかった。
繋架の胸がざわついた。
確かに逃去は有能な探偵だが、年に数度、失踪してしまう悪癖がある。
染みのように広がった嫌な予感を振り払うように、繋架は逃去の自宅へと向かった。
文京区のH駅を降り、古書街を抜けると、古い木造建築が目立ち始める。K川の対岸は空襲によって消失し、戦後新しい街に再建されたが、川を挟んだこの周辺は戦火を逃れ、いまだ昭和の面影を残していた。
「ここ……、ですね」
民家の間の細長い土地。隙間を埋めるように建てられた古いアパート。日当たりは悪く、モルタルの壁は青黒く変色していた。
逃去の部屋は2階の奥。郵便受けにはチラシが詰まり、人の気配は無い。電気メータは止まり、呼び鈴は鳴らず、呼びかけには、返答が無かった。
繋架の予感は的中した。
失踪探偵こと雲隠逃去は、どうやら失踪中のようだった。