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89 天敵、其の八

「……クズ石しか持ってきていなかったのが悔やまれる。あれならすぐ出てきてしまう」


彼女はそう言うと、オルドルにぶつけた宝石と先程かざした宝石を湖に投げ入れてしまった。水泡音と共に、二つの宝石は互いにぶつかり合いながら沈んでいく。碧玉の、多くの円の波紋を生み出したが、しばらくすると水面には静寂が訪れた。


何事もなかったかのように、一番は立ち続けていた。

男性のように短い白髪は濡れて水が滴り、肩に落ちていた。しかし、タキシードには埃一つ無く、当然炎で焦げた所も無かった。それでも、肩などをほろうのは、癖だからだろうか。


「動くな」


ディールスが言葉を掛ける前に、彼女は冷たくそう言い放った。鉄仮面で目つきが悪いからか、それとも彼女が持つ憎悪からか、彼を睨んでいるようにしか見えない。


「身勝手な神達が憎い。群れるだけの人間達が鬱陶しい。目に映るこの世全てが醜い。神を下し、霊長を驕る人類を虐殺する。もはやこの体、ただ一点、その信念、その野望、それだけで出来ている。……出来ていたはずだった」


最後の語調だけ、僅かに今までの殺意の勢いが弱まったように感じたのは、ディールスが彼女に今も人の心を持っていて欲しいと感じたからか。同時に、そんなことはないと彼は断言出来てしまう。


彼女は生まれから特異だ。人として生まれたはずが、人として何一つ与えられなかった。

その原因のほとんどが、彼にある。彼の生涯全ての罪を清算するのなら、罪があるのなら、最も重いものは間違いなく彼女にしてしまったことだ。


「一つ、叶えなくてはならない願いがある。それが叶うのなら、この信念、この野望すら曲げても、捨てても良い」


「……」


「何も言わないのか。さっきの赤毛の神の言葉で、考えが変わった。どうせ消すのなら、とことん利用してから消そう。……きみは昔から、頭が冴えていたな。そんなきみに、願ってもない約束、いや契約を提示する。受けるのなら前金代わりに二人を開放する。叶えてくれたのなら、きみの願いに全面的に協力すると誓おう」


「……先程、”クズ石しか持ってきていなかったのが悔やまれる。あれならすぐ出てきてしまう”と言いましたね。私の推測では、カダチとミスター・オーウィル、両名も何もしなくてもいずれすぐに出てくるのではありませんか?」


「流石、イストワール。やはりきみは見込み通り聡い。本来なら目障りかつ復讐相手だからと一刻も速く消していた所だ。だが、出てきた所をすぐにより強力に封印して拘束する、という手は浮かばなかったのか?何なら、そこで気絶してる少年も加えるか?より多くの仲間を人質に取った方がきみは寸分の迷いなく行動出来ると?……きみって薄情だな」


一番の発言で怒りを感じていないか。彼はそう問われて、いいえと答えればそれは嘘になる。

彼女の明確な挑発と侮辱に、怒りを覚えた。


しかし、ここで刺激すればさらに悪い状況に発展することだけは確かだ。彼はどんな時でも冷静で、冷酷な判断が出来る。出来てしまう。一番の時もそうだった。


「迷っているきみに朗報。今、クズ石しか持ってきていなかったのは、それを封印したまま割って分割するためだ。きみの姉、カシェの封印は神の力の中でも極上と言われる程強力だ。ディディにとって、かつてない程脅威となる攻撃かなと思って。試そうと思ったんだが、予想外にも神が乱入してきた。……神には流石に効かないだろうから中止した」


追い打ちをかけるように、一番は脅しを続ける。

いや、彼女からしたら脅しているという自覚すらもないのかもしれない。ただの立ち話程度のものという認識に近いだろう。


なぜなら、既に一番はディールス達を自分を害するだけの脅威と思っていないのだから。


「さぁ、きみの答えを聞く。ここには、きみしか話の通じる人は居ないから」


受けると、ろくなことがない。受けなかったら、仲間の命が保証出来ない。


彼は懸命に、悩んで、悩んで、悩んで。


「………………話を、聞かせてください」


それでも、受けるという選択を選んだ。今の時点では、受けるしかなかった。

全てが後手に回っている今、彼に選択の余地はなかったのだから。


「受諾、と捉えよう。仲間は返すよ」


「……」


一番はカダチとオーウィルが立っていた所まで歩き、拾った宝石を乱暴にディールスに向けて投げた。彼が上手くキャッチしていなければ、粉々に割れるか、欠けていただろう。中の二人が無事ではなかったはずだ。


それでも、今の彼には睨むことしか出来なかった。そして、彼女はそれを気にも留めなかった。


一番は地面に落ちたベールを拾い、再びまとった。濡れた地面に落ちていたはずが、そのベールは今なお純白を維持していた。

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