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EVER GREEN  作者: 香澄かざな
第一章「出会いと旅立ち」
11/22

No,10 極悪神官の弟子と護衛騎士

(――なーんて思ったのが間違いだったよな)

 心の中で深々とため息をつく。

 ところ変わって昨日と同じレイノアというショウの故郷――じゃない。

 気がついたらやけに豪華なベッドに寝かされていた。正直またか? と思った。今度は何が起こるんだ!? とも。

 けど待てどくらせど顔見知りの姿は現れず、急に入ってきた見知らぬ人にやれ急げだのやれこれを着ろだのとまくし立てられ、事態を把握する間もなくゲームに出てきそうな神官らしき服を着るはめに。そして今はなぜか極悪人の、アルベルトの横に立っている。

「その者がお主の弟子か?」

 しかも、目の前には偉そうな人(王様か領主なんだろう)がいるし。どーでもいいけど、なんで目が覚める度にこんな突拍子のない場所にいるんだろう。誰か教えてほしい。

「旅の途中で出会ったんです。聞けば身よりもないとのこと。私の片腕になってくれればと思い、連れてまいりました」

 勝手に人の親を殺すな。

 心の中でツッコミを入れる。オレを鈍器で殴った極悪人はオレの胸中もなんのその、隣で平然と嘘八百をまくしたてる。

「そうか。そなたも大変だったのだな」

 (多分)王様、騙されないでください。

 続けてツッコミを入れたかったけど時と場所がこんなもんだからあいまいにうなずくことしかできない。

「年も公女様と同じようですし、シェリア様の良き話し相手、護衛になるのではないでしょうか」

 ちょっと待て。そんな話一言も聞いてない。

「アルベルト、一つ質問があるのだが」

「なんなりと」

 (おそらく)王様はオレと同様ため息を一つつくと、アルベルトに向かってこう言った。

「なぜ我が娘を……旅に同行させなければならないのだ?」

 そりゃそうだろう。

 弟子の紹介をしておきながら、一方ではこの国のお姫様(多分)を連れ出しますって言っているようなもんなんだから。全然脈絡がない。

「一つは社会勉強です。公女様とは言え、いずれはここミルドラッドを担う身。世の中のことをもっと学ばなければなりません」

「世界事情なら、そなたが一番理解しているのではないか?」

「私のような未熟者、まだまだ世界を語るに足りません。それに、百聞は一見にしかずと申します。この旅は公女様自身にとって貴重な体験となるのでは」

 この世界にも日本のことわざは通用するのか。異世界、あなどりがたい。

「しかし……」

 王様きっとそうだろうが反論しようとしたその時だった。

「お父様……」

 それまで黙り込んでいたお姫様らしき女子が口を開く。上品そうな生地で縫い上げられた水色のドレス。アップにした金色の髪は青い宝石で作られた髪飾りでとめてある。いかにもお姫様ってかんじだ。

「お父様。お父様がわたくしの身を案じてくださっているのは存じています。ですが、アルベルトの言うようにわたくしもまだ未熟者。もっともっと世界のことを知りたいのです。

 そちらにいるアルベルトのお弟子様――」

 え、オレ?

「アルベルト自身のご推薦ですもの。きっとわたくしを守ってくださいますわ」

 明るい茶色の瞳がこっちを見据える。同年代の男ならだれもが心を奪われそうな笑みを浮かべて。

 ……あれ? この目、誰かに似てないか?

「それはまことか?」

 王様(だよな、きっと)をはじめ、周りの視線が一斉にオレに向けられる。

 こーいう時はえーっと……

「まこと……そのとおりです。公女様はオレ……私が守ってみせます」

 とちった。しかも嘘八百。けど、日本のことわざが通じるなら『嘘も方便』も通じるはずだ。……たぶん。

「確かに今はまだ未熟ですが、いつしかきっと公女様のよき護衛騎士、ミルドラッドを支える神官となることでしょう。私が保障します」

 ここぞとばかりに極悪人がまくしたてる。

 んなこと誰も保障せんでいい!

「わかった。お主の好きにするがいい。アルベルト、シェリアをくれぐれも頼んだぞ」

「御意」

 アルベルトが礼の形をとる。

 それを満足そうに見つめると今度はオレのほうに近づいてきた。

 え、何? オレ何もやってないぞ?

 王様くどいけどそうだろうは何をするでもなく、オレをただ見据え、小声でこうささやいた。

(黒い瞳と髪を持つ少年か。そなたにも娘にとってのベネリウスとなってほしいものだな)

「? はぁ」

 黒髪黒目ってオレの世界じゃありふれてるんですけど。

 と王様ということにしとこうに言えるはずもなく。あいまいにうなずくと、その人は視線をそらすことなくこう告げた。

「そなたを我が娘の護衛騎士に命ずる。娘を頼んだぞ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『護衛騎士に命ずる』って言われても、一体何をすればいいんですか。そんなことを尋ねたくても答えてくれる人はなく。

 改めて自分の服を見る。白地のところどころに刺繍がしてある。さっきのお姫様の格好まではいかなくても、オレなんかが着るのには場違いな感じがする。これって神官服ってやつだよな。仮にも聖職者の服をオレみたいな一般人に貸していいもんなのか?

「やっぱ着替えよ」

 なれない格好はしないに限る。元の格好に着替えようと服に手をかけたその時だった。

「ノボル、いるー?」

「うわあああああっ!」

 背後からいきなり女の声がした。

「なによ。そんなに驚くことないじゃない」

「ノックぐらいしろ!」

 慌てて脱ぎかけていた服を元に戻す。案の定、声をかけてきたのはあのシェリアという女子だった。

「あ、忘れてたわ。ごめんなさい」

 悪びれることなく舌をだした女子にため息をつく。

 ったく。こっちは着替え中だったんだ。これって普通逆だろ? 女の子の着替え中に男が偶然お目にかかるってありがたいシチュエーションが――ないか、そんなもん。

「結構似合ってるじゃない」

「え?」

「その格好。さまになってるわよ。本当に神官か学者みたい」

「そ、そう?」

 そう言われてみると、そーなのかも。さっきまで窮屈でたまらなかった格好も、その一言で心なしかそれらしく見えるから不思議だ。

「人間、服が変わればそれなりに見えるもんなのねー。今のあなたってそのいい例よ」

 前言撤回。

「アンタこそ、その格好はなんなんだよ。さっきのお姫様みたいじゃん」

 水色の上品そうなドレス。髪こそアップにはしてないものの、これじゃまるっきりさっきのお姫様だ。そう思ってつぶやくと『みたいもなにもって、あれアタシよ?』という声が返ってきた。

 ……アタシ?

「これでも公女やってるんだから仕方ないでしょ」

「……公女って何?」

 自然な疑問を口にすると今度は『王族の直系の貴族の娘』という返答が。

「それって平たく言えばお姫様ってことだろ?」

「そんなとこかしら。アタシの場合は王家の直系になるけど」

 さっきの王様(ということは大貴族か領主ってことか)の言葉と、公女様の言葉がよみがえる。領主様は『なぜ娘を……』とか言ってたしお姫様は金色の髪に明るい茶色の瞳をしていた。そいつは目の前の女子と全く同じ容姿で。

 そこから出てくる答えは一つ。

「アンタ、さっきのお姫様だったのか?」

「ええ。本名はシェリア・ラシーデ・ミルドラッド。ここ、ミルドラッドの領主の一人娘よ」

 異世界にたどり着いた上に、いきなりお姫様とのご対面とは。よくある話なんだけどそれをやられるとなんだかなー。

 それにしても――

「人って格好で変わるもんなんだなー」

 感慨深くつぶやくと、どーいう意味と片眉をつりあげられた。

「それよりあの極悪人は? あいつも偉い人だったりするわけ?」

「アルベルトはここの神官長の息子で、彼自身も有能な神官なの。あれでも最年少で神官になったのよ」

「神官って変人がなれるの?」

「誰が変人です」

 噂をすればなんとやら。振り返ると極悪人ことアルベルトが立っていた。こめかみがヒクついてるのは気のせいだろう。

「いい度胸してますねえ。誰に向かって言っていると思ってるんです?」

「オレを鈍器で殴りつけて、なおかつ今度は変な格好させて王様の前で嘘八百まくしあげた極悪人」

「アルベルトって言ったほうが早くすむんじゃない?」

「まだ言い足りない」

 その後はしばし二人でにらみ合い。

『…………』

 にらみ合い。

『…………』

 にらみ合い。

『…………』

 にらみ合――

「そのへんにしたら? らちがあかないじゃない」

 シェリアがため息をつく。

「そーだよな。不毛なだけだ」

 言いたいことは山ほどあるけど、こいつに言うだけ無駄のような気がする。

「そうですね。じゃあこの件は後ほどということで」

「後ほど? アンタ達これからどこかにでかけるんだろ?」

 異世界だろうがなんだろうがオレと目の前の二人とは無関係。出かけるなら二人でどこにでも行ってくれ。顔をしかめるとあなたにも同行してもらいますととんでもない提案をされた。そんな話はもちろん聞いてない。

「なんだよそれっ!」

「まさかここにずっと一人でいるつもりだったんですか?

 あなたは今、私の弟子ということでここに滞在していられるんですよ? ここは一般人がそうすんなりと入れる場所ではないんです。現在は私の弟子、兼シェリアの護衛役という肩書きがつきましたが私達がいなかったら、城内はおろか城門にも近づけないところでしたよ」

 一般人がすんなり入れない場所?

「結局のところ、ここってどこなわけ?」

「さっきも言ったでしょ? ミルドラッド。カザルシアの主要都市の一つよ」

 カザルシアって名前には聞き覚えがある。地球と似ていて明らかに違う世界――空都クートの国の中の一つだったっけ。

「正確にはその城内です」

 アルベルトが言葉を引き継ぐ。

 二人の言葉を要約すると、空都の中にあるカザルシアって国の主要都市、ミルドラッドの城内ってわけか。――って、まんまじゃん。

「あなたがここに来たのは二回目です。この部屋には見覚えがあるでしょう?」

 神官の声に改めて部屋を見回す。大きなベッド。大きな窓に広くて豪華な部屋……?

「金髪女に床にたたき落とされて、極悪人に壷で殴られた場所か!」

「……あなたがアタシ達をどんなふうに見ていたか、今はっきりわかったわ」

「あ、いや、その。あれで第一印象良かったって思うほうがおかしいだろーし」

 ジト目の公女様を、幾分か引きつった笑みを浮かべながらフォローする。平謝りが通じたのか、しばらくすると『アタシもここを抜け出そうとした時にあなたに会って城に戻ることになったんだし。お互い、いい印象はないわよね』と肩をおとされる。城を脱走しようとしてたのか。どーりで、あの時極悪人に質問攻めにあったはずだ。

「城の問題は後回しにしたとしてもです。一番身近な問題ですが、あなたお金持ってます?」

「お金?」

「通貨のことです。あなたの世界にも存在するでしょう?」

「……ここのお金の単位って何?」

「C『ケルン』です」

 当たり前だけど『円』じゃなかった。ましてや『(ゴールド)』でもない。

「どうやらあなたの世界とは違うようですね。一文無しで、どうやってここで生活するつもりだったんですか? だったらなおのこと、ここにいるわけにはいきませんね」

 確かに考えてなかった。

「でもオレって何の役にもたたないよ。剣とか魔法とか、そんなの一度も使ったことなんかないし使えないだろーし」

「そんなことはわかってます。これから私がちゃんと指導してあげますからご心配なく」

 嫌だ! と反論しても、このままで間違いなくのたれ死んでしまいますよと正論をつかれる始末。

 多分、目覚まし時計がなれば元の世界に帰れるんだろう。でもって、眠ったらこっちに来ちゃうんだろう。元の世界でならともかく、こっちで一人というのはあまりにも危険すぎる。これから出会う人すべてがショウのような人とは限らないし。むしろ、ショウに助けられたのは運がよかったんた。

 そこで、ふと一つの疑問が生じる。

「あのさー。ショウは?」

 そうなんだ。さっきから気になってはいたけど、ここにきてからずっとショウに会ってない。他の奴にならともかく領主には顔を出すだろうに。

 すると女子――じゃない、公女様はさも意外そうに言った。

「ショウなら仕事が急に入ったって昨日出ていったのよ? 彼って運び屋だから」

 『運び屋』なるものがどんな職業かはわかんなかったけど、強そうなイメージだけは理解できた。だからオレと同じくらいの年であんなに強かったのか。って納得――してる場合じゃない!

「やっべぇ。ペンダント、ショウが持ったままだ。返してもらおうと思ってたのに」

「ペンダント?」

「うん。青い球体で、女の人の肖像画が彫られてて――」

 オレは二人に椎名のことを話した。椎名がオレの義理の姉だということ。椎名がペンダントを肌身離さず大切にしていたということ。夢の中でショウと出会って一悶着あったこと。すべてを話し終えると二人は目を丸くしていた。

「あなたがシーナの弟!?」

「だから義理のだって」

 オレが地球人ということは知っていても、椎名のことについては初耳だったらしい。あと、なくなってしまったペンダント(宝石)の名前はアクアクリスタルと呼ぶそうだ。なんでもここ(ミルドラッド)でしか取れない宝石らしく、公女様自身が椎名にあげたものらしい。

「偶然って恐ろしいものですねえ」

 どうも椎名を知っているのはショウだけじゃなかったらしい。世間って本当に狭い。しかも『次はシーナのお母様が出てくるんじゃないかしら』だの『お友達という可能性もあります』だのと二人で勝手に盛り上がってるし。

「……そろそろ本題に入ってもいい?」

 咳払いをして続けると、返事の代わりに一枚の手紙を渡された。

「実はあなた宛にショウから預かっていたんです」

「早く言えよ!」

 有無も言わせず手紙をひったくる。

「ノボルへ――」

 いたって普通の書き出しの文章。はじめは声をだして読んでいたものの、話が進んでいくにつれ声が小さくなり、しまいには顔が青くなってしまった。

「目標ができましたね。ショウの後を追ってアクアクリスタルを返してもらう。シェリアの護衛はそのついでということで」

 二の句が告げない。

 その様子を見てか、アルベルトはさも嬉しそうに言った。

「まずは荷物の準備ですね。明日からさっそくはじめますから今日は体調を整えてください」

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