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EVER GREEN  作者: 香澄かざな
第二章 わがままお嬢のお守り役
18/22

No,2 お嬢救出劇

  改めて現場を見る。戦っているのは一人。さっきは男か女か迷ったけど、近くで見るとやっぱり女子――だと思う。

 女にしては長身。長い髪に中性的な顔立ちだが男にしては華奢すぎる。見た目はオレと同じか年上の女子は剣を構え周囲をじっと見つめている。対して相手は五人。全員がゴロツキと一目でわかるような容貌をしていた。

 必死に応戦しているみたいだけど、どう見ても多勢に無勢。足元がふらついていて、このままだったら絶対危ないってのが素人のオレでもわかった。

(どうします?)

 極悪人が小声で話しかけてくる。

(どうしますって、助けるしかないんじゃない?)

 極悪人に習い、こっちも小声で話す。

 できることなら避けたい。けど二人をここまで連れてきたのはオレだ。見て見ぬふりはできない。しかも苦戦しているのは女。ほっといたら寝覚めが悪いだろーし。

 助けるのはいいとして、問題はその方法だ。

 相手の数が多い。オレとアルベルトでなんとか食い止めるとして。女子の方はシェリアに連れだしてもらうか? でもシェリアの方がオレより強いから逆のほうがいーかも――

「何のんきに話してるのよ! ほっといたら連れてかれるでしょ!」

 大声をあげた公女様の口を慌ててふさぐ。が、時すでに遅し。

「ん?」

 やばい。気付かれた。

(誰も助けないなんて言ってないだろ! どうやって助けるか考えてたんだ)

 今さらとは思いつつも、小声で答える。

(そうならそうともっと早く言ってよ!)

 そう言う前に大声あげたのはどこのどいつだよ!

「誰だ! そこにいるのは」

 しかも、完全に気付かれた。

(こうなったら取るべき手段は一つですね)

 考えるような素振りを見せた後、アルベルトは視線をオレの方に向けた。 

(何するつもりだよ)

 真剣な表情にごくりとつばを飲みこむ。敵が近づいてくるのは時間の問題なわけで。

(ノボル、おとりになって下さい)

 この状況を打破するためにはどーしたら……はい?

(おとりです。敵の注意をひきつけるんですよ)

 小声で、とんでもないことをにこやかに言う。

(アンタがやればいいだろ)

(あなたの方が見た目にも最適なんですよ)

(ノボル、頑張って!)

 いつの間にかシェリアまで極悪人の味方をしてるし。

(人に頼るのは嫌じゃなかったっけ?)

(あれは自分の身は自分で守るって言いたかったの!)

「そこに隠れてる奴、出てきな。なに、大丈夫。手荒なことはしねぇから」

(むこうもああ言ってますし)

 そーいうのを言う奴に限ってろくなのがいないんだ!

(大丈夫よ。後でちゃんと援護するから)

 人事だと思って! っつーか、アンタら仮にも神官と公女様じゃなかったか!?

(じゃあノボル、頑張ってください)

 そう言うと、神官はにこやかな表情で背中を蹴飛ばし戦場へ送り出してくれた。異世界人はとことん不条理だ。

「とっとっと……」

 転びそうになったけどかろうじてセーフ。目の前には……

「誰だテメェ?」

「こんな所に何しにきやがったんだ。あー?」

「女の声だと思ったが、あれはおめーか?」

 目の前には五人のゴロツキがいた。しかもどこかで聞いたようないかついセリフ付きで。

 オレ、一体何やってんだ? いきなり敵のど真ん中に来て何やろうってんだ?

 からまれていた相手の方は、あまりの急な出来事にポカンとしている。そーだよな。普通はそうなるって。

「ど、どーもこんにちは」

 別に意識してるわけじゃないのに顔がヘラヘラしてくる。我ながら、すっげー情けねー。

「まさかケンカを売りにきたんじゃねぇだろーな」

「こんなガキが? それともお嬢さん、アンタの知り合いかい?」

 からまれていた相手――女子は、何を言うでもなくただ唇を固くむすんでいる。もしかして、恐怖で怯えてるのか?

「…………!」 

 違う。そうじゃない。

「ボーヤは帰んな。テメェに用はねーんだよ」

 ここで大きく深呼吸。落ち着け、落ち着くんだオレ。唇をかみしめたままの女子。翡翠色の瞳はまだあきらめていない。

「そ、そーいうわけにもいかねーんだ。こっちにも用があるし」

 できるだけ平静を装って答える。背中をつたう汗だけは見逃してほしい。

「ほー。どんな? ボーヤ、膝が震えてるぜ」

 ほっとけ!

 だんだん、こっちに近づいてくる。あと少しだ。

「聞かせてもらおうじゃねーか。その用とやらを」

「聞かせてくれよ、お坊ちゃん」

 ゴロツキは相変わらず人をバカにしたような笑みを浮かべている。

 やっぱり。こいつら気付いてない。これなら何とかなるかも。

「用ってのは……」

 そう言って息を整える。

「用ってのは?」

「こーいうことだ!」

 相手の懐に思いっきり踏みこむ。

 ガッ!

 確かな手ごたえ。当たった!?

「ったく、あぶねーじゃねーか」

「ボーヤ、もっと頭を使おうな。これじゃ考えが見え見えなんだよ」

 確かに当たった。短剣の先はしっかり相手に捕まれている。

「それで? どんな用なのかなー?」

 相手は完全になめきってる。やっぱそううまくはいかないか。

 けどこれなら!

「スカイアいけっ!」

 ブワッ。

 あたり一面に風がわきおこる。そこには緑色の少女が、風の武具精霊、スカイアの姿があった。


 スカイア。ショウからもらった短剣に宿った風の精霊。

 どーいうわけか、オレはこいつと話ができる。でもできるのは会話だけ。オレだけがこの短剣を使いこなせる、というわけではない。今だって、他の奴が使った方がオレの時よりも威力が何倍もあるって言われたし。

「どんな用かこれでわかった?」

 それでも時間稼ぎにはなってくれる。

「こいつらをできるだけ遠くに飛ばしてくれ!」

 ズザァッ!

 風が、緑色の刃に変わり、ゴロツキ達に襲いかかる。

「うわあっ!!」

 特に剣をつかんでいた奴はひとたまりもない。あっという間に遠くに飛ばされてしまった。でも致命傷を与えたわけじゃない。無傷ではないものの、全員立ち上がるだけの力は残っていたようだ。

「この野郎……」

 怒りの視線がこっちに集まりかけたその時、

 ザシュッ!

「!」

 シュッ!

「!?」

 カッ!

「何っ!?」

 背後を取られ、男達があっけなく倒れる。

「テメェ、いつの間に……」

 恨みがましく後ろを、剣を構えた女子を睨む。こいつは気付いてなかった。彼女が、オレが現れたときからずっと反撃の機会を狙っていたことに。オレがどうやって助けだすか考えていたように彼女もどうやって相手を倒すかを考えていた。冷静に考えるとなかなかすごいことだと思う。

 三人は倒れた。残るはあと二人。背の高い方と小さい方。小さい方はさっきオレの短剣をつかんでいた奴だった。

「どーする? これで五分と五分だけど」

 声に怯えが含まれないよう、できるだけ平然とふるまう。

「ガキが。ちょっと油断してりゃあ調子にのりやがって」

 ゴロツキの一人、背の高い方がこっちを睨みつける。

「そのガキに油断してやられたのはどこのどいつだよ」

「のガキぃ……!」

 挑発するつもりはなかったけど今ので完全にキレたらしい。懐からナイフらしきものを取り出す。

「このガキが!」

 げっ。突っ込んできた!

 逃げたくても足がすくんで動かない。オレ、ここで死ぬなんてやだぞ! 毎回言ってるけど!

「覚悟しやがれ!」

 ナイフの切っ先がふれようとしたその時、

「光よ!」

 あたりが急にまぶしくなった。

 きっと何かの術なんだろう。シェリアか?

 声の主の姿を確認しようとしたその時、

「!?」

 首を誰かに掴まれていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 まぶしかった視界がだんだん元に戻っていく。けど地に伏せたゴロツキ3人を除いて場には誰もいなかった。はじめに囲まれていた少女の姿でさえも。

「な……」

 背の高い方が、辺りを見回す。もちろんオレの姿も相手には見えない。

「どこを向いているんです? 敵はこちらにもいますよ」

「!」

 ドカッ。

「はい、おしまい」

 男の声と鈍い音がしたのはほぼ同時。こうして四人目もあっけなく倒れる。

 そこには右手に剣を持つアルベルトの姿があった。ちなみに左手はオレの首ねっこをつかんでいたりする。

「もっと早く助けろよ!」

 首をつかまれたまま文句を言う。この聖職者、見た目と違って腕力も脚力もある。

 こっちは必死だったんだぞ! 死ぬかと思ったんだ。

「生きてるからいいじゃないですか。命の尊さがよくわかったでしょう?」

「んなことでわかりたくない!」

 これじゃ命がいくらあっても足りやしない。

「残りの一人は?」

「ああ。その人なら逃げていきました」

「いーのか!? 親玉とか連れてきたらどーするんだよ」

「その時はその時です。また叩きのめせばいいだけのことですから」

 微笑みをたやさぬまま、さらっとこともなげに答える。

 こいつ、やっぱり怖い。

 異世界に対してよりも、改めてこの極悪人に恐怖を覚えた一日だった。


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