番外2.今日 (後編)
【文字数】
後編は15000字ほど
【作者コメント】
3は、前回述べたとおり、完全なオタクトークです。ごめんなさい。スルーして問題ありません。
4はストーリー進行に関わってきますので、良ければどうぞ。
【目次】
3.昨今の合唱業界についてのあれやこれや
4.締めくくり
3.
すっかりグロッキーな先輩を連れて、街に繰り出すわたし。
「さすがに、疲れたな……」
「すいません、思った以上に張り切っちゃいました」
これはもう謝るしかない。正午にして、先輩はもう疲労困憊である。
「ついつい延長しちゃいましたけど、いやあ、久々ですっごく楽しかったです。先輩、ありがとうございました」
付き合ってくれて本当にありがたい。なんだろうか、指導欲のような何かがわたしの中にあったらしい。
先輩とは定期的に行ってみたいものである。カラオケも良いものだ。
先輩は微妙な顔をしていたが(ぼそりと「いや、真っ昼間からする話題じゃないな」とひとりごとを言っていたが、意味不明である)、話を続けた。
「それにしても、カラオケだというのに、結局君は歌わなかったな」
「わたし、カラオケ興味ないですし」
「ないのか?」
「ないです」
これっぽっちもないです。
「歌うのは好きですけど、わたし、合唱がしたいんで。そもそもソロにもあんまり興味ないですし」
「それはまた極端な……」
「それに、わたし、楽譜ないと歌えませんし」
正直、そういった意味では楽譜なしでガンガン歌える皆さんを本気で尊敬している。スゲェと。わたしは楽譜がないとキツい。覚えようと流行りの曲を聴いてるときも、「ここって八分休符入ってんの?」とか気になってくる。
「しかも、邦楽は難しいメロディが多いし、アップテンポな曲ばっかりだし、音の跳躍多いし、技術的にはすっごく難しいんですよ。苦手です」
「なら、それこそスローバラードなら大丈夫なんじゃないか?」
「嫌ですよ、ゆっくりテンポでメロディばっかりなんて。激ムズじゃないですか。パートソロ……ソプラノのみんなだけで歌うってだけでも緊張するのに、ましてやずっとソロなんて無理です。しかもスローとか、声震えちゃいますよ」
ソプラノにあるまじき発想だろうが、わたしは副旋律(ハモリ)の方が好きだ。四声がピタッとハマったときが一番楽しい。主旋律(メロディ)は、まあ、ほどほどで結構です。
それに、「音程外さないかな」「テンポもたってないかな」「フレージングはこれで大丈夫かな」「っていうかブレス記号とかないけどどこで息吸うのかな」とか考え始めると歌えなくなっちゃうんだよね。
合唱してる人って、わりとカラオケは苦手だと思う。メロディに限らず、一曲ずっと歌い続けることってないから、結構疲れるしね。
「すると、カラオケは嫌いなのか?」
「いや、嫌いではないですけど。歌うなら、合唱的なお約束なんてそこそこで歌いますよ。でも、なんか、クラスの子と行ったりすると変に期待されたりすることってあるじゃないですか」
っていうか、実際あったんだよね。合唱部なんだから上手いんでしょ、的な感じでさ。
でも、わたし合唱以外の曲はからっきしだし。合唱って音域狭いから、超高音みたいな芸当もないし(実際、軽音楽部のみなさんの方が音域は広いだろう)。素人受けするような声作りはしてないし。むしろ、全体に溶け込むような癖のない声が好まれるから、コブシ効かせたりビブラートかけたりするのは厳禁だし。そもそも歌手に声とか癖なんかを寄せるつもりもないし。
合唱人はカラオケが下手だと言ってもいい。下手だから苦手。合唱あるあるである。いや、もちろん人によるんですけどね。
「プロレベルなら発声も切り替えられるでしょうし、大丈夫なんでしょうけど。わたし、アマチュアですからね」
「小器用にはできないってわけか」
「そうですね。でも、今日はすっっごく楽しかったです! これ、良いですね。またやりましょう、なんならまた来週にでも!」
「……まあ、たまに付き合うくらいなら」
平日夜九時頃の電車に乗ってるお父さん方(※9)みたいな顔をしてるのに、それでも拒否しない先輩は本当に素敵である。
い、いや、今度はもうちょい手加減しますんで……っていうか、あれでもだいぶ手加減してたんですけど……。
先輩のお店は、駅前歩いてすぐの雑居ビル(って先輩がそんな風に言ってたんだけど、本当にいろいろなお店が入っているビルだった)の二階にあった。バリアフリーガン無視の階段オンリーであった。
階段の急勾配っぷりにわたしの目は点になった。
「よくこれでお客さん入りますね……」
「改修計画はあるらしいんだが、そこらへんはオーナーさん次第だな。エレベーターがあるに越したことはないんだが」
階段を上りつつ、平然と話をする先輩。慣れてるなあ。わたし、テンションで保ってるけど、まだ一昨日の不調を引きずってるところがあるんで、こういうのは結構キツいよ。
「大丈夫か? ああ、今日はこう言うべきか? 手をお貸しましょうか、お嬢さん?」
「お嬢様感が出てるなら嬉しいですねー……ちょっと借りますよー……」
ひいこら言いながら上るわたしに、ぶりっ子をするような余裕などなかった。先輩、ネタ振りはいいんですけど、いまはちょっと無理です。
後ろ手で案外力強く引き上げてくれる先輩を頼りながら(正直意外だけど、たぶんバイトで鍛えられてるんだろうね。やるじゃないか先輩)、程なく二階に到着。
このビル、構造的には普通のマンションっぽくって、テナントが入ってることは扉に貼ってある看板でわかるけど、ちょっと入るのにためらっちゃう感じだ。
「ここが先輩の働いてるバイト先ですか」
ゴクリ、とどこぞのアスキーアートのような顔で(※10)わたしは生唾を飲んでみた。雰囲気作りである。
「そんな秘境探検みたいな顔をされても困るんだが」
「似たようなもんですよ。バーなんて初体験ですし」
「そんなもんか」
先輩は首を傾げたが、間もなく扉を開けた。なんのためらいもない。おいおい、こっちが作った雰囲気を察してくれよ。
「入ろうか」
「はあ」
ちょっと弛緩した空気を醸し出しつつ店に入るわたし。入ったら、そんな間抜けたこと思ってられなかった。おお、雰囲気あるじゃん。
店内はずいぶん広い。何畳とかわかんないんだけど、どんなもんだろ、教室一個半くらいはあるんじゃないかな? 入って右手すぐにカウンター、左手に丸テーブルの立ち飲みスペース。奥手にも丸テーブルが見えていて、こっちは座椅子あり。左に見切れてるけど、結構広そうなんだよな。逆L字型、それも横棒が太い感じと見た。もしくは、反転した四分音符とでも言おうか。
「あれ? 結構がっつりバーなんですね」
カウンター奥の棚には横文字ばかりのお酒が立ち並び、逆さに吊されたグラスが窓のない店内で暖色の灯りを四方八方へ照り返している。キラキラしていてとっても綺麗。
どう見てもバーです。本当にありがとうございました。
「先輩、前に食事がメインって言ってたと思うんですけど」
「実際、出るからな。つまみじゃなくて食事だろ、みたいな注文。だから調理のバイトが要るわけだが」
うーむ。店員が言うんだから、間違いないんだろうけど。
先輩がお店の方に一言声をかけ(次いで、わたしも目礼した)、奥へとエスコートしてくれる。わざわざどうも。こういう仕草もそつなくこなすんだから、先輩は謎の多い人である。
奥まで来てみると、ちょっと納得。広いぞこれ。キャパどれくらいだろ、円卓がひいふうみい……なんか照明も暗めだし、めまいがしてきた、余裕で十以上はあるな。正午前で、お客さんはまだそこそこだ。
奥まで来てわかったけど、プロジェクター的な映像機器が奥の奥にあり、白黒映画が流されている。チャップリンの喜劇、なのかな?
円卓上の小振りなキャンドルといい、よく磨かれてるっぽい濃茶の床板といい、雰囲気のあるお店だこと。学生のわたしにはハードル高いなあ。
「うーん。こうして見てみると、先輩のお店、確かにレストランっぽいですね。隠れ家系の」
「隠れ家ね。それは正しいよ、わざわざ来てもらう類の店だから」
確かに、あの階段を上ってきてもらわないといけないわけだし、ふらっと入る店ではないよなあ。口コミ前提、人気がないとやってられない類の立地だ。
でも、前に先輩、予約の関係で早入りしてたし、人気はあるのだろうね。実際。
感心しながら、先輩に椅子を引いてもらっての着席。「ありがとう」とほほえみながら、心の中でツッコんだ。だから、どうしてそんな仕草に慣れているのか。執事かあんたは。お嬢様感が出そうで、今日のわたしのぶりっ子路線にはあってるんだけどさ。
「こういうとこで、がやがやオタクトークするのはハードル高いですよ、先輩……」
「気にするな。今日の主役は君だ、騒ぎすぎなければ自由にすればいい」
「こんなアウェイで本領発揮できますかね……」
ラグジュアリーな空間にやや怯むわたし。先輩はどこ吹く風。この人、ホント基本、ポーカーフェイスだよなあ。
「なに、話し始めたら変わるさ。一つ何か話してみるといい」
「あれ、注文は?」
「決めてある」
ちょ、フィッシュオンリーなの?(※11)
選ぶ楽しみを奪うだなんて、先輩ったら鬼畜である。
「コース料理と思ってくれればいい」
「コース……? 先輩、つかぬことをお聞きしますが、今日のご予算はいかほどに……?」
「気にするな」
気にするよ。気になって話もできないよ!
話もできないとか言ったけど、ごめん、あれ嘘でした。
「まあ、結局、合唱が好きだとひとくくりにしても、それぞれで趣味嗜好には差があるわけですから。なかなか話の合う人には会えないわけですよ」
「ネットでもか?」
「そうですね。いないわけじゃないですけど、まさかオフ会するわけにもいかないですし」
合間にサラダをむしゃむしゃしながら、わたしはうなずいた。
昨今は物騒な社会情勢なので、なかなかネットで知り合って実際に会うってのはハードルが高い。たいがい合唱オタクって男性だしね。
せめて、一緒に会いに行ってくれる男友達でもいれば別だろうけど、そんな友達がいるならその友達と話せばいいわけで。なんか、服屋に着ていく服がない、みたいな話になってきたな。(※12)
「それに、わたしはわりとライトなオタクですから」
「ライト……? 君が……?」
「ライトですよ。持ってるCDだって三桁ぽっちですし」
四桁いかないオタクが偉そうな口たたくのは、ちゃんちゃらおかしいだろう。クラシックと違ってボックス販売が多くない業界だから、まあ、ちょっとしょうがないところもあるんだけど。
でも、だからって三桁はね。学生とはいえ、情けない。新譜追いきれてないの丸出しである。
「そのCDにも偏りがあるわけで、難しいもんですよ。これは押さえておけ、みたいな名盤って、合唱じゃ珍しいですし。共通の話題が持ちづらいんですよね」
「バッハ演奏ならリヒター、みたいな古典はあるんじゃないか?」
「ああ、よくご存じで。もちろん古典はありますけど、じゃあ二十世紀以降の曲で、ってなると、CDがあっただけでも御の字って曲がほとんどですよ」
「CDもないんだな」
わたしは肩をすくめた。
そりゃ、合唱団が新曲を委嘱初演しても、それCDになんなかったらそれまでだしね。特定アーティストの曲となる邦楽とは違うのだ。後々別の団体の演奏がCD化されればいいんだけど、そんなに都合のいいことがそうそうあるわけがない。
それに、まず楽譜として出版されるかどうかも試されるのだ。初演演奏会の数年後に発刊とかざらな業界なんだ。しかも、発刊されてもすぐにODP(五部以上からの受注生産)になるんだから、世の中厳しいもんだよね。
そして何より、そんな日本ですら楽譜の出版事情は良好だというのだ。
業界は世界的に狭い。地域によっては、わざわざ自分の国んとこの作曲家の楽譜を日本から買っているようなとこもあるとかないとか。
「嘘のような本当の話だな」
「マイナージャンルってどこもこんなもんでしょうね。細々ですよ。合唱人口はそこそこですけど、コアな消費者であるオタクなんて一握りも良いとこです」
自分が歌う曲以外、CDを持ってないってのもよくある話ではないだろうか。
クラシックからロマン派にかけての有名曲、ベートーヴェンの第九だとか、モツレク(モーツァルトのレクイエム)だとか、そのへんしか歌わない人は全国にごまんとおられることだろう。楽譜屋の販売ランキングを見てもわかる。
その辺の事情はわかるけど、CD、第九ばっかあんなに新譜出すのなら、もうちょっとマイナーな曲も掘り起こしてほしいなあと切に願うオタクのわたしなのだった。
「そういや、おじさんの友人に第九ばっかり何十枚も集めてる人がいるって聞いたな」
「第九ばっかり……」
そのお金を、他の作曲家にも分けてあげてください。お願いします。
ちなみに、わたし、あの曲は第三楽章までの方が好きなんだよね。ぶっちゃけ第四楽章ってお祭り騒ぎ、どんちゃん騒ぎだし。その割に技術的に見るとえげつない曲なんだよね。終盤のPresto(きわめて早く)なんて、もうね、どないせいっちゅうねん。歌えるかあんなもん。(※13)
「とにかく、合唱はCD販売される曲が一握りなんです。わたしは中でも偏った買い方しかしてないライトなオタクなんですよね」
「どんな風に偏ってるんだ?」
「快楽主義者です」
ぎょっとした目で見られてから、表現が悪かったことに気がつくわたし。
「あ、えっと、要は聴いて楽しいわかりやすい曲が好きってことです」
「……ああ、なんだ。いったい何を言い出したかとビックリしたぞ」
「すいません……」
いや、そういうコピーを見たもんで。わかりやすいかなあと。(※14)
「まあ、要は読書と一緒なんですよ。読書家と一言で言っても、どんな作家を読んでるかで全然違った人種になるじゃないですか。ケータイ小説ばかりを読む読書家が、純文ばかり読んでる人と同じ分類になるわけないですし」
「そうだな。君みたいに、読書家にもマンガに偏見があるような人もいるしな」(※15)
「昔のことを言わないでくださいよ……」
いまのわたしは少年マンガもイケる口なのだから許してもらいたい。先輩の紹介ばっかなもんだから、最近は全然少女系のコミックなんて読んでないんだけど。
「わたしの感覚によりますけど、学生さんなら、日本人の作曲家の曲ばっかり聴いてる人が多いでしょうね。自分で歌うのもそういうものだし」
「日本人の作曲家か。イメージ湧かないな……ああ、違った、変なイメージしか湧かないな」
「ちょっと待った、それって千原先生の話してませんよね?」
「してないしてない」
ならいいですけど。ちょっと飛び道具系の曲が多いだけで(「南京玉簾」とか、「ラプソディ・イン・チカマツ」とか)、合唱界では超人気のある正統派の作曲家なのだ。
骨太ながら甘やかなハーモニーと、古典的な題材への興味をそそるアプローチ。パフォーマンス性の高い現代手法。民俗性。どれを取っても、一級の作曲家である。
「君がさんざん教えてくれたから知ってるよ。確か、仕事も早いんだったか」
「そうですね。聞くところによると、かなり早い段階で第一稿を出してくれて、ちょくちょく練習に来てくれた上で、そこでの演奏を聴いて微修正を加えていくスタイルの方らしいんですけど」
出版譜も微修正されていたりする。
たとえば「どちりなきりしたん」という曲がある。豊臣秀吉により禁教令が出される以前の、日本で栄えていたキリスト教をテーマに華やかに歌った名曲であるが(エピローグ的に収録された、隠れキリシタンたちの受難を偲ばせる終曲「Ave verum corpus」などはジーンと胸にしみ入る名曲である)、初演版の演奏がプライベート盤で出ていて、出版譜通りの全集版と微妙に違う部分を比べることができる。
この「どちりな~」は本当に微修正なんだけど、先輩の着うたにしている「ラプソディー・イン・チカマツ」の弐の段なんて、まるまる一節書き加えられていたりする。「Dixit Dominus」なんてまんまCDに初演版と出版版が収録されてるから、聞き比べてみるのも楽しいものだ。
初演の後に修正されるとか、なんかこういうのに気づけると、本当に同時代を生きてるんだなと実感できてとても楽しいところである。
まあ、オタクの面目躍如もはなはだしいところだが。
「この千原先生に限らず、いろいろな作曲家先生がいますよ。先輩はお知りかなあ、先だって亡くなられた三善晃さんや林光さんも合唱界では有名な方ですよ」
「ん、三善晃さんはニュースで聞いた気がする」
「日本合唱界の至宝のような人ですよ、三善さんは。わたしは世代じゃないんで、いまいち印象が強くないんですけど、首都圏の超有名合唱団がぽんぽんCD出してますしね」
演奏ごとに聞き比べができるような人って、日本にはこの方しかおられないんじゃないかなあ。千原先生も人気あるから、ちょくちょくダブりもあるんだけどね。
三善さんの曲だと、近年なら「やさしさは愛じゃない」「木とともに、人とともに」あたりが著名だろうが(どちらも複数の録音がある)、そこまで好きかと問われると困る。良い曲だけど、初期作の「三つの叙情」や、あるいは「クレーの絵本第一集」や「地球へのバラード」なんかの方がノれる。「嫁ぐ娘に」なんかも、娘への思いがぎゅっと詰まった本当に良い曲だ。
この曲たちを同世代で歌えた皆さんにとっては、本当に忘れられない作曲家だろうね。
「他にも挙げるなら、東大出身という異色の作曲家・新実徳英さん、小難しい曲ばっかり書いててラジオの『現代の音楽』でパーソナリティを務めていた西村朗さん、男声合唱ファンでこの人を知らないヤツはモグリだって感じの多田武彦さん、アマチュア合唱団出身で音大芸大を出てないって逆に珍しい人気作曲家の信長貴富さん……」
「さすが、尽きないな」
「いや、まだまだいますけどね。どうでもいいあるあるネタですけど、合唱界では信長は名字です。名前じゃないです」
二十一世紀の合唱界において、信長さんの名前は外せない。中高大の学生合唱団にきわめて人気のある作曲家さんだ。案外実験的で小難しい感じの曲も書いてるんだけど(宮沢賢治の詩をテキストにした「春と修羅」とか)、キャッチーなメロディと四声すべてに配慮した書き方で人気のある人だ。
アルトなんて、下手したら組曲で一度もメロディがないなんてこともよくあるから、見せ場をきちんと作ってくれるこの人の曲はありがたいよね。
曲そのものも、音楽というよりは歌としての力が強くて、燃えるんだよね。メロディに力があるんだ。合唱団を歌わせる作曲家である。
他にも、一見キャッチーなくせに演奏難易度がやたら高い曲を書いてくれる木下牧子さん、ピアノ伴奏の曲では本人が出てこないと話にならない寺嶋陸也さん、コアな合唱ファンに受けるマニアックな路線とポップな曲調の路線がさまざまな層に受けている荻久保和明さん、日本的叙情を歌った曲ではタダタケ(多田武彦さん)と並び立つだろう鈴木憲夫さん、海外の権威ある賞を受賞したこともある指揮者としても評価の高い松下耕さん、コンクールでの人気がハンパない鈴木輝昭さん……。
押さえておくべき国内の作曲家なんて、いくらでもいる。
「……そんなに、いるのか? 細々なのに?」
「まだまだいますよ。尽きないので、ここで止めますけど」
話に出さなかった作曲家さん、ごめんなさい。思いついた順でした。
「わたしは海外の団体がメインターゲットなので、国内の新しい作曲家には鈍感な方ですし。世代じゃない作曲家にはうといです。本当にまだまだいますよ。いくらでもいます。それぞれの作曲家の曲について話し始めたら、日が暮れます」
「なるほど……そりゃ、一週間ブチ抜きなんて話になるな」
「実際聴いてもらおうってなると、とにかく時間が要りますし」
今日も聴いてもらおうと、クラシックな某携帯プレーヤーさんとイヤホンも持ってきてる。
あ、ちなみにわたしは携帯プレーヤー派でして、真面目なオーディオマニアの皆さんには叱られそうなんだけど、利便性が第一なんだよね。音質悪いってバッシングは馬耳東風しております。
「で、話を戻しますけど、学生さんはこういう作曲家さんの曲を歌って、CD買ったりしてるはずです。CD買うくらいハマってる人は、ですけど」
「なるほどね。同時代人を選ぶのは当然の心理だな」
「古典が良いと言われても、現代人の感覚に合うのは結局同じ現代人の音楽ですからね」
とは言っても、一つ注釈が必要である。
「でもですね、先輩」
「なんだ?」
「やっぱりこういう現代の作曲家の皆さんでも、名曲ってのはありまして、歌い継がれる、昔作られた曲ってのがあるんです。代表作って言うとわかりやすいかなあ」
「ああ、ライブだったら絶対に歌わなきゃファンが納得しない曲みたいなもんか」
「そうそう」
つまり、コンサートツアー中に何度、新聞の隅を確認するんだって話である。桜木町行き過ぎである。(※16)
「ちょっとメモってきたんですけど、えっと……たとえば、木下牧子さんの処女作『方舟』。大岡信さんの詩をテキストに取った、壮大な名曲ですね」
「なんだっけ、その人、確かキャッチーなのに難しい曲を書いた人だっけか」
「おお、一度聞いただけで覚えたんですか。そうですそうです。『キャッチーなのに難しい』の代表作である『夢見たものは……』は結婚式のために書かれたメロディックな本当に良い曲なんですけど、その後二人は離婚したってオチでよく知られてまして……じゃなかった」
先輩が興味深そうに聞いてくれてて、話が脱線しかけた。違う違う、「方舟」の話だ。
「ええと、この『方舟』は処女作であり、代表作で、いまでも演奏される曲なんですけど、1980年に委嘱初演された曲です。三十年以上経ってますね」
「ふむ。君のことだ、他にも例があるんだよな?」
「もちろん。鈴木憲夫さんの代表作、日本的叙情の極地と言っていい『永訣の朝』。おわかりかもですけど、宮沢賢治が亡くなった妹さんのことを詩にしたあの永訣の朝です」
「ああ、知ってるよ。切々と迫るような、良い詩だよな」
「良い詩ですよね。この合唱曲もよく演奏される曲ですが、初演は1978年です」
スマホを確認しながら述べていく。いやね、さすがに出版年までは覚えてないんですよ。てへり。
三善晃さんの「三つの叙情」は1962年。同年に書かれた「嫁ぐ娘に」もよく歌われる曲だ。多田武彦さんの「柳河風俗詩」は北原白秋の詩をテキストに取った名曲だが、これに至っては1954年。
「このへんに至っては、もう半世紀以上前ですね」
「同時代と言っていいか、ちょっとためらうな」
「少なくとも、わたしたちには同時代って実感はないですよね」
美空ひばりの名曲を聴く感覚に近いものがある。このへんはもう、古典と言っていいだろう。
「多作家で、いまでも多くの曲を書いておられる信長貴富さんの代表作『新しい歌』でも2000年、前世紀ですから、歌い継がれる曲というのは本当に限られます」
「最初に言っていたように、淘汰されるわけだな」
「あ、そうです。楽譜が出版されるか、CDになるか、演奏され続けるか、再発掘されるか……淘汰されるポイントはいくらでもあります」
信長さんの曲は多くCD化されているが、その楽譜は多くがODP(受注生産)となっている。昨今の、楽譜の在庫を抱え込むリスクを負えない出版事情は理解できるけど、やっぱりさびしいものがある。
たとえば、荻久保和明さんなんてわたし大好きなんだけど、ほとんどODPだもんなあ。長らく楽譜化されなかった「縄文」(詩が宗左近と聞けば、反応する人もいるかもしれない)も、結局ODPだし。日本版のレクイエムといっていい、壮大なスケールの名曲なんだけどな。
近年、さる指揮者の方が老人性痴呆症をテーマに取った感動的な名曲である「How old am I?」を取り上げてくれて、それで少しは人目に付いたと思うけど、あんまり最近の学生さんは知らない作曲家かもしれない。
荻久保さん、もっと歌ってくれよう。わたし、一度でいいから「やさしさの日」や「ゆうべ、海をみた」を実演で聴いてみたいんだよう。
「CDだって、売り切れればそれで終わりですから。基本的に再販はありえません。絶版しちゃえば、もうおしまいです」
「合唱に限らず、だな。少し前に話題になったような本が、棚にも置いてもらえない。どこの業界も厳しいもんだ」
「合唱人口は間違いなく先細りですから。しょうがない気もしますけどね」
「おや、そうなのか?」
そうなんですよね。
「いま、一応学生さんの話してるじゃないですか」
「ああ、さっきから君、自分の立場を忘れてるんじゃないか、という気もするんだが」
「わたし、基本、聴くのは一般合唱団……じゃなかった、社会人団体がメインですからね。まあ、それはいいんですよ」
わたしは一本指を立てて(このパクリ仕草にもいい加減慣れてきた)、説明を始める。
「まず、子供の数が単純に減ってます」
「まあ、それはそうか」
「演奏家にしても聴衆にしても、どっちも先細りですよね。しかも、趣味が多様化して、部活に入らない学生は昔以上に多いでしょうから、先細りも良いとこですよ」
全盛期のグリークラブ(大学の男声合唱団が好んで付ける名だ)なんて、どこもかしこも百人と部員がいたらしい。でも、いまは四声を成立させるのにも四苦八苦、みたいなグリーも少なくない。
いや、グリーには――学生合唱団には限らない。一般団体だって先行きは明るくない。
経済動向について、わたし全然詳しくないんだけど、金食い虫の趣味に金かけてられない社会人も少なくないだろうし、職場団体なんて一時代の斜陽みたいな存在だ。斜陽は言い過ぎか。しかし、全日本合唱コンクールで区分が整理され、職場団体の枠が消えた事実は看過しがたい。
結局、人がたくさんいて活力があった時代に、うたごえ運動などに乗って流行した一時代がある合唱は、いまはもう時代遅れのジャンルに過ぎないのだろうね。世間的には。
と、ここで先輩は疑問を差し挟んだ。
「しかし、シルバーコーラスと言ったか? 中高年の世代については、少なくとも人数は入ってくるんじゃないか? 団塊の世代が定年退職を迎える話は、だいぶ前から話題になってるが」
「おー、先輩、本当にいろいろ知ってますね」
シルバーコーラスと来ましたか。わたしも滅多に使わないような単語である。
「もちろん、そちらで期待できるものはあるでしょう。ただ、わたしみたいなオタク的には微妙ですね」
「微妙なんだ」
「たぶんですけど、そういう方々って『あの有名な第九を一度歌ってみたい』みたいな感覚で歌ったり、一年に一度の演奏会……わたしはそういうの、『発表会』って分けて考えちゃうんですけど、発表会で歌うのが楽しみだったり、そもそも歌うより仲間と練習でわいわいするのが楽しみな人もいると思うんですよね」
それが悪いって言ってるんじゃない。それは、絶対に違う。合唱にはそういう楽しみがある。
ただ、じゃあ、そういう演奏が観衆を圧倒するようなテクニックを見せつけてくれるのかというと、それは高望みというやつだろう。
「なるほどね。それは確かに、オタクとしては微妙というわけか」
「合唱業界にお金を落としてくれるわけでもないですし。いや、たぶん、年末に向けて第九の楽譜は飛ぶように売れるでしょうけど」
昔取った杵柄、という感じにリタイアした後に合唱活動を再開するのなら、まだ基礎的なやり方が(昔ながらとはいえ)備わっているだろうけど、楽譜の読み方から始める人もいるはずだ。高度な演奏は期待できない。第九にはドイツ語っていう強敵もいるしね。
っていうか、さっきも話題に上ったけど、第九って半端なく難しいしね。プロでも満足のいく演奏は期待できない曲だ。
どうでもいい余談だが、さるアニメ作品の最終回のエンディングに第九が使われていて、下の兄が素直に感動している横でわたしが完全に白けていたことがあったなあ。だって、合唱下手だしさ。
……じゃなかった、とにかく、人口が増えても、合唱業界が賑やかになるかは疑問が残る。コアな層だけでは業界は成り立たないが、ライト層ばかりが厚くなっても仕方がない。難しい問題である。
そのへんの説明で、先輩は深く頷いた。
「ああ、わかるよ。サッカーファンもまさにそうだな」
「わたし、よくわからないんですけど、サッカーではにわかファンって嫌われるんですよね?」
「コアなファン層に嫌っている人がいるのも確かだな。不作法な素人にうんざりする気持ちは、まあ、わからなくもない」
ああ、そっか、それならわかるなあ。空気読めてない方には、確かにイヤになることがある。
演奏会でも、演奏中に喋ってる人がちょくちょくいるし、アメでも舐めたいのか(そもそも演奏会場は飲食禁止だが)延々とスーパーの袋的な何かをごそごそしてる人もいたりする。あれは、キツい。
演奏中の会話は、本当にやめてほしい。あなたの話し声を聞きに金払って演奏会来てるんじゃないんだ。「のだめ」辺りが悪いのかなあ。あの作品、演奏中に喋りまくってるし。(※17)
演奏会は、そこまで敷居が高いものじゃない。ただ、金払ってる他のお客さんがいる以上、最低限の礼儀というものがある。
「まあ、あくまで最低限なんですけどね。そういえば前に、演奏会へ行こう的な本を読んだんですけど、Q&Aでドレスコードについて書いてあって、ちょっと笑っちゃいました。どこまで敷居が高いと思ってるのかと」
「ああ、いらないんだよな。本当の意味で、平服でいいと聞いてるが」
「そりゃ、小汚い格好で行けば周りの人に嫌がられるでしょうけど、それって単に社会のルールですよね」
三日風呂入ってないとか、四日歯磨きしてないとか、そういうのは論外だろう。当たり前の話である。
「……あ、話流れちゃいましたね。演奏会マナーの話になってる」
「まあ、いいんじゃないか? 筋道立てて話したいのか?」
「うーん、いろいろ用意したんですけどね」
いまさらながら、わたしのメインターゲットは北欧からバルト三国にかけての地域だ。スカンジナビアの近現代の作曲家を好んで聴いている。
合唱王国が軒並み連なるこのへんの、たとえばヴァスクス(ラトヴィアの作曲家、存命)がどうだ、デュブラ(リトアニアの作曲家、存命)がどうだ、トルミス(エストニアの作曲家、存命)がどうだと話をする相手というのはなかなかいない。トルミスはいけるか。日本でも人気あるし。でも、エルネサクス(エストニアの作曲家、もう亡くなられている)となるといないよなあ。
先輩にはみっちり教えて、ぜひともオタクトークができる相手になってもらいたいものである。今日の目標はそこなのだ。先輩にはもう一頑張りしてもらわないといけない。
「なんだか、いま寒気が……」
「空調効いてますもんね。大丈夫ですか?」
ちなみに、料理はたいそう美味しかったです。何食ったかなあ。話に夢中で忘れちゃったよ。
4.
うん、すっごく楽しい一日だった。
昼を取ったあとは、駅を挟んで反対側のカフェ(またオシャレな店なんだ。先輩、いろいろ知ってるよね)でさらにオタクトークを繰り広げ、まあそこじゃあ迷惑だろと、公園でちょろっとだけ名曲を先輩と一緒に聴いて。
語りきれたかというとそうでもないんだけど(このへん、オタクってのは度し難いよね)、いろいろ話したかったことをいっぱい話せて、本当に久々に楽しい一日だった。
「よし、先輩。古典部で一つ発表するたびにこのご褒美ください。気合い入れてやりますから」
「……まあ、満足してくれたなら、言うことはないな……」
夜九時台の新幹線に乗っているお父さん方みたいな顔をしている(グレードアップしてるよ)先輩は、それでもうなずいてくれた。うわーい、やったー。
い、いや、普段からちょろちょろトークしてガス抜きしますんで。今日ほど爆発させたりしないんで、よければお付き合い願えますと幸いです、と言いますか……。
「いや、うん、言葉に嘘はないよ。遠慮なくやってくれたみたいだし」
「あ、あはは。あれでも遠慮があったんですが……」
一瞬、何を言われたかわからない顔でぽかーんとする先輩。
あわわ、笑い出しちゃったよ。
「君は本当に底なしだな。いや、うん、貴重な体験だったよ」
「……迷惑、でしたかね?」
いまさらながら、不安になっちゃって、今日のぶりっ子路線とかそんなの関係なしに上目遣いでわたしは先輩を見た。遠慮したつもりだけど、それって、結局、つもりだけなんだろうか?
部活でも同じことをしたじゃないか。わたし。
「いやいや」
でも、先輩は、なんでもないかのようにいつも通り、応えてくれた。
「後輩は先輩を振り回すくらいでちょうどいい。正直、大変だったけど、そうだな」
先輩は目を細めて、夕日の中、けぶるような笑みを見せてくれた。
「楽しかったよ。本当にね」
駅まで歩きながら、なんでもないことをいろいろ話した。
あのカフェ、学校に近いのにいままで使わなかったのはなぜか、とか。先輩と放課後、いろいろお店を回ってるのにね。
そしたら先輩ったら「デート用だ」なんて冗談を言うもんだから、まったくね。
だから、先輩が、
「楽譜屋を見るか?」
と訊いてくれたのも、嬉しかったけど、いまは雑談の時間だ。オタクトークはもうおしまい。わたしは首を横に振った。
「いいですよ。長くなりますし」
「君が言うと、本当に長くなりそうだ」
「うちの楽譜屋は充実してますからね。大手の本屋みたいに、座れるところを用意してくれてないってところが玉に瑕(きず)でしょうか」
合唱楽譜まできちんと置いてくれてるのはありがたいんだけどね。
「まあ、どうせ前を通る。気が向いたらどうぞ」
「ありがとうございます」
わたしは、ちょっと困ったように笑ってみせた。
本当に、ちょっとだけ困っていた。
どうしてだろうね。合唱ざんまいで今日はとても楽しかったよ。家族も聞いてくれないようなマニアックな話を、ちゃんと理解して聞いてくれた。一緒に音楽を聴いて、感想を言ってくれて、感想を聞いてくれた。文句一つ言わずにね。こんなに楽しい日は他にないって断言できるよ。
でもね、少しだけ、残念にも思ってるんだ。不思議とね。
だって、これって結局……部活の延長だから。合唱をテーマトークするための課外授業、課外部活かな? そんなものに過ぎないんだからね。あれ、なんだろうなあ。なに言ってるんだろうね、わたし。
「明日から学校ですし。帰りが夜遅いと、しんどいですよ?」
「それは体験談からか?」
「あはは、まあ、そうですね」
そうですよ、演奏会はだいたい、土日祝日の夜にありますからね。
不思議な違和感を感じながら、商店街を歩く。もうそこには楽譜屋がある。いやだなあ、こんなときでも「ああ言ってくれてるんだし」って、ちょっと行こうかなって気持ちになってる。
そうやって、先輩を困らせるのも悪くないかな――そう思った瞬間、わたしは先輩の腕をつかんでいた。
鷲掴みにするようなわたしの力に驚いたのか、先輩は振り向いて言った。
「どうした? やっぱり楽譜屋に寄るか?」
「……先輩」
「うん?」
「こっちの脇道の方が、駅には近いですよ」
その言葉を、どんな口調で言ったのか、わたしはわからない。
「確かに、そうだが」
「もうそろそろ、暗くもなりますし。帰りましょうか」
わたしの見せた笑みは、弱々しいものだったかもしれない。
冗談めかして言った言葉は、ほとんど機械的に口から出たものでしかなかった。
「女の子が夜遅くに出歩くと、物騒ですからね」
先輩は何も言わないで、駅まで送ってくれた。
信じられないなあ。わたし、まだ傷ついていたのか。まだ、整理ついてなかったんだ。
わたしが遠目に見たのは、貼られるチラシだった。楽譜屋には、演奏団体が頼みに行って、いろいろなチラシを貼ってもらったりすることがあるんだよ。
そうだ。わたしもね、時期的に、まだ居たから。いろいろ意見を言ったんだよ。余所様がある話だから、合唱祭の本番よりもずっと早くにチラシの図案は完成していた。夏だから、さわやかにセルリアンブルーの背景で、ってのはわたしが描いた案から引き継がれたものだ。
あれは、うちんとこと、近隣の学校とで合同で行われるサマコン(サマーコンサート)のチラシだ。そうか、完成していたんだ。
貼っていたのは、あの頃は副指揮だった、いまは正指揮の彼だった。
偉いね。普通は、お願いしてチラシを渡すだけだ。自分から言って、自分で貼ってるんだろうね。休日に、一日練習した後に一人で楽譜屋まで行って、たぶん出来立てのチラシで、少しでも早く貼りたいって思って行ったんだろうね。
そんな彼に、わたしはあわせる顔なんて持ってなかった。
わたし、先輩と別れる最後まで顔上げられなかった。惨めだった。
わたしによるネタ・元ネタ解説
※9
演奏会帰りによく見かけるんだけどね……本当に皆さん、お疲れさまです。
※10
オバケのQ太郎が元ネタとおぼしきアレである。
ボボボーボ・ボーボボ? わたし、ちょっと、そういう下ネタ無理なんで。
※11
昔のNTT西日本のCMで、「ティキンプリーズ」→「フィッシュ、オンリー!」というやつ。
飛行機の食事のメニューが選べないって、そんなネタである。
いまどき選べないなんて、とわたしは言いたかったのだ。
※12
わたしはよくわからないが、ファッションを改めるよう言われた際のオタクの常套句のようだ。
お人様の演奏会に行く以上、ドレスアップまではしないまでも小綺麗にはしたいもんだし、合唱オタクには縁のない話である。
※13
どうでもいい余談だが、千原英喜先生の曲でも Presto が指示されているものがあって、ぶったまげたことがある。
「唱歌(しょうが)」という曲の第三楽章なんだけど、これがまた口三味線による合唱曲というなかなかコアな曲である。
終盤で「テレポ」という歌詞が出てくることでも知られている。出てくるだけだけどね。
わたし、初めて聴いた頃はまだ若かったから「うわ、先生、FFやってたのかな」と変に盛り上がってしまったことがあるんだ……ガチのゲーマーである荻久保さんならあるかもだけどさ。
※14
合唱通なら確実に知っている、いまは亡き超有名サイトで標榜されていたコピーである。
正確にはCD快楽主義派宣言、だったかな。
※15
この件については、番外の1を参照……しないでください。人の過去の恥を掘り返さないで……。
※16
山崎まさよしさんの名曲「One more time, One more chance」の話である。
※17
言うまでもないだろうが、クラシックを扱ったマンガ「のだめカンタービレ」のことである。
どの程度影響があったかは、まあわたしはクラシック畑の人間でないので定かじゃないんだけど、あの作品の中で「演奏中の私語」がぽんぽん出てくることだけは確かである。




