悪戯禁止。お菓子は時々あげる。
帰り道が分からなくなった迷子、なんて今日日珍しい。
なにせ、スマホ一つあれば大抵の目的地なんて分かるし道順だって幾つも出してくれる。
もし、戻る方法が分からないとすれば。
それは間違いなく異常事態が起きているということになるだろう。
……そして、今。
異常事態が起きている。
僕はスマホと睨めっこをしているが、どれだけ検索をしても出てくるのは概要と起源ばかり。
「何か分かりました?」
不安そうな表情で少女が問う。
昨日まですっぽり被っていたカボチャの被り物を不安そうに抱いて。
「そうだなぁ。とりあえず、ハロウィンって死者の魂や精霊がこの世に戻って来る行事だったんだなって」
「今更ですか!?」
「いや、正直コスプレ大会くらいの認識しか……」
絶望に変わる少女の顔を瞥し、僕は改めて彼女が『戻る方法』を探す。
――が、一瞬で出てきた情報以上のものは中々手に入らないというのはインターネットの特徴でもある。
「どうしましょぉおお? 本当に帰れないんでしょうか?」
「んなこと言われても……これ何回目か分からないけど、道も分からないのに何で遅くまで残ったのさ」
「だって、皆がお菓子くれるからぁぁ……」
遂に泣き出した少女。
彼女は『本物の』ハロウィンの参加者だった。
要するにとりあえず人間ではない。
年に一度のお祭りで現世に来たは良いがお菓子を貰うのに夢中で気づけば帰りそこなってしまったのだ。
「すみませぇん。本当。何でもしますんでここに置いてくれませんか。本当にもうどうしたら良いか分かんないんです」
泣きながら昨日の戦利品である飴を差し出してくるのは良いが、生憎もうそんなもので喜ぶ年齢でもない。
……そして、どうしようもない状態の相手を放り出せるほど残酷な大人には育たなかった。
「はぁ」
僕はため息をついて言った。
「とりあえず、来年のハロウィンになりゃ戻れるでしょ。それまでは居ていいよ。もう」
「本当ですか!?」
安堵した表情の彼女に告げる。
「その代わり。悪戯は禁止」
「え。じゃあ、何をすれば……」
「仕事に決まってんだろ」
「えぇ……」
「嫌なら出ていけ」
「うぅ」
「諦めろ。ここは人間の世界なんだから」
不満げに頷く彼女に僕は昨日から何度渡しかも分からない飴玉を差し出す。
「お菓子なら時々やるよ」
「はぁい」
僕の手の平から飴玉を受け取り彼女はそれを口に入れた。
来年のハロウィンまで364日。
退屈が休暇を取ってしまった一年の始まりだった。




