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サヴァン戦記 ~星環の守護者~  作者: たーちゃもん
第一章 「イシュタルトの街編」
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第13話 「光の精霊」


ふと、胸の奥から、やわらかな輝きが滲みだす。その光は次第に形を成し、ぼんやりとした球状のオーブとなって身体の外へと現れた。宙に浮かぶそれは、穏やかな金色の光を放ち、まるで脈打つように光を揺らしている。


それは儚げな光のオーブだった。夜に見かけたら心霊現象かと怯えただろうが、なぜかそういった恐怖心は感じない。それほどの温かく優しい光だ。


『私の名前は《光の精霊、ティターニア》、ティティって呼んで』


実際に声は聞こえない、だが脳に直接語りかけられるような感覚。


光の精霊か……この世界には精霊なんて者もいるのか。異世界ファンタジーっぽくなってきたな。皆が精霊と契約して、共に戦ったりするのだろうか?


ティティはふわりと漂いながら再び俺に近づくと、まるで吸い込まれるように俺の胸の中へと消えていった。痛みも違和感もないが、じんわりと胸の奥が温かくなったような気がした。


「えっと、ティティ……は、僕の中にいるの?」


『ええ、そうよ。あなたの父親が私のところまで必死に助けを求めに来たから、付いて来てあげたの。 今は私があなたの止まった魔力の循環を肩代わりしているのよ』


「魔力の循環を肩代わり? そのおかげで僕が生き返えれたってこと?」


『そういうことになるわね。 でもね良く聞いて、いつまでもあなたを生かしてあげられるわけじゃないの。 今の私は大した魔力を持っていないから……。本当は魔素の豊富なあの場所で、ゆっくりと力を取り戻そうとしていたのだけれど。あなたのところに来ちゃったからね。 ここは魔素が薄いわ』


「……僕、ティティの邪魔しちゃったってこと?」


『ふふ、そんなことないわ。私はあなたに出会えて、そして役立てるのが嬉しいわ』


「ごめんねティティ……でも、本当にありがとう!」


『お礼なんて良いのよ……そんなことより、記憶を失っているあなたに教えておかなくちゃいけないことがあるわ。まず私たち精霊についてよ……私たちはこの世界に存在することですら魔力を消費してしまう存在なの。 そんな中、私が一方的にあなたに宿り、私自身の魔力を消費しながらあなたの命を繋いでいる。だから、いつまでこの状況を維持できるかわからない、全く油断できない状況なの』


ようやく状況を理解してきた。


何が強くてニューゲームだ。俺の命はこの光の精霊ティティとやらに完全に依存している状態ってことだ。魔力を分け与えてもらい、魔力の循環を肩代わりして貰わなければ生きることも出来ない。つまり、このティティに見放されたら死ぬし、ティティの魔力も多くはないそうなので尽きれば死ぬ。電池で動く、人工心肺装置みたいなものか? いや、ティティを機械に例えるのは失礼か。



『私とあなたはまだ契約出来ていない。つまり非常に不安定な状態なの。 私は今、あなたの魔力循環を肩代わりしながら、この世界に存在することにも魔力を消費し続けている』


「それじゃあ魔力を消費し続けて、ティティが消えちゃうんじゃ……」



『そうね、それは時間の問題ね。 この状況をどうにかしなきゃ、あなたが死んでしまうから、正直焦っているの。 だから、あなたに2つお願い事があるわ』


「は、はい。何でしょう!!」



『――まず一つ目、私と契約を結ぶこと。幸い、あなたは私との親和性がかなり高いから、勝手に憑りつくという形でも、ある程度安定して魔力循環を肩代わりできている。契約を結べば、さらに親和性を高められるはずよ』


「わかった。じゃあすぐに契約を結ぼう。僕はどうしたらいい?」


『ふふ、思い切りがいいところも彼に似てるのね。それじゃあ早速、本契約に移りましょう。 私が契りの詠唱を唱えるから、あなたはただそれに答えてくれれば良いわ。じゃあ、いくわよ』


僕は静かに頷く。


 光の精霊 我が名はティターニア 闇を裂き 希望へと続く道を照らす光の加護 星振りし天の名のもとに いま魂の盟を結ばん ――《聖契の光環》


詠唱が終わると同時に、サヴァルディンの胸元が熱を帯びたように感じられ、そこから光の紋が浮かび上がる。


『さぁ、その光の紋に手をかざして』


その光の紋に掌が触れると、一瞬金色の光が空間を満たす。サヴァルディンの手の甲に、柔らかな光が集まっていく。そしてその輝きは吸い込まれて消えた。


『これで私とあなたは契約が出来たわ。私の存在が、あなたの魂にしっかりと刻み込まれた』


身体にはなんの変化も無いようだが、ティティがそういうならそうなのだろう。


『あとはそうね、さらに私の存在を安定させるために、あなたに〝依り代"を見つけてきてもらわないといけないわ。依り代さえあれば、私の存在を保ために消費する魔力を防げるわ。 それが二つ目のお願いごとよ。』


「依り代って何なの? 何もわからない僕に見つけられるかな……」


『何か適当に魔鉱石を身に着けてくれたら、それが私の依り代になるわ。 欲を言うなら光の魔鉱石の方が良いけれど、それ以外でも全然大丈夫。 魔素の吸収効率は悪くなるけれど、魔物たちから採れる魔石でも代用可能よ』


なるほど、《魔鉱石》か《魔石》とやらを用意すれば良いのか。それは流石にサイレスさんに頼まなきゃ無理だろう。ティティのためにできるだけ早く……と言いたいところだが、魔鉱石がどれだけ希少な存在なのか、俺には判断がつかない。


「できるだけはやく依り代を用意できるよう動いてみるよ」


『ありがとう。 ……少し喋り過ぎたみたい。意思疎通するのにも魔力で波長を作らなきゃいけないから、今の私はすぐに疲れちゃうの、ごめんなさい。一度魔力循環に集中するから、依り代が見つかったら呼んでね。 強く念じれば声に出さなくても通じるから』


そういうと、ティティの気配が消えた気がした。強く念じるとティティに頭の声が聞こえてしまうのか。それはすこし恥ずかしいな。


  ーーー


さてと依り代の件はどう頼むべきか……。サイレスさんは優しそうとは言え、どういった関係性かも掴めていない。父親だからって、仲が良いとは限らないからな。まぁ、こないだの様子を見る限り仲が悪いということはないだろう。


窓ガラスに薄っすら映る自分の顔を見ると、まだあどけなさの残る少年の顔が映っている。こころなしか顔つきは若い時の自分に似ている気がする。髪の毛も黒っぽくて良かった、 いきなり金髪になったりしたら増々自分が自分じゃないみたいだ。


いや、自分ではない……のか。彼らが心配して愛しているのは、俺ではない。以前この身体で生きていた、本物のサヴァルディンという少年なのだ。なるべく前の人格のフリをしなくてはいけない。


もしも正体がバレて「お前は一体何者だ! サヴァルディンを返せ!」なんて言われたらと思うとゾッとする。あれだけ泣いて喜んでいた人たちが、憎悪と怒りの態度に変わるのだ。


「……恐いな」


窓から見える、見知らぬ景色。この世界に俺の居場所はないのだ。それに気づいた時、自然とそう呟いていた

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