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EVER GREEN  作者: 香澄かざな
第一章「出会いと旅立ち」
13/22

No,12 極悪神官の弟子

 五月五日。ゴールデンウイーク最終日。子供の日や端午の節句とも言われ、珍しいところだとわかめの日とかおもちゃの日とも呼ばれている。


 ――の夜。

「一体どこに行くんだよ!」

 オレはアルベルトに身柄を拘束され、強制的に城の外に放り出されてしまった。

「だから、どこに行くんだよ!」

 城はもう見えない。さらに言うなら街も遠くなり周りには草木しか見えない。何というか綺麗だと思ってた学校裏が実は田んぼや畑ばかりでした、的な。

「あなたの弱点を直すんです」

 重要なことなので再度声をはりあげるとようやく極悪人が振り返った。

「話はショウから聞きました。ジュウと戦ったそうですね。その時あなた何してました?」

「……逃げ回ってた」

 獣――狼もどきに襲われ、とにかくひたすら逃げ回った。

 走って走って、また走って(叫びもしたけど)。おかげで翌日筋肉痛になった。

「初めてだったんだぞ! あんなのに襲われたら普通逃げるだろ?」

「賢明な判断ですね。仮に戦ったとしても、食い殺されるのがオチだったでしょうから」

「……もう少し歯に絹をきせてくれたっていいんじゃねーの?」

 しかも聞き間違いじゃなければ『治す』じゃなくて『直す』って言ったような気がする。しかも意図的に使ってる、絶対。

「事実を言ったまでです」

「戦ったのは戦ったんだぞ! この短剣使って」

 ショウからもらった武器を見せる。義姉のペンダントと引き替えに託された緑色の短剣は今も不思議な輝きを放っている――ような気がする。

「それも聞きました。だから勝てたんですよね」

 必死の反論も笑顔で黙殺される。その笑みには『それがなかったらおまえは殺されていただろう』という別の意味も読み取れた。

「だから、あなたの弱点を直してあげようと言うんです。あなたも、このままじゃ困るでしょう?」

「そりゃ、そーだけど」

 悔しいけどそれは事実。はっきし言って今のオレは足手まとい以外の何者でもない。ちなみにシェリアは術が使える。アルベルトに教わったそーだ。

「それで? こんなところで特訓でもするわけ?」

 場所はミルドラッドという都市から少し離れた草原。

「特訓したところでどうかなるわけでもありません。時間の無駄遣いはごめんですから」

 人好きのしそうな笑みではっきりきっぱし断言された。

 シェリア悪い。オレこいつと仲良くするって絶対できないと思う。昨日頼まれたお願いをわずか一日にして断念してしまうオレだった。

「人を待っているんです」

 視線をオレから前方に変えて歩き出す。どんな人かと尋ねれば『私の親友です』との返事。親友ねぇ。この男の親友なんて、見たいような見たくないような。

「来たようですね」

 変な奴だったりしないだろーな。極悪人にならい視線を草原の一点に向ける。確かにそこには一人の人物がいた。

 が。

「……あの人?」

 目をこすって相手を確認する。

「そうです」

「本当にアンタの知り合い?」

「親友です」

「あの真っ赤な服に緑のマントみたいの着た奴が!?」

「そうです」

 極悪人が真顔で答える。

 アルベルトの親友は――立派な変人だった。

 真っ赤な服に緑のフードつきマント。背中には水色の袋。異様にでかいのが怖い。本人自身は藍色の髪に紫の目。肌の色は白い――わりには血色があって、妙に生き生きしている。

「アル、ひさしぶりー。元気してたか?」

 年齢的にはアルベルトと同じか少し若いくらい。少なくともオレにはそう見えた。

「相変わらずです。シェリアのお守りで大変ですよ」

 そして声をかけられた方は肩をすくめて応じる。

「相変わらずって、君も相変わらずだよな。その口調」

「あなただって普段使ってるじゃないですか」

「オレのは営業用なの」

 見た目とは違い中身は普通の人のようだ。それにしても、仮にも自分の主君の娘をそんなふうに言うなよ。

「それで? カイはどうなんだい」

「それこそ相変わらず、ですね。あなたは?」

「一応捜してるんだけどな。もしかしたら、オレの故郷か地球にいるのかも。あっちに戻ったら捜してみるよ」

 その後は、オレの存在をよそに二人楽しく世間話。どーでもいいけど『地球』って言葉がさらっと出てくるのって、普通にアリなんだろーか。

「ところで、その子は?」

 一通り話がすむと、初めて視線をオレのほうに向ける。

「……大沢昇おおさわのぼるです。これでも高校生なんすけど」

「コーコー?」

「地球の学校ですよ」

 首をかしげた男にアルベルトが追加説明をする。

 って、あれ? オレ高校生だってことコイツに話したっけ。ショウにでも聞いたのか?

「もしかしてその子、地球の人間だったりする?」

 極悪人の親友が驚いた表情をする。

「さらに言うならシーナの弟です」

「シーナって、『シーナ・アルテシア』!?」

「あなたのお得意様のね」

 それに対してこっちは苦笑で返す。

「それならそうと、早く言えよ!」

 さっきまでこっちには気にも留めなかったのが、椎名の名前が出たとたん急に親しげになる。

「そうかー。君シーナの弟なのかー」

 そう言って背中をバンバンたたく。貧弱そうな外見とは裏腹に力がこもってるから痛い。

「兄弟はいいぞー。頼りがいがあるし守りがいがあるし。オレにも君と同じくらいの妹がいるんだ。これがまたすっごく可愛くてさぁ。

 そういえばしばらく会ってないなー。元気にしてるかな」

 初対面なのに見たことも会ったこともない妹の自慢話をされた。加えて幾分、手の力が強くなったような気がする。どうやらシスコンの気も入ってるらしい。

「それで用件は?」

 ひとしきり背中をたたき終わると、表情を元に戻して聞いてきた。

「実はですね……」

「あのー、その前に名前教えてくれませんか?」

「おっと悪い。忘れてた」

 忘れるな。

 そう突っ込む前に名詞を手渡された。

「オレはリザ・ルシオーラ。『魔法よろづ屋商会』の会長さ」

 手渡された紙の名詞には見たことのない文字が書きつらねてある。文字の意味を尋ねたところ『いつもあなたの側に・魔法よろづ屋商会リザ・ルシオーラ』と読むんだそうだ。すっげー、うさん臭いんですけど。

「会長といっても、実際は一人しかいないですけどね」

 だろーな。

「その怪しげなキャッチコピーがいけないんじゃないんですか?」

 極悪人が、珍しくまともな意見を述べる。

「そのほうが客の注目をあびやすいんだよ」

「じゃあその格好もわざと?」

 恐る恐る聞いてみる。

「もちろん。目立つだろ」

 そう言ってモデルなみにくるりとひとまわり。確かに赤に緑の組み合わせは一目につく。目立ちすぎて、かえって周りが引いてそうな気もするけど。

「そのわりには誰も見向きもしませんね。ここまで客がこないと、これはこれで一つの才能と言うしかありませんよ」

「それを言うなって」

 極悪人の指摘にルシオーラさんが苦笑する。

 ……ふーん。

 この二人、本当に親友なんだな。話の雰囲気でわかる。

「それで、用件なんですが。ノボルに何か使えるものを売ってください」

「この子にねぇ」

 だからこの子はやめろって。

「お願いします。お金はちゃんと支払いますから」

「水臭いこと言うなよ。お前の頼みなんだ。ただでいいさ」

「ありがとうございます」

 服装とシスコンなのを除けば、かなりいい人かもしれない。

 とはいえ――

「ふーむ……」

 こっちを値踏みするように見つめる。早くしてほしい。オレにそんな趣味ないし、男に見つめられるのはなんか怖い。

 ひとしきりうなると、顔を元に戻す。

「時間がかかりそうだな。アル、時間をくれ。二、三時間でいい」

「わかりました。じゃあ夜明けにでも迎えに来ます」

 そう言ってきびすを返す――って、残されたオレはどーなる!? 

 慌てて呼び止めると『私がいたところでどうにかなるというわけではないですから』と返された。加えて夜明けにはもどってくるとも言われる。

「でも夜明けって――」

「彼が一緒なんです。獣に襲われる心配はありませんよ」

 がんばってくださいと言い残し、今度こそ本当にアルベルトは帰ってしまった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 一方、残されたオレの方はと言うと。

「さて。始めますか」

 『魔法よろづ屋商会の会長』ことルシオーラさんが袋から中身を取り出す。剣、斧、弓、槍。ナイフ。薄っぺらい本。その他もろもろ。これらを全部出すのだけでもずいぶん時間がかかった。この袋、某猫型ロボットの四次元なんとかじゃないのか?

「とりあえずこんなところか」

 一通り袋から出し終えると一息をつく。

「こんなのいつも持ち歩いてるんですか?」

「うん。商売だから」

「重くないんですか?」

「普通はね。こう見えても発明家なんだ。これだってそう。本当はもっとたくさん入るけど、実際はほら。こんなに軽い」

 そう言って袋をよこす。確かに軽い。袋の口を開けると、さらにたくさんの道具がでてきた。

「なんなら袋の中身、全部出してみるかい?」

「……遠慮しときます」

 出した後が怖い。とにかく本当にすごい人だ。

「参考までに聞くけど、君はどんな武器使ってみたい?」

「うーん。王道でいくと剣なんだろーけど、まず使えないし。かと言って術の素質は全くないってアルベルトに言われたし」

 術の素質が全くない。これは極悪人にきっぱりすっぱり言われた。そもそも今日だって、シェリアに勧められて術の練習をしている時に『時間の無駄』とここまで連れてこられたんだ(確かに練習してもぜんぜん使えなかったけど)。

「素質がない? それは珍しいな」

「珍しい?」

「うん。術というものは個人差はあれ、本来なら誰でも使えるものなんだ。そうじゃなかったら別の能力が身についてるはずなのに」

「そーなんですか?」

「だってさぁ。異世界ワープして何も変わらないって、なんかすっごく悲しいもんがあるだろ。要は、わざわざ遠いところから来たんだから一つくらい、いい思いさせろ! って事」

「……確かに」

 何の根拠もないことなのに、妙に説得力があるのはなぜだろう。

「もしかしたら地球生まれってことに関係があるのかも……。ん? それは?」

 男の青い瞳に緑色の短剣が映る。

「ショウに――友達にもらったんです。前は椎名が使ってたとか」

「それ、オレが作った物だよ」

「ルシオーラさんが?」

「リザでいいよ。アルベルトの友達なんだ。ぞんざいに扱うわけにはいかないだろ」

 いや、オレ、極悪人と友達になった覚えはないんですけど。

「もともと女性の護身用に作ったものなんだ。周りに結界をはったり簡単な間接攻撃ができる」

「そーなんですか」

 だからあんなすごいことができたわけだ。でも女性用の護身用武器に守られるオレって男としてどーだろう。

「じゃあ、剣に宿った精霊の人格も、ルシオーラさ……リザが考えたものなんですか?」

「人格?」

「妙にミーハーぽかったけど」

 軽いというか、一緒にいて疲れるというか。その辺りを伝えると、武器を創った当人は急に黙りこみ深刻な顔をみせた。

「ノボル。君の世界では知らないけど、精霊っていうのは滅多に人の目の前に姿を現すものじゃないんだ。まして話すことなんて、まずできないと言ってもいい」

「そーいえばスカイアも同じこと言ってたよーな」

「スカイア?」

「えーと、この短剣に宿った精霊の名前。オレが勝手につけたんです。名前がないと色々と不便だろーし」

 某ゲームのキャラクター名を適当につけたという事実は伏せておく。するとリザは、深刻な顔を真面目な顔に変えてこう言った。

「もしかしたら君は、人とは違う力を中に秘めるタイプの人間なのかもしれない」

「力を中に秘める?」

 それってファンタジーの王道っぽい。未熟な主人公がだんだんレベルアップして、最後には強力な魔法なんかが使えたりして――

「ただ自分では使えない。何かの媒介を通じて、始めて使えるものだろうな。惜しいねー。それだけあったら強力な術とか使えそうなのに」

「それって結局のところ、役にはたたない能力じゃないですか」

「うんそう。少なくとも今は使えない。惜しいねー。それだけあったら強力な術とか使えそうなのに」

 希望は一瞬にして砕け散った。

「ねぇ、その精霊――スカイアだっけ。出してみてよ」

 さっきまでの真面目な顔を元に戻し、リザが言う。

「え、今すぐですか?」

「オレ、精霊の会話なんて聞いたことがないんだ。頼む、このとおり!」

 そう言ってオレの前で手をこすり合わせる。そう簡単に出てくるとは限らないと返すとそれでもいいからと拝み倒された。ちなみに今は、親に欲しい物をねだる子供の顔。なんというか、表情がよく変わる人だ。

「じゃあ……スカイア、出て来い!」

 短剣を片手に呼びかける。

 でも、仮にも精霊と呼ばれるものがそう簡単に――


 ポンッ!


《はーい!》

 出た。

 あっけなく。お手軽に。手品でももう少しくらい時間がかかるだろーに。

《ひさしぶりー。御主人様、元気してました?》

「元気って……。まだ一日しかたってないけど」

《やだなー。社交辞令ですよぉ》

 精霊とやらに社交辞令の挨拶されるオレって。

「ノボル、この子がスカイア?」

《そうでーす!》

「……だ、そーです」

 渦中の精霊は興味津々とこっちを見ている。

《御主人様、この人は?》

「お前を作ってくれた本当の御主人様」

《へーっ》

「って、覚えてないわけ?」

《あんまり》

「ひどいよなー。マスターには懐いてるのに作り手のオレには見向きもしないなんて」

 よほどショックだったのか、地面にしゃがみこみ、『の』の字を書いている。なんつーか、やっぱりスカイアの製作者だ。現状を見て確信した。

《このヒト、ワタシの声が聞こえるんですか?》

 こっちのほうは驚いている。なんかおもしれー。

「一応ね。でも自分から精霊を呼び出して会話するなんて芸当はできないけどね」

 さすがは製作者。精霊が出てきても、物怖じするどころか嬉々として話しかけている(落ち込んではいたが)。それにしても、精霊との会話は芸ですか。

「その様子だとマスターを気に入ってるようだね」

《はい! だってワタシの御主人様ですもの。シーナも良かったけど、こんな話ができるマスターなんて御主人様だけです!》

 それってほめられてるのか? けなされてるのか?

「よしよし。これからもマスターを守るんだよ」

 そう言ってリザがスカイアの頭をなでる。もっとも実体がないからふりだけだったけど。

《はーい♪》


 ポンッ!


 それが嬉しかったのか、緑色の精霊は若干顔を赤らめると、勝手にまた消えてしまった。

「なんか、疲れる……」

「そう言わない。精霊と会話ができるなんてめったにないチャンスなんだから」

「そうは言っても、オレができるのは会話だけで、武器はおろか術なんかまったく使えないんですよ?」

「うーん、確かにそれも困りものだね」

 こっちの方は思いっきり人事だ。にこにこと笑みなんか浮かべて楽しそうにオレを見ている。

「……なんか楽しんでません?」

「気のせい気のせい」

 言葉とは裏腹に、なんだかとても楽しそうに見える。

「じゃあ、これなんか……」

 リザが袋から何かを取り出そうとした時だった。


 ピピッ! ピピッ! ピピッ!


「ん? 何だい、この音は?」

「やっべえええ!」

 音の発信源――腕時計を見る。

 時刻は午前7時ジャスト。地球での覚醒の時間――目覚まし時計のなる時間だ。

「リザ、オレあと少しで元の世界に帰らないといけないんです」

「帰るって……このまま消えるの?」

「意識だけ。体はこっちに残る……っつーか、眠ってるみたいなんですけど」

 なぜわかるかというと、こっち(空都)の世界の対策として、あらかじめセットしていたから。

「それも難儀なことだねぇ」

 だからそう人事みたいにうなずくな。いや、実際に他人事か。

 そうこうしているうちに眠気が襲ってくる。

 ちくしょー。また地球に強制送還か!?

「……あ」

 そーだ。

「リザ、図々しいお願いなんですけど、体と意識を一体化する道具って作ってもらえませんか?」

「うーん。要するに、自分の好きな時に世界を、惑星を移動できるような道具を作れってこと?」

「そうで……す……」

 やばい、眠気がピークに達した。

「すみません、後、頼みます……」

「え、ノボル、ちょっと!?」

 リザの声が遠くに聞こえる。

 いつかの時と同じく、膝が折れ、そのままずるずると深い眠りに落ちていった。

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