素顔
――帰り道
わたしはまだ頭から血をながしながら歩いていた。
あーさすがに二発くらったのはいたかったな。フラフラする。まあ、闇龍を自分勝手にやめたのに桜町で幸せに暮らしてたんだから、これくらい当然の報いかもな。
―その時
「おい、そこのお前、大丈夫か?フラフラしてんぞ。」
ん?この声は…
「ゆう…き…?」
「あ?なんで俺の名前…っておい!」
悠希の声を聞いたらなんだか力が抜けてしまい、わたしはその場に座りこんでしまった。
「おい、しっかりしろよ。おい!」
悠希…ごめん…もう、無理…。
そしてわたしは気を失ってしまった。
――悠希Side
「チッ…どうすりゃいいんだよ、これ。」
このままほっとけないしな…とりあえず家に連れてくか。
こうして、沙羅は悠希の家に連れていかれたのだった。
―悠希の家
「おかえりなさいませ、悠希様。」
「あぁ、こいつ…って、こいつ頭から血ぃでてんじゃねぇか!まじかよ!おい、すぐに医者呼べ!こいつを俺の部屋に運ぶ。いいな?」
「は、はい。」
普段まったく慌てない悠希のあまりの動揺っぷりに、命令された執事は驚きながら返事をした。
そして、悠希は外が暗かったため、沙羅が頭から血を出していることに気付いていなかったため、とても驚いていた。さらにいまの沙羅は普段の変装をしていないため、悠希は沙羅だと分かっていないのだった。
―悠希の部屋
「ひとまず、これで大丈夫でしょう。」
「そうか、助かった。」
「いえ。それでは、私はこれにて。」
「あぁ。」
悠希は手当てが終わった沙羅に布団を掛けてやり、自分はベッドの側に座った。
俺が好きなのは沙羅なのに、どうしてこいつがこんなにも気になるんだろう…。
そんなことを考えているうちに、悠希は眠ってしまった。
――次の日
「んっ…っつーあいたた。」
あれ?ここどこ?
わたし確かあのあと悠希に会って…会って?そのあとは?あ!わたし気を失っちゃったんだ!
てことはまさか…ここは悠希の家!?
うわわ、どうしよう!
ん?なんか右手が暖かい…
「ってうわ!悠希!?」
「…ん?あぁ、起きたか。」
「あ、うん。それで、まさかとは思うんだけど…ここって悠希ん家?」
「あぁ、そうだ。」
「やっぱり…あ、助けてくれてありがとう。」
そう言ってふわっと笑った沙羅に悠希は胸が高鳴るのだった。
「ん?お前、なんで俺の名前知ってるんだ?つかお前の名前は?」
「え?あぁ、今は普段の変装してないから分からないのか。わたし、沙羅だよ。普段はなんか大家さんに変装させられてるの。このまま学校行ったら大変なことになるとかなんとかって。」
それを聞いた悠希は、目を見開いた。
「お前…沙羅なのか?」
「うん、そうだよ。そんなに普段と違う?」
「あぁ、全然分からなかった。」
え、そんなに違うの!?ちょっとショックというかなんというか…。
「てか、ここすんごい豪華だけど…何の部屋?」
「ここは俺の部屋だ。」
「…え?ここ、全部?」
「当たり前だろ。」
え、えぇぇぇ!?
だ、だってこの部屋、教室4つ分くらいあるよ!?
「も、もしかしなくても悠希って…お金持ち?」
「一般的にそう呼ばれる類いではあるな。安本グループって知ってるか?」
「知ってるも何も、知らない人いないよ!」
「そこの社長、俺の親父。」
「うえぇぇ!?」
わたし、とんでもない人と知り合いだったんだ!
「まぁ、俺は次男だからそんなに畏まることはない。」
「そ、そうなんだ。」
いや、多少は気になるけどね、うん。
というか…さっきからずっと悠希わたしの手を握ってるんだけど。うわ、なんか意識したら恥ずかしくなってきた!どうしよう!
「どうした?顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
「へっ!?いや、ないです!全然ないです!」
心臓飛び出そうだよ…!うぅ…恥ずかしい。
「それより沙羅、なんで頭怪我してるんだ?」
「え?あ、あぁ…これは…なんというか…その…ちょっと転んじゃって?」
「転んでそんな怪我するわけないだろ。鉄パイプかなんかで殴られただろ。」
さすが悠希。よく分かったね。
「う…そう…です。」
「なんでそうなったんだ?」
「それは…」
「言ってみろ。」
悠希の優しい眼差しに、
「闇龍が…襲われそうになってたから。相手を倒してたら殴られた。」
つい正直に話してしまっていた。
それはいいんだけど…
「あのー悠希…さん?」
悠希の周りが怒りのオーラに満ち溢れているのは気のせいではないだろう。
「誰だ?」
「へ?」
「お前を殴ったのは誰だ?」
「え?あぁっと…それは…」
「誰だ?」
あまりの悠希からの圧迫に
「わたしの伯母さん…です。」
と言わざるを得なかった。
「そいつ、潰す。」
「え?いやいやいや、ちょ、ちょっと待って!大丈夫だから!わたしがすでに殴ってきたから!」
今にも出ていきそうな悠希に、わたしは慌てた。
「俺も殴んなきゃ気がすまねぇ。手ぇ離せ。」
そう、わたしは思わず悠希の手を両手で思いっきり掴んでいたのだ。とても恥ずかしい。でも、今はそんなことに構っていられない。
「お願い、やめて、悠希!お願い…悠希たちにまであの人が手を出したら…わたし…わたし、耐えられない…!」
悠希たちに伯母さんが手を出したらと思うと、どうしようもない怒りが沸き、それが涙となって頬を伝った。
沙羅の涙に悠希もはっと我に返り、沙羅を抱き締めた。
「分かった。沙羅がそう望むなら、やらない。」
「うっ…ひっく…あり…がとう…っ」
そのあと悠希はわたしが泣き止むまでずっと抱き締めていてくれた。
「落ち着いたか?」
「うん…ありがとう。」
泣き止んだあとも、なぜだか二人は離れずにいた。いや正確には離れられなかった。
「悠希に抱き締められてると…落ち着く。」
そう言って背中に腕を回した沙羅が悠希はたまらなく愛しく感じ、ふっと笑って、
「沙羅は抱き心地がいいな。」
といった。
「なにそれ。」
「可愛いということだ。」
「なっ…!」
悠希からの甘い言葉に沙羅が真っ赤になったのは言うまでもない。
「ふっ…タコみてぇ。」
「ひどい!もう!」
そう言って頬を膨らませる沙羅ですら、悠希にはとても可愛く見えるのだった。いや、実際に誰がみても可愛いのだが。
悠希とこうしている時間が、とても幸せだと感じた。
あぁ、わたし、悠希が好きだなぁ…。
沙羅は改めて自分の気持ちを自覚したのだった。
「なぁ沙羅。」
「ん?」
「今日は学校休めよ。」
「あ!始業式!忘れてた!まあ、こんな怪我してたら行けないよね…。」
「あぁ、連絡はもうしといたから。」
行動早いな!
「悠希は?学校行かないの?」
「お前を一人にできないしな。それに…」
「それに?」
「沙羅と一緒にいたい。」
なんでこうさらっとドキッとする言葉を言うかなぁ…勘違いするじゃん。
―それからわたしたちは悠希の部屋でご飯を食べたり他愛のない話をしたりして過ごした。
☆☆☆
――夕方
頭の怪我の様子を見に、お医者さんが来た。
「調子はどうですか?」
「怪我したところはまだ少し痛いけれど、もう動いても大丈夫です!」
「そうですか。」
「あとどれくらいしたら学校に復帰できそうだ?」
「そうですね…ありえないくらいの速さで回復しているので、あと二、三日もすれば学校にも行けると思いますよ。くれぐれも、無理はしないでくださいね。」
「はい、ありがとうございます!」
「いえ。では、お大事に。」
バタン―
「よかったな、早く復帰できそうで。」
「うん。早く愛莉に会いたいなー!」
「ふっ…あいつらも待ってるぞ。」
「じゃあもっと早く治さなきゃね!」
「あぁ、頑張れ。」
「うん、ありがと。」
こうして悠希と一緒にいると、どんどん好きっていう気持ちが大きくなってたいく。悠希は…わたしのことどう思ってるのかな?もし、同じ気持ちだったら…嬉しいな。
「沙羅。」
「ん?何?」
「学校に復帰したら、話がある。放課後、屋上で待っててくれ。」
「分かった。」
なんの話だろう…?
そのあと、すこし話をしていたら、ノックが聞こえた。
コンコン―ガチャッ
「悠希いるかー?」
「あ、兄貴。おかえり。」
「あぁ、ただい…ま…?」
あれ?この人って…
「沙羅?」
「樹?」
二人がお互いの名前を呼んだのは同時だった。
「沙羅か?」
「うん、そうだよ!悠希のお兄さんって樹だったんだね!そう言えば似てるかも!」
「あ?お前ら知り合い?」
「ん?あぁ…まあ、そうだね。僕たちは友達!ね?沙羅?」
「ふふ…そうだね。」
本当は樹が自殺しようとしてたところを止めたのがわたしなんだけど。この話はしない方がいいだろう。
「でもどうして沙羅がここに?この町に住んでなかったよね?」
「あぁ、いろいろあってこの春にこの町に引っ越してきたの。今は悠希と同じ高校に行ってるよ。
」
「へぇー!そうだったのか!んで?なんで悠希の部屋にいるんだ?」
「あーちょっと怪我しちゃって。悠希に助けてもらったの。」
樹とそんな会話をしていると…
グイッ―
「わっ!」
悠希に腕を引かれ、次の瞬間には悠希の腕の中にいた。
「ちょ、悠希!?」
「兄貴、あんま沙羅にくっつくなよ。」
え?悠希がなんか可愛い///
「あー!なるほど、そーゆーことね。ごめんごめん、悠希。沙羅、悠希をよろしくな。」
「え?あ、うん…?」
「じゃ、僕はそろそろいくよ。」
「あ、またね!」
「うん、またね、沙羅。」
そのあと樹はいやー沙羅が妹か。いいな。なんて意味の分からないことを言いながら部屋から出ていった。
「悠希…?」
それから悠希は無言のまま、しばらくわたしを離してくれなかった。
――自分の気持ちを自覚した沙羅と悠希。美男美女のカップルになるか…!?




