番外3.そのとき (後編)
【文字数】
前後編合わせて、27000字ほど
後編は15000字ほど
【作者コメント】
普通にデートしていても、やっぱり趣味に足を突っ込む主人公。
そんな子なので、読者置いてけぼりな話も笑って許してやってください。
【目次】
2.わたしが知ってるとおり、先輩はやっぱり優しいって話
3.わたしの縄張りで起こった、未知との遭遇の話
2.
デート感ないなーと思いつつも、先輩と行った登山グッズ専門店は楽しかった。いやね、全然知らないジャンルなもんだから、道具見てるだけでもなんじゃこりゃーって楽しいんだ。畳めるコップとか、アイデアグッズすげーってなっちゃったよ。
さすがの大荷物に先輩は配送を頼んで、デート続行である。
「付き合ってくれてありがとな」
「いえいえ」
こうして付き合うのが、わたしはただ楽しかった。
先輩の食事に付き合うようなことはあるけど、でも、先輩はおごってくれるからね。ちょっと違うかな。本当に、先輩の都合に付き合って一緒にデートしているのが、楽しい。
「次はどうしましょう?」
「今日の用事は終えたからな。君は今日、どうするつもりだったんだ? 何かすることがあるのなら付き合うが」
「あー、えっと、言いづらいんですけど」
えへへと照れ笑いして答えるわたし。
「家でぼーっとするつもりでした」
「それは確かに言いづらい」
珍しく、くすくすと笑う先輩。
先輩も楽しんでくれてるんだって、そう思えるような笑顔だった。その柔らかさが、心の底にそっと触れる。
わたしはどうしてだか慌てて言葉を続けた。
「だからですね、もう今日は先輩に徹底的に合わせちゃいますよ! なにしますか、ボーリングでも行きますか! 動物園でも植物園でも映画館でも、なんだったらきらめき公園でもどんとこいですよ!」
「きらめき公園ね」
と先輩は苦笑いしつつ、話を合わせてくれる。
「お手軽公園デートをわざわざ電話で約束されるのって、どんな気分なんだろうな。あれ、絶対女の子の方は混乱すると思うんだけど」
「チープさは否めませんよね。あんまり好感度も上がりませんし」
って違う違う。「ときメモ」談義は要らん。(※5)
「あらら、すいません、自然とネタ振りしてました。さあ、どんとこいデートプランですよ!」
「なら、そのへんを散策しながらウィンドウショッピングとしゃれ込もうか」
「あ、あの、先輩……」
途端、ぽっきり折れて、急にしおれるわたし。
言いづらいんですけど、今時分の若者が、しゃれ込もうってのはさすがにないでしょ……。
登山グッズ専門店は商店街と筋違いにあったんだけど、わたしと先輩は商店街へと舞い戻ってきていた。
うちんとこの商店街はシャッター街ってわけでもなくて、結構頑張ってるお店が多い。時間も時間だから、小さな店舗が軒を連ねている商店街にはそこここに陳列された品があり、売り子のおばちゃんやおばあちゃんがおり、それらを冷やかしながら歩く通行人がひしめきあっている。
わたしは先輩と、はぐれないようにおててつないで歩いていた。
うーむ。わたし、あんまり人混みって得意じゃないんだよね。食事も取らないでうろうろしてたらグロッキーになってたかも。
「だから、先輩、ご指摘ありがとうございました」
「前の件もあったからな」
「前の……? ああ、『視点変更』のときの話ですか?」
先輩の頷きを見て、わたしはいやいやと肘に掛けたバッグごと手を振った。
「あれは、慣れない部活での発表でしたから。緊張してノド通んなかっただけですよ。あんな感じの不調はないので安心してください」
「だけってのもアレだが」
こちらを軽く窺って、先輩は訊いてきた。
「今日は緊張していない、ということか?」
「あれ? うーん、どうなんでしょうか」
緊張、緊張かあ。いや、してもおかしくないんだろうけど。なんだろう、わたし、楽しくって楽しくって。童心にかえって遊んでいるかのようなこの感覚、合唱でも体験したことないかも。
まるで子犬が、何が楽しいかもわかってないでキャンキャンと楽しげに跳ね回っているかのような、そんなイメージが湧く。
「そうですね。緊張はしてないと思います」
わたしはにこりと、先輩を見上げてほほえんだ。あんな、内臓を直に握られてるかのようなえげつない緊張は、どこにもない。
日溜まりのような心地よさ。無邪気なくらいの楽しさ。好きな作家の新刊を買った日のどきどきとわくわく。そんなものが、わたしの中でぐるぐると渦巻いている。
「さあ、デート楽しみましょうか」
「……そうだな」
先輩はなぜだか少しだけ首をかしげてから、そう返した。
おや、とわたしも内心で首をかしげたが、気にしないことにしてすぐに次の話題を振った。
「それにしても、改めて見るといろんな店があるもんですね」
先輩の紹介で、いままで目に入っていたけど記憶してなかったような喫茶店に入って、美味しい食事ができた。絶対に入らないだろう登山用品の専門店で見慣れない登山グッズに感心した。
その感動を抱えたまま周りを眺めてみると、ちょっと驚くくらいいろいろなお店が建ち並んでいる。
「商店街ってのは、たいていの物が揃えられるようになってるからな。ほら、あの奥まったお店は布団屋だな。お隣は着物屋。向かいはその手の雑貨屋だ」
「うへえ、いままでちっとも気にしてませんでしたよ」
どれも買う機会のない物ばかり、ってこともあるんだろうけど、こんなにいろいろあるなんて本当に驚きである。
着物屋のショーディスプレイに「おー」と感嘆し、布団屋で意味もなく「むむっ」と品定めのフリをしてみたり、先輩を引っ張ってあっちこっちを散策する。
面白いなあ。灯台もと暗しって言うけど、ここまで実感するものか。
にしても、さすがわたしのウィキペ先生こと先輩である。このへんのことはよくわかってらっしゃる様子で、いろいろと教えてくれる。
先輩の先導で、雑貨屋に入ってみた。
「おお」
思わず声が出る。
お店は、先輩が言ったように和風の雑貨を置いている店だった。でもオカタい感じじゃなくて、もうちょっとカジュアル。
季節柄か、浴衣に併せて持つような巾着やら、男性用の甚平やら、扇子やウチワみたいなお祭りアイテム的な物が中央を占め、壁際の棚に手ぬぐいや和柄のタオル、お香や線香や数珠(このへんはお盆向きなのかなあ)、ちょっとカジュアルにストラップなんかも置いてある。
こ、これは掘り出し物の匂いがプンプンしてるぜ。
手近な棚にある物にわたしはまず、目を惹かれた。
「あ、このブックカバーって、先輩」
「ああ、部活でも時折使ってるな」
うおー、先輩愛用の店なんですか。っていうかこんな店まで使いこなしてるとか、先輩の女子力は天を衝く勢いやで……。
ちょっとへこむわたしだったが、それはそれ、これはこれ。うわー、やばい、これやばい。超楽しい。先輩ったら良いお店知ってるわー。ホント尊敬するわー。
「へえ、お香、結構いろいろあるんですね」
お香の棚に目がいく。可愛らしい小箱が立ち並んでいる。
名前がまた良いね。小夏日和だとか、梅雨の晴れ間だとか、雰囲気を名前にしたものがほとんどだ。原材料だけ書かれてもわかんないしね。こういうの、良いよね。
わたしがふんふん見ていると、先輩が訊ねてきた。
「君はアロマテラピー的な物に関心があるのか?」
「いやあ、わたしがやってるとマッチ売りの少女的な感じになっちゃいそうで」
って誰が少女やねーん。花の乙女ですよ、わたし。
心の中で一人ツッコミをしているわたしに、先輩は目をしばたたかせた。
「すまん。意味がよくわからん」
「ああ、いや、なんて言いますかね、わたし、オシャレなOL感ゼロですし。少女趣味っぽく見えて、イヤなんですよね」
「イヤなのか?」
「うーん。興味はあるんですけど、自分の部屋とはいえ異臭騒動起こすのは家族に悪いですし」
兄二人も嫌がるだろうけど、特にうちの母がなあ。嗅覚が鋭いので、たぶんこの系統はダメだろう。
あの人、前に痴漢に遭った話をしてたんだけど、勧めた女性専用車両をかたくなに断ってたもんな。反吐が出るって。
「売り物のことを異臭と言うのはやめなさい。店内だ」
「あっ……ごめんなさい」
確かに不適切でした。ごめんなさい。
「他に気になるものはあるか?」
「やっぱりブックカバー、良いですよね。先輩はどれをお持ちなんでしたっけ?」
「全部持ってるぞ?」
「え?」
「色違いまでは揃えてないが」
なんてことだ。わたしと先輩の間にある女子力の差は、壮絶なまでに開いているじゃないか。
わ、わたし、こんなしっかりしたブックカバーなんて一つも持ってなくて、で、でもね、本屋さんの紙のやつで十分って、そうじゃないのかな、そうじゃない……の?
「え、えっと……」
「そこまで戦々恐々としなくてもいいと思うが……」
あ、いや、引いてるわけではなくてですね。引け目を覚えていると言いますか。
「いや、わたし実はブックカバー、一つも持ってないんですよね。一つくらい買っちゃおうかなって、それで、はい」
「ああ、そうなのか? 別にこの手の商品は趣味みたいなものだから、無理に買う必要はないと思うが」
「そうやって先輩はわたしとの差を縮めさせないつもりなんですねもう天地の差くらい突き放してるのに」
「は……?」
「あ、いえ」
なんでもないです。
それにしても、ちょっとびっくりするくらい種類が豊富だ。基本的に和柄。可愛らしい桜の花柄やちょっと渋めの菖蒲柄、夏っぽい花火の風景など、さまざまな絵柄がある。力入れてるんだろうなあ。店主さんが本好きなのかもしれない。
「先輩のお気に入りってどれですか?」
「これかな」
まさかの歌舞伎役者の浮世絵である。
「にらみを効かせてるだろ? 読み差しを放置していると、ものすごく怒られてるように見える」
「ああ、なるほど。『アァ、半端な真似はやめなすってぇ』、拍子木カンカンみたいな」
「そうそう。同時にいくつも読んでると、カバーでどれがどれか判断できるし、こういう個性の強いカバーは重宝してるんだ」
「あ、なるほど」
なるほど二連発である。そっか、確かにね。わたしは読み差しでも裸でポイしてるけど、先輩は丁寧に扱ってるんだな……。うぐぐ、さらなる開きが。
「まあ、君には別のものを勧めるよ。ちょっと渋すぎる」
「このへんなんかも渋いですよねー」
葛飾北斉さんの超有名な津波&富士山コンビである。お隣には伊藤若冲さんのユーモラスな鶏絵。
わたしのような乙女がこういうブックカバー使ってるの、ギャップ的に考えてオッケーかなあ。甘辛コーデ的な意味で。うーん、これ、オッケーなギャップなのか?
うむむしてるわたしに、先輩が一つ選んで示してくれる。
「素直にこのへんはどうかな」
「あー、ネコさん!」
気づかなかった、ネコさんもあるじゃん!
丸っこくってかわいらしいネコさんが、三毛に、白いのに、チャトラキジトラサバトラ! いっぱい描かれていて、あっちこっちでいろんな表情を見せてくれてるよ。
うへえ、わたし、断然猫派なんだよね。これは、とびきり良いじゃないか。
「先輩ったら素敵なチョイスしますね。うわー、これホント良いですね。本当に買っちゃおうかなあ」
「ああ、色はそれでいいのか?」
「うわ、色違いまであるんだ」
わたしの持ってるのはオフホワイトっぽいの。和名ではなんて言うんだろう? 他には落ち着いた朱色、少し淡い藍色、渋ーい黒。
「ちなみに先輩はどれをお持ちで?」
「青だな」
「おー。すると、他の色の方がまぎらわしくなくて良いですね」
まずは黒除外。いや、良いんだけどさ、外読みで落としてホコリとか付いたらすっごく目立ちそうだし。案外汚れが目立つんだよね、黒って。
そうすると、この白いのか、赤いのか。白いのはさりげない感じでどんなものにも合いそう。赤いのはやっぱり個性が強いかな。でも、作品の印象を引き立たせる気もするなあ。
「これは悩みますね」
「朱色か、生成色か。この二つか」
「きなりいろ?」
「生の成り立ての色だな。素材そのままって意味で、こういうやや黄身がかった色を言うんだ」
ええと、生成色って書くってことかな。うん、ひとつ勉強になった。
先輩ったら、本当に物知りさんなんだから。いや、ホントびっくりしました。わたしの頭の中にあった疑問に答えてくれたみたいで、なんだかすっごくうれしい。
「うーん。やっぱり赤、朱色ですかね。生成色だと目立たないですし」
「どこにあるかはすぐにわかるな」
「そうですね。それに、まあ、うん」
先輩の持ってるのと対称って感じが良いなって、そう思ったんだけど。ペアルックってのはさすがにね。口にできないって言うか。でも、対称って、なんか良いなって。
でも、さすがに恥ずかしいから、わたしはもごもごと口を閉ざした。
「これで決まりか。なら、少し待っててもらえるか?」
「あ、先輩も買い物ですか? なら、ちょっとわたし、先に、ええと」
同じこと言うのは芸がないので。
「キジ撃ち殺してきます」
「物騒だな」
思わず吹き出した先輩は、付け加えた。
「というか、それは男性用表現だ」
なぬ。それは知らなかった。
用足しを終えて(初デートでアレかもしれないが、コーヒーの利尿作用には勝てんのだ)戻ると、先輩が買い物袋を引っ提げて待っていた。
早いぞ先輩。わたしが戻るまでに品定めして買うとか、もっと選んだ方がいいんじゃなかろうか。ああ、そうか、先輩のことだから事前にチェックは済ませてあったのか。いかにもありそうである。
「お待たせしました」
「おう。じゃあ、行こうか」
ちょっと待たんかい。
「こらこら先輩。わたし、まだ買い物してませんから」
「何か他にも見たいのか?」
「先輩にしては珍しいボケですね。ブックカバーですって」
わたしとネコさんとの仲を引き裂こうというのなら、先輩であっても容赦しない。わたしが自腹切る覚悟を決めるのなんてそうそうないんだぞ。
わたしのそんな勢いのあるツッコミに、先輩は一瞬、本当に何を言っているのかわからない顔をした。それから、「ああ」と一つつぶやき、おもむろに買い物袋へ手を差し入れた。
「それなら、はい」
Here you are.と手渡されたわたしが、今度はポカンとする側に回った。
「は……? 先輩?」
「ほら、受け取るといい。ブックカバーを贈呈しよう」
「……うへっ!?」
思わず、かわいげもへったくれもない声を上げてしまう。
いや、ホントにビックリしたんだ。上段をがっちりガードしていたら、思っくそボディに入れられたような、そんな感じ。
丁寧にも百貨店のように包装紙で包まれた物にはプレゼント用らしき簡素なシールが貼ってあって、否が応にもそれがどんな目的なのかを主張していた。
「あ、いや、そんな悪いって言うか、なんて言うか……」
「君はたまに、妙に慎み深いな」
「たまにですか、そうですか」
おっと、思わずツッコミが出てしまった。
先輩が肩をすくめる。
「いや、なに、冗談だ。受け取ってくれ。贈呈品を突き返されたらさすがにショックだぞ」
「あ、あー……そうですね。はい。ありがたく頂戴いたします」
「別にそんなに畏まらなくてもいいが」
あ、いや、そう言われましても……。
物心ついて以来、余所ん家の男の人からプレゼントもらうなんて出来事は初めてなものでして……。
ふらふらと、先輩に引っ張られて店を出るわたし。驚きすぎて、わたし、意識がうわついてます。
店の外は初夏の空気。日差しこそ商店街のアーケードに遮られているが、そのギラついたような熱気は、わたしを正気へと引き戻した。
そうして驚きが収まってくると、今度はじわじわと湧いてくる感情がある。
喜びだ。
「わ、わあ、本当にありがとうございます、先輩!」
「いやいや。こちらこそ、そんなに喜んでもらえてありがたい」
うわ、わたし、先輩にプレゼントもらっちゃったよ!
嬉しいなあ。本当に、本当に嬉しい。
プレゼントってこんなに嬉しいものだったんだ。知らなかった。とてもとても素敵な発見で、顔が自然とほころんで、にやつきが止まらない。
「さて、じゃあプレゼントの定番といこうか」
「定番ですか?」
「その場で包装紙を開けて、現物を見てこそのプレゼントじゃないか?」
それは、そうかな。うん、そうだよね。
わたしには確信がある。どんなものが入ってるのか知ってても、それでもとびきり喜ぶだろうって確信が。
包装紙をそぉっと開いていく。セロハンの跡だって残したくない。この包装紙だって、プレゼントなんだ。アメリカナイズされた「ビリビリビリ、グシャグシャ、ワォジョンセンキュー」なんて最悪である。
包装紙の下からはネコさん! ああ、良いなあ。かわいらしくって、しかもいつも手元に置けるんだ。プレゼントしてもらったものだって、いつも思えるんだ。こんなに素敵なことってあっていいんだろうか?
先輩が「包装紙は邪魔だろうから回収しようか?」なんて無粋なことを言うもんだから、フゥーッと猫みたく威嚇して守るわたし。プレゼント品を回収しようだなんて、先輩はふてぇ野郎である。
ってあれ? ブックカバー以外に何か入ってる? ターコイズブルーが目についた。
「あれ? これは……タオルですか?」
「今治タオルだな。夏らしく、浅葱色にしてみたよ」
「え。もしかして、これも」
「贈呈品だな」
ラウンド終わりのゴングが鳴ったと思った直後にアッパーが入った様子。わたしはおずおずとビニールの包装越しにタオルに触れた。
「君、もしかしてだが、今日はハンカチを忘れたんじゃないか?」
「あ、はい、お恥ずかしい話ですが……よくお気づきで」
わたしがそう応じると、先輩はうなずいた。
「やはりか。なら、それを使ってくれ。プレゼントついでだ」
「わあ……!」
絶句した。なんだろう、言葉が出ない。
ズキリと胸に痛みが走るくらい、嬉しかった。ただ、そんな気持ちが、いまにもこぼれてしまいそうで、わたしはどうしようもなく絶句した。
「まあ、君がタオルは買ってから一回洗う派なら、今日は緊急措置として我慢してくれ」
そんな先輩の冗談めかした言葉に、わたしは「大丈夫ですよ」と細い声で応えた。でも、たぶん、商店街の喧噪にかすんで消えてしまったと思う。
3.
うわついたような、沈んだような、自分でも理解しがたい操作のつかない感情の波が過ぎていったのは、商店街で昼を取った後のことだった。
バッグに入れるのももったいなくて、わたしはプレゼントをまた包装紙に包み直して、胸に掻き抱いて歩いていた。もちろん、先輩と一緒に。あ、さっきと違っておててつないでないや。
でもね、みんなに見てもらいたい。こうやって大事にしてるこれはね、わたしに先輩が贈ってくれた素敵なプレゼントなんだって見てもらいたい。
「先輩、ありがとうございますね!」
「ああ」
何度目かもうわたしもわからなくなってきた感謝の言葉に、先輩は苦笑した。
「せっかくのデートならと思ったんだが。それくらい喜んでくれたなら、プレゼント冥利に尽きるな」
「もう、ほんっとに嬉しいです!」
良いのかな、こんなにいろいろ楽しくって、本当に良いのかな。
名演を聴けたときのあの痺れるような余韻と、力演で熱くなったあの鼓動すら速まるような余韻とが、いっぺんにやってきたような。心底からの感動をわたしは覚えていた。
こんなに楽しいんだ、デート。そりゃ世の女性は熱を上げるわけですよ。ですよ……ですよ…………。
……ハッ。
おいおいおい、そこのガール。ちょっと待とうか。今日のど頭のことをちょいと思い出してみな?
ユーのユルい脳みそでも、忘れちゃなんないこたぁなかったかい?
ユーはホスト、ヒーはゲストじゃなかったのかい?
……わ、わたしばっかり楽しんどるやんけ!
「あ、あわわわわ」
「どうした。鳩が豆鉄砲食らって自由落下してきたあげく脳天に直撃して泡吹いてしまったカニみたいな顔して」
たとえがなげぇよ、主体が鳩なのかカニなのかわかりづらいよ……なんてツッコむような余裕もなかった。
あわわわわ、どうしたもんだ。先輩楽しますつもりが、わたしばっか楽しんでる。いまからでも先輩を楽しませないと。楽しませないと。
ここにきて、朝の課題にぶち当たる。
わたしは先輩のことをあまり知らない。だから、どうやって楽しませればいいか、わからない。
でも、わたしと先輩の間には、有力なツールがある。わたしがわからないときはどうすればいいか。先輩に訊けばいいのだ。それが、わたしと先輩の関係なのだ。
「せ、先輩」
「なんだ」
いつもどおりな無愛想な返答。ただ、ちょっと面食らったような顔をしている。
「わ、わたしばっかり貰ったりしてちゃ悪いですし、先輩、何か欲しい物はありませんか? わたし、奮発してちょっとくらいなら高いものでもプレゼントしますよ!」
「プレゼント交換って、クリスマス会じゃないんだから」
そんな風にするりと避けてしまう先輩。
「せっかくのデートのお誘いだから、プレゼントでも一つと思っただけなんだ。そんな、悪いだとか気にしなくていい」
「そーいうわけにもいきませんよ。今日は先輩のためにわたし、なんでも付き合っちゃおうって、そう決めてたんですから」
気づいたら自分の楽しみばっかりになっていた。だって、楽しかったんだもん。朝も昼も美味しいもの食べて、一緒にいろいろ見て回って。本当に楽しかったし。仕方ないじゃん。
でも、それだけでおしまいじゃあ花の乙女の沽券に関わるよね。与えてもらうだけなら観葉植物にだってできる。わたしはそんな太陽光も水も酸素も二酸化炭素もクレクレな植物系女子ではないのだ。人を楽しませる花なのだ。
「プレゼントでないなら、何か頼みごととか、それこそ何かに付き合うってのもイケますよ。ホントに、きらめき公園にだって付き合っちゃいますよ」
冗談めかした、しかし本心からの言葉である。
わたしは先輩に喜んでもらいたいんだ。楽しんでもらいたいんだ。先輩がわたしにしてくれたように。
「そうか」
わたしの言葉の勢いに気圧されたように、わたしが身を乗り出した分だけ引いていた先輩は、そのときふと、真面目な表情を見せた。そして、考え深い顔でうなずいたのだ。
「なら、今度の土曜は空いてるか?」
「オッケーです。空いてます」
わたしが即答でうなずくと、先輩はうなずき返してくれた。
「毎週で悪いが、ちょっと付き合ってもらいたいんだ」
「了解ですよ」
デートのお誘いならどんとこい。合点承知の助である。
その後はまたカラオケに行って(我ながら行動半径が狭い狭い)、今日は普通にわたしも先輩と一緒に歌った。あはは、先輩、そんなに警戒しなくたっていいですよ。今日は普通に歌います。
先輩も「……普通だな」とちょっと失礼な感想を漏らしてしまうほど、わたしの歌は普通である。ビブラートもコブシもズリ上げズリ下げもない、メロディをきちんと歌う歌唱法だ。
ただ、選曲がね。あはは。
先輩がきっちり流行歌を入力する一方で、わたしの「上を向いて歩こう」「愛燦々」「お祭りサンバ」「さとうきび畑」なんかが間に挟まってるのを見て、先輩もさすがに笑っていた。レパに偏りがあってすいません。
あ、でも、先輩には「さとうきび畑」を誉めてもらえました。ちょっとね、部で歌う機会があったからいろいろ勉強して、思い入れのある曲だったんだ。思わず熱唱しちゃったよ。超長い曲なのに、最後までお付き合いいただいてありがとうございます。
カラオケものんびりと、午後を目いっぱい使っていろいろ話しながら歌ったり盛り上がったりしんみりしたりして、出てみたらもう夕方。
楽しい一日だったな。本当に。そんな思いで一つ、大きく伸びをする。
「行き当たりばったりだったが、楽しかったな」
「そうですね」
先輩も楽しんでくれたのなら、嬉しいかぎりだ。独りよがりの楽しみなんていらない。そんなのデートじゃないもんね。
あはは、デート初心者のわたしがナニ語っちゃってるんだって話だけどね。
「今度の土曜の件についてはまた話すよ。来週も古典部、来てくれるんだったよな?」
「ばっちり毎日行きますよ。朝一からでしたっけ?」
「そこまで頑張らない。午後からでいいだろ? それとも弁当持参で根詰めてみるか?」
「それでも悪くないですよ。でも、やっぱり昼からがいいですね」
せっかくの夏休みだから、ゆっくり寝たいしね。
先輩は「なんなら君も一つ、話を受け持ってみるか?」なんて冗談めかして言ってくる。あはは、まだ荷が重いですかねー。
先輩の気安い態度が心地よくて、わたしはとても自然に笑い返している。
「あ、でも、先輩のお弁当が見られないのは、ちょっと残念ですけどね」
「ああ、なんだったら何か、軽食くらい持ってこようか?」
「おお、良いんですか? それならわたしも、何か作って持ってきちゃいますよ」
わたしは料理経験の乏しい低女子力女子(なんだこの表現)なんだけど、お菓子の類はまあまあ作れる。いや、わたしの包丁捌きって危なっかしいみたいでさ、料理は母がストップかけてましてね。今度ちゃんと教えるからやめろって。それで、お菓子ばっかり作ってるんですよ。やる気ないわけじゃないんだよ? 自分で作ったら、出費しなくて済むしね。
ええと、それはいいんだ、部活の話だった。
「先輩がジャム作ってくれるなら、わたしスコーン焼いて持って行きますよ」
「ああ、良いな。なら月曜はそうしようか。今度はレモンマーマレードでも用意するよ」
ジャブで女子力の高さを見せつけるのはやめましょう。人によっては致命傷です。先輩の幅広さは底なしやで……。
「期待してます。わたしも気合い入れてスコーン焼きますよ!」
「大丈夫か? なんならレシピ紹介しようか?」
「むむ、先輩はわたしの腕前をナメてかかってるようですね。その喧嘩、買いますよ」
「ああ、すまん。さすがに言い過ぎか」
「でもお願いします」
「お願いするのか」
あはは、わたしってば、こだわりないもんだから。こだわりありそうな先輩の紹介レシピには、わたし、興味ありますよー。
のんびりとそんな掛け合いをしながら、夕日がわき道から差し込む商店街を歩く。アーケードの電灯が点いて、歩く人ももう帰ろうとしているかのような、そんな雰囲気がどことなく漂っている。
名残惜しいけど、これで今日はもうおしまいかな、と。そう思っているわたしの目に、一軒の店が映り込んだ。
「あ」
「どうかしたか?」
先輩がわたしの視線を追って、納得したように頷いた。
「ああ、今日は行くか?」
「そうですね」
今日の流れはとてもいいから、先輩にはお付き合い願って、前のことを洗い流そうか。あの日以来、この道を通るのさえ避けていたんだ。
あの日をダメにしてしまった楽譜屋に、わたしは先輩と連れだって向かったのだった。
うちの街の楽譜屋は、よくあるヤマハだとかカワイだとかの企業系の店舗ではなくて、本当に楽譜専門店である。ピアノとか置いてないし、ピアノ教室とかも開いてない。あ、でも、ご近所のピアノ教室のチラシなんかは置いてあるんだけどね。
個人経営の本屋(最近はめっきり少なくなりましたね)に毛が生えた程度の敷地に、棚・スペース・棚・スペース・棚みたいな均等な距離を保ちながら、ものすごくたくさんの楽譜が置かれている。
こんな楽譜屋があることからもわかるとおり、うちの地域はわりと音楽的に盛んだ。うちの学校からして、軽音も頑張ってるし、吹奏楽もコンクールの地区大会では結構良い線行ってるって聞いてる。合唱部は言うまでもなく、全国でも有数の規模である。市内にも複数の一般合唱団がある。需要があるのだ。
だから、店の入り口にはたくさんのチラシが貼られている。いろいろな演奏会がある。合唱の演奏会で手に入るチラシは同じ合唱の演奏会のものがほとんどだから、こういう楽譜屋のチラシだとか、ホールのチラシだとかは別ジャンルも覗けて楽しいものである。高いから行けないけどね。(※6)
それで。一呼吸つけて、一点を見る。
まだ、気持ちの整理がついたわけじゃないんだけど、それでも、セルリアンブルーの背景で描かれたうちの学校のサマコンのチラシを、わたしは心揺さぶられずに見られた。
気持ちの問題は大事だ。前もって、そこにあるってわかってるから。こうやってちゃんと向かい合える。こうやって緊張するのも、演奏会のある今度の土曜までなんだけど、向かい合えたのは、わたしにとっては大きなことだった。
っていうか、初めてうちの選曲見たんだけど、わたしが決めた曲のままなんだな。ビックリである。いや、後から変更なんてしでかしたら、チラシやパンフに上から訂正シール貼る地獄が待ってるし、相当わたしが恨まれてないかぎり変更はないとは思うけど。
ちょっとばかし凝視しちゃったね。入店しちゃおうか。先輩待たせちゃってるしね。
入り口を通れば、そこには別世界が広がっているかのような、むわっと広がる古~い本の香り。くらくらするくらいだ。
同じような印象を持ったか、先輩が鋭い指摘をくれる。
「これ、古本屋の香りに近いな」
「あ、そうですね。新しい楽譜のインクの香りと、古くさい本が醸し出す古本の香りのミックスですから、たぶんちょっと違いますけど」
先輩を連れて合唱楽譜のコーナーへ。
先輩に話したあの曲がこれだとか、いろいろ見せて楽しむ。
「さすがに、楽譜を見ただけではよくわからんな」
「わたしもぱっと見でわかるほどレベル高くないですよ。でもですね」
そういうことじゃないんだよなあ。
「ここにあるのは設計図なんです。あるいは地図なんですよ」
「と言うと?」
「どんな演奏になるか、どんな音が鳴るか、どんな感情を伝えてくれるか、そこにどんな世界があるか……そのすべてがここに詰まっている。わくわくしませんか? 宝の地図なんですよ、これ」
「ああ、そうか。そういう見方をするのか」
先輩はうなずいて、しげしげと手元の楽譜をのぞき込んだ。
もっと言うと、楽譜は曲の設計図ってだけじゃない。他にも大事なことがいろいろ書かれている。
前書きには作者の意図が書かれている。古典を扱うときは、特にこの前書きが重要になる。古典なら時代背景や楽譜化するに当たっての論点(※7)が、現代の作品なら作曲家本人による解説が書かれている重要ポイントである。
末尾に付記される詩の全文も大事だ。曲に採用されなかった部分も含めて、原詩はきちんと読み込む必要がある。
誰が言ったか、「曲を解釈することを曲解という」なんてジョークもあるんだけど、こうした周辺情報を踏まえて演奏を行う必要があるのだから、人によって演奏が大きく変わるのは当然のことである。いろいろな音楽記号があっても、最後の最後には指揮者の音楽センスによって歌が作られるものだしね。
曲解と言われようが、知ったことかって話だよ。
「さすが、趣味の話となると熱が入るな」
「あはは、ちゃんと聞いてくれる人が相手だと、嬉しくって口が回るみたいです」
なんだろう。前の合唱ざんまいと全然違うな。
前は夕方、合唱の話ばかりでちょっと寂しくなっちゃってたのに、いまは合唱の話までできて楽しい。全然違うな。同じなのに。
同じなのに、違う。一緒にいるのは同じ先輩。じゃあ違うのは、わたしなのかな? なら、何が違うんだろうね?
先輩にいろいろ紹介しながら、わたしも新刊に「へー」となっていて。でもその心の底ではそんな疑問が紐解かれようとしていた。
このままいったら、解けたはずなんですけど。えーと。
す、すいません、急激な青木まり子現象(※8)がわたしを襲ったんです。
「……あ、先輩、ちょっとすいません」
「どうしたんだ?」
千原英喜先生の楽譜について熱く語っていたわたしが、急に黙り込んでその発言なもんだから、先輩もビックリしている。
あ、あのー、言いづらいんですけど。
「あの、えっと、ちょっとワールドカップに行ってきます」
「……ああ、そういう意味か。別にネタ縛りじゃないんだから、もう普通にお手洗いに行ってくるでいいんじゃないか?」
乙女の恥じらいを解さない先輩にわたしはワールドカップっぽくブーイングを投げかけてから、足早に去った。
やはり、カラオケで飲み過ぎたか……。どうも貧乏症なものでして、ついつい飲み過ぎちゃうんですよね。しかもドリンクバー近くの部屋になったもんだから、がっぱがっぱ飲んじゃったよ。
いやあ、参った参ったと手を洗っていたわたしは、鏡の向こうにいるわたしに、ふと問いかけた。
――さっきの問いかけ、答え、出たかな?
――答えは最初からそこにあるよ。
おいこら、禅問答みたいな答えを返すな。さては貴様、わたしのフリをした先輩だな。ノゾキで逮捕してくれる。
鏡に向かってべーして、あと、地味に先輩からの贈り物に初仕事をさせてから(ありがたや、ありがたや)、わたしが元の場所に戻ってみると。
突如、スニーキングミッションが発生した。
およよ……先輩が誰かと話してはる。し、しかも女の人やないか。
デート中に他の女と話すとは何事かと憤慨するわたし。
その一方で、心のどこかで生まれた好奇心が、急速に膨らんだ。
そう言えば、わたし、先輩の交友関係って全然知らないんだよね。いや、学年も違うし、普通そんなもんだろうけどさ。これはちょっと観察したい事態である。いろいろな意味で。
わたしから見て、先輩がこっちを向いている。ただ、相手の女性(こちらは背を向けているわけだ)の身長が高くって、先輩はこっちに気づいてないっぽい。
うわー、なにあの人、身長高ーい。超うらやましい。わたしと同じパンツルックなのに、すらりと決まってるよ。やべえ、これは嫉妬心が爆発する。ストレートロングの黒髪なんて手入れのめんどくさそうな髪型なのに、九州豚骨ラーメンかと言わんばかりに細く綺麗だ。
九州豚骨はたとえが悪いか。でもね、なんか悔しいじゃん、絹糸みたいな、とかそんなたとえ。わたしなんて癖っ毛だから、ブロー欠かせないのに。むしろ余裕を持って朝シャンしたいくらいだったのに、今日はできなかったし。ちっくしょう、合唱部の先代部長がそんな人だったんだよな。さんざんかわいがってくれたから、あの人にはそんな文句言わなかったけど、いっつもうらやましかったんだよ。やばい、あの頃の押し隠してた嫉妬心、思い出しちゃった。
めらめら湧いている嫉妬心が、少しだけ顔を覗かせた寂しさをごまかしてくれた。強い疎外感を押し隠してくれた。
先輩、親しげに話してるんだ。あれこれ訊いてるのかな? 掠れた声でいろいろ言う女の人に、何度も頷いている。
グッと感情が滲んだ。まずい、これは。
いろいろな意味で顔を伏せようとしたそのとき。
……お、おおう。
わたしは絶句した。いや、絶句って、別に何も喋っちゃいないけど、なんかすごいの見させられまして。絶句だったんですよ。
先輩ががっつりゲンコツ落とされたのだ。
もはやナックルと言っていい一撃だった。
肩を怒らせてそのまま立ち去る女性。結局顔を見られなかったけど、美人感がすごい。男勝りな美人か。くそう。絶対男受けするだろ。下の兄が「ライトノベルの定番ヒロイン」に挙げてたしさ。
……まあ、先輩がガチで痛がってるので、ええと、なんかそんな感じに見ていいのか全然わかんなくなったんだけどさ。暴力系ヒロインって先輩の好みじゃないはずだし。っていうか、う、うずくまってはるで。ほんまにブン殴られとるやないか。
どうしたもんだか一瞬悩んだけど、わたしはいま来た風を装って駆け寄った。
「ど、どうしたんですか先輩。な、なんですかそれ、ちょっと季節外れなカエルの物真似ですか」
「どんな特殊趣味だ」
先輩が立ち上がって顔を上げた。あ、あわわ、涙目じゃないですか。どんだけ殴られてるんですか。
「いや、ちょっとな。理不尽なようで、結局自分が悪い感じの出来事があっただけだから気にするな」
「は、はあ」
玉虫色の回答だったが、目元を拭う先輩相手に難詰できないわたしだった。
こ、ここは、上の方の棚から楽譜を取ろうとして失敗してド頭に直撃したという設定で解することにしよう。
最後の最後で妙なことがあったが、まあ、あの人はたぶん従姉妹のお姉さんか何か……あ、従姉妹は四親等だからまずいな、若い叔母さんか何かだったということで処理しよう。これなら安心である。
気にし過ぎても仕方ない。訊くタイミング、完全に逸しちゃったしさ。後からちくちく訊くのもなんかイヤな女感がバリバリで、イヤだよ。せっかく楽しいデートだったんだからさ。
そうして、わたしは複雑な感情に蓋をすることにした。
にしても、なんか、不思議とトイレに行くたびに何かが起こる日だったなあ。
わたしによる、ネタ・元ネタ解説
※5
家電でデートに誘うという前時代的な演出は仕方ないにしても(初代をやってるわたしと下の兄が悪い)、一人に電話したら休日がつぶれるってのはなんなんでしょうね。
っていうか、デートの約束は平日にしとけよ。休日に家電にかけてつながるのは、わたしみたいなイケてない干物女だけですよ。
※6
合唱の演奏会は平均して二千円くらい。高校や大学の合唱団なら入場無料もザラである。
有名団体なら五千円とかすることもあるけど、万を超えることはまずない、リーズナブルなジャンルなのである。
この感覚では、とてもじゃないがオペラや有名ピアニストの演奏会なんて行けやしない。合唱オタクが合唱に(音楽的に)引きこもってしまう一因である。
※7
現代と違って、古典の場合、決定稿は存在しない。
出版社は各種の写譜や出版譜から楽譜を作り出すのである。議論の余地がある箇所などは、こうした前書きで触れられていたりする。
たとえばヴィヴァルディなんてほとんどのオリジナル譜をご本人が捨てちゃってるもんだから、有名な「四季」にしたところで、昔の楽譜にはアヤシいところが結構あるのだとか。
※8
本屋に行くと、ちょっと化粧室に行きたくなっちゃう現象をこんな言い方をするらしい。
わたし、こんな言葉どこで知ったんだろう……?




