おいしい恋のレシピ(前編)
「ふぅ・・・・今日も疲れたぁ・・・・」
里佳子は仕事帰り、必ずと言っていいくらい、オフィス街である会社近くのスタバに寄って帰る。
派遣社員の里佳子は、ほぼ毎日、定時に会社を後にする。
そして疲れた体を引きずりながら、そのまま真っ直ぐ近くのスタバに寄る。客の姿はまだ、まばらだ。
里佳子はいつものショートのエスプレッソを頼むと、いつもの指定席に座り、白いフェイクファーのコートを脱ぐと温かいエスプレッソを一口啜った。
里佳子はここの席が気に入っていた。
ここの席はガラス窓を挟んで、人々が行き交う道に面しており、せわしなく行き交う人々の顔が良く見える。
この席から、様々な人を観察する事が、里佳子の会社帰りの密かな楽しみだった。
本当に色々な人がいると思う。
肩を落としながら歩くスーツ姿の中年男性や、出勤前のホステス風の女性、幸せそうに歩く老夫婦などなど。
オフィス街でありながらも、ほんと、様々な人がいると思う。
様々な人がいると思えれば、里佳子は明日からも頑張れると思う。
そう思えれば、明日からも頑張るために、自分の寝床に帰ろうと、里佳子はスタバを後にする。
その日もいつものように、里佳子はスタバに向かった。
「!?」
店の前まで来ると、里佳子は一瞬、目を疑った。
「速見もこみち!?」
里佳子がスタバの外から店内を見ると、里佳子の指定席には、若いスーツ姿の男性が外を眺めながら座っていた。
里佳子は、内心、「まさかね・・・」と思いながらも、そろりと店内に入り、いつものエスプレッソを頼むと、まだ客がまばらな店内で、その男の顔が見えそうな席を探し、見えそうな席を見つけると、コートも脱がずにエスプレッソを一口啜りながら、その男の後ろ姿を眺めた。
それが、彼との初めての出会いだった。