06「三人のヴィラン」
ブルースさんの配下達が料理を始める。だが俺は本当に腹が減っていたので先にランチョンミートの缶詰をいただくことにした。
「うん、うまいよこれ。」
顔はトカゲだが味覚はたいして変化がないようだ。だが歯の並びやノドの感覚が変化したのか、あまり噛まず飲み込んでしまった。それをネロ・ウーファーと呼ばれた少女が興味深く見ている。
「生き餌じゃなくても食べるんだ。」
「生き餌って……。食ったことないよ、トカゲじゃないんだから。」
「どう見てもトカゲじゃない。」
「あ、そうだった。ところで、なんて呼べばいい?」
「ウーファーでいいわよ。……なんか、会場で見たのとずいぶん雰囲気が違うのね。全然ワイルドじゃない。」
「会場?」
「雑魚ヴィランを処刑したアレよ。あたしあんなに興奮したの久しぶりだからあんたと会うの楽しみにしてたの。」
「処刑?……なんのことだい?」
「んん?どゆこと?」
二人で怪訝な顔をする。俺はブルースさんに説明を求めた。
「二日前、D級ヴィランマチョリゲーターとゴア・ラガルトのデスマッチが行われました。結果はゴア・ラガルトの完勝。
ラガルトさんはそれから丸一日眠っており先ほど目覚めたところです。」
「へえー……全く知らない。」
「その際に実験としてラガルトさんを操作させていただきました。これはミスター・ネイビーの指示です。
今あなたは未確認の凶悪ヴィランとして界隈で話題になっているのですよ。」
「そんなこと言われてもなぁ。じゃあ、俺がトカゲの姿なのもミスター・ネイビーの指示なのかい?」
「はい。あなたや他の二人は『マーブル計画』、つまり『因子強化実験』を受けた次世代のヴィランとして選抜されました。」
「よくわからんがなんだか凄いことになってる。なんで俺が選ばれたの?」
「適正があったからです。ラガルトさんは被検者でも特に強度の高い施術を受けてもらいました。その結果が今の姿なのです。」
「なるほどなー、あ、もう一個缶詰食べていい?今度はちゃんと味わって食べたい。」
そんな俺の様子を見てソーンと呼ばれていた黒髪の男が口を開く。
「……なんだか本当に拍子抜けしたな。獣以上に獰猛な男を想像していたのだが。」
「いや、そう言われてもなぁ。ソーンだっけ?じゃあ君もその施術だかなんか受けたの?」
「ああ、俺もウーファーも因子強化の施術は受けた。確実に強化されたが全身が変わるほどではないな。
それよりラガルト、お前は平気なのか?今の話では数日前までその姿ではなかったのだろう?
それが目覚めたらいきなりその姿で、既に一人ヴィランを殺していた。その事実をどう受け止めているんだ?」
「どうって……え?俺と戦ったヴィラン死んだの?」
「文字通り惨殺だ。相手は手の平をワニの顎のように変化させる因子を持っていたがお前はその手を握り潰し、胴体を引き裂き内臓を引きずりだした。そのまま食い殺すかと思ったぐらいだ。
だから俺は警戒していたし、ウーファーは強い興味を持った。だが今のお前は暢気に缶詰を食っているだけのトカゲ男だ。とても同一人物に見えない。」
「そーなのかー。でも俺からしたら実感とか全く無いからなー。
暢気に缶詰を食っているだけのトカゲ男と言われたらその通りですとしか言えないし、元の姿に別に未練も無いし。
なんか凄いことやって期待されてるらしいけどそれは俺じゃなくて周りの人が出した成果だよ。」
「……。」
奇妙な奴だな、という風にソーンが俺を見る。それはそうだろう。俺は前の自分は当然、今の自分にもさして興味が無い。
ただ終わらせたかった人生が終わらなかっただけ。
変身した自分が何か為せば変身する前の自分が救われるなんて思わない。でかいトカゲ男になったら人生がうまくいくなんて馬鹿げている。
でも彼らとはチームを組むらしいからなぁ。二人ともヴィランらしいけど若いし普段着っぽいし話してて全然悪人に感じない。とりあえず仲良くする気はあることは言っておこう。
「まぁ、何か必要なら俺をまた操作?すればいいんじゃないかな。死ぬまで暴れるならヴィランっぽいだろうし。俺はそれでいいからさ。」
ウーファーからも珍奇な目で見られた。あれ、ダメだったか。などとやり取りをしている内に料理ができた。ブルースさんが本題に入る。
「それではマーブル計画について説明させていただきます。」