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EVER GREEN  作者: 香澄かざな
第一章「出会いと旅立ち」
8/22

No,7 夢と現実の狭間

「昇くん!」

 誰かが呼んでいる。ついでに揺さぶられてるような気がする。

「……?」

 目の前に誰かがいる。

「……ん?」

 目を開け相手を確認すると、条件反射か、そのまま二メートルくらい後ずさってしまった。

「昇くん大丈夫?」

 声の主が心配そうにこっちを覗いている。

「なんでもない。……それよか、なんで椎名がここに?」

 平静を装いつつ声の主――椎名に質問する。もっとも後ずさってからじゃ平静もなにも言えたもんじゃないけど。

「ごめんね。ノックしたんだけど返事がなかったから」

 まさか夢の中で怪物と追いかけっこしてましたなんて言えるはずもなく。

「そ、そっか……。で、何か用?」

 深呼吸をして再度平静を装いつつ尋ねる。

「学校。もう8時過ぎてるよ」

「え?」

 AM8:17。時計にはそう表示されていた。

「やっべええええ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「――で。今日は筋肉痛で動けないと」

 平静を装う前に時間がやばかった。

 教室には精も根もつきのびている男子生徒が約一名。机につっぷしてピクリとも動こうとしない。そいつの目の前では、坂井が楽しそうにちゃちゃをいれていた。

「たった数分走ったくらいで普通そこまでバテるか?」

「昨日の後遺症が残ってたんだ」

 後遺症とはもちろん昼休みのバスケのことだ。

「お前、意外と根に持つタイプだなー」

「うるせ」

「後遺症っつったって顔面直撃しただけで体には影響ないじゃん」

「坂井君、君は反省という言葉を知ってるかい?」

「お前……目が据わってるぞ」

「気のせいだろ」

 そう言って再び机に突っ伏す。

 本当のことは口が裂けても言えない。っつーか、オレ自身まだ半信半疑だし。


 昨日の夜、目を明けるとなぜか見知らぬ草原にいた。

 そこでショウってやつに会ってついでに化け物とも遭った。何がなんだかわからないまま戦闘になり、気がつくとオレが(!?)精霊らしきものを呼び出していた。

 その後ショウと話をしていて……目が覚めた。


 こんなの話したって誰も信じてくれない。むしろ正気を疑われるだけだ。

「…………」

 あれってやっぱ夢か?

 だったらなんで筋肉痛になってるんだよ。少なくとも朝の全力疾走だけじゃないはずだ。

「そういえばもーすぐだな」

 坂井の一言がオレを現実に呼び戻す。

「何が?」

「ゴールデンウイーク」

 そーいえばそうだった。

「せっかくの連休だしなー。たまってたゲームでも片付けよっかな」

「それじゃいつもと変わんないだろ」

 かく言うオレも、まだ休日の予定ないけど。

「うそうそ。それじゃあまりにも寂しすぎるじゃん。連休中に公開される映画で面白そうなのがあったから、それでも見てくる。昇くんのご予定は?」

「特に考えてない」

「寂しいねー。若いもんが家の中でくすぶってちゃいかんよ」

 お前はどこの年寄りだ。

「でもそれが終わって二週間もすれば中間テストがやってくる……」

「それを言うなー!」

 さっきの反撃とばかりにつぶやくと、案の定目の前のやつは大げさに頭を抱えこむ。うーん、面白い奴だ。

「お前はいいよなー。頭いいから」

 頭を抱えたまま恨めしげにつぶやく。

「そりゃどーも。日ごろの努力が足りないからだよ坂井君」

「お前が言うと嫌味に聞こえるんですけど」

 そこまで言って、ふと真顔になる。

「ん? どーした?」

「いや。正直な話、昇ってさぁ、なんでここ受けたんだ?」

「何だよ唐突に」

 さっきまでのリアクションがああだっただけに目の前の友人に妙なギャップを感じてしまう。

「悔しいけど、お前すっげー頭いいじゃん。お前だったらこんな片田舎の学校よかもっといいとこ狙えたろーに」

「仮にも母校のことをそんな風に言うなよ」

「で、ほんとのところは?」

 表情は崩さず真顔のまま聞いてくる。

「家から近くて公立だったから」

「それだけ?」

「それだけ」

「お前らしいっつーかなんていうか」

 坂井が苦笑する。

「それに考えてもみろよ。もしそんなエリート校なんかいったらそこで青春終わるだろ」

「本音はそれか。でもお前って、なんだかんだ言って将来はいい大学出たりして弁護士とか医者になりそーだよな」

「そんなガラじゃないって」

 第一、偉そうになった自分なんて想像つかない。

「じゃあ、お前は何になりたいんだ?」

「さぁ。まだ先のことだしわかんねーよ。お前今日変だぞ」

「そーかもな。昨日珍しく教育番組なんか見たからからな」

「なんでまた」

「たまたまだよ、たまたま。外国から出稼ぎにくる人の話でさ、給料とかたったこれだけ!? って額なのにむこうは必死で働いてるわけ。それ見てたら、オレ達って将来どうなるのかなーって考えちまって」

「本当にお前らしくもない」

「……結構きついこと言うよな、お前って。

 でもさぁ、将来ってまでは行かなくても何か目標ぐらいはもっていたいじゃん?」

「目標……」

 目標か。

 中学の時はとにかく高校に行くので精一杯だったけど、それから先はまったく考えてなかった。

 大学はいくんだろーな。でも金がなかったら就職だろーし。そもそもオレって将来何になりたいんだ?

「真剣に考えるなよ。まだ先のことなんだから」

 オレがさっき言ったことをそのまま口にする。

「それよか昼休みまたバスケしよーぜ」

「もう顔面直撃はごめんだぞ」

「ならそーならないように気をつけるこった」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 次の日、夢はみなかった。

 次の日も、また次の日も。

「昇、本当にいいのか?」

「いいっていいって。夫婦水入らずの旅なんだからゆっくりしてきなよ」

「まりい、ついてこなくていいの?」

「大丈夫。安心して行ってらっしゃい」

 今日は五月三日。子供なら誰でも泣いて喜ぶゴールデンウイーク。

 会社も今日は休みだったらしく、親父と母さんは一ヶ月遅れの新婚旅行。温泉めぐりというのがいかにも親父らしい。

「昇、ちょっと来い」

「なんだよ」

 親父が手招きする。

 周りに女性陣がいないのを確認すると、肩をつかみ、しごく真剣な顔で言った。

(間違っても姉さんを襲うなよ)

 ……はい?

「お前と違ってあの子はとても純情なんだ。いくら姉弟になったとはいえ、それだけはな……」

「早く行けーーーー!!!」

 二人を追い出し――もとい、送り出し、玄関のドアを力いっぱい閉める。

「ちゃんといい子でいるんだぞー」

「おみやげ買ってくるからねー」

 あからさまに人をからかったような親父達の声が玄関越しに聞こえるのがわかった。

 はーっはーっ。はーっ。

 ったく、あの親父は何考えてんだ。

「お父さん達行っちゃったの?」

「うん」

「昇くん、顔赤いよ?」

「気のせい気のせい」

 さっき親父が変なこと言ったせいだ。

「椎名はどっか行かないの?」

 表情を見られないようにして話題を変える。

「お昼から由香ちゃんの家に遊びに行くつもり」

「佐藤の? そういえば会ってないな」

「クラス別々になっちゃったからね」

 『由香ちゃん』こと佐藤由香とは中学で同じクラスだった。なんでも椎名の親友らしい。

「だったら準備したほうがいいんじゃ?」

「うん。これからするところ」

「親父じゃねーけど気をつけてな」

「うん。じゃあ……」

 椎名が部屋に戻っていく。さて。オレも坂井の家にでも遊びに行くとしますか。

 って、こーいう時に限って誰もいないんだよな。

 遊びに行こうと電話をしたものの、坂井は留守だった。そーいえば映画を見に行くとかなんとか言ってたっけ。

 他の友達の家にも電話したけど、みんな留守だったり先約があったりしてキャンセル。仕方なくこの前のゲームの続きをやってたりする。ちなみにレベルは30。中ボスはなんとか倒せた。 しっかし、せっかくの連休に黙々とゲームやってるオレって一体。

 いかんいかん。そんなこと考えてたらきりがない。

「椎名、遅いな」

 時計はもう八時を過ぎてるのに帰る気配が一向にない。 もしかして何かあったのか!?

 と、そこで電話の呼び出し音が鳴る。

「――もしもし?」

「昇くん? 私」

 声の主は椎名だった。

「何かあったの?」

「由香ちゃんが今日こっちに泊まりなさいって言うの。せっかくだからお言葉に甘えちゃおうかな」

「……そっか」

 由香ちゃん――佐藤の家なら安心だ。連休だし積もる話もあるんだろう。

「本当は泊まるつもりなんてなかったんだけど、由香ちゃんが用心のためにって」

「用心?」

(ばかっ! そんなことまで言わなくていいの!)

「……佐藤が隣にいるだろ」

「うん。あ、ちょっと代わるね」

 代わるって、別に佐藤と話すことなんてないぞ。

 遠くで何か言いあったような声がした後、佐藤の声が聞こえた。

「もしもし大沢? 私、佐藤。久しぶりー。元気?」

「まぁ、そこそこに」

 本当に話すこともないもんで、適当にあいづちをうつ。

「まりいも言ってたと思うけど、今日この子こっちに泊まっていくから。まぁアンタだから大丈夫とは思うけど一応、ね」

「何が『一応』なんだよ?」

「いーの、こっちの話。そのまま買い物に行くつもりだから帰りは明日の夕方になるから。じゃーね」

 ブツッ。

 反論を与える間もなく、電話が一方的に切られる。

「なんなんだよ一体」

 何が一応なんだよ何が。……一応?

『間違っても姉さんを襲うなよ』

 親父の言葉が頭をよぎる。なるほど、そーいうことか。

「チックショー! 人をなんだと思ってんだ!!」

 八つ当たりで投げた枕が床の上に大きく跳ねた。

 もーやだ。空振り続きでなんかムシャクシャする。

「……寝よ」

 こんな時は寝るに限る。俗にふて寝ともいうが、寝ると気分がすっきりするのも確かだ。

 夜着に着替え、ベッドへ――

「……まさかな」

 けど――

「…………」

 パジャマ代わりにしてるTシャツと短パンの上に、ジーンズと長袖の上着を着込み、腕時計をはめる。ついでに学校用のカバンの中に身の回りにあるものを詰めれるだけ詰めこむ。

「まさかとは思うけど、な」

 備えあれば憂いなし。たとえ何もなくてもそれだけのことだ。

 できればこの備えが取り越し苦労で終わりますように――

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