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サヴァン戦記 ~星環の守護者~  作者: たーちゃもん
第一章 「イシュタルトの街編」
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第15話 「人生設計(ライフプラン)」


 光の精霊ティティとの契約、そして依り代となる魔鉱石を手に入れた。最優先事項である命に関わる事は済ませた。なので、次に重要なこと。


――失っている‟記憶”について知る。


俺はこの世界のことを何も知らない、精霊もいるし、魔力や魔素と言っているし、魔法もあるのだろう。完全な異世界ファンタジーと言って良い。ここでの生活は西洋中世のような生活様式で、機械はそこまで発達していないようだ。まだ分からないが、きっと随所で元の世界とは大きく違う文化や常識が存在するだろう。


昔、職場の先輩が言っていた言葉がある。

「計画八割、実行二割」


どこかの格言でも

「一日の計はあしたにあり、一年の計は春にあり」と言うのもあったはずだ。


こういうのはとにかく最初の計画が大切だ。何といおうと異世界に来た事実からは逃れられない、ならどう生きていくかを考えねばならない。人生は順応の連続なのだから……。魔王と戦えというなら甘んじて受け入れよう。



だが現状、計画を立てようにもあまりに情報を知らなすぎる。計画を練るための材料がないし、目標の設定も何もない。故にこれからは、ひたすら情報収集に徹することにした。


サヴァルディンのこと。みんなのこと。この世界のこと……知りたいことは山ほどある。


  ーーー 


ということで、ザインとステンドラという二人に、色々と話を聞いて来たので情報を整理する。彼らはサヴァルディンの従者らしい。何故か話しかけやすいので助かる。


――《サヴァルディン・イシュタルト》

数か月前に十四歳になり成人となったばかり。この街の領主の一人息子である。魔力覚醒後、光と闇の膨大な魔力を発現。その力を聞きつけた七人の魔女たちによって魔力を封印された。理由は異世界転生の疑惑をかけられ、その力でもってこの世界を支配するのでは?と恐れられたからとのこと。


はい、そうです異世界からの転生者なのは正解です。


だがそれは黙っていた方が良いだろう。また俺の事を襲いに来る輩がいるかもしれないし、完全な別人格とわかれば、ここの家族たちも良い顔はしない。記憶を全て失った息子として、新たな人生を歩む方が良い。


「でもそれで良いんだろうか?」 と悩む気持ちもある。


そもそもの話。元々この肉体に存在していたサヴァルディンはどうなったのだろうか?

サヴァルディンは一度死に、俺の人格を宿した状態で生き返っている。可能性の一つ目は、肉体の死亡とともに人格が消滅し、その空いた器に俺が入り込んだパターン。その場合、言い方は悪いが、俺は心置きなくこの肉体で生きていくことができる。元の人格に身体を返す心配がなくなるからな。


二つ目の可能性としては、実は俺と同じ肉体の中に元の人格も存在していて、今は眠っているだけのパターンだ。同じ肉体に別の人格が同居する、多重人格のようなイメージだ。この場合、どこからか流れ着いた俺の人格は完全に邪魔ものとなる。もしそのパターンなら、何らかのきっかけがあって元の人格が目を覚ますかもしれない。そうなると、この身体は彼に返さなければならなくなるはずだ。そのまま俺の意識も消えて無くなったりするかもしれない。


前世では俺の身体は死んでいる。故に、俺の魂の行き場はない。ワンチャン、また別の身体に入ったりしなければ、今度こそ本当に死ぬと考えるのが自然だ。まあ、一度は失われかけた命だ。受け入れるほかないだろう。


三つ目の可能性は低いだろうが、元の人格もまた俺のように別の肉体に移っているパターン。この場合、その行先はこの世界に限らない。俺という前例があるのだから、彼もまた異世界の肉体に入りこんで第二の人生を歩んでいる可能性もなくはない。


あとは第四の可能性として、俺が思いつかないような壮大な何かに巻き込まれているとか……。まあこれ以上は考え出したらきりがない。


いくら考えたって真実はわかりようもない。だが念のため、元の人格に肉体を返還する可能性も考慮に入れて、清く正しく生きていくことにしよう。そうでなくとも、元の人格の彼に恥じないようにしなければ……。俺の意志ではないとはいえ、俺はサヴァルディンの人生を途中から乗っ取ってしまったのだから。それは単純な俺が背筋を伸ばすには、十分な理由だった。


――清く、正しく生きる。


人生の目標を決めたところで、早速一つ思ったことがある。このままサヴァルディンの家族を俺が‟利用”して生きていていいのか、ということだ。現段階ではほかに手段もないので仕方ない部分ではあるが、なるべく早く自分で生計を立てていく術を探したいところである。


今後どのように生きていくかだが。第一選択肢としては、家を出て自立することだ。よくある転生ものらしく前世の知識を利用して新たな商売を始めたりすれば、割と生きていける気はする。懸念点としては初期投資のお金がないことだが……。それに関しては、どこかの商会にアイディアだけ持ち込んで自分を売り込み、そこで成り上がって行く方向でどうだろう。この世界の文明レベルはまだ分からないが、少なくとも元の世界よりは発達していないことだけは確かだろう。前世の知識を総動員すればなにかしら金になるはずだ。


どうせこの世界に知り合いは誰も居ないのだ、ここの家族たちともさよならして、完全に一人でやって行く方が正直気楽だ。サヴァルディンの家族に頼るのは罪悪感で胸が痛むし、腫れ物に触れるような扱いは正直、居心地が悪い。かといって、元の人格のことを考えると、彼らと完全に縁を切ることはできない。せめて生活拠点の距離は空けたいなー。というのが本音だった。もちろん、今すぐに独り立ちすることはできない。一つの可能性として考えておこう。


第二の選択肢としては、当然だが領主の一人息子としての人生を歩むことだ。俺に務まるかは甚だ疑問だが、本来サヴァルディンが歩むべきだった人生を生きていく。頑張って勉強をして、平和な街にする。サイレスが地獄の納税クソ野郎だったら、その時は俺が正しい民主主義社会を構築をしてやろう。そして民草の圧倒的な支持を得たりする。まあ、サイレスは良識人なので、ちゃんと領主をやっているとは思っているけどね。いずれ領主になり、街を発展させるのも案外楽しいのかもしれない。


第三の選択肢としては、今俺にかかっているという魔力の封印を解く旅に出ることだろうか。とはいえ俺自身に戦う力はないわけだから、できることは魔女を探すところまで。あとは低頭平身お願いして、封印を解いて貰うしかない。土下座の旅だ。お願いしたくらいで魔女が封印を解いてくれるのかは不明だが、まあ可能性はゼロじゃないだろう。


それよりも魔女を見つけ出すまでが大変だ。少なくともこの街は調べつくしたらしい。道中、魔物に襲われる可能性はどのくらいあるのだろうか?魔導具のような特殊なアイテムがあれば、自分の魔力が使えなくても自衛出来たりするのだろうか? ここらへんはまだまだ情報不足だ。だが、この家からも出て行けるし、この世界を知れるのは一石二鳥である。個人的に、旅は好きだし、かなり楽しそうだな。


――そう、異世界旅行記だ。


うん、それが一番良いな。もしくは商人として一財産を築き、雇った力で魔女の封印を解いて行くのも良いかもしれない。そうだ、金さえあれば実力行使だって出来るはずだ。どこの世も結局は金なのだ!


家を出て自立し、商人として金を稼ぎ、旅をしながら魔女を探し、魔力の封印も解いてしまう。そして、いずれは領主としてこの街に戻って来る。


あれ? これならほとんどの選択肢を網羅出来てるじゃん……これで決定か?


いや、待て。その前に、この世界の情勢を把握していない。西洋中世と言えば、国同士で戦争や睨み合いが起こってるかもしれない。そうなると旅に出たとたん、拉致・拷問もあり得るかもしれん。いや、盗賊に襲われ奴隷落ちなんてこともあり得る。世界情勢や治安、魔物の脅威度などについて教えてもらってから考えるべきだ。まだまだ、情報不足だ……。


俺はひとまずそう判断したのだった。

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