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16.ジャンルの意識

【文字数】

 10000字ほど


【作者コメント】

 今回は前話(15話)と関連する話ですが、この一話でも読める内容になっています。

 また、今回は作者の個人的見解に過ぎない内容なので、いつも以上に眉に唾を付けておくことをお勧めします。


【目次】

 0.承前

 1.ジャンルを意識することについて

 2.ジャンルを意識する意義

 3.締めくくり


0.


 スコーン美味し。うまうまである。

 小麦粉を使う系のレシピでも、格別シンプルなスコーンなんだけど、朝焼きの品は味わいがしっかりしていて大変よろしい。

 できればトーストして香りを立てたいな、って思っちゃうけど、さすがに図書予備室にそこまでの装備はない。


「図書準備室にはあるぞ、多機能電子レンジが。言えば借りれるが」

「マジですか」


 いや、使わないで大丈夫ですけど、にしても先輩の交渉力、ハンパないです。教職員用の設備使うとか、普通考えもしないと思うんだけど。

 あ、この部屋でさんざん電気ケトルも急須も茶碗も使ってましたね。いまさらですか、そうですか。




 そんなわけで、今日も今日とて古典部である。

 先日話していたとおり、わたしがスコーン作って先輩がジャム持ってきたわけだけども、にしても先輩のジャムはつくづく美味い。ちぎったスコーンにさっと塗りつけて食べると、もうこれなしでは食べられないような気持ちになっちゃった。ジャム強し。アイスクリームと違って新聞社を籠絡することはできないだろうけど(※1)、わたしはたやすく籠絡されちゃいました。

 先輩がいれてくれた紅茶もほんわり優しい味わい。なんて素敵なお茶会なんでしょ。参加メンバーが主人公にヤンデレてたり、人への恨み辛みをねちねちノートに書き付けてたりするような腹黒お茶会とはわけが違うぜ。(※2)


「有閑マダムの優雅な午後みたいですねー」

「学生の夏休みなんて、それ以上に有閑だがな」


 ああ、そっか、そうだよね。朝起きる時間が、少なくともいつもより一時間は遅くていいような生活が一ヶ月も続くのだ。朝一番からラジオを友に家事に励む主婦業のみなさんと一緒にしちゃあダメだよね。(※3)

 わたしも今日はのろのろと午前も遅くに起きて、準備して、コーヒー飲みながらスコーン焼いて、母がめんどくさそーに作ってくれた昼を食べて、食後にコーヒー飲んで、それからようやく登校である。有閑すぎるぜ。


「さて、じゃあ始めるか」

「あ、そうですね。ジャム美味しかったです」

「こちらこそ、スコーン美味しかったよ」


 持ってきたタッパー(スコーン入れてたやつです)を片づけ、余ったジャムは先輩がいいって言ってくれたからありがたく頂戴して(またかわいらしい小瓶を使ってるんだ)、紅茶もいれなおして……とあれやこれや片して準備である。

 そんな他愛ないやりとりも、先日のデートのおかげか、どこかもっと近く感じられる。ちょっと前までは、掃除一つ、片づけ一つまで自分でやろうとしてたからね、先輩ってば。そこに遠慮がなくなってるのは、頼られているようで嬉しい。

 先日の、と思うと、楽譜屋での一件が思い返されて少し複雑な思いも湧くが、いまは蓋しておきましょう。また機会があれば、いずれ。


「さあ、じゃあ始めましょうか」


 先ほどの先輩の言葉を取っちゃうみたいに、わたしが気合い一つ声を上げると、先輩は出鼻をくじいた。


「まあ、今日は軽い話題なんだがな」


 あらら、そうなんですか。せっかく気合い入れたのになあ。




1.


 先輩が板書したテーマは「ジャンルの意識」なるものだった。


「今日のテーマは『ジャンルの意識』について。本当は先週、このテーマを取り扱って、それに絡める形で二次創作やパロディを話そうと思ってたんだ」

「あ、そうでしたか。二分割しちゃったから軽い話題なんですね」

「そういうことだな」


 そのわりに、なかなか先週の話は力入ってたとは思うけど、先輩的にはこだわってるところだったんだろうね。

 大事にしてる作品って、半ばもう自分の一部と言って過言じゃないし(わたしだってスラムダンクを貶されたなら、身長低いのをあげつらわれたのと同じくらい頭にくるだろうし)、サブカルファンとして熱くなるのはわかるところだ。

 さて、と先輩は話を始めた。


「ネット小説は商業作品と同じく、さまざまなジャンルで物語が紡がれている。君にもよく紹介している中世ヨーロッパ風異世界ファンタジーから、現代の学園物や超能力物、あるいは恋愛小説といったライトノベルに多いジャンルだけでなく、ホラー、推理物、SF、スポコン、私小説っぽいのやら官能小説やら、書く人が多いだけにジャンルも幅広く、作家人口も多い」

「絶対プロの作家よりも、プロ志望のネット小説家や、別にプロ志望じゃないネット小説家の方が多いですもんね」

「そうそう。それは違いないな。しかもアマチュアはフットワークが軽いし、他に本業持ってる人がその業界話を書いたりもするから、幅の広さはプロの作家以上だろうな。もちろん、描くという点で言えば、プロとアマでは雲泥の差だが」


 また身も蓋もないことをおっしゃる。そこは仕方ないところだろう。

 先輩が指摘するように、これ本当に取材だけで書いたんだ、って目ん玉飛び出るくらいリアリティのある描き方で、ある特定の職種を描いてくれるプロ作家さんっているのは確かだ。しかも、その職種に就いてる人以上に上手く描いたりするんだよね、そういう作家さんは。(※4)


「そうした自分の持ち味を活かした作品はともかくとして、普通、いままで書いたことがない人はそのとき流行っている作品を読んで『自分も書いてみたい』と思い、同じジャンルを書き始めてみたりするものだ」

「どこ情報ですか、それ」

「結構頻繁に、作者のコメントで見かけるぞ。他の作品に影響を受けて始めるのは一般的だろう。面白い作品が出てくると、それと似たような作品が雨後の筍(たけのこ)のようにニョキニョキ出てくるのは、ネットではよくあることだ」


 うーん、ああ、でも確かにそうかな。最初は読者だったけど、自分も書き始めましたってパターンはありうる気がする。

 誰だって、最初は「書いてなかった人」なんだし。それが「書く人」になるには、絶対にネット小説読んだはずだもんね。考えてみれば、このパターンは鉄板じゃないか。

 ちょっと理解に時間のかかったわたしを眺めながら、先輩は一本指を立てて見せた。


「さて、このとき、個人的には気にしてもらいたいことがある」

「それが『ジャンルの意識』ですか?」

「そのとおり。適切な表現を選ぶのなら、ジャンルを意識すること。それが大事になると思うんだ」


 ふむふむ。ジャンルを意識する、か。


「いまいちピンときてないです。もうちょい説明お願いします」

「もちろん。これはつまり、自分が書こうとしている小説はなんてジャンルで、そのジャンルにはどんな特徴があって、どういう楽しみ方をするもので、どんな『お約束』があるのか。それをきちんと認識しておく必要がある、ということだな」


 ちょっとわかりやすくなったような。でも、まだわかりづらい。

 わたしは小首をかしげて、先輩の話を促す。


「たとえば恋愛物であれば、甘酸っぱい青春小説であっても、大人の男女のすれ違いを描いたものであっても、とにかくベースは『恋愛』だ。恋愛のやりとりを通じて、その心の揺れや関係の変化を描く小説だな」

「そりゃそうですよね。恋愛物なんですから」

「そうだな。だから、持ち味である恋愛の描き方には特に頭を使う必要があるし、良い恋愛を描くために逆算してキャラを定める必要もある。ストーリーもまた恋愛を描くための材料に過ぎない」

「うおう。ストーリーも材料に過ぎない、ですか」


 大胆な発言である。これにはわたしもビックリだ。


「小説にとってストーリーはとても重要な要素だけど、材料に過ぎないのもまた事実だよ。たとえば、これは睦月影郎さんという小説家の方が『欲情の文法』という新書で書いておいでだが、官能小説においてストーリーは複雑でない方がいいとのことだ。何しろ、そういうシーンがメインだからな。最後の落としも含めて、ストーリーは単なる舞台設定に過ぎないと言うことだろう」


 大胆な発言である。これにはわたしもジト目を隠せない。


「先輩って、本当に、ナチュラルにそういう話題振りますよね」

「極端な例の方が例としてはわかりやすいと思わないか?」

「いや、まあ」


 確かに、わかりやすい気はするけどさあ。あのですね、先日のデートの余韻が残ってる今日この頃に、そういう雰囲気ぶち壊しなネタの放り込みは頂けないわけですよ。

 わたしが内心でぶちぶちとグチっている間に、先輩は話を次に進めた。


「本格の推理物ならトリックの緻密さが肝になるし、二時間のサスペンスドラマならきちんと最後の断崖絶壁まで犯人を誘導するストーリーにしないといけない。そのジャンルにはさまざまな持ち味があり、『お約束』がある。まずはそれを理解し、吟味しないといけない」

「でも、確か、ミステリージャンルであるはずの京極堂シリーズはトリックの点で結構批判を受けたって聞いてますけど」


 お前見えなかったってそれはねーだろ、的なツッコミが「姑獲鳥の夏」には結構あったと聞いたんだけど。

 人気作でも、そうした中核を外すことがあるんだろうか。


「あれは推理物じゃなくて妖怪物だから」

「えー、それは身も蓋もない逃げ口上じゃないですか」

「それは、まあね。ただ、あの人の作品を推理を命題とした本格ミステリーに挙げるのはどうかと思うよ。そこに主眼を置いてるとは思えない」


 余談だけどね、と先輩は前置きして説明を加える。


「ミステリー作家の綾辻行人さんや北村薫さんが対談で言っておいでだが(※5)、ある種の本格ミステリーではキャラは記号的に扱われても構わない、とのことだ。すべては謎とその解明のために、というわけだな。対して、京極堂シリーズは明らかにライトノベル的なキャラクター小説だ。人を描くことに主眼が置かれている。本格としては寄り道が多すぎる」

「ふむふむ。なるほど」

「なら、ジャンルはなんなんだ、と問われると、ミステリージャンルの妖怪物としか言えない気がする。初期作では宗教をテーマに扱っていたけど、別にその縛りがあるわけじゃないし」

「他には言いようがないってわけですね」


 先輩は「そうそう」とうなずいた。


「そうしたある種のノンジャンル的な作品を書く場合、作者には荒野を切り拓くだけの覚悟が必要だ。その作品の持ち味がなんであるか、先人が示してくれた指標なんてないわけだから、自分で吟味して検討しないといけない。そこにはかなりのチャレンジが含まれる」

「初めて書きました、みたいなネット小説家では荷が重いってわけですね」

「おうとも。それも、ノンジャンルなんて既存のジャンルで満足できないから書くものであって、初心者では経験不足だな。初めて書く人間にはいささか厳しいものだろう」


 だから、ジャンルを意識して書くべきだ、という論法らしい。なるほどね。


「つまり、最初はジャンルをきちんと定めて、そのジャンルの作法に従って書いた方がいいと」

「そうそう。ただ、必ずしも従う必要はないかな。わざとセオリーから外すのも個性の出し方だ。個人的には一度はオーソドックスな書き方を試してみて、理解してみてもいいんじゃないかと思うけどね。そうしないと正しい外し方もわからないだろうし」


 先輩は片肘突きながらこちらをのぞき込む。


「テンプレ――テンプレートと言って定番の展開を揶揄する向きもあるが、オーソドックスなアイディアはジャンルの本質的な楽しみを備えている。描き方に工夫は必要だろうが、一度はきちんと吟味してみるのも必要なことだろうな」

「そうですね。異世界ファンタジー物なら、せっかくですから一度は死んでみて、神様に会って転生させてもらわないといけませんね」(※6)

「またピーキーな例を出すな君は……」




2.


 さて、お次は対案である。


「それで先輩、どうすれば『ジャンルの意識』を高めることができるんですか?」

「まず絶対に必要なことは、そのジャンルの作品を読むことだな」


 ごくまっとうなお答えである。そうだよね、まずはそのジャンルがどんなものか知らないといけないよね。


「推理物で、自分で考えたつもりのトリックが『あの作品で使われてますよ』と言われてしまった場合、たとえそれが偶然だったとしても盗用を疑われてしまう。知らなかったでは済まないんだ。そのジャンルを選んで書いている以上、知らなかったこと自体が罪だ」

「うへえ、罪とまで言いますか」

「確かに、罪というのは強い表現だが、ネットの世界はこうした不正に対してちょっと驚くくらい潔癖な反応を見せるからな。言うまでもなく盗用は良くないし、盗用でなかったとしても被るのはよろしくない。できれば有名作くらいは把握しておきたいところだな」

「あれ? 先輩、前にアイディアはパクってもセーフって言ってませんでしたっけ?」

「……そんなこと言ったか?」


 今日も持ってきていた部活ノートをあらためる先輩。あれ、なんか聞いたような。いつだっけ、なんか、カレーを食べた日だったような。


「……ああ、『文章表現』の話をしたときか。若干違うな。ネット小説からアイディアをいただいても法的にはセーフだが、感想で叩かれるのは間違いないって話だな」

「ありゃ、覚え違いしてましたか」

「君、この日はプールだったか何かで疲れていたはずだ。うろ覚えなのも仕方ないよ」


 よく覚えておいでで。そうだったそうだった。星の王子様の話が出て、カレー食いたくなって、先輩と食いに行ったんだった。


「それに、たとえば異世界ファンタジーで王女とのラブロマンス、というアイディアを自分なりに消化して描くのと、推理物の肝であるトリックをそのまま頂くのではまったく違った話だな。前者が『隣の家から漂う香りから晩飯をカレーに決める』くらいなら、後者は『お店の秘蔵レシピを盗む』くらい違う」

「うわ、全然違いますね」


 と言いつつ、「あ、先輩もカレー食いに行ったの覚えてたんだ」とどうでもいい方に意識がいっちゃうわたし。


「アイディアを活かすか、アイディアをパクるか。この境界線はきちんと認識していないと危ういな。これは実際ネットであった話なんだが、以前読んだ小説のトリックをうっかり忘れてしまっていてそのまま使ってしまった作者さんがいてな。読者からの指摘で書き直した例がある。そうした実例があることは、気にしておいた方がいいよ」

「ああ、やっぱりそういうの、あるんですね」


 作曲家の方なんかも、自分が思いついたメロディがどこかで聞いたものではないかと悩むこともあるだろうし、創作の難しさなんだろうね。

 だからって、そのジャンルの作品を読まないわけにはいかないし。むしろ読まない方が危ういわけだから、本当に難しいところである。


「同ジャンルの有名作と被ってしまえばパクリの謗(そし)りは免れえない。きちんと同じジャンルの作品を読むことは、ある種の危機管理でもあるな」

「偶然でバッシングされることもあるわけですよね。こわい話だなあ」

「自分が必死に考えて思いついたアイディアが、偶然既存の作品と一致しちゃいました、じゃあ救われないしな。予防策は取っておいた方がいいだろう」


 そこで先輩は、気づいたような顔をして「ちょっと横道に逸れすぎたな」と照れ笑い。あ、確かにそうですね。


「それはさておき、まずそのジャンルの作品を読むこと。どんな強みがあるジャンルなのか。つまり、読者はどんな楽しみを求めているのか。そのことをきちんと理解することが大事だと思うんだ」

「どんな楽しみを提供できるのか、ってことですよね」

「そうそう。良い指摘だ。その『どんな楽しみを提供できるのか』と自分の作品を自己分析するのが、次の段階だな」


 と、ここで先輩は立ち上がって板書を再開する。

 まず「そのジャンルの作品を読むこと」。その下に「ジャンル内での立ち位置を定めること」。


「さっきの京極堂の例で言えば、あれはミステリージャンルにおける妖怪物なんてピーキーな立ち位置なわけだが、たとえばより原理主義的に無駄な要素を省くのか、それともごった煮にしてしまうのか、そういう方針を見直すこと」


 席に戻った先輩は、いつもながらの一本指。


「そのジャンルにおいて、自分がどんな立ち位置の作品を描いて、どんな読者に、どんな楽しみを提供するのか。そうしたことを意識するわけだな」

「うーん、具体的に例を挙げてもらえると助かります」

「そうだな、たとえば東雲さん。あれはライトノベルというジャンルの恋愛物で、それも純愛物。ラブコメが中心のライトノベルにあって、コメディを廃したやや特異な立ち位置の作品だ。そこに新規性があるわけだな。ストーリーは純愛物として王道真っ只中を最後まで進んだ」(※7)

「あー、そうですね」


 ストーリー的には確かに、捻りはあんまりなかった。あれは王道中の王道だ。


「そうした立ち位置に加えて、ああいうキャラ設定や作中作の挿入というギミックなど、魅力的な要素を配置してある。上手い作品だと思うよ」

「なるほど。まずジャンルが基本で、その中での立ち位置を定めて、そこに自分なりのトッピングをするわけですか」

「そうそう。よくわかってるじゃないか。こうした自分の立ち位置を定めるのなら、ジャンルの中でどんな目新しい要素を取り込めるか、ということも大事になるわけだが、そうした視点もジャンルに堪能でなければ持てないわけだな」

「……うん? 目新しい要素って大事なんですか?」

「そりゃ、君、誰も見たことがないような斬新な設定の小説の方が、どこかで見たことがあるようなよくある小説より受けるし、話題にもなるだろう」


 あ、あー。そりゃそうか。空前絶後って、ただ最高気温が更新されたってだけであんなに騒ぐもんなあ。新しいって大事なんだ。


「新しいと言ったが、まあ要はこれもギャップだよ。既存の作品と違いを付けることによって、面白味を生み出す。作品のベーシックなアイディアにはこのギャップが欠かせない」

「そうしたギャップは、ジャンルの知識が必要不可欠なんですね」


 なるほどなるほど、わかってきたぞ。先輩が絶対に必要と言った意味が。


「まあ、ここまで『読まなきゃダメ』というスタンスで話してきたが、これは別にそんな難しいことじゃないよ」

「あれ、そうなんですか?」

「何しろ、自分も書いてみたいと思うくらい面白い作品に出会ったんだろ? 普通、同じジャンルで同じくらい面白い作品があるんじゃないかって読みあさるものだ。そもそも関心のないジャンルを書こうなんて、普通は思わないしな」


 あ、なるほどねー。確かに。

 わたしも先輩の紹介を読んでみて、同ジャンルの他作品を漁ってみたりしてるしね。よく玉砕してるけど。


「紹介サイトなんてごまんとある。そういうところからたどって評価の高い既存の作品を読みふけり、まずはジャンルがどんなものであるか知ること。どんな楽しみを提供しているか、どんな定番ネタがあるか、読んでいけばだいたいわかってくるはずだ」

「そうですね」

「それから、自分が書きたいと思うものがどんな立ち位置かを確認して、どんなギャップを作るか頭をひねる。これが作品作りの第一歩だろうな。ゲームで言えば、シューティングを作るのかRPGを作るのか、RPGを作るのならドラクエやファイナルファンタジーやテイルズやBOFなんかと比べて自分はどんな立ち位置の作品を作るのか、となる。ほら、第一歩だろ?」

「企画会議以前の問題ですねー」


 シューティングかRPGか、作るものがそれすら決まってないってのは考えづらいよなあ。


「作品を書き出す前、プロットを組む前に、まずはジャンルのことを考えてみてもらいたいな。狙いどころがハッキリしている作品は、締まりがあって読みやすいものだ」

「コメディかシリアスか、その場その場で適当に書かれちゃいますと、読んでる側もピントが合わないですもんね」

「そうそう。ジャンルはそういった作品傾向を定める上で有効なツールだから、積極的に活用して欲しいものだよ」


 と、先輩は話を締めたのだった。




3.


 うわ、本当にあっという間に終わっちゃった。


「いつもの放課後分くらい、丸々空いちゃってますね」

「休日はこうなるから、あんまりやりたくないんだ。あまり長くやっても、ダレる時間が増えるだけだからな」


 いそいそと何冊も本を取り出しながら(やりたくないって嘘ですよね、先輩)、先輩はそんな風に言った。

 いや、確かに、平日の部活でも時間余るかなー、くらいのペースでポンポン話が進んじゃったもんだから、ホント早い早い。あ、先輩、わたしの分の本もありますよね?


「顧問の先生は午後一杯居てくれるから、時間は自由に使えるんだがな。何か用事があれば帰ってくれても構わないぞ?」

「うわー、先輩、そういう冷たいこと言います?」


 せっかくの休日に、この部活のためだけに学校くんだりまで足運んだ後輩にそんなこと言います? ひどーい。


「先輩のことだから、ちゃんとわたしの分まで本持ってきてくれてるんですよね。貸してくださいよ、ここで読んじゃいますから」

「君が言うと本当に全部読んでしまいそうでこわいな」


 そう言いながら、三冊ほど本を貸してくれる先輩。あ、ブックカバーに猫さん混じってる。猫さんこんにちは。先輩ん家の猫さんは、大事に扱ってもらえてる? うちの子は、大事にし過ぎてどう使っていいかまだ迷ってるんだー。

 実用品を買ってくれたのだから、たぶん、ブックカバーもタオルもちゃんと使った方がいいんだろうけど、もったいないなって、ちょっとためらっちゃうんだよね。


「先週話した『蒼海ガールズ!』を持ってきておいた。若干下ネタがキツいが、なかなか良い作品だぞ」

「白鳥さんって、下ネタ必須ですよね。それも、かなりお下劣なの」

「なんとなく、ご本人はすごく真面目に『ライトノベルでの正しいあり方』みたいなものを検討していて、その結果振り切れてしまったような、そんな気もするけどな」


 あ、それ、なんとなくわかるな。ものすごく丁寧に下調べして書いてるのってよくわかるし。先輩が教えてくれたブログも見てみたけど、「のうりん」に関わりそうなイベントや施設に積極的に足を運んでるし、本当に真面目な方なんだろうね。

 たぶん、先輩が言う「ジャンルの意識」を高く持ってる方なんだろうなあ。プロだから、当たり前といえばそうなんだろうけど。




 などと、あれこれ話したり、読書したり、お茶したりしながら今日は過ぎていったのでした。

 ありゃ、そういや先輩との今度のデートの話、しなかったな。忘れてた。

 まあいっか。また明日訊きましょうかね。


 わたしによるネタ・元ネタ解説


※1

 畠仲恵さんの「アイスクリン、強し」の話である。


※2

 「人類は衰退しました」の五巻の話である。

 先輩とキャラクターについて話したとき、「キャラづくりとは欠点づくりだ」って先輩言ってたけど、あんな欠点はイヤすぎる。絶妙にキツい。髪の毛の蒐集癖なんて鳥肌立ったよ。


※3

 先輩によると、NHKの「ラジオ朝一番」ではその手のお便りが本当に多いのだとか。

 朝早くからお子さんの弁当づくり、ご苦労様です。


※4

 これも先輩に聞いたんだけど、「同級生」という新書の中で漫画家の一条ゆかりさんが近しい話をしていたらしい。

 「プライド」ってオペラを扱った自作の少女マンガについて、一条さんは「オペラなんて全然知らなくて、だからなんでも新鮮に学べた」と言っておいでだとか。

 知らないからこそ、同じく知らない人たちに面白さを上手く伝えられるということもあるんだろうね。


※5

 大沢在昌さんの「エンパラ」という対談集にあった話らしい。


※6

 こういう展開を神様転生というそうだけど、先輩いわく、この手法は強くてニューゲーム的な楽しみであって、小説で描くのは難しいとかなんとか。

 最近出版されている作品にも、この手の設定はあるみたいだけど、意外に難しいんですね。


※7

 ぼちぼちしつこい気もするが、森橋ビンゴさんの「東雲侑子は~」の三部作のことである。


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