表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVER GREEN  作者: 香澄かざな
第一章「出会いと旅立ち」
10/22

No,9 日常の戻り方と精霊と

 ジリリリリ……。

 うるさい。今日はまだ休みのはずだろ。

 ジ!

 手探りで目覚まし時計を止める。

「…………」

 AM7:00。

 そーいえば、昨日親父達を見送るからってセットしといたんだった。いつもの癖でそのままにしといたんだな。まあ、起きたものはしょうがない。顔でも洗うか。

 パシャ、パシャッ。

 顔を洗い、タオルでふく。椎名はまだ帰ってなかった。

「……」

 何気なくカレンダーを見る。今日は五月四日。昨日に引き続きゴールデンウイークの真っ只中。

 あれ……?

「…………!?」

 急いで二階に駆け上がる。そこにあったのはベッドに机にゲーム機。どこからどう見てもオレの部屋。昨日の見慣れない部屋や変な外国人集団もいない。

「帰って……きたんだよな」

 物は試しと頬をつねってみる。古典的だけど、しっかり痛かった。ということは――

「帰ってきたんだ!」

 今更ながらにガッツポーズ。

 机もベッドもなんだかとても懐かしい。長旅から帰ってきた時ってきっとこんな感じなんだろーな。そんなことまでも考えてみたりする。

「でもなんでまた、こんなにすんなりと帰れたんだ?」

 アルベルト、だっけ。そいつが言うには元の場所に帰るには外からの刺激、こっち(地球)からの刺激が必要とか言ってたような。頭を触ってみたものの、別に殴られたような形跡もないし。他に刺激になるようなもの、刺激、刺激――

「これか!!」

 ベッドのそばにあった目覚まし時計をつかむ。

 別に刺激=体に何かの危害が及ぶってわけじゃないんだ。

 たまたまこいつがセットしてあったからつい条件反射で目が覚めたってわけか。考えてみればいたって単純。

 けど――

「やっぱつぼで殴らなくてもこっちに帰れたってことじゃねーか」

 あの野郎。絶対怒鳴るだけじゃ気がすまない。あとで絶対殴る。

 決意を新たに握りこぶしを固めたその時だった。

「ただいまー」

 玄関のドアが開く音と女の子の声がする。

 階段を下りると、大きな袋を抱えた椎名がいた。

「お帰り」

「ごめんね。遅くなっちゃって」

「平気平気。オレも今帰ってきたとこだから」

「帰ってきたって、どこか出かけてたの?」

「そ、そうそう。ちょっとコンビニまで」

「そうなんだ」

 あぶねーあぶねー。まさか『ちょっと異世界まで行ってきました』なんて言えない。

「その袋は?」

「由香ちゃんと料理してたの。作りすぎちゃったからおすそわけ」

 そう言って袋から取り出したのはたくさんのシュークリーム。

「シューを作るのって大変なんだね。なかなか本通りにはいかないみたい」

 甘そうな匂いが部屋の中に充満する。

「椎名って甘いもの好きなの?」

「そんなことないよ。手作りが好きなの。昇くんは甘いのだめ?」

「あんまり」

 辛党じゃないけど甘いのも好んでは食べない。まあ食べれないことはないけど。

「そっか。じゃあこれは駄目だよね」

 う……。

「食べる、食べる。よかったー。ちょうど腹がへってたんだ」

「昇くん、無理してない?」

「してない、してない」

 そう言って半ば無理矢理シュークリームを口の中に入れる。

「うん、うまい。美味しいよ、これ」

 本当は結構甘かったりするけれど、本人を目の前にしてそれは言えない。

 もしかしなくても、オレって椎名に甘い? そんなことを頭のスミで考えるけどこの際気にしないことにする。

「よかった。甘すぎないかなって心配してたの。そうだ、これ」

 椎名が一冊の本を差し出す。この前貸してたやつだ。

「とっても面白かった。この前なんか夜更かししちゃった」

「そりゃよかった。続きも貸そうか?」

「うんお願い」

「ちょっと待ってて。すぐ取ってくるから」

 そう言うと本を片手に二階に上がった。

 オレの部屋には小さな本棚が三つある。一つは教科書と参考書類。残る二つは漫画と小説。小説にいたってはもうすぐ百冊になる。

「えーと……」

 あった。

「お待たせ……?」

 本を片手に部屋を出ようとすると椎名がドアの前に立っていた。

「部屋まで来なくても持ってきたのに」

「うん、ちょっと……」

 言葉を濁すと、そのまま部屋の中に入ってきた。視線をキョロキョロと落ち着きがない。

「昇くん、この部屋にペンダント落ちてなかった?」

「え」

 心あたりのありすぎる発言に動作が一瞬かたまる。

「さっきの本を借りた時かな。どこかに落としちゃったみたい。青い石で、中に女の人の絵が彫ってあったんだけど……」

 やっぱり心当たりがありすぎる。間違いない。あれは椎名のものだったんだ。

 ってことは、あれは紛れもなく事実……!

「それってそんなに大切なの?」

 まさか異世界に置いてきましたなんて言えるわけがなく、平静を装いながら聞いてみると、椎名は首を縦にふった。

「うん。友達からもらった大切なものなの。今は遠くにいるから会えないけど、とっても大好きだった人達との思い出がつまった宝物なんだ」

 言えない。

 その大切な宝物を踏みつけたあげく、異世界に置いてきましたなんて絶対言えない。

「ごめん。変なこと言っちゃったね」

 やばい。とてつもなくやばい。早くショウに返してもらわないと後でえらい目にあいそうだ。

「昇くん?」

「……なんでもない」

 でもあれが事実だってことは。

「椎名。あのさ――」

「何?」

「……なんでもない」

 言いかけたセリフをなんとかのみこむ。

 オレが異世界に行ってきたってことは喋るなってショウに口止めされてたんだった。約束を破るわけにはいかない。

「じゃあ私、部屋に戻るね。もし見つけたら教えてね」

 そう言うと、階段を下りていった。

 ちなみに椎名の部屋は一階にある。オレの部屋は二階。親父いわく『何かあってもいつでも隣の自分たちに助けが呼べるように』とのこと。親父と母さんの部屋も一階だ。っつーか、何かって一体何だよ。

 ペンダントを夢――じゃない、異世界に置いてきたのは認めたくないけど紛れもない事実。ってことは、椎名が少なからずそれに関係してるということになる。

 椎名も何かとワケありなのかも。

「現実って結構大変だよなー」

 静かになった部屋で一人呟いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「さて」

 時間はあっという間に過ぎ、またまたやってきた就寝時間。昨日と同様、ジーパンとTシャツ、その上に上着を着込む。

 目覚まし時計を今度は八時に、用心にと同時刻にセットした腕時計をはめる。これで、いつあの異世界に行ったったとしても大丈夫ってわけだ。そう言えばあの世界の名前は『空都クート』だってショウが言ってたっけ。

「寝る前に眠ったあとの準備をするのってオレくらいだろーな」

 なんてことを言いつつ、スポーツバックに荷物を詰め込む。

 ベッドに横になり、目をつぶり――再び起き上がる。

「風の短剣ねぇ」

 スポーツバックの中から緑色の短剣を取り出す。昨日ショウから護身用に渡されてたんだった。なくさないようにとバックの中に入れて、ショウと話をしてて――

「……寝たんだな」

 この前のペンダントの逆バージョンってわけか。ショウと初めてあったあの日、袋の中から取り出して無我夢中でふるった。まあふるったと言っても、化け物相手にじゃなく空気を凪いだようなものだったんだけど。でもその後が尋常じゃなかった。

 あの後、あいつはどこに行ったんだ?

「…………」

 幸いここにはオレ一人。試してみるか?

「おい、出てこいよ」

 呼びかけるも返事はない。

「そこにいるのはわかってんだぞ」

 再び呼びかけるも返事はない。

「…………」

 なんだかとてつもなく恥ずかしいことをしてしまった。周りに人がいなくてよかった。いたら絶対白い目で見られるから正気を疑われる。

「やっぱそう簡単にいくわけないか」

 ため息とともに短剣をしまおうとしたその時だった。

《何が?》

「何がって――」

 時が止まる。

《やっほー》

「…………」

 時が止まっている。

《ひさしぶりー。元気にしてましたぁ?》

 時が止まって――

《おーい》

 ……………………。

「うわアアアアアアアアアアアアアアっ!」

 悲鳴とともに後ずさった。その距離ジャスト二メートル。

「昇くん!? どうしたの?」

 下の階から椎名の声がする。ここで部屋にでもこられたら絶対やばい。

「なんでもない! 気にしないで!!」

「でもすごい大声が――」

「本当になんでもないんだ!

 ……そう、ゲーム。ホラーゲームやってたんだ。それにびびって大声出しただけだから! 本っ当大丈夫だから! 心配しなくていいから!!」

 かなり苦しい言い訳だったけど、椎名が階段を上る音はしなかった。

「…………」

 目をつぶり、大きく息を吸う。

《あー、びっくりした。耳元で大きな声ださないでくださいよ御主人様》

 目を開けると、そこには一人の少女がいた。

 肩まであるカールした髪に大きな目。オレより一つ二つ年下に見える。ただそれを形作る色が、こいつが人でないことを物語っていた。

「緑だ」

 そう。全てが緑だった。髪も、目も、肌も。おまけに服もしっかり緑色。

《ここが御主人様の故郷なんですねー。なんだかわくわくしちゃう♪》

 そう言って、緑色の少女は珍しそうにあたりを見回している。

「御主人様って、オレ?」

《あなた以外に誰がいるんですか》

 そりゃこの場からしてみればオレしか考えられないだろーけど。

「なんですぐに出てこなかったんだよ」

《だって御主人様の反応が面白かったから。ちょっとしたお茶目♪》

「剣の精霊がそんな茶目っ気なんか使わなくていい!!」

《失礼ですね。精霊だってちゃんと感情が――》

 そこで少女がまじまじとオレの顔を見つめる。

「なんだよ」

《あのー、言いましたっけ。ワタシが精霊だってこと》

「今までの流れでいったらそれしか考えられないだろ。アンタに御主人様と言われるような事と言えば、この前の獣との戦闘くらいしか考えつかないし」

 冷静に考えれば想像はつく。けどまさか、こうして目の前に現れるとは思ってなかった。ましてやこんな反応をされるとはもっと思ってなかった。

《そりゃあそうなんですけど。もう少し驚くとか十メートルくらい飛び上がるとか、そういったリアクションがほしかったかなー、なんて》

「さっきの二メートルで十分だ」

《つれない……》

 そう言って地面に『の』の字を書く。どうやら見た目とは違ってかなりのボキャブラリーを持った精霊らしい。

 精霊ってみんなこうなのか? もう少し威厳とか神秘的というか、そんなのがあっていーもんじゃないか? 『精霊』のイメージが音を立てて崩れていく。

「オレ、大沢昇。アンタは? 精霊なんだろ?」

《はい。巷では風の精霊なんて言われてまーす!》

 ……なんか、軽い。普通にいるよ。クラスにこんな奴。

「えーと。まずはお礼言っとく。あの時はサンキュ。ほんと助かった」

《やだなー。ワタシと御主人様の仲じゃないですか。堅いこといいっこなしですよ》

 どんな仲だ。どんな。

「アンタ、精霊のわりには軽いとか言われない?」

《まあ、精霊それぞれですからねー》

「…………」

《でもこれでも前の御主人様の時は頑張ってたんですよ?》

 前の御主人っていうのは椎名のことなんだろう。

「その人はちゃんと使いこなしてくれたんだ?」

《はい。でもはじめはワタシのこと武器とは思わなかったみたいで、包丁代わりに使われてましたけど》

「包丁って」

 椎名らしいというかなんというか。

《前の御主人様も変わってたけど、今度の御主人様も変わってますよねー》

 変わってる? オレが?

「ショウは? アンタの今の御主人様じゃないのか?」

《違いますよー。精霊、武器にはそれぞれ相性があるんです。彼にはそれがなかった。彼自身もそれをわかっていたからワタシをあなたに預けたんですよ。大切にはしてもらいましたけどね》

 なるほど、納得。

「それでオレとの相性はよかったわけ?」

《合格合格! 大合格ですよーーー!!》

 そう言ってオレに抱きつく。

「うわっ!」

 慌てて飛びのこうとしたけど、その手はむなしく宙をつかむだけだった。

《びっくりしました? でもワタシ精霊ですから実体がないんです。だから間違っても御主人様とキスなんかできません。へへー。がっかりしたでしょ?》

 ……疲れる。

 なんで精霊とやらにんなこと言われにゃならんのだ。

「この前『軟弱そう』とか『もう少し運動神経がよくてもいーのに』とか言ってなかった?」

《やだなー。あれは――》

 そう言いかけて、再びオレをまじまじと見つめる。

「だからなんだよ」

《やっぱり御主人様って変わってますねー》

「だから何が?」

《普通、人間は精霊を目にすることはあっても会話なんてできないんです》

「そーなの?」

 こんな調子だから誰でもかれでも会話し放題なのかと思ってた。

《はい。この前の独り言が聞こえたってことはちゃんとワタシのことがわかったってことですよね?》

 それってなんかRPGっぽくない? 主人公にしか使えない隠された能力とかが。

《でもそのわりにはワタシのこと全然使いこなせてないし。むしろショウのほうがワタシをうまく使いこなせるはずですよ》

 ないですね。そーですよね。はい。

《あっ、でも御主人様が嫌いというわけじゃないんです。御主人様が――》

「ストップ。昇でいーよ。御主人様なんて気恥ずかしいだけだし。オレもアンタのこと名前で呼ぶから」

《名前ですかぁ? そんなのありませんよ》

「は? あるだろ、名前くらい」

《一般的な精霊ならいざ知らず、武器に宿った風精霊なんか誰も気に止めたりしませんって》

 そう言ってどこかのオバサンよろしく手をパタパタとふる。

「……もしかして、アンタって低級霊?」

《気にしてることを言わないでくださいよー。少なくとも今のご主人様より力はあるはずですよ?》

「う」

 悔しいけど、確かに。

「でも名前がないと不便だろ」

《だったら御主人様が名前付けてくださいよ》

「オレが?」

 精霊がこくこくとうなずく。名前ねぇ。うーん。

「えーと。じゃあ、スカイア」

《それってどーいう意味なんですかぁ?》

「いや、なんとなく。嫌だったらいいけど」

 本当になんとなく。単なる思いつきだ。強いて言えば某ゲームの攻略本にのってたキャラクター名だ。

《そんなことありませんよー! じゃあ今日からワタシの名前はスカイアってことで!!

 じゃあもう消えますね。あ、ワタシを呼び出すときは媒体――この短剣がないとできませんのであしからず。次もご指名よろしくお願いしまーす♪》

 ポンッ!!

 何かがはじけるような音と同時に、風の精霊は姿を消した。

 ほんっと、疲れる。

「もしかしてオレ、とんでもないものを預かったのか?」

 問うべき人間はここにはいない。ショウに会ったら話してみよう。

 スポーツバックを片腕にかけたまま、今度こそ本当に眠りにつく。

 できれば、もうあんな変な世界に召還(?)されないことを願って――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ