第2話 「魔力」
初投稿です。
テーマは王道異世界ファンタジーとブロマンスです。
第一章くらいまでは、世界観の説明が多くなりすぎましたが、ご了承ください。
「この世の全ての物に魔素は宿る。魔素こそが魔力の源であり、魔法の根幹である。」
——大賢者 イゼリオ・ヴァルマス 著
《魔導理論基礎全書・第一章:根源》より
人類は心臓のすぐそばに魔力を生み出す器官、《エルネア核》がある。そこから血管同様に、全身に《魔力流通路》が張り巡らされている。
「この世の全ての物に魔素は宿る」
彼の大賢者の言葉である。
この世の全てと言うからには、それは水や飲み物だけにとどまらず、当然気体も当てはまる。
この世界に生まれ落ちてから、呼吸し、食事をすることで時間をかけて魔素を吸収していく。
そうして次第に発達していくエルネア核が、魔素を変換し魔力を生み出す。
身体が成熟し、魔力覚醒を経て、皮膚の《魔導孔》から魔力が流れ出るようになる。それこそが魔力覚醒なのだ。 そうして初めて、人類は魔法を使えるようになるのである。
魔力は火・水・雷・光・闇の5大属性があり、どれを授ずかるかは遺伝的要因とされており、
修業ではどうこう出来ぬものである。
両親の属性が異なる場合、大抵の場合は遺伝的により優位な方のみを授かることになる。
しかし、極稀にだがサヴァルディンのように複数の属性を持つ者も確認されている。
エルネア核は、その大きさが魔力量に直結する。
作られた魔力は魔力流通路を通り、全身に貯蔵されていく。
遺伝的要因が大きいとされるが、環境や食事内容、修行などの後天的な要因でも成長が見込めるため、生まれつき決まっている属性とは大きな違いと言える。
それは魔力覚醒を経たあとでも、20歳頃まではエルネア核の成長は見込めるとされている。
ーーー
サヴァルディンの魔力量は、魔力覚醒したばかりだと言うのにとてつもないほど莫大な量と予想された。
正確な魔力量は、王城や三大魔法学校のような場所に行き、現在の主流である《流体式魔力管》と呼ばれる大掛かりな装置を使わねば測定出来ない。
かつて一般的な簡易測定法だった《魔力結晶反応式ラヴェノ型》ならイシュタルト領でも行える。
しかし、魔力に反応し、変色していくラヴェノ鉱石で測定するには、サヴァルディンの場合、膨大な量のラヴェノ鉱石を測定に費やすことになるだろう。
この測定法はラヴェノ鉱石の重量さえわかれば計算式を用いて、魔力量を数値化出来るが、
石の質にも左右されるため、現代ではあくまで正確性には欠ける代物という認識となっている。
そのためサイレスは、残念ながらサヴァルディンの魔力量を数値化することは諦めざるを得なかった。
ーーー
魔力量の多さは、この世界において非常に重要な意味を持つ。
どれほど優秀な領主であっても、魔物から市民を守る義務がある身として「強さ」は必須の条件である。
そして魔力量はその「強さ」に直結する。領主として、市民や兵士たちに大した魔力量もないと後ろ指を指されるようなことはあってはならないのだ。
魔力量が多ければ、すなわち魔法の出力が高まり、威力が増す。それだけでなく上級魔法や最上級魔法のような大量の魔力を消耗する魔法の使用を行えるかが決まってしまう。
魔法習得にかかる期間も、練習できる回数が増える分、短く済む。
魔力量の差は、時間と共に開いていき、最終的にはとてつもなく大きな差となって現れてしまう。
それだけではない。
魔力量の多さは「強さ」以外にも大きな利点を生む。
両親からの遺伝によって、子のエルネア核の大きさに影響を及ぼすと結論付けられている現代では、より上位の貴族との政略結婚などでも大変重要な意味合いを持つ。
多少家柄が劣っていても、魔力量が多いと知れたら結婚相手としては魅力的な相手に映るのだ。
とはいえ、辺境伯であるイシュタルト家よりも上位の貴族となると王族くらいしか残っていないだろうが、間違いなくサバルディンは今後色々な貴族たちから最上級の玉の輿相手として狙われることとなる。
それが此度の魔力覚醒によって、確約されたのだ。
サイレスは、執務室の奥で机に向かっていたが、椅子に落ち着いて座っていられる時間は一向に長続きしなかった。書類を一枚めくっては立ち上がり、窓辺へと歩き、何かを思い出したようにまた机に戻る。
その繰り返しだ。
「まさか、あれほどとはな……」
もはや事件と言っていい、サヴァルディンの魔力覚醒。
この世界の文化として、魔力覚醒が起こると、それを周囲に知らせるために家の表に、銀の燭台を立て火を灯すという習わしがある。そしてその家は子の成長を祝い豪華な食事するものだ。
サヴァルディンの魔力覚醒は市民の目撃者も多く、すでに街中に広まっている。
屋敷の前にこれ見よがしに飾り立てた、豪華な銀の燭台と灯火がそれが嘘ではないと喧伝しており。
屋敷前には銀の燭台と次期領主になるであろうサヴァルディンを一目見ようと市民が群がっていた。
書斎の窓からそれを眺める。あの可愛い笑顔の裏に、これほどの才が眠っていたとは。
気がかりはいくつかある、だがそれよりも嬉しさが勝る。
彼の輝ける将来を思うと、気づくとニヤ付き顔となってしまうのだ。
「……いかん、いかん」
サヴァルディンには当主として威厳ある姿を背中で見せてきたつもりだ。こんなにも緩んだ顔を見せるわけには行かない。 パンパンと、自ら両頬を叩く。
そんなことをしつつも、少し経つとまた笑みがこぼれてしまうサイレスなのだった。
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