宿敵
――闇龍には宿敵がいる。やつらはチーム名もなく名乗りもしない。霧のように気まぐれで、ケンカのとき必ず笑顔であることから周りが付けた呼び名は笑霧。そんなやつらが全勢力で挑んだのが闇龍。闇龍と笑霧の力はほぼ互角であった。しかし、なぜか勝敗が分かっておらず、そのケンカのあとに笑霧が町から姿を消したことから闇龍が勝ったとも言われている。その笑霧の行方を知っているのはただ一人、沙羅だけである。そして沙羅は忘れていた。その笑霧が、桜町に行ったことを――
☆☆☆
――今日は日曜日で学校が休みのため、沙羅は街に買い物に出ていた。
「あとは…シャーペンとノートだな。げ、これあの裏通り通らないと行けないじゃん!あそこ不良が多いからあんまり通りたくないのに。」
仕方ないから行くか…さっさと買い物済ませて部屋でくつろご。
そう決めた沙羅が裏通りへ行くと…
ドカッバキッドゴッドシャッ―
なんとも懐かしい音がした。そう、これは人を殴る音。やばいと思ったときはすでに遅く、沙羅はその人が殴られている現場の目の前に来てしまっていた。しかも、殴っていた人に見つかってしまったのだった。
「……っ!」
やばい、逃げなきゃ!そう思った沙羅だったが人を殴っていた男に腕を強く捕まれる。その隙に、殴られていたやつは逃げていった。
「おい女、待てよ。」
「な、なんでしょうか?」
「今見たよな?」
「…はい…」
「名乗っていけ。」
「嫌です。」
「あぁ?」
「嫌なものは嫌なんです。腕、痛いんで話してください。」
「チッ…このやろう、なめんなよ!」
そういって男が沙羅を殴ろうとしたとき、沙羅も動いて相手を殴ろうとした。しかし、相手に拳を受け止められてしまった。続けて蹴りも繰り出すが、また受け止められてしまう。沙羅は内心焦っていた。今までにこんなふうに受け止められたことはなかったからだ。いや、過去に一回だけあった…
「っ!まさか!あんた笑霧の総長か!」
そう沙羅が叫ぶと、男は不思議そうな顔をし、
「?なぜお前がその名前知ってんだ?それにこのケンカの仕方…俺はこんなケンカをするやつは一人しか知らない。」
お互い攻撃するのをやめると、
「お前、闇龍の総長だな。」
その言葉に、わたしは首を振る。
「いや、わたしは闇龍の総長じゃない。今はもうな。」
「なに?まさか貴様、闇龍を抜けたのかっ!?」
「そうだよ。まあ、こっちにもいろいろ事情があんだよ。とにかく、わたしはもうあんたの敵じゃない。」
「は?じゃあお前今どこのチームはいってんだよ!」
「どこにも。」
そう言って去ろうとするわたしに、
「どこにも?ありえねぇ…この俺と互角のお前がどこにもはいってないなんて。」
「わたしはケンカしないことにしたんだよ、今はな。」
「今は?ならいつかまたケンカすんのかよ。」
「さーな。ま、今のわたしにケンカは仕掛けないでくれ。じゃあな。」
そう言って今度こそわたしはその場を離れた。
そのあとは何事もなく平和な休日だった。
――わたしは気付いていなかった。笑霧の総長とのやり取りをあいつに見られていたことに。




