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EVER GREEN  作者: 香澄かざな
第一章「出会いと旅立ち」
12/22

No,11 公女様の護衛騎士

ノボルへ


 急なことで悪い。実はこれからサンクリシタという所へ行かなくならなきゃなった。伝えようとしたけどなかなか起きなかったから代わりにこの手紙をアルベルトに預けておく。


 この世界でアンタが心配することといったら、まずあのペンダントのことだろう。アレはアクアクリスタルと呼ばれる宝石。これについてはシェリアかアルベルトにでも聞いてくれ。

 そのままこれ(アクアクリスタル)をアンタのとこに置いていこうとも思ったけど、アンタに持たせると危険な感じがしたからオレが預かっとく。悪く思うなよ。

 その代わりと言ってはなんだが、風の短剣を置いていく。使用方法、効果はこの前アンタが実践したとおり。多分アンタのほうが俺よりもそいつをうまく使ってくれると思う。


 あと、シーナについて。

 アンタの推察通り、シーナはこっちの世界……空都クートの人間だ。でも本人曰く、シーナはシーナであって『椎名まりい』なんだ。このことは本人が口にするまで言わないでほしい。念を押すようで悪いけど、俺のことも。


 最後にこれからのアンタのこと。

 俺の考えが当たっていれば、アンタは今、地球で覚醒しているんだろう。

 ここで覚えていてほしいのは、アンタの体はこっちとあっち……地球と空都の二つに存在しているということ。仮に、アンタが地球で活動しているとする。すると、空都でのアンタは、はたから見れば活動を停止している、言い換えれば眠っているということになる。

 要するに、アンタはこれから先リアルな夢を見続けるってこと。ただし、こっちで大怪我をおったなら地球でも大怪我をおうことになるし、もちろん逆もありえる。

 もしこっち(空都)で死んでしまうようなことがあれば――わかるよな。

 まあそんなことはないと思うから心配しなくても大丈夫だろう。ここではアルベルトとシェリアが面倒見てくれるだろうしな。


 俺が答えられるのはここまで。もし一人になってしまうようなことがあれば、レイノアの俺の家を訪ねるか、シーツァンの青藍セイランもしくはユリをあたってくれ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「――それじゃあ、機会があったらまたな。ショウ・アステム」

 読み終わった手紙をくしゃりと握りつぶす。

 ショウ、なんでいないんだよ。ここ(空都)に来て唯一気が合いそうなやつだったのに。

 リアルな夢って一体なんなんだよ。しかもこっちで死んだらあっちでも死ぬってことになるんだろ? その時点でもう夢とは言わねーよ。そんな危なっかしい世界で一人でやってけっていうのか。面倒見てくれるのがあの二人じゃおもいっきし不安じゃねーか。せめてもう少し待っていていてくれたら迷うことなくアンタのほうについていったぞ。

「ノボル、いるー?」

 ため息をついたのと少し高めの声が耳に届いたのはほぼ同時刻。返事をする気力もなく視線をめぐらせると。

「あー、いたいた」

 さっきの公女様が現れた。ちなみにお姫様然としたドレスはなりをひそめ、身につけているのはいつぞやのクリーム色のワンピース。

「えーっと……」

「シェリア。いい加減、名前くらい覚えてよね」

 まだ出会ってからそんなにたってないんですけど。そんなことはお構いなしに、ぱたぱたと足音をたてて近づいてくる。

「今、暇?」

「暇といえば暇だけど」

 っつーか、アンタ達に無理矢理時間を作らされたんですけど。そんなオレの心情はお構いなしに明るい茶色の瞳がまたたく。

「街に行かない? アタシが案内するわ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ここが武器屋。他の街よりも結構いいものが売ってあるのよ」

 シェリアに誘われるがまま、オレはミルドラッドの街をぶらついていた。

「こっちは防具屋。ちょっと値段は高いけどその分質はいいんだから」

 RPGと似ているようでやっぱどこか違う。こっちのほうが幾分、文明が進んでいるようだ。地球の格好と似たり寄ったりの気もするし。

「それにしてもノボルの格好って」

「変?」

 カーキ色のパンツにトレーナーと、昨日と似たり寄ったりの服装をまじまじと見る。さすがに神官服のままってのはきつかったから着替えたけど、そんなに目立つ格好でもないはずだ。

「そうじゃないけど、ちょっと貧弱すぎよ。ジュウに襲われたらひとたまりもないわ」

「獣?」

魔獣マジュウのこと。かわいいのもいるし、すっごく獰猛なのもいるの」

 言葉から察するに、どうやらモンスターのことらしい。

「お金なら持ってるから買ってあげよっか?」

「でもオレ、鎧なんて着たことないし、重いだろーし……」

 一瞬、脳裏に重い鎧をつけて動けないでいる自分自身の姿が浮かんだ。が、同時に動けないでじたばたしている自分の姿も浮かんだので即行で頭の中から消去する。

「ばかねー。鎧なんて騎士か宮殿の近衛兵しか身に着けないわよ。アタシ達みたいのは魔法防御のかかったこういう服を着てればいいの。アクセサリーだって魔力がこもっていれば立派な防具なんだから」

 そう言って身に着けている服をつまむ。確かに三編みにした長い髪は動きやすそうではあるものの、ワンピースからは防御の高さはうかがえない。

「もっとも、普通の服よりちょっと値がはるけどね」

 てっきり誰も彼もが重装備だと思ってた。まさかそんなものがあろーとは。ファンタジー、おそるべし。

「何か身につけたいものはある?」

 鎧から、さっきの神官服姿の自分を思い浮かべる。実はあの格好自体も何かしらの能力がひそんでいたんだろーか。

「今はいい。どーせ、これからちょくちょく来ることになりそーだし」

「それもそーね」

 あっさり同意。……本当にちょくちょくくることになるんだろーな。

「じゃあ他に行きたい所は?」

「そーだな――」

 次の行き先を決めかねていると、

 ぐううううぅぅ。

『…………』

 腹の虫がこれでもかというくらいに鳴り響いた。

「まずは食事ね。それならいい所知ってるわ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『あづみ堂』

 看板にはそうかかれてある。しかもなぜか日本語で。本当にここかと再度尋ねると『ここ!』と元気な声が返ってきた。それにしても『あづみ堂』とはこれいかに。日本の食堂じゃないんだから。それともここにやってきた日本人が書いたのか?

「おじさーん、いるー?」

 シェリアが店の中に向かって大声を出すと小太りの人のよさそうなおじさんが中から出てきた。

「ひさしぶり。いつものを二人分お願いね」

「いつものですね。わかりました。久々によりをかけて作りますよ」

 いつもの?

「よく城を抜け出してここに来てたの」

 オレの言いたいことがわかったのか、シェリアがあわててとりつくろう。って、公女様ってそう簡単に脱走していいもんなのか?

「シェリア様もお連れの方も中でお待ちください。すぐに出来上がりますから」

「いつもありがとね」

「いえいえ。長年のお付き合いですし」

 それで『長年のお付き合い』か。お姫様ってのも色々大変なもんらしい。

 店の中で待つこと数分。さっきのおじさんが出してくれた食べ物は――

「クレープ?」

「そ。アタシがいつも頼んでる自慢の一品なの」

「オレ、甘いのはちょっと」

「とってもおいしいのよ。騙されたと思って食べてみて」

 そう言ってさっそくパクつく。

 女子って本当に甘いものが好きだよなー。チョコレートのひとかけらふたかけらくらいならなんとか食べれるけど、これって中のクリームなんかめちゃくちゃ甘そうだ。

 隣を見ると、シェリアは二個目を口にしていた。仮にもおごってもらったものを断るのも気が引ける。悩んでても仕方ない。えーい!

 パクッ。

「どう?」

 明るい茶色の瞳がおずおずとこっちをのぞきこむ。

「……うまい」

「でしょ?」

 確かに甘いのは甘いけど、想像していたようなどぎついものじゃない。しかも上品な香りがただよってくる。

「中に入ってるのって生クリーム?」

「オレインクリーム。オレインの果実を中に練りこんであるの」

「ふーん」

 こっちの果物かなんかかな? こっち(空都)でうまいものが食べれるとは思ってもみなかった。

 しっかし……。

「ん? 何?」

 こっちの視線に気づいたのか、シェリアが食べるのをやめてこっちを見る。

「いや。アンタお姫様なんだよなーって」

 ついさっきまでドレスなんか着て『お父様……』なんて言ってたのに、今は買い物したりクレープ食べたり。これじゃ学校帰りの女子高生だ。

「公女だって息抜きが必要なの」

 そう言って再びパクつく。

 やっぱお姫様って肩書きも何かと苦労するもんなんだろーか。二人してクレープを食べ終えた後、シェリアはオレに向き直って口を開いた。

「ねぇ、シーナは元気?」

 ショウの時といい、二人して同じこと聞くんだなー。

「元気元気。高校で友達とうまくやってるよ」

 ショウの時と同じような返事をすると『よかった』とこれまたショウと同じ反応。

「アンタは椎名の友達なんだろ?」

 確信をこめて問いかけると目の前の公女様はさも嬉しそうにうなずいた。

「アタシの初めての友達――親友なの。アタシって公女……お姫様だから。なかなか外に出してもらえなかったの」

 よく城を抜け出したようなこと言ってなかったか?

 そのツッコミは心の中でとどめとく。

「だから同年代の人と話をするなんてほとんどなかったのよね。でもシーナはみんなとは違って対等に見てくれた」

 そう言って遠くに目をやる。きっと友達への思いをはせているんだろう。……どこかで見たシチュエーションだな。

「椎名も同じこと言ってた」

「ほんと?」

「ほんとほんと。親友からもらった大切なものだって――」

 その親友からもらった大切なものをなくしたんだよな。オレって。

 やっぱり……なぁ。

「なぁシェリア。アンタ椎名にペンダント――アクアクリスタルあげた?」

「ショウが持っていっちゃったのよね」

 あー。やっぱり!!

 あのペンダントはシェリアが椎名に渡したものだったんだ。

「大丈夫。怒ってないわよ」

 苦笑しつつ、ポケットから何かを取り出す。

「これを渡せば大丈夫よ」

 それは、ついさっきまで彼女が髪につけていたものだった。小さな髪飾り。水色の宝石の縁を銀の装飾で施され、中には椎名のペンダントと同じく女性の姿が彫られている。

「じゃあ遠慮なく」

 髪飾りを丁寧にしまう。

「今度はなくさないでね」

「わかってるって」

 一度落としてこんな目にあったんだ。そうそう落としてなるものか。

「その代わりお願いがあるんだけど」

「……何?」

 まさか、また厄介ごとを頼まれるんじゃないだろーな。

 彼女は表情を幾分改めるとこう言った。

「護衛の件、引き受けてほしいの」

「引き受けるも何も、強制だったからなぁ。……そーいえば、『ベネリウス』って誰?」

 領主から聞いた言葉を思い出す。『そなたにもベネリウスになってもらいたいものだな』と言われても何のことだか全くわからない。

「お父様が言ったのね」

「だから、誰?」

 目の前で深々と息をつかれてもわかるはずもなく、さらに問いかけるとこう説明してくれた。

「ある王女様の護衛騎士だった人の名前よ。彼はこのあたりには珍しい、漆黒の髪に同じ色の瞳をしていたわ。容姿端麗で剣術にも優れ、人望もある。あっという間に国中の英雄と化したわ」

「それで『ベネリウス』、ね」

 要するに、領主はオレに英雄のようになれって言いたかったわけだ。確かにオレは生粋の日本人。黒髪に黒目だけど。そんな人になれと言われても絶対に無理だ。っつーか、無理。

「ある出来事がきっかけで、彼はとある王女の護衛騎士となった。文字通り英雄となった彼は、いつしかこう呼ばれるようになっていた。『黒い翼を持つ英雄』と」

 黒い翼を持つ英雄。なんだか英雄譚にでてきそうな話だ。

「それで、その人は今どこに?」

 興味本位で尋ねるも返答はなかった。なぜかさっきよりも遠い目をされてるし。

「シェリア?」

「話がそれちゃったわね。とにかくアタシは、ちゃんと了解した上で旅に同行してもらいたかったの。嫌々だったら意味がないもの」

「それって、あの極悪人とも仲良くしてって意味も含む?」

「うん。アルベルトとなかよくしてほしいの」

「『なかよく』って」

 思わず苦笑してしまう。小学生じゃないんだから。ましてや相手はあの極悪人だ。

「アルベルトって誤解されやすいけど、本当はいい人なの。あなたを城にかくまってくれたのも彼だし。あなたのこときっと嫌ってはいないはずよ。

 アタシだってあなたとなかよくなりたい。アタシ、あなたと友達になりたいの」

 『私は必死です!』って体全体で表現している。恥ずかしいことを平気で言う女子だな。お姫様ってこんなもんなのか?

「わかった。努力してみる。まあ、すぐにそうなれるとは思えないけど」

 相手があの極悪人だけに余計大変だ。かといって、こうも真剣に頼まれて嫌というほど人は悪くないつもりだ。

「ありがとう! あと、もう一つ。これはシーナにも言ったことだけど」

「今度は何?」

「アタシはあなたに護衛をしてもらうつもりはないわ。アタシは自分の身は自分で守るの。そうじゃなきゃ、カッコ悪いでしょ? さっきと言っていることが逆になっちゃうけど、アタシは三人で楽しく旅がしたいの」

 カッコ悪い――ね。

「そっちにとっては幸いだろーけど、今のオレは自分のことで精一杯」

 両手をあげて降参のポーズをとると、そう言うと思ったと賛同の声が返ってきた。

「ちなみに椎名は何て言った?」

「今のあなたと同じことよ」

 そう言うと、くすりと笑う。それは今日見たなかで一番、年相応の女の子の笑顔だった。


 異世界に飛ばされて、鈍器で殴られ、獣に襲われた。最後には極悪人の弟子と公女様の護衛ときたもんだ。明日は一体どんな目にあうのやら。

「ま、なんとかなるさ」

 どこかで聞いたような言葉を呟きながら帰路についた。

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