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01「馬鹿な男」

この物語に救いは無い。

 まったく、酷い人生だった。


 おそらく俺はもうすぐ死ぬ。何故なら今、俺と共に盗みを働いた男が拷問され処刑される映像を見せられているからだ。ガキの頃からの知り合いが泣き叫び、人の形から崩れて肉の塊になっていく。


 俺はもう既に七回は吐いた。だがあいにく、気絶はできずにいた。そういう体質なのかね。それともこの映像は録画なので男は既に死んでいると知っているからなのか。


 事の発端は単純だ。俺は金が無かった。いや、運かな?なにせ俺の人生は成功というものに縁が無かった。何をやってもうまくいかない、ではなく何の手応えもない。

 箱を開けた段階でピースが欠けているパズルをやっているような、ゲームのバグで最初の目的地についてもイベントが発生しないような、そんな人生だった。


 俺の知り合いは俺が金と無縁なのは理解できていたが馬鹿だった。借りた金でも手持ちがあれば気が大きくなり浪費するタイプの馬鹿で借金を返すという概念を理解しているのか甚だ疑問だった。金が最初から無い俺だから縁が切れなかっただけだ。


 もちろん知り合いの方がはるかに絶望的な状況だったが、お互い困窮していた。だから俺達は『ヴィラン』、つまり特殊犯罪者の組織から金を盗むことにした。現代のヴィランは「個人で社会に悪影響を及ぼす犯罪者」と定義されている。


 人間にはたまに「超人因子」または「怪人因子」を持つ者が生まれる。超人因子は文字通り超人的な能力を得ることができ人々から羨望され厚遇されてきた。

 一方で怪人因子は肉体が人外、非生物的なものとなり怪物的な力を発揮したが、人々に恐れられ冷遇されてきた。


 この辺の価値観は国や地域によって多少事情は異なるが現代では「超人因子を用いて民衆を助けるヒーロー」と「怪人因子を用い民衆を脅かすヴィラン」という構図ができている。


 俺の生まれた地域は閉鎖的だが有名ヒーローを輩出したことで怪人因子持ちをヴィラン予備軍と見る者が大半を占めている。事実怪人因子持ちは犯罪率が高い。

 特に頭部が変化する因子は常人より凶暴化しやすいのもあるが、不当な差別が原因となる怨恨犯罪も多く見られ社会問題の一つとなっていた。


 そして俺も犯罪歴は立ち小便と信号無視ぐらいだが怪人因子を持っていた。だが体のどこかに多少鱗が生え、なんとなーく筋力が上がったかなという程度で実用性はほぼ無い。

 知り合いに至っては尾てい骨からひょろ長いネズミのような尻尾が生えるだけ。因子持ちの多くはその程度なのだ。


 もちろんこんな能力ではヴィランなんかにはなれず、ただただ人生の様々な場面で冷遇されてきた。同じぐらい弱くてもこれが超人因子だったら多少は人生がマシになっていただろうか。


 だが俺も知り合いに負けずと馬鹿だった。俺は困窮していたとはいえ借金はまだしていなかった。それでも俺はヴィランの金に手を出す計画に乗ったのだ。だって返すアテが無いのに借りてもしょうがないだろう?


 ヴィランからうまく金を盗めれば良し、もし捕まっても怪人因子のよしみでヴィランの下っ端になれるかもしれないなどと考えていた。


 そうなってもいいほど、ザマリという男の人生は見込みがなかった。


 結果として俺達はあっさり捕まり知り合いから先に拷問と処刑を行われ、俺はその映像を見せられている。

 胃液すら出ないほど吐き、吐瀉物の臭いも分からぬほど憔悴し、天井と床が同時に見えるほど目の焦点も合っていなかったが同時に妙に安堵もしていた。


 とにかく、これで死ねるのだ。


 あと数時間かけて地獄の苦しみを味わうかもしれないがそれはそれ、俺は自分の人生が終わることに救いを見出していた。何の価値も無い人生だったが、途中でリタイアすることだけは許されていた。それだけでもう十分だった。


 映像の中で拷問していた男達と似た作業服の男らが入ってきて、俺に注射をした。たちまち意識が混濁していく。ああ、このまま死ねたらベストなのだが。


---


 結果から言えば、俺の人生にはまだ続きがあった。つまり、俺の人生の破滅はここからだったのだ。


挿絵(By みてみん)

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