05「ヴィランになった男」
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なぜできないかと問われた
習っていないからと答えた
それだけのはずなのになぜ俺を嘘つきと呼ぶのだろうか
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目が覚めた。一人部屋だがちょっと広い。寝転がっている場所は床ではないがベッドではない。カーペットの上だろうか。
……だが何か、見え方が違う。誰かの眼鏡を覗いているような、いつもと違う距離感。寝すぎたせいかと思いつつなんとはなしに顎を掻く。
無精ひげとは全く違うゴリゴリとした強烈な違和感。
手を見ると明るめの青い鱗に覆われていた。改めて顎をさする。顔にも鱗生えてるなこれ。頭がぐらぐらするが起き上がる。高さの違和感。感覚で言えば身長がかなり伸びている。足の鱗も青い。
ひょこひょこと歩き、トイレを見つけて鏡を見る。
「……マジかよ。」
そこには人型の爬虫類が立っていた。俺の怪人因子は体の適当な場所に鱗が生え、なんとなく筋力が上がったかな?という程度でほぼ実用性は無い。だが今の俺は体全体が爬虫類、でも顔の骨格は人型なのでどっかのゲームに出てくるリザードマンみたいだ。
鱗の色はほぼ青一色だが光の加減で鱗の流れが分かる。そして骨格も変わっており縦にも横にもでかくなった。筋肉も増えているが手足が伸びたので上半身だけ見ると意外と目立たない。
だがなにより、首が一段階以上伸びた。喉仏の辺りも膨らんでいる。身長が妙に伸びた感覚はこのトカゲみたいな首が原因か。
服は上が黒のタンクトップ、下は紺色の作業着。体型に合わせたサイズとなっている。尻を探るが尻尾は無いようだ。
頭髪は……まだ髪の毛はある。触ると以前よりだいぶ硬く、髪から鱗に変化しかかっているような質感。とりあえずツルツルよりはずっとマシだ。
「ヒゲは生えるのかなこれ……あ、脇毛は無いな。」
ふと、トイレで自分の大事なものを確認する。爬虫類のなにかのアレは二つあるという雑学を聞いたことがある。……ある程度鱗に覆われていたがそこはまだ人間らしかった。
とりあえず手と顔を洗い、元に戻れるか試す。これまで因子のオンオフの切り替えは自分の意思でできていたが今はダメだった。俺はこのまま一生トカゲ男なのだろうか。
まぁ、別にそれはどうでもいい。因子持ちには能力をオフにできない人は普通にいるし、頭部が人外のものになるケースもそれなりにある。トカゲ男が一人増えたところでなにかあるわけでもない。
「で、どこだここ。とりあえず窓を探すか。」
部屋に戻ると窓はあったが、地下だ。地下の空間に建てられた居住地?に俺はいるらしい。その時、部屋にあったスピーカーから知らない男の声がした。
「目が覚めましたか?ご気分はいかがでしょうか?」
「……ルームサービスかい?分厚いハムが食べたいんだが。飲み物は……コーヒーって気分じゃないな。ミルクでいいや。」
「下が居間です。食べ物もそこに。」
俺は指示に従いまたひょこひょこと階段を降りる。体が動かしにくいわけではないが首が長くなり歩幅に連動して頭が大きく動くのだ。尻尾があればまた違うのだろうか?
下に降りると先ほどの声の主と思われるスーツの男性がいた。その後ろのソファには黒髪の若い男と赤に近いオレンジの髪の少女がソファに座っている。
スーツの男性が一礼する。
「はじめまして、ゴア・ラガルト。私はミスター・ネイビーの使者ブルースです。」
「よろしくブルースさん。……ごあ・らがると?いや俺の名前は……」
「そちらを名乗るようにとミスター・ネイビーからの提案です。」
「はあ、では、はい。ゴア・ラガルトです。以後よろしく。
でもなんで名前が肉なんだ?いや美味い部位ではあるが。」
「豚肉の方のラガルトではなくトカゲを意味するラガルトです。」
「……あははー、そういうこと。覚えやすくていいね。」
しょうもない勘違いをしてしまったがブルースさんは気にせず話を進める。
「そしてこちらの黒髪の男性がソーン・マイン、緋色の髪の女性がネロ・ウーファー。この三人でヴィランチームを組むことになります。」
二人の方に視線を向ける。ふーん、若いなぁ。男は20歳になるかどうか、女の子は10代に見える。ん?ちょっと待て。
「ヴィランチーム?俺、ヴィランなのかい?」
「ミスター・ネイビーの仕事を手伝うことを了承したと聞いております。」
「ああ、そういえば、うん、じゃあヴィランかな?悪いね、どうにも状況に頭が追いつかなくて。あと腹も減っている。」
「では食事といたしましょう。各々の自己紹介もそこで。」