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強制的に残留決定

初の異世界トリップのお話です。

文章やお見苦しい点が多々あると思いますが、楽しんで見て頂けたら嬉しいです。

白を基調とした壁、飾りも付いていないシンプルな部屋。

この部屋にはランプも付いているが、今は蝋燭の明かりだけ。

少し心もとないけど、それでも蝋燭の数は多いので問題はない。

今ここに居るのは私と黒のフードを頭から被った、ちょっと見た目が怪しい魔術師が数人と金髪の男だけだ。

魔術師の1人が、金髪の男に掌サイズの紅い玉を渡す。

その紅い玉を私は、この1年と半年待っていた。

離れ離れになった恋人を待つように「早く手元に来て欲しい」ずっと願っていた。

金髪の男が私に渡そうと近づいて来る。

あまりにゆっくりと来るので、待てずに私も近づく。


これでこの国から私のいた世界―――日本へ帰れる。

帰る為には、この玉がどうしても必要だった。

ここでの暮らしも良くしてもらって感謝してるけど、それでも早く帰りたかった。

1分でも1秒でも早く、この場所から故郷へ。

人から見ればそんなに長い年月ではないと思う。それでも待つだけだったこの1年と半年は、私にとってはとても長かった。


金髪の男が渡そうと片手を伸ばして来たので、私も受け取る為に必死に両手を伸ばす。

指先に玉の感触を感じた。

ただ触れただけなのに玉が自分のところに来た、と安心して油断してしまったのが、そもそもいけなかったと後から後悔するのだけど、この時の私はホッとして玉から視線を少し外してしまったのだ。

それでも外したのは2、3秒ぐらいだった。

その僅かな時間の間に、大切な大切な玉は……何故か床に落ちて行った。

床に落ちた衝撃で粉々に割れる音だけが辺りに響き渡り、その光景に息を呑んだ。

呆然としてしまい、言葉を発する事が出来なかった。

暫く無言の状態が続くと金髪の男が私にこう言った。


「申し訳ありません。手が滑ってしまいました。けど……これで帰ることができなくなってしまいましたね」


ギギギッと首だけを上げ金髪の男―――グレンを見上げる。

謝罪の言葉はあるのに、心にはちっとも響いてこなかった。

その原因はグレンの表情にあった。

この男は満面の笑顔で私に向かって言ってきたのだ!その表情を見た時、私はキレた。


「ちょっと何してくれるの!やっと帰れるところだったのに!!それに全く謝罪の気持ちが伝わらないし……わざと落としたでしょ!」

「とんでもない。濡れ衣も良いところです。手から誤って落としてしまったんですよ。それに謝ってるじゃないですか。もう一度言いましょうか?」

「もう良い!それよりも壊れちゃったじゃない。あっ……そんなに落ち着いているってことは……もしかして予備とかあるの?」


僅かな予感を期待し、恐る恐る聞いてみるとグレンからの容赦ない言葉の暴力を受けた。


「ありません」

「即答で言わなくて良いし!う~~もうっ知ってるでしょう?私がどんなに帰りたがってたか!それを…それを…」

「あまり怒りすぎると身体に悪いですよ」

「誰の所為でこうなったと思ってるのよ~~!」


私は言葉でグレンに勝てた事がない。いつも丸めこまれておしまいだ。それ以外にも勝てた事がないけど……。

それでも悔しくてギッとグレンを睨む。

本当は見下してやりたかったけど、私より頭1つ分以上背の高い目の前の人を見上げるしか出来ない。

暫く睨んでると、グレンがサッと顔を背ける。

ちょっとなんで頬を赤らめる必要があるのよ。

あれか。私の顔があまりにも酷かったから、見苦しくて顔を合わせられなかったからとか?

……って本題からズレてきてる。

また頭に血が上りそうになるとを抑え、深呼吸する。

冷静に冷静に。


「あの紅い玉がないと、私帰れないのよね?」

「そうですね」

「魔術師の皆さんが数人がかりで、1年以上かけて魔力を貯めてやっと出来た物でしょう?」

「はい。ですが、壊してしまったので無駄になってしまいました。けどわざと壊した訳ではないので、皆納得してると思います」


……あなたの後ろで魔術師の皆さん、寄り添ってシクシク泣いてますけど……スルーですか。


「それでまた作るのに、同じ時間がかかるの?」

「そうですね。時間をかければ作る事は出来ます……が帰る事は出来ません」

「えっ……!?」

「そういえば言ってなかったですね。実は帰る為に必要なのは、この玉だけじゃなく星も関係してるんですよ」

「聞いてない!どうしてそう重要な事を私に言わないの!?」

「忘れてたんです」

「…………」


嘘だ!わざと言わなかっただけでしょう!

いつもいつもそう。この男は私が困る姿を見るが大好きらしい。

だからってこんな仕打ちは酷すぎる。もう泣きそう!泣いていいですか~!


「そんな涙目で見上げてくるなんて卑怯です。襲いますよ?」

「ひっっっ」

「怯えた姿も可愛いですが、話を戻しましょう。これから時間はたっぷりあるんですからね。存分に可愛がってあげます」


ゾクゾクゾクッ

全身に鳥肌が立つのを感じた。

普段は丁寧な言葉遣いと物腰の柔らかさで世の女性を虜になさっているが、みんなは知らないだけなのだ。この男の裏に隠れている、性悪な性格の悪さを!

その悪さを私にだけ見せてるのは何故だろう?と思いながらも、私はグレンの話を聞く事にした。


「南に位置する星――アリアナが輝いている時にこの玉があること。この条件が整わなければあなたが帰る事はでません」

「仮にその条件が必要だとしても、また同じ機会を作ったら良いじゃない。なんで帰れないのよ」

「玉は用意できますが、問題はアリアナです」


グレンの言葉に血の気が引く。

まさか……まさか……。

私の顔色を見て、グレンがフッと笑う。


「あぁ。気がついたようですね。そうです。アリアナが再び輝くのは、120年後の予定

です」

「ひゃ、120年後……」


現在17歳の私ですが、120年後は生きていません。

ここで、私が帰れない事が決定しました。


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