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EVER GREEN  作者: 香澄かざな
第二章 わがままお嬢のお守り役
21/22

No,5 お嬢のお守りはもうたくさん!

「ノボルー、ご飯まだー?」

「もう少し」

 メンバーが三人から四人に変わっても、オレの役目は全く代わらない。

 山菜集めに料理の下ごしらえ。今もあらかじめ買っておいた肉に下味をつけている。っつーか、異世界に来てまで料理やらされてるオレって一体。

「ん?」

 背後に人の気配を感じる。

「シェリア、なんか用?」

 手を止めて後ろを振り向く。

「食事はまだか?」

 後ろにいたのはシェーラさんだった。

「……もう少しです」

 この人に対してはなぜか丁寧口調になってしまう。 初めの時の威圧感に圧倒されたからだろーか。

「……あの、何か?」

 何をすることもなくこっちを見つめている。

「?」

 意図がわからず翡翠ひすい色の瞳をのぞく。

 が――

「何を呆けているのだ。休む暇があるのなら早く仕度をしろ。わたくしは待つのは嫌いだ」

 な……!

「それだけだ」

 短く息をはくと、緑がかった金髪を持つ美人は足早に去っていった。

 …………。

「一体あいつは――」

「なんなのよ、あの人は!」

 キーン! と、耳鳴りがしそうなくらいの大声。もう一度後ろを振り向くと、今度はシェリアがいた。

「あの人ってシェーラさんのこと?」

「他に誰かいるの?」

 そう言って、ものすごいけんまくで詰め寄ってくる。

「言いたい放題、わがまま放題。あげくのはてにはアタシと同じ部屋で寝たくないって言ってくるのよ?」

「なんで?」

「今まで一人部屋でしか寝泊りしたことがないんですって。だから一人部屋にしろって言ってきたの。一体何様のつもりなのよ!」

 怖い。今までの怒りが急速に冷えていく。女は絶対怒らせない方がいい。この時なぜかそう思ってしまった。

「落ち着けって」

 かと言って、このままにしとくわけにもいかないので仲裁に入る。

「落ち着くなんて――」

「本人に聞かれたらまずいだろ。ついて来いって言ったのはシェリアなんだし」

 そう言うと、公女様は肩の力を抜いた。

「そうよね。言い出したのはアタシなんだから。ここで文句言っても仕方ないのよね。ごめんなさい。これじゃいい八つ当たりよね」

「あ……うん」

 本当は、オレも同じことを言うつもりだったんだけど。さっきみたいなセリフが言えたのはシェリアの方が不満を口にするのが早かったから。こうして第三者から見るとよくわかる。オレって、ショウが言うようにすぐ叫ぶ奴だったんだな。おまけに短気だし。

 そーだよな。いくらわがままと言っても相手は女子。ここはもう少し大人になろう。彼女を受け入れると決めたのはオレ達なんだから。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 とは言ったものの。

「はーーっ」

 オレ、フェミニストじゃないけど女子に対してはそれなりに配慮してたつもりだった。よっぽどの事がない限り怒らないようにしてるし、そういう相手には極力近づかない。でも、今回ばかりはそうもいかないみたいだ。

 昼食の時、飯の支度が遅いと散々言われた。もっと相手のことをよく考えて作れとか、料理が冷めてるだとか。上から目線もいいところ。頬が引きつるのを感じながらも謝ることでその場は何とか切り抜けた。

 この先、同じようなことが続いたらどうなるかわからない。このままだと胃潰瘍になるかも。

「何をしている?」

「うわっ!」

「『うわっ!』とはなんだ。無礼な」

「シェーラ……さん」

 声の主は今一番会いたくない人だった。

「シェーラさんこそなんでここに?」

「わたくしの方が先だ。質問に答えろ」

 頬がまた引きつりかける。こらえろ。ここで爆発したらさっきの努力が無駄になるぞ。

 鼻から息を吸って、口からゆっくり吐いて。

「……数学のテスト勉強です」

 これを言うまで(深呼吸も含めて)二分かかった。

「テスト? 試験のことか?」

「そうっすけど」

「そなたの世界でも試験は存在するのか。お互い苦労するものだな」

 長い髪をかきあげながら女子が苦笑する。初めて見た。この人の、なんていうか、その──普通っぽいところ。

「そなたの質問にも答えなければならないな。わたくしは鍛錬たんれんをするために来た」

「鍛錬って、剣のことですか?」

「そうだ」

 そう言って腰にさしていた剣を抜く。剣は曲刀でよく見ると柄に模様が彫られている。確かゲームで言うところの三日月刀ってやつだ。

「邪魔をするようならどいていろ」

 またもやカチンとくるようなセリフを口にすると、剣の柄を握りしめ、

「はっ!」

 掛け声とともに的に、木に向かって切りつける。

「へー……」

 素人目にも動きが綺麗に見える。剣を振るっているというより剣を使った舞を見ているような、そんな感じ。それでも的には少しずつ、でも確実に傷が刻まれていく。

「すごいっすね。誰かに教わったんですか?」

「ああ。わたくしの師に、な」

 どーりで強いはずだ。じゃなければ複数の男とやりあえるはずがない。

「この前は苦戦してましたよね。多勢に無勢じゃ無理もないけど」

 一瞬、彼女の動きが止まる。やば、まずい事言ったか?

「仕方ないだろう? 初めてだったのだから」

 そう言ってそっぽを向く。これは意外な反応だった。

「師や試合でなら剣を交えたことがあるが、ならず者と戦ったことは一度もなかった」

「じゃあ、この前みたいな奴らとの実践をやったこと……」

「ない。アレが初めてだ」

 きっぱりと言い切る。それで、一人で戦えるなんて言ってたのか? なんて無謀な。

「そなたこそ、あの短剣はどうしたのだ? 風が巻き起こるだけならまだしも、精霊を呼び出す剣など見たことも聞いたこともないぞ?」

 やっぱアレって珍しい武器だったのか。

「知り合いからもらったものなんです。本当は女性用の護身武器だとか」

「……それを、男のそなたが使っているのか?」

「そーです! 悪いっすか?」

「いや、悪くない。自分の能力を最大限にいかしているのだ。褒められこそすれ、誰にも非難される言われはないはずだ」

 またもや意外な反応に二の句がつげなくなる。

「なんだ?」

「いえ、別に」

 てっきりバカにされるかと思った。上から目線かと思えば素直なところもあって。いい人なのかヤな奴なのか、わからない人だな。

「そう言えば、あの者は何者だ?」

 額の汗をぬぐいながらオレに問いかける。

「あの者?」

「女の方だ。わたくしにいつも声をかけてくる」

 どうやらシェリアのことらしい。

「口調は庶民のものとなんら変わりないが、仕草が普通のそれと違う。貴族や王族、その類のような。わたくしの気のせいだろうか」

 ビンゴ。シェリアはミルドラッドの公女様。でもばれて厄介ごとになったら大変だから、あえて言わない。それは目の前の人を除く三人の間では暗黙の了解になっていた。

「まあ、王族がこんな所であのような言動を取るはずもないがな」

 最も例外が目の前にいるんだけどな。

「けど、シェーラさんだって似たようなものじゃないんですか?」

「わたくしが?」

「お嬢様っぽいじゃないですか」

「……気づいていたのか!?」

 『気づいていたのか』って。普通、見ればわかるよなぁ。

「それこそ口調やしぐさを見てればわかりますよ」

「そうなのか」

 どうやら、自分の言動にはとことん無頓着な人らしい。「これからは気をつけなければ」なんて真顔でつぶやいてるし。

「そんな容貌で『わたくし』なんて言葉使ってたら、やっぱいいとこ育ちの人だなって思いますよ。裏をかいてただの人ってこともありえるけど。あ、もっと裏をかいてどこかの国のお姫様だとか?」

 半分本気で、半分冗談で声をかけると「違う!!」と形のいい眉が斜めにつり上がった。

「わたくしは王女……などではない」

 オレのほうを見据えながら、声を振り絞るようにして言う。

「だからたとえばの話ですって」

 なんだ? 雲行きが怪しくなってきたぞ。と思ったときにはもう遅く、

 バシッ!

「たとえでもそのような事を口にするな! 貴様は誰に向かってものを言っている!」

 気づけば頬を思いっきりひっぱたかれていた。

 ここで、オレの忍耐袋の緒が切れた。

「……アンタ、もう少し思いやりって言葉知っといたほうがいいよ」

「どういう意味だ」

 スッと翡翠色の目が細くなる。けど今のオレにはそれくらいどうってことない。

「自分の胸に聞いてみろよ!」

 よほど逆上したのか口調が元に、いや、それ以上になってしまった。

「アンタが王女様だろうが、ただの女子だろうがオレの知ったこっちゃない。けどな、ここにいる以上、最低限のルールってもんがあるだろ!」

「好きでここにいるわけではない! そなた達が勝手に」

「成り行きであれ今は一応仲間だろ? だったら、もう少しちゃんと考えろよ! それが嫌だったら一人でどこにでも行ってくれ!!」

 そこまで一息で言うと、大きく息を吐く。やっぱりオレって思ったことを胸にしまいこめないタイプの人間だ。

 でも言ってしまったものは仕方ない。さあ、来るなら来い!

「…………」

 反撃を予想して、覚悟を決める。

「…………」

 でも反撃は来なかった。

「…………」

 あ、あれ?

「わたくしは……邪魔なのか?」

 しばらくして、そんな声がもれた。

「誰もそんな事言って――」

 顔を彼女の方に向けて、ぎくりとする。表情が今までと全然違ったからだ。まるで親に見捨てられた子供のような顔。もうひと押しすれば瞳から透明な液体がこぼれてしまいそうな。

 怒りを全部吐き出した代わりに、今度は軽い後悔の念が胸を埋めていく。

「えーと……」

「今日は休ませてもらう」

 言い訳の言葉が見つからないまま、彼女は足早に去っていった。

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