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08「因子能力」

「ブルースさん、説明ありがとうございました。ここからはチームのリーダーである俺が進行していきたい。」


 飯を食べ終わるとソーン・マインという黒髪の若い男が仕切り始める。だがオレンジの髪の少女ネロ・ウーファーは不満気だ。


「ええー、ソーンがリーダーって聞いてないんですけどー。」


「俺には通達があった。計画の立案や物資の手配などを担当する。そしてチームの命名権はウーファーに譲渡する。嫌なら代わるか?」


「あー、いいよいいよ。物資の手配とか超めんどそうだし。可愛いチーム名考えてやるよー。

 で、ラガルトにはなんか権限はないの?」


「……特に聞いてないな。ラガルトは何か聞いてるか?」


 俺は特に思い当たることがない。なにせさっき起きたばかりなのだから。まだ正式にヴィラン認定もされていないだろう俺に何ができるわけでもないし、別に権限もほしくない。


「では何か、相応の見返りを考えておく。

 さて、ヴィランといえどチームで動くからには信頼と情報共有が必要だ。まずはリーダーである俺の因子能力を明かす。」


 ソーンは右腕の袖をまくると腕からジャラジャラと黒い鎖、いや茨のようなものを生やしていく。茨は鋭いが不揃いで棘だけでなく所々にコブのようなものがある。


「この茨は皮膚や服程度なら簡単に貫き、食い込む。そしてこのコブに一定の衝撃が加わると破裂し茨は飛散する。鞭のように打ち据え、同時に破裂させれば相手に相当な苦痛を与える。」


 確かにこんなもので打たれた上に刺さった状態で破裂までするなんてめちゃくちゃ痛そうだ。


「他にも動力に巻き込ませて故障させるなどの使い方もできる。また副次的な効果として俺の肌は自分の茨が刺さらない程度の耐久性を持つ。

 一方で茨が刺さらない防御力を持つ相手や盾などの遮蔽物を挟まれると効果が薄い。痛みは大きいが破壊力は低いというのが明確な弱点だ。」


 なるほど、長所と短所をちゃんと言ってくれるのは分かりやすい。だがウーファーは別に驚かない。


「それは施術前の能力でしょ、施術後はどうなったのよ?」


 ソーンは手の平から野球ボール程度のコブを出した。


「この球には複数の茨が詰まっていて投げると破裂する。中から飛び出した茨は俺の意思では制御できないが、人間程度の重量物を引っかけたまま床や壁まで伸びるパワーを持つ。適した状況で使えば防御を固めた相手でも拘束できるだろう。

 他にも通路に投げて茨のバリケードを作ることもできるし、乗り物の運転席に投げ込めば高確率で運転は不可能となる。」


「便利だけど、その球ってどれだけ作れるの?」


「球の大きさと数のバランスはまだ研究中だ。野球ボール程度なら一度に十数個出せるが、バスケットボール程度まで球を大きくすると茨の量やパワーは大きくなるが一つ作るのに時間はかかる。

 まとめて投げるほど効果が高いので事前にストックを作っておくのも有効だろう。」


「なるほどね。相変わらず生真面目で洒落の通じない厄介な能力だわ。」


「……。」


 聞く限りソーンの能力をウーファーは認めているようだがソーンはあまり嬉しくなさそうだった。因子で嫌なことでもあったのかな?


 続いてウーファーが因子能力の説明を始める。


「あたしの因子能力は『破壊的な声量』よ。屋内でデスボイスをぶっぱなせば鼓膜を破るぐらい簡単だし、本気を出せば無差別に人を殺せる。専用のマイクを使えば遠くの相手も狙えるわ。この能力を評価されてあたしは組織に入ったの。

 でも使うと首元に鳥の羽みたいのが生えるのよね。羽毛みたいにふわふわで肌触りはいいけどすぐ抜け落ちるから現場に残りやすいのがネック。」


 つまり、ヴィランとして十分な能力なわけだ。これで組織に入ったということは施術前からこの性能なのか?


「まーね。あたしは施術前から自分の能力を色々研究してたの。最初はデスボイスでしか能力が使えなかったけど今では大抵の発声で能力が使えるわ。

 それが施術後に固有振動数への『共振』としてパワーアップしたわけ。」


 ……固有振動数ってなんだ?


「あたしも原理はよく知らないわよ。ブルース、説明して。」


「物体は何も干渉を受けていない状態でも固有の振動数というものを発しています。これと同じ振動数をぶつけると共振、つまり振動が大きくなり破損に繋がります。

 風の音と橋の素材が共振して破壊されたり、地震の振動と建築材が共振して崩壊するなどの事例があります。」


 ウーファーが頷きながら説明を続ける。


「つまり事前に素材の固有振動数を把握していればただの大声よりずっと効率的に壊せるってわけ。共振を使いこなせば狙った設備だけの破壊、うまくいけばヒーローの装備品を直接壊すこともできるかもって。

 とはいえこれは練習が重要よ。今色んな素材の固有振動数をカタログにしてもらっているところ。」


 おおー、正に次世代の因子能力。


「でしょー!で、ラガルトの因子能力はどうなの?どうせ本人は分かってないんだからブルースが説明して!」


 ごもっとも。俺も自分の能力が知りたい。


「ラガルトさんの施術前の能力はランダムな部位に鱗が発生し、その部分の筋力が上昇するというものです。この能力は鱗の面積が大きいほど筋力が上がるのですが施術前では鱗がまばらで実用性はありませんでした。」


 へえ、じゃあ今は全身鱗まみれだから筋力は上がっているのかな?


「はい、まだ意識できていないでしょうが人体を容易に引き千切ることが可能です。最大値はまだ不明ですが強化されているため因子能力でも上位に入るでしょう。」


 そうなのかな?缶詰を開けたりフォークやスプーンを使っても全然実感が無いけど。


「それだけ平常時は力のコントロールができているのでしょう。ですが『自分の血の臭い』を感じると凶暴化します。

 先日の試合でも予め採血した血を利用して最初から凶暴化させていただきました。その後、血の臭いの元となる成分を分解するガスで場を満たし沈静化させています。」


 じゃあ凶暴化している間は意識が無いのか。その間に死ぬなら都合がいいな、と周りに言うとまた変な顔されるからやめとこう。


「そしてあなた達がチームになった理由の一つですが、ソーンさんとウーファーさんの因子能力でラガルトさんの暴走を操作する研究が進められています。」


 そんなこともできるのか。科学の力ってすげーなー。一通り説明が終わりウーファーが質問する。


「それで、あたし達は最初に何をするの?ブルースとソーンのことだからある程度決めているんでしょ?」


 ソーンが頷いた。


「ああ、まずは国の金を使って怪人因子を迫害する団体を潰していく。」


挿絵(By みてみん)

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