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EVER GREEN  作者: 香澄かざな
第一章「出会いと旅立ち」
2/22

No,1 始まり

 眠い。とてつもなく眠い。

「……10時か」

 ベッドに置いてある目覚まし時計を見てつぶやく。昨日寝たのはいつだったっけ。確か夜中までゲームしてて、そのまま寝ちゃったんだよな。今日は休みだし、しばらく寝てても罰は当たらないだろ。

 よし、そうと決まったらもう一眠りしよ。

「いい加減、起きたらどうだー?」

 下の階から父親の声がする。

「休みなんだからもうちょっと寝かせろって」

 起きるのも面倒だから下に向かって大声を出す。ったく言ってるそばから。

「今日は外食だぞー。食わないのか?」

「外食?」

 いつもはケチってばっかのくせに一体どーいうかぜのふきまわしだ? 

「いいから早く降りてこい。それともそのままの格好で会いに行く気か?」

「会いにって?」

 ここで初めてベッドから起き上がる。今日は休み。父親と外食、加えて誰かに会いに行くと言ってる。

 これらから導き出されることは?

 

 …………。


「やっべええええええっ!」

 自分であげたなんとも間抜けな大声が部屋中に響いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「改めまして。こいつは僕の息子ののぼるです。見た目通り可愛げのない奴ですがよろしくおねがいします」

 なーにが『僕』だ。男にかわいげがあったら余計気持ち悪いだろーが。

「悪かったな。そっちだって一体そのどこが『普通の格好』なんだよ」

 『普通の格好でいい』とか言っておきながら、しっかりスーツを着こなしている中年オヤジに冷たい眼差しを向ける。

「何か言ったか昇くん」

「別に」

 父親の声は無視して目前の料理をたいらげる。久々の外食なんだ食べなきゃもったいないだろ。

「二人とも本当に仲がよろしいんですね」

『どこがっ!!』

 なぜかハモってしまうところが悲しくも血のつながりを感じられずにはいられない。

 中学を無事卒業し進学前の春休みも残りわずかとなった今日、わけあって父親と二人とある小料理屋に来ている。

「じゃあこちらからも改めまして。この子は娘のまりいです。どうかよろしくおねがいします」

 そう言ったのは目前のテーブルに座る女の人。父親よか少し年下だと聞いてたけど下手すれば二十代でも十分通用しそうな感じだ。

「まりいです。これからよろしくお願いします」

 そして、女の人の隣に座っていた同年代の女子が頭を下げる。

 ここでしばし会話が止まる。同じ日本人にしては白い肌に茶色の瞳。肩より少し上で切りそろえられた焦げ茶色の髪は触れたらきっとさらさらしてそうだ。触ったことないけど。

 女子とは初対面ではない。初対面じゃないけど、これから同じ屋根の下で生活することになるかと考えると、その――

「あの。私の顔に何かついてますか?」

 女子が不思議そうに小首をかしげる。

「いやいや。こんな可愛い子がこれから自分の娘になるかと思うとつい顔がこうなってしまって」

(スケベ親父)

 どうやら父親も同じことを考えていたらしい。

「ほら息子もこんなに喜んでる」

「痛っ……!!」

「いた?」

「……くないです」

 つぶやき声はしっかり耳に届いていたらしく、かかとでつま先をめいっぱい踏みつけられた。目の前にはもちろん周りにも人がいるもんだから大声を出すのはなんとかこらえたけど。

「お互い自分の子供の紹介ばかりしているのも変ですね。じゃあ今度はわたしが。

 椎名つかさです。不束ふつつか者ですがこれからよろしくお願いします」

「つかささん、もう『椎名』じゃないでしょう?」

「あ……」

 髪の長い女性――『つかさ』さんの顔に赤みがさす。

「これからは『大沢つかさ』になるんです。あと僕……俺、大沢勝利おおさわかつとしもこれからよろしくおねがいします」

 今度は父親が頭を下げる。 あたりに流れるのはテレビドラマさながらの甘い雰囲気。

 なんだかなー。目の前で、かつ自分の親達にこんなことをされるといづらいことこのうえない。

「じゃあオレ、先に帰ってるから。ゆっくりしてきなよ」

「あっ私も!」

 気恥ずかしさに二人そそくさと店をあとにする。まあ恋人同士、夫婦水入らずごゆっくり。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「親父のやつなにやってんだか」

 中年夫婦がよろしくやってる中、オレと女子は店のあたりをぶらついていた。

「だいたい今日みんなで会うことは前から決まってたんだし。今更照れたってしょーがないだろ」

 しかもこれからずっと一緒に暮らすことになるのに。

「でも嬉しそうだったよ。おじさんも……お母さんも」

「まあ親父もあれで男だしなー」

 そう言うと隣で女子がくすりと笑った。

「大沢君、それってなんかオヤジくさい」

 椎名のセリフに一瞬硬直してしまう。椎名って時々ひどいことを平気で言うよな。

 椎名まりい。さっきまで父親と甘い雰囲気を繰り広げていた女の人、椎名つかささんの一人娘だ。

「ごめん。傷ついた?」

「……ちょっと」

「ごめんなさいっ!」

 まあこうやってすぐにあやまってくれるからいーけど。

「うそうそ。冗談だって。

 それよかさ、椎名こそよかったの? 父さんと、椎名のお母さんの再婚」

 オレの家は親父との二人暮し。男手一つで育児と仕事を両立させてきた父親に、新しい縁談の話も何度か周りから勧められたことがあったけど当分は一人でいいとただ黙々と働いていた。

 そんなある日、椎名のお母さんを見て一目ぼれ。何をとちくるったのかそのまま口説き倒した。でも椎名のお母さんには娘が、養子がいるとのこと。熱血馬鹿の親父はそれでもかまわないと言い張りとうとう今日までこぎつけたってわけだ。こーいうところは別の意味で尊敬する。

 あとは息子であるオレの了解を得るのみと父親から相談を受けたのはつい先日。話を聞いた時、オレはすぐに賛成した――わけではなく、あまりのことに開いた口がふさがらなかった。しかも再婚相手の子供、オレの義理の姉弟となる人が当時の学校のクラスメイト、椎名だと聞いた時は本当に驚いた。

 たまたま椎名と一緒の当番になったあの日、椎名は再婚についてどう思っているのかをそれとなく聞き出そうとした。それが急に倒れられたもんだから結局聞けずじまい。保健室に連れて行ったものの、そのまま帰るのも気がひけたから目が覚めるのを待って、そこで椎名のお母さんに初対面。多少のいざこざはあったものの、いい人そうだったし反対する理由もなくあっさり了解したってわけだ。

「大沢君は、私が養女だってことは知ってるよね?」

「……うん」

 それもつい最近知った。同じクラスだった時はおとなしいとか物静かとは思ってたけど、まさかそんな事情があったとは知らなかったから親父の再婚話の次に驚いた。

「今はちゃんと『お母さん』って呼んでるけど、ずっとお母さんのこと『おかあさん』って呼べなかった。頭ではずっと前からわかってたんだけど、私は捨てられた子なんだ……って。うじうじしている自分が大っ嫌いだった。

 でも色々あって、最近になってようやく『おかあさん』って呼べるようになって。そしたら今まで悩んでいたのが急にばかばかしくなっちゃった」

 そう言って背を向ける。中学時代の椎名は体が弱くて病気がちで。こう言っちゃなんだけど心のほうも弱かった。それがこうして肩を並べて、ひいては同じ屋根の下で暮らすことになるなんて一体誰が想像できただろう。

「あ、あれ? 今何の話してたっけ?」

「再婚の話」

 ……たまにずれた発言もするけど。

「私は賛成だよ。お母さん幸せそうだったし。おじさんもいい人だし」

 父親はただスケベなだけだけどな。二人とも絶対騙されてるぞ。

 けど。

「それ聞いて安心した」

 ほっと胸をなでおろす。反対されてたらきつかったし。今まで男二人だったから味気ないかもしれないけどまあ何とかなるさ。

「家事のことなら安心していーよ。二人生活ながかったからある程度のことはできる」

「家事なら私も一応……できるよ」

「なら大丈夫だな。分担制でいこーよ。そのほうがだんぜん楽だし」

「うん」

 そう思うと気が楽になってきた。二人よりも多いほうが料理のしがいもあるだろーし、なにより華やぐ。

「椎名はいつからうちに引っ越すの?」

「三日後くらいかな。まだ荷造りが終わってないから」

 そうなると、部屋の掃除も終わらせとかないといけないってわけか。手伝うとはいえ最低限のことはやっとかないとな。

「もっと遅いほうがよかった?」

「そうじゃなくって……」

 オレが声をあげるより先に。

大沢昇おおさわのぼる君。ふつつか者ですが、これからよろしくおねがいします」

 彼女に頭を下げられた。しかも微妙に語弊がある。

「やめろって。そんなことされてもオレどーしたらいいかわかんねーもん」

「でも」

「『でも』じゃないって前から言ったろ?」

「……うん」

 彼女がうなずいたのを見て安心する。いきさつはどうであれオレたちは家族になったわけだし。これからは硬いこと抜きに限る。

「そういえば、大沢君の誕生日っていつ?」

 そう思っていたら、ふいに突拍子のないことを聞かれた。

「二月だけど」

 オレの誕生日は二月の十三日。バレンタインデーのいっこ手前だ。おかげで誕生日とバレンタインを一緒にしたプレゼントをもらうことが多い。当然本命はゼロ。

「私は十二月二十三日。じゃあ今日から私、大沢君のお姉さんだね」

 楽しそうに笑う彼女からはかつての弱々しさは感じられない。むしろ――

「大沢君?」

「なんでもない」

 続けようとした言葉を慌てて打ち消す。確かに戸籍上はそうなる。同年代の女子と一つ屋根の下。これって実はすっげー幸せなことなのかもしれない。

「じゃあ帰ろーか。そろそろ親父たちもほとぼりさめてるだろーし」

「そうだよね」

 そうしてオレたちは元の店に戻った。


 四月。一年の始まり。とある田舎町に四人の家族が生まれた。


 家長、大沢勝利。

 妻、つかさ。

 長女、まりい。

 長男、昇。


 そしてこれは、オレにとっても大きな分岐点、冒険のはじまりだった。

なんと言いますか、10年前の文章って黒歴史ですね(涙)。

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