再び
――なんで、どうして。どうして今また…。ようやく自分の気持ちに気付けたのに。やっと、傷が癒えてきたのに、どうしてわたしをまた苦しめるの…?
それは突然だった。
夏休みに入り、勉強の息抜きにお菓子を買いにコンビニへ向かっていたとき。もう二度と会うことのないはずの男に出会った。
「どうも。」
「約束が違う。なぜまたわたしの前に現れた?」
「いやー会うつもりはなかったんですけどね?これは知っておいた方がいいかなーと思いましてね。」
こいつは何を言ってるのだろう…。
「どういうこと?」
「あなたの伯母さん…闇龍に手を出そうとしてますよ。」
「…は?あの人は闇龍のことを知らないはずだ。そんなのありえない。」
「それが、どこから知ったのか潰そうとしているみたいですよ。あのあと貴女との約束通り、借金を請求しに行ったんですよ。それが気に喰わなかったんでしょうね。貴女と関わりのあった人をどこまでも調べ、ついには危ない人の力まで借りたようでしてね。貴女の名前はあちらではわりと有名ですから、闇龍のこともバレたようですよ。このままでは闇龍は危ないでしょうねぇ。」
闇龍に傷は絶対につけさせない。これ以上わたしの大切な人を傷つけたら…あの人をどうかしてしまう。
「そこでですね、こちらから提案です。今回貴女の伯母さんが力を借りた人たちにはいろいろと仕事の邪魔をされていましてね?こちらとしても一度ガツンとやっておきたいんですよ。相手は大人ですから、闇龍を潰すのに多くて10人程度しかあてないでしょう。貴女なら、簡単に倒せますよね?」
確かに可能だ。大人でも10人程度なら大丈夫だ。
「本当に、闇龍を狙ってるのか?」
「えぇ、それは間違いないです。」
「なぜあなたはわたしにそんな重要なことを知らせた?」
「なんででしょうねぇ…貴女があの町からいなくなったあと、闇龍はあり得ないほど落ち着いていたんですよ。総長が突然変わったというのに。気になって少し調べてみましたら、彼らは必死に貴女を探しているようですよ。二代目の総長は貴女が戻ってきたらすぐに総長の座を渡そうと考えているみたいです。そんな彼らの姿を見ていたら、ついつい手を差しのべてしまいたくなりましてね。」
「そん…な…わたしに、そんな価値はないのに…馬鹿な奴ら。ほんとに、どこまでわたしの中に入ってくるんだか。わたしのことなんて、ほっといていいのに…。」
でも、だからこそ、わたしは闇龍を大切に思うんだ。もう総長ではないけれど、彼らの命を助けた者として護ろう。
「分かった。その提案をのもう。いつだ?」
「8月31日です。ちょうど、夏休み最後の日ですね。」
「わたしの姿が闇龍と相手に見られるとまずい。変装をしたいんだが、用意してくれるか?」
「いいでしょう。では、8月31日の午後23時頃、貴女の家までお迎えにあがります。」
こいつ、わたしの家知ってんのかよ。
「分かった。」
「ではまた。」
そう言って男は去っていった。
それにしても、みんな、探してくれてたんだ…探すなって手紙に書いたのにな。
あ、そうと決まったら夕霧と愛莉と遊んでる場合じゃないな。メールしとこ。
To愛莉
from沙羅
ごめん、夏休み急用が入っちゃったから遊べない。
また始業式に会おう!
よし、送信っと。
あーあ、遊びたかったのに。この落とし前はつけてもらうぞ、伯母さん。
もう許さない。当日は伯母さんの姿もあるだろう。一発殴ってやる。一発ですむかな…。
――そして8月31日の午後23時
ピンポーン―
来た。
ガチャッ―
「こんばんは。これ、変装道具です。支度はお早めにお願いしますね。」
「分かった。5分で済ますからここにいて。」
「分かりました。」
男が持ってきた袋のなかには、真っ黒の半袖のTシャツに真っ黒よパーカー、真っ黒のズボン、そして真っ黒の運動靴だった。
ここまで黒くするって…確かに目立たなくていいけどさ。これは…やりすぎじゃない?
そんなことを考えつつ着替え、紙はポニーテールに纏めてパーカーの帽子をできるだけ深く被った。これで顔は見えない。
「終わった。行こう。」
「なかなか似合いますねぇ。さすが元総長といいますか。」
「無駄話はいい。さっさと行こう。」
闇龍のみんなが心配で一刻も早く行きたかった。
「分かりました。では、行きましょう。」
☆☆☆
―闇龍の溜まり場
みんなはここにいるのか…まあ、ここが家だもんな。見た感じ、まだ襲われてはいないみたいだ。
その時、どこからともなく10人ほどの男がやって来た。手にはナイフや金属バッドを持っている。
物騒だなー。それあたったら痛ぇよ。
「来ましたね。」
「あぁ。行ってくる。」
「お気をつけて。」
男たちが溜まり場に向かって集まったとき、わたしはスッと前にでた。
「あ?誰だてめぇ。邪魔だ、どけ。」
「闇龍になんの用だ。お前らみたいなのが手を出していい相手じゃないぞ。」
「依頼だよ依頼。邪魔、退け。」
「退かない。」
「あぁ?おい、てめぇ調子乗んなよ。」
「なぁ、こいつからやっちまおうぜ。」
「そうだな。おりゃあ!」
パシッ―
男の拳は見事に沙羅に受け止められた。
そのあとは一瞬だった。次から次へと武器を奪って捨て、相手をボコホコにする。
そんな動作が、一瞬で行われたため、男たちは何が起きたのか理解できないまま倒れていった。
ふぅ…弱い。こんなんだったら闇龍のみんなでも大丈夫だったな。
と、その時―
ガッ―っという音と共に頭に鋭い痛みがはしった。
痛みに耐えながら振り返ると、いつきたのか伯母さんが鉄パイプを持って立っていた。
「あんたのせいで…あんたのせいで大変だったのよ!?あんたなんて、ここで死ねばいいのよ!」
そう言ってまた頭を殴られた。最初の一撃で反応が鈍くなってしまい、沙羅は二発目も頭に受けてしまった。赤い血が頬を伝い、地面に染みを作った。
「あんたさ、いい加減にしろよ。当然の報いを受けただけなのに、何逆恨みしちゃってんの?馬鹿なの?あぁ、ごめんなさい、馬鹿でしたね。それも救いようのない。言いましたよね?二度とわたしの前に現れるなと。今度あったら潰すと。」
「なっ…!」
「闇龍にまで手をだすたぁいい度胸じゃねぇか。ふざけんなよ。」
そう言ったあと、沙羅は伯母さんの鳩尾に思い切りパンチを入れ、気絶させたのだった。
「大丈夫ですか?」
「これくらい、大したことない。それより、この人の処理任せていいか?」
「いいですよ。貴女はどうされるんですか?」
「ちょっと闇龍のみんなの顔を見て帰る。」
「そうですか。では、今度こそさようなら。」
「あぁ。」
そう言って沙羅は闇龍の溜まり場の近くに生えている木に登り、窓から中を覗いた。
そこには、テーブルを囲んで話し合いをしているみんなの姿があり、頬が緩んだ。
「ありがとな。探してくれて。あと、まだロックをかけててくれて。お前ら、ほんとに最高だよ。いつか、また面と向かって会えるのを楽しみにしてる。それまで、元気でな。」
そう言って沙羅は木から降り、家へ帰った。
いや、帰ろうとした。
――しかし、帰り道の途中で、あいつに会ってしまった…なんて言えばいいのだろう。沙羅ピンチ。




